線型代数学 詳説

線形代数学についての詳しい解説を試みます。そのコンセプトは(1)明確な論理展開を旨とし(2)複数の文献を比較するとともに(3)周辺の数学分野への拡がりを持たせることです。

論理を明確に

論理の飛躍がないように、$1$ つ $1$ つ丁寧に解説をしながら論理を展開します。

線型代数の諸概念に慣れている方々には少し冗長に感じられる箇所もありますが、初学の方にも充分理解できる解説を目指します。はじめて $1$ つの数学分野を学ぶときは、小さな論理の飛躍に躓いてしまいがちです。これをなるべく少なくするように心がけます。

例えば、「$A$ から $B$ への線型写像がある」ことを示すにあたって、はじめのうちは「$A$ の元と $B$ の元のある対応が写像であって(写像の要件を満たし)かつ線型写像である(線型写像の要件もみたす)」というように、$1$ つ $1$ つ確かめていきます。

定理の証明などは清書として簡潔に記載することにしますが、証明とは別にその考え方や着想について詳しく解説を加えます。これにより証明の行間を補うようにします。

複数文献の比較

複数の教科書などの内容を比べて、その良いところどりを試みます。

$1$ つの数学分野を学ぶにしても、複数の文献にあたって複眼的な視点を得ることは大変有益です。この詳説を記す際も、複数の教科書を比べて(僭越ながら)なるべく多く良いところどりができるように努めました。また、導出する定理はなるべく満遍なく、使用する用語はより一般的なものとなるように心がけました。実際、これは大変気づきが多いものでした。

線型代数においては、特に、行列式の定義の仕方やベクトル空間の基底と次元を導入するまでの流れ(次元の一意性を示す定理をどう導くか)など、教科書により違いがあります。これらについては、複数の視点から解説を加えます。

周辺分野への拡がり

集合や写像に関する知識について復習する項を含めます。

  • 集合や写像に関する知識はきわめて基礎的であり、すべての数学分野を学ぶために必要なものといえます。しかしながら、高校数学で真面目に取り扱われたかといえばそうでもないし、大学初年次には(何故か)当然既知の事項として扱われています。ここに $1$ つの陥穽がありますので、これを補うように心がけます。

線型代数学の先に代数学があることを意識します。

  • 線型代数に関する知識はそれとして $1$ つのまとまりをもちますが、これを線型代数だけに閉じておくはもったいないです。より一般的な代数学への導入として、例えば、置換の導入やベクトル空間の定義において、群論などへ発展する兆しをみています。
  • 大まかにいえば、線型代数学は代数学に包含されるといっていいと思います。とすれば、より一般的な視点から線形代数について考察することは、その理解に大変な助けとなるものです。