ベクトルの和とスカラー倍(1)

ベクトルの和とスカラー倍の演算を定義します。

ベクトルの定義を踏まえ、和とスカラー倍の演算も、あくまで幾何的に定義します。

和とスカラー倍の定義


定義 1.3(ベクトルの和)

平面(または空間)上の $2$ つのベクトル $\bm{a} = (\, \overrightarrow{PQ} \,),$ $\, \bm{b} = (\, \overrightarrow{QR} \,)$ に対して、$(\, \overrightarrow{PR} \,)$ により表されるベクトルを $\bm{a}$ と $\bm{b}$ の和といい、$\bm{a} + \bm{b}$ と表す。



解説

ベクトルの和の幾何的イメージ

$2$ つのベクトル $\bm{a}$ と $\bm{b}$ の和 $\bm{a} + \bm{b}$ は、次のように図示できます。

ベクトルの和のイメージ図

ベクトルの定義でみたように、ベクトルは長さと向きを持った概念であり、平面(または空間)上を自由に平行移動できます。したがって、平面(または空間)上に $2$ つのベクトル $\bm{a}, \bm{b}$ が与えられたとして、$\bm{a}$ の終点と $\bm{b}$ の始点が重なるように $\bm{a}$(または $\bm{b}$)を平行移動できます。

このとき、$\bm{a}$ の始点と $\bm{b}$ の終点をそれぞれ始点と終点とするようなベクトルが定まり、このベクトルこそが $2$ つのベクトルの和 $\bm{a} + \bm{b}$ に他なりません。

ベクトルの和 $\bm{a} + \bm{b}$ は $\bm{a}$ と $\bm{b}$ により定まります。また、ベクトルの和 $\bm{a} + \bm{b}$ も $1$ つのベクトルであり、当然ながら、平面(または空間)上を自由に平行移動できます。



定義 1.4(ベクトルのスカラー倍)

平面(または空間)上のベクトル $\bm{a}$ と実数 $c$ に対して、次のベクトルを $\bm{a}$ のスカラー倍といい $c \bm{a}$ と表す。

  • $c \gt 0$ ならば、$\bm{a}$ と同じ向きで長さが $c$ 倍であるベクトル。
  • $c = 0$ ならば、零ベクトル $\bm{0}$ 。
  • $c \lt 0$ ならば、$\bm{a}$ と逆の向きで長さが $c$ 倍であるベクトル。


解説

ベクトルのスカラー倍の幾何的イメージ

ベクトル $\bm{a}$ のスカラー倍 $c \bm{a}$ は、次のように図示できます。

($\text{i}$)例えば、$c = 2 \; (\, \gt 0 \,)$ とすると、$2 \bm{a}$ は $\bm{a}$ と同じ向きで長さが $2$ 倍であるベクトルとなります。

ベクトルのスカラー倍のイメージ図(1)2倍

($\text{ii}$)また、$c = -\frac{\, 1 \,}{\, 3 \,} \; (\, \lt 0 \,)$ とすると、$-\frac{\, 1 \,}{\, 3 \,} \bm{a}$ は $\bm{a}$ と逆の向きで長さが $\frac{\, 1 \,}{\, 3 \,}$ 倍であるベクトルとなります。

ベクトルのスカラー倍のイメージ図(2)-1/3倍

零ベクトルのスカラー倍は零ベクトル

定義より、明らかに $\bm{a} = \bm{0}$ ならば $c \bm{a} = \bm{0}$ が成り立ちます。すなわち、零ベクトル $\bm{0}$ の $c$ 倍は、$c$ がいかなる値(実数)であっても零ベクトル $\bm{0}$ になります。

用語について(スカラー)

実数 $c$ をスカラー($\text{scaler}$)といいます。スカラーは通常の数(ここでは実数)を意味する用語であり、特に、向きと長さを合わせた概念であるベクトルとの対比において用いられます。

平行なベクトルはスカラー倍で表せる

$2$ つのベクトル $\bm{a}$ と $\bm{b}$ が同じ向き、または逆の向きを持つとき、$\bm{a}$ と $\bm{b}$ は平行であるといいます。

スカラー倍の定義より、$\bm{a} \neq \bm{0}$ かつ $c \neq 0$ であれば、任意のベクトル $\bm{a}$ とそのスカラー倍 $c \bm{a}$ は平行であることがわかります。また、逆に $\bm{a}$ と $\bm{b}$ が平行であれば、$\bm{b} = c \bm{a}$ となるような実数 $c$ が存在することもわかります。

これらは、ベクトルの スカラー倍の定義から直ちに導かれる、基本的で重要な性質です。


まとめ

  • 平面(または空間)上の $2$ つのベクトル $\bm{a} = (\, \overrightarrow{PQ} \,),$ $\, \bm{b} = (\, \overrightarrow{QR} \,)$ に対して、$(\, \overrightarrow{PR} \,)$ により表されるベクトルを $\bm{a}$ と $\bm{b}$ の和といい、$\bm{a} + \bm{b}$ と表す。
  • 平面(または空間)上のベクトル $\bm{a}$ と実数 $c$ に対して、次のベクトルを $\bm{a}$ のスカラー倍といい $c \bm{a}$ と表す。
    • $c \gt 0$ ならば、$\bm{a}$ と同じ向きで長さが $c$ 倍であるベクトル。
    • $c = 0$ ならば、零ベクトル $\bm{0}$ 。
    • $c \lt 0$ ならば、$\bm{a}$ と逆の向きで長さが $c$ 倍であるベクトル。

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.


初版:2023-08-03   |   改訂:2025-02-20