行列の積(1)
行列の積を定義するとともに、行列の積が定義されるための条件を示します。
行列の積は、いつも定義できるわけではありません。$2$ つの行列の積 $AB$ が定義されるのは、行列 $A$ の列の数と、行列 $B$ の行の数が等しい場合に限られます。
行列の積の定義
定義 2.7(行列の積)
$A = (\, a_{ij} \,)$ を $(l, m)$ 型行列、$B = (\, b_{jk} \,)$ を $(m, n)$ 型行列とする。このとき、$c_{ik} = \displaystyle \sum_{j}^{m} \; a_{ij} \, b_{jk}$ を成分として持つ、$(l, n)$ 型行列 $C = (\, c_{ik} \,)$ を $A$ と $B$ の積といい、$AB$ と表す。
解説
行列の積とは
行列の積は、$2$ つの行列の間に定義される演算です。$2$ つの行列 $A$ と $B$ に対して、その積 $AB$ が定まります。
$2$ つの行列 $A$ と $B$ の積は (2.2.4)式により与えられます。つまり、行列の積とは、$2$ つの行列の対応する成分どうしの積の和を成分として持つ行列のことです。
行列の積の成分
$2$ つの行列 $A = (\, a_{ij} \,)$ と $B = (\, b_{jk} \,)$ の積を $C = AB$ とおくと、$C$ の $(i, k)$ 成分は、次のように表せます。
すなわち、$C$ の $(i, k)$ 成分は、$A$ の第 $i$ 行の各成分を左から、$B$ の第 $k$ 列の各成分を上から取っていき、対応する成分どうしの積を $1 \sim m$ まで加えたものに等しくなります。これは、下図において、$A, B$ の枠囲いの中にある成分の積を足し合わせたものが、$C$ の $(i, k)$ 成分 $c_{ik}$ であることに対応しています。
行列の積が定義されるための条件(必要条件)
$2$ つの行列に対して、いつも行列の積が定義できるわけではありません。$2$ つの行列の積 $AB$ が定義されるのは、行列 $A$ の列の数と、行列 $B$ の行の数が等しい場合に限られます。
これは、行列 $A$ の列の数と行列 $B$ の行の数が異なる場合、 上記のような成分どうしの積を考えることができないためです。
したがって、$2$ つの行列の積 $AB$ が定義されるためには、行列 $A$ の列の数と、行列 $B$ の行の数が等しい必要があります。
行列の積について交換法則は成り立たない
行列の積において、交換法則は常に成り立つわけではありません。このことは、行列の積を考えるとき、$2$ つの行列の順序が重要であるということを意味しています。
いま、$A$ を $(l, m)$ 型行列、$B$ を $(m, n)$ 型行列とすると、$A$ の列の数($m$)と $B$ の行の数($m$)は等しいので、$2$ つの行列の積 $AB$ が定義できます。しかしながら、$B$ の列の数($n$)と $A$ の行の数($l$)が異なる($n \neq l$ である)とすると、$2$ つの行列の積 $BA$ は定義できません。(もちろん、$n = l$ であれば、行列の積 $BA$ が定義できます。)
このように、行列の積は、複素数などの通常の数の積とは異なるものです。行列の積を取り扱う際は、安易に通常の数について成り立つ演算法則を適用しないように注意する必要があります。
行列の積について成り立つ演算規則は、 次項に詳しくまとめます。
まとめ
- $(l, m)$ 型の行列 $A = (\, a_{ij} \,)$ と $(m, n)$ 型の行列 $B = (\, b_{jk} \,)$ に対して、$A$ と $B$ の積を $AB = \Big( \, \displaystyle \sum_{j}^{m} \; a_{ij} \, b_{jk} \, \Big)$ と定義する。
- 行列の積が定義されるのは $A$ の列の数と $B$ の行の数が等しい場合に限る。
参考文献
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.