置換の符号の一意性

置換互換の積として表したとき、積に含まれる互換の数の偶奇は、もとの置換に対して一意に定まります。

これは、 置換の符号が定義できる根拠となる定理です。

置換の符号が定義できる根拠


定理 3.5(置換の符号の一意性)

任意の置換を互換の積として表したとき、積に含まれる互換の数が偶奇は与えられた置換により一意に定まる。



解説

置換の分解(互換の積)は一意的でない

任意の 置換互換の積として表すことができます( 定理 3.3(置換の分解))。

しかしながら、置換を互換の積として表したとき、その積の形は一意的に定まりません。つまり、ある置換を互換の積として表す方法は幾通りか存在します( 置換の分解 まとめ等を参照)。

互換の数の偶奇は一意的である

これに対して、 置換互換の積として表したときに、その積に含まれる互換の数が偶数であるか奇数であるかは一意的に定まります。

これが、 定理 3.5(置換の符号の一意性)の主張です。

置換の符号が定義できる根拠

定理 3.5(置換の符号の一意性)により、任意の置換に対して 置換の符号が定義できることが担保されます。

すなわち、任意の置換に対して、その置換を互換の積として表したときに積に含まれる互換の数の偶奇が一意に定まります。これにより、置換の符号も一意に定まるということです( 置換の符号の定義を参照)。



証明

定理 3.3(置換の分解)より、任意の置換 $\sigma$ は互換の積として表せる。いま、$\tau, \rho$ を互換として、$\sigma$ は、次のように $2$ 通りの互換の積として表せるとする

$$ \begin{align*} \sigma &= \tau_{1} \tau_{2} \cdots \tau_{r} \\ &= \rho_{1} \rho_{2} \cdots \rho_{s} \end{align*} $$

また、$\varDelta$ を差積とすると、任意の互換 $\tau$ に対して $\tau \varDelta = - \varDelta$ であることから、$\tau_{1} \tau_{2} \cdots \tau_{r} \, \varDelta = (-1)^{r} \, \varDelta$ が成り立つ。同様に、$\rho \varDelta = - \varDelta$ であることから、$\rho_{1} \rho_{2} \cdots \rho_{s} \, \varDelta = (-1)^{s} \, \varDelta$ が成り立つ。よって、

$$ \begin{align*} \sigma \varDelta &= (-1)^{r} \, \varDelta \\ &= (-1)^{s} \, \varDelta \end{align*} $$

であり、

$$ \begin{align*} (-1)^{r} = (-1)^{s} \end{align*} $$

が成り立つ。したがって、$r$ と $s$ の偶奇は一致する。$\quad \square$



証明の考え方

定理 3.3(置換の分解)より任意の置換が互換の積として表せることを用います。($1$)まず、ある置換を互換の積として $2$ 通りに表します。($2$)次に、 定理 3.4(差積の交代性)により、それぞれを差積に作用させることで、積に含まれる互換の数の偶奇が一致することを導きます。

(1)置換の分解

  • まず、ある置換を互換の積として $2$ 通りに表します。

  • 任意の置換は互換の積として表せます。このことは、 定理 3.3(置換の分解)により(または 定理 3.1(置換と巡回置換)定理 3.2(巡回置換と互換)により)既に示されています。

  • したがって、$\sigma$ を置換、$\tau, \rho$ を互換とすると、$\sigma$ は、次のように $2$ 通りの互換の積として表せます。

    $$ \begin{align*} \sigma &= \tau_{1} \tau_{2} \cdots \tau_{r} \\ &= \rho_{1} \rho_{2} \cdots \rho_{s} \end{align*} $$

  • ここで、それぞれの表し方における互換の個数 $r$ と $s$ の偶奇が一致していることを示せばよいわけです。

(2)差積への作用

  • 次に、$2$ 通りの互換の積として表した置換を差積に作用させ、それぞれの積に含まれる互換の数の偶奇を調べます。

  • 定理 3.4(差積の交代性)より、任意の互換 $\tau$ に対して $\tau \varDelta = - \varDelta$ となります。

    • これは、$\tau \varDelta = - \varDelta$ という式が、$\tau$ がどんな互換でも(どの $2$ 文字を入れ替えても)成り立つということを示しています
    • したがって、差積に作用させる互換が $1$ 個であれば $\tau_{1} \, \varDelta = - \varDelta$ 、互換が $2$ 個であれば $\tau_{1} \tau_{2} \, \varDelta = - (- \varDelta) = + \varDelta$ 、$\cdots$ のように、差積に作用させる互換の数の偶奇により正負が定まります。
  • したがって、置換 $\sigma = \tau_{1} \tau_{2} \cdots \tau_{r}$ を差積 $\varDelta$ に作用させると、次のようになります。

    $$ \begin{align*} \sigma \varDelta &= \tau_{1} \tau_{2} \cdots \tau_{r} \, \varDelta \\ &= (-1)^{r} \, \varDelta \\ \end{align*} $$

  • 同様に、置換 $\sigma = \rho_{1} \rho_{2} \cdots \rho_{s}$ を差積 $\varDelta$ に作用させると、次のようになります。

    $$ \begin{align*} \sigma \varDelta &= \rho_{1} \rho_{2} \cdots \rho_{s} \, \varDelta \\ &= (-1)^{s} \, \varDelta \\ \end{align*} $$

  • いま、置換 $\sigma$ を $2$ 通りの互換の積として表していますが、もとの置換は同じであるので、それぞれを差積に作用させた結果も等しくなるはずです。よって、次が成り立ちます。

    $$ \begin{align*} \sigma \varDelta &= (-1)^{r} \, \varDelta \\ &= (-1)^{s} \, \varDelta \end{align*} $$

  • したがって、$(-1)^{r} = (-1)^{s}$ であり、$r$ と $s$ の偶奇は一致しなければならないということがわかります。

  • 以上から、任意の置換を互換の積として表したとき、積に含まれる互換の数が偶数であるか奇数であるかが、与えられた置換により一意に定まるといえます。


まとめ

  • 任意の置換を互換の積として表したとき、積に含まれる互換の数が偶奇は与えられた置換により一意に定まる。

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.


初版:2022-11-22   |   改訂:2025-05-14