部分空間の例

$2$ つの 部分空間の共通部分や和空間もまた部分空間となります。また、$n$ 個の変数の斉次連立一次方程式の解空間は、$n$ 次元数ベクトル空間 $K^n$ の部分空間となります。

ここでは、部分空間の基本的で重要な例を示すとともに、それらが 部分空間の定義の要件を満たすことを確かめます。

部分空間の共通部分と和空間


定理 4.7(共通部分と和空間)

$V$ をベクトル空間として $W_1, W_2$ を $V$ の部分空間とすると、$W_1$ と $W_2$ の共通部分 $W_1 \cap W_2$ は $V$ の部分空間である。

また、$W_1$ の元と $W_2$ の元の和全体の集合 $W_1 + W_2 = \{ \bm{w_1} + \bm{w_2} \mid \bm{w_1} \in W_1, \; \bm{w_2} \in W_2 \}$ も $V$ の部分空間である。



解説

共通部分とは($W_1 \cap W_2$)

$V$ の 部分空間 $W_1$ と $W_2$ の 共通部分($\text{intersection}$) とは、$W_1$ と $W_2$ の両方に含まれる元の集合です。これは、$W_1$ と $W_2$ を集合としてみたときの共通部分と同じ集合です。

定理 4.7(共通部分と和空間)の前半は、$W_1$ と $W_2$ が部分空間であるとき、その(集合としての)共通部分も ベクトル空間の要件を満たし、部分空間となるということを意味しています。

和空間とは($W_{1} + W_{2}$)

$V$ の 部分空間 $W_1$ と $W_2$ の 和空間($\text{sum of spaces}$) とは、$W_1$ の元と $W_2$ の元の和全体の集合です。

ここで、$W_1$ と $W_2$ の和空間 $W_1 + W_2$ は、$W_1$ と $W_2$ を集合としてみたときの和集合($\text{union}$)とは異なるものです。

より詳しくは、和空間 $W_1 + W_2$ は $W_1$ と $W_2$ の和集合($W_1 \cup W_2$)の元により生成される(張られる)部分空間といえます。部分空間を「生成する」という概念は 定理 4.16(線型結合)で改めて詳しくみます。

定理 4.7(共通部分と和空間) 後半は、$W_1$ と $W_2$ が部分空間であるとき、それらにより定義される和空間も、部分空間となるということを表しています。

共通部分と和集合、和空間の定義

$W_1$ と $W_2$ の 共通部分和集合和空間、それぞれの定義を改めて整理すると、次のようになります。

($1$)共通部分($\text{intersection}$)
$\quad$ $W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{w} \mid \bm{w} \in W_{1} \land \bm{w} \in W_{2} \}$
($2$)和集合($\text{union}$)
$\quad$ $W_{1} \cup W_{2} = \{ \bm{w} \mid \bm{w} \in W_{1} \lor \bm{w} \in W_{2} \}$
($3$)和空間($\text{sum of spaces}$)
$\quad$ $W_{1} + W_{2} = \{ \bm{w}_1 + \bm{w}_2 \mid \bm{w_1} \in W_{1}, \; \bm{w_2} \in W_{2} \}$

特に、和集合と和空間を混同しないように注意が必要です。



証明(定理 4.7)

$\bm{v}, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ とすると $\bm{v}, \bm{w} \in W_1$ かつ $\bm{v}, \bm{w} \in W_2$ である。$W_1, W_2$ は $V$ の部分空間であるから、$c, d \in K$ に対して $c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1, \; c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_2$ となる。したがって $c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ であるから、 系 4.6(部分空間の条件)より $W_1 \cap W_2$ は $V$ の部分空間である。

同様に、$\bm{v_1} + \bm{v_2}, \bm{w_1} + \bm{w_2} \in W_1 + W_2$ とすると $\bm{v_1}, \bm{w_1} \in W_1$ かつ $\bm{v_2}, \bm{w_2} \in W_2$ である。$W_1, W_2$ は $V$ の部分空間であるから、$c, d \in K$ に対して $c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} \in W_1, \; c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} \in W_2$ となる。したがって $( c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} ) + ( c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} ) = c \, ( \bm{v_1} + \bm{v_2} ) + d \, ( \bm{w_1} + \bm{w_2} ) \in W_1 + W_2$ となる。よって、 系 4.6より $W_1 + W_2$ は $V$ の部分空間である。$\quad \square$



証明の考え方(定理 4.7)

部分空間の定義に従って証明します。具体的には、部分空間の定義と同等な条件を示す 系 4.6(部分空間の条件)を用います。

共通部分が部分空間であることの証明

  • まず、共通部分 $W_1 \cap W_2$ が部分空間になることを示します。
  • 定理の仮定より、$\bm{v}, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ とすると $\bm{v}, \bm{w} \in W_1$ かつ $\bm{v}, \bm{w} \in W_2$ です。これは共通部分の定義の通りです。
  • $W_1, W_2$ が $V$ の部分空間であるので、$c, d \in K$ に対して $c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1, \; c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_2$ となります。これは、 系 4.6(部分空間の条件)によります。
  • $c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1$ かつ $c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_2$ なので、$c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ となります。これも共通部分の定義の通りです。
  • 以上から、任意の $\bm{v}, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ と $c, d \in K$ に対して、$c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ となりますので、 系 4.6(部分空間の条件)より、$W_1 \cap W_2$ は $V$ の部分空間になります。

和空間が部分空間であることの証明

  • 次に、和空間 $W_1 + W_2$ が部分空間になることを示します。

  • 定理の仮定より、$\bm{v_1} + \bm{v_1}, \bm{w_1} + \bm{w_2} \in W_1 + W_2$ とすると $\bm{v_1}, \bm{w_1} \in W_1$ かつ $\bm{v_2}, \bm{w_2} \in W_2$ です。これは和空間の定義の通りです。

  • $W_1, W_2$ が $V$ の部分空間であるので、$c, d \in K$ に対して $c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} \in W_1, \; c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} \in W_2$ となります。これは、 系 4.6(部分空間の条件)によります。

  • $c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} \in W_1$ かつ $c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} \in W_2$ なので、この2つのベクトルの和 $( c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} ) + ( c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} )$ は $W_1 + W_2$ の元となるはずです。和の順序を入れ替えれば次が成り立ちます。

    $$ \begin{split} & ( c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} ) + ( c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} ) \\ = & \; c \, ( \bm{v_1} + \bm{v_2} ) + d \, ( \bm{w_1} + \bm{w_2} ) \in W_1 + W_2 \end{split} $$

  • 以上から、任意の $\bm{v_1} + \bm{v_1}, \bm{w_1} + \bm{w_2} \in W_1 + W_2$ と $c, d \in K$ に対して、$c \, ( \bm{v_1} + \bm{v_2} ) + d \, ( \bm{w_1} + \bm{w_2} ) \in W_1 + W_2$ となりますので、 系 4.6(部分空間の条件)より、$W_1 + W_2$ は $V$ の部分空間になります。


斉次連立一次方程式の解空間


定理 4.8(斉次連立一次方程式の解空間)

$(m, n)$ 型の行列 $A$ で表される斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解全体の集合 $W = \{ \, \bm{x} \in K^n \mid A \bm{x} = \bm{0} \, \}$ は $K^n$ の部分空間である。


解説

解空間とは:方程式の解全体の集合

斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解全体の集合 $W = \{ \, \bm{x} \in K^n \mid A \bm{x} = \bm{0} \, \}$ を、斉次連立一次方程式の解空間($\text{space of solutions}$)といいます。

連立一次方程式を、係数行列を用いて $A \bm{x} = \bm{0}$ のように表す仕方については、 クラメルの公式の項などを参照ください。

斉次連立一次方程式の自明な解と解空間

斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ は、必ず、自明な解 $\bm{x} = \bm{0}$ を持ちます。このことは、$A \, \bm{0} = \bm{0}$ が成り立つことからも、直ちに確認できます。

また、これは、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間が零ベクトル $\bm{0}$ を含む部分空間であることを意味しています。つまり、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間は、少なくとも $\{ \bm{0} \}$ かそれより大きな部分空間になるということです。

今後、線型写像や基底など、ベクトル空間に関連する事項を斉次連立一次方程式と関連させて考察することが多くあります。そこでは、$A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解のみを持つか否かが重要な意味を持つ場合があります。これは、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間が $\{ \bm{0} \}$ より大きいか否かを考えることに他なりません。



証明(定理4.8)

$\bm{x_1}, \bm{x_2} \in W$ とすると $A \bm{x_1} = \bm{0}$ かつ $A \bm{x_2} = \bm{0}$ である。任意の $c, d \in K$ に対して $A \, (c \, \bm{x_1} + d \, \bm{x_2}) = c \, A \bm{x_1} + d \, A \bm{x_2} = \bm{0}$ となるから、$c \, \bm{x_1} + d \, \bm{x_2} \in W$ である。よって、 系 4.6(部分空間の条件)より $W$ は $K^n$ の部分空間である。$\quad \square$



証明の考え方(定理4.8)

定理 4.8(斉次連立一次方程式の解空間)が成り立つことは、 行列の演算規則部分空間の定義(具体的には、 系 4.6(部分空間の条件))より明らかといえます。


まとめ

  • $V$ をベクトル空間として $W_1, W_2$ を $V$ の部分空間とすると、$W_1$ と $W_2$ の 共通部分和集合和空間の定義は、それぞれ次の通り。

($1$)共通部分($\text{intersection}$)
$\quad$ $W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{w} \mid \bm{w} \in W_{1} \land \bm{w} \in W_{2} \}$
($2$)和集合($\text{union}$)
$\quad$ $W_{1} \cup W_{2} = \{ \bm{w} \mid \bm{w} \in W_{1} \lor \bm{w} \in W_{2} \}$
($3$)和空間($\text{sum of spaces}$)
$\quad$ $W_{1} + W_{2} = \{ \bm{w}_1 + \bm{w}_2 \mid \bm{w_1} \in W_{1}, \; \bm{w_2} \in W_{2} \}$

  • $W_1$ と $W_2$ の共通部分 $W_{1} \cap W_{2}$ は $V$ の部分空間である。

  • $W_1$ の $W_2$ の和空間 $W_1 + W_2$ も $V$ の部分空間である。

  • $(m, n)$ 型の行列 $A$ で表される斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間 $W = \{ \, \bm{x} \in K^n \mid A \bm{x} = \bm{0} \, \}$ は $K^n$ の部分空間である。


参考文献

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[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
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初版:2023-02-03   |   改訂:2025-05-19