部分空間(2)

部分空間の基本的な例を $2$ つ示し、定義にしたがって、それぞれに部分空間の要件を満たすことを確かめます。

$2$ つの部分空間により定義される共通部分や和空間はもとのベクトル空間の部分空間になります。また、$n$ 個の変数を持つ斉次連立一次方程式の解空間は $n$ 次元数ベクトル空間 $K^n$ の部分空間になります。

部分空間の共通部分と和空間


定理 4.7(共通部分と和空間)

$V$ をベクトル空間として $W_1, W_2$ を $V$ の部分空間とすると、$W_1$ と $W_2$ の共通部分 $W_1 \cap W_2$ は $V$ の部分空間である。また、$W_1$ の元と $W_2$ の元の和全体の集合 $W_1 + W_2 = \{ \bm{w_1} + \bm{w_2} \mid \bm{w_1} \in W_1, \; \bm{w_2} \in W_2 \}$ も $V$ の部分空間である。



解説

共通部分($W_1 \cap W_2$)

部分空間 $W_1$ と $W_2$ の共通部分 $W_1 \cap W_2$ は、$W_1$ と $W_2$ を集合としてみたときの共通部分($\text{intersection}$) と同じ集合です。

定理 4.7の前半は、$W_1$ と $W_2$ が部分空間であるとき、その共通部分(集合)もベクトル空間の要件を満たし、部分空間となるということを意味しています。

和空間($W_{1} + W_{2}$)

一方で、定理 4.7 後半の「 $W_1$ の元と $W_2$ の元の和全体の集合 $W_1 + W_2$ 」は和空間($\text{sum of spaces}$) と呼ばれるものであり、$W_1$ と $W_2$ を集合としてみたときの和集合($\text{union}$)とはまったく別のもの(異なる集合)になります。

より詳しくは、和空間 $W_1 + W_2$ は 和集合 $W_1 \cup W_2$ の元により生成される(張られる)部分空間ということになります。部分空間を「生成する」という概念は定理 4.16(線型結合)で改めて詳しくみます。取り急ぎは、和集合と和空間を混同してはいけないという点に注意が必要です。

それぞれの定義を改めて整理すると、次のようになります。

($1$)共通部分($\text{intersection}$)
$\quad$ $W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{w} \mid \bm{w} \in W_{1} \land \bm{w} \in W_{2} \}$
($2$)和集合($\text{union}$)
$\quad$ $W_{1} \cup W_{2} = \{ \bm{w} \mid \bm{w} \in W_{1} \lor \bm{w} \in W_{2} \}$
($3$)和空間($\text{sum of spaces}$)
$\quad$ $W_{1} + W_{2} = \{ \bm{w}_1 + \bm{w}_2 \mid \bm{w_1} \in W_{1}, \; \bm{w_2} \in W_{2} \}$


証明(定理 4.7)

$\bm{v}, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ とすると $\bm{v}, \bm{w} \in W_1$ かつ $\bm{v}, \bm{w} \in W_2$ である。$W_1, W_2$ は $V$ の部分空間であるから、$c, d \in K$ に対して $c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1, \; c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_2$ となる。したがって $c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ であるから、系 4.6(部分空間の条件)より $W_1 \cap W_2$ は $V$ の部分空間である。

同様に、$\bm{v_1} + \bm{v_2}, \bm{w_1} + \bm{w_2} \in W_1 + W_2$ とすると $\bm{v_1}, \bm{w_1} \in W_1$ かつ $\bm{v_2}, \bm{w_2} \in W_2$ である。$W_1, W_2$ は $V$ の部分空間であるから、$c, d \in K$ に対して $c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} \in W_1, \; c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} \in W_2$ となる。したがって $( c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} ) + ( c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} ) = c \, ( \bm{v_1} + \bm{v_2} ) + d \, ( \bm{w_1} + \bm{w_2} ) \in W_1 + W_2$ となる。よって、系 4.6より $W_1 + W_2$ は $V$ の部分空間である。$\quad \square$



証明の考え方(定理 4.7)

部分空間の定義に従って証明します。具体的には、部分空間の定義と同等な条件を示す系 4.6(部分空間の条件)を用います。

共通部分が部分空間であることの証明

  • まず、共通部分 $W_1 \cap W_2$ が部分空間になることを示します。
  • 定理の仮定より、$\bm{v}, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ とすると $\bm{v}, \bm{w} \in W_1$ かつ $\bm{v}, \bm{w} \in W_2$ です。これは共通部分の定義の通りです。
  • $W_1, W_2$ が $V$ の部分空間であるので、$c, d \in K$ に対して $c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1, \; c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_2$ となります。これは、系 4.6(部分空間の条件)によります。
  • $c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1$ かつ $c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_2$ なので、$c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ となります。これも共通部分の定義の通りです。
  • 以上から、任意の $\bm{v}, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ と $c, d \in K$ に対して、$c \, \bm{v} + d \, \bm{w} \in W_1 \cap W_2$ となりますので、系 4.6(部分空間の条件)より、$W_1 \cap W_2$ は $V$ の部分空間になります。

和空間が部分空間であることの証明

  • 次に、和空間 $W_1 + W_2$ が部分空間になることを示します。

  • 定理の仮定より、$\bm{v_1} + \bm{v_1}, \bm{w_1} + \bm{w_2} \in W_1 + W_2$ とすると $\bm{v_1}, \bm{w_1} \in W_1$ かつ $\bm{v_2}, \bm{w_2} \in W_2$ です。これは和空間の定義の通りです。

  • $W_1, W_2$ が $V$ の部分空間であるので、$c, d \in K$ に対して $c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} \in W_1, \; c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} \in W_2$ となります。これは、系 4.6(部分空間の条件)によります。

  • $c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} \in W_1$ かつ $c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} \in W_2$ なので、この2つのベクトルの和 $( c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} ) + ( c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} )$ は $W_1 + W_2$ の元となるはずです。和の順序を入れ替えれば次が成り立ちます。

    $$ \begin{split} & ( c \, \bm{v_1} + d \, \bm{w_1} ) + ( c \, \bm{v_2} + d \, \bm{w_2} ) \\ = & \; c \, ( \bm{v_1} + \bm{v_2} ) + d \, ( \bm{w_1} + \bm{w_2} ) \in W_1 + W_2 \end{split} $$

  • 以上から、任意の $\bm{v_1} + \bm{v_1}, \bm{w_1} + \bm{w_2} \in W_1 + W_2$ と $c, d \in K$ に対して、$c \, ( \bm{v_1} + \bm{v_2} ) + d \, ( \bm{w_1} + \bm{w_2} ) \in W_1 + W_2$ となりますので、系 4.6(部分空間の条件)より、$W_1 + W_2$ は $V$ の部分空間になります。


斉次連立一次方程式の解空間


定理 4.8(斉次連立一次方程式の解空間)

$(m, n)$ 型の行列 $A$ で表される斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解全体の集合 $W = \{ \, \bm{x} \in K^n \mid A \bm{x} = \bm{0} \, \}$ は $K^n$ の部分空間である。


解説

斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解全体の集合 $W = \{ \, \bm{x} \in K^n \mid A \bm{x} = \bm{0} \, \}$ を、斉次連立一次方程式の解空間($\text{space of solutions}$)といいます。

連立一次方程式を係数行列 $A$ を用いて $A \bm{x} = \bm{0}$ のように表す仕方については、クラメルの公式の項などを参照ください。

自明な解

斉次連立一次方程式の $A \bm{x} = \bm{0}$ は自明な解 $\bm{x} = \bm{0}$ を持ちます。これは $A \, \bm{0} = \bm{0}$ が成り立つことから直ちに確認できます。

$A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解を持つということは、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間は少なくとも $\{ \bm{0} \}$ かそれより大きな部分空間になるということです。

今後、線型写像や基底などのベクトル空間に関連する事項について、斉次連立一次方程式と関連させて考察することが多くありますが、$A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解のみを持つか否かということが重要な事項となっていきます。これは、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間が $\{ \bm{0} \}$ より大きいか否かということについて考えることに他なりません。

定理4.8 の証明

下に示す通り、定理4.8が成り立つことは、行列の演算規則部分空間の定義(具体的には系 4.6(部分空間の条件))より明らかといえます。



証明(定理4.8)

$\bm{x_1}, \bm{x_2} \in W$ とすると $A \bm{x_1} = \bm{0}$ かつ $A \bm{x_2} = \bm{0}$ である。任意の $c, d \in K$ に対して $A \, (c \, \bm{x_1} + d \, \bm{x_2}) = c \, A \bm{x_1} + d \, A \bm{x_2} = \bm{0}$ となるから、$c \, \bm{x_1} + d \, \bm{x_2} \in W$ である。よって、系 4.6(部分空間の条件)より $W$ は $K^n$ の部分空間である。$\quad \square$




まとめ

  • $V$ をベクトル空間として $W_1, W_2$ を $V$ の部分空間とすると、

    • $W_1$ と $W_2$ の共通部分 $W_{1} \cap W_{2}$ は $V$ の部分空間である。
    • $W_1$ の $W_2$ の和空間 $W_1 + W_2$ も $V$ の部分空間である。
  • $(m, n)$ 型の行列 $A$ で表される斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間 $W = \{ \, \bm{x} \in K^n \mid A \bm{x} = \bm{0} \, \}$ は $K^n$ の部分空間である。


参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
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[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2023-02-03   |   改訂:2024-10-07