線型独立と線型従属

自明でない線型関係が存在しないベクトルを線型独立、自明でない線型関係が存在するベクトルを線型従属であるといいます。

ここでは、線形独立・線型従属の概念を定義し、線型独立・線型従属なベクトルの基本的な性質を示します。

線型独立と線型従属の定義

まず、線形独立と線型従属の定義を示します。


定義 4.7(線型独立と線型従属)

VV をベクトル空間とする。v1,,vkV\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} \in V の間に自明でない線型関係が存在するとき v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は線型従属(linearly dependent\text{linearly dependent})であるといい、自明でない線型関係が存在しないとき v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は線型独立(linearly independent\text{linearly independent})であるという。



解説

線形独立・線型従属なベクトルとは

ベクトルの組に対して定義される

線型独立や線型従属という概念は、ベクトルの組の関係を表すものであり、基本的には複数のベクトルからなる組に対して考えられます。

11 つのベクトルの場合(零ベクトルか否か)

11 つのベクトル vV\bm{v} \in V が線型独立であるということもできますが、これはあまり意味のない主張です。次のように単純化できるためです。

すなわち、11 つのベクトルの線型関係 cv=0c \, \bm{v} = \bm{0} を考えると、定理 4.3(ベクトルの演算 2)より、cv=0c=0v=0c \, \bm{v} = \bm{0} \Rightarrow c = 0 \lor \bm{v} = \bm{0} が成り立ちます。このとき、上記の定義より、「v\bm{v} に自明でない線型関係が存在しない」、つまり、「 cv=0c \, \bm{v} = \bm{0}c=0c = 0 以外の解を持たない」ということは、v0\bm{v} \neq \bm{0} であることと同値です。

したがって、11 つのベクトル v\bm{v} が線型独立であることは、v0\bm{v} \neq \bm{0} に等しいといえます。また、逆に、11 つのベクトル v\bm{v} が線型従属であることは、v=0\bm{v} = \bm{0} ということに他なりません。

線形独立・線型従属の定義の言い換え

線形独立の定義の言い換え

線型独立の定義は、様々に言い換えることができます。例えば、次の(i\text{i}\simiv\text{iv})は、いずれも、あるベクトルの組が線型独立であるための条件の言い換えです。

i\text{i}v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} の間に自明でない線型関係が存在しない(定義
ii\text{ii}v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} の間には自明な線型関係しか存在しない
iii\text{iii}c1v1++ckvk=0c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0} が成り立つのは c1==ck=0c_{1} = \cdots = c_{k} = 0 のときに限る
iv\text{iv}c1v1++ckvk=0c1==ck=0c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0} \, \Rightarrow \, c_{1} = \cdots = c_{k} = 0

まず、v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} が線型独立であるということは、上記の定義に従えば(i\text{i}) 「 v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} の間に自明でない線型関係が存在しない」ということです。部分否定の表現を変えて(ii\text{ii}) 「 v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} の間には自明な線型関係しか存在しない」としても同じことです。

また、より詳しく(iii\text{iii}) 「 c1v1++ckvk=0c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0} が成り立つのは c1==ck=0c_{1} = \cdots = c_{k} = 0 のときに限る」ということもできます。更に、論理記号を用いて(iv\text{iv}) 「 c1v1++ckvk=0c1==ck=0c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0} \, \Rightarrow \, c_{1} = \cdots = c_{k} = 0 」と表すこともできます。

線形従属の定義の条件の言い換え

同様に、線型従属の定義も、様々に言い換えることができます。例えば、次の(i\text{i}\simiii\text{iii})は、いずれも、あるベクトルの組が線型従属であるための条件の言い換えです。

i\text{i}v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} の間に自明でない線型関係が存在する(定義
ii\text{ii}c1v1++ckvk=0c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0} を成り立たせる、少なくとも 11 つは 00 でない c1,,ckc_{1}, \cdots, c_{k} の組が存在する
iii\text{iii}(c1,,ck)(0,,0)s.t.    c1v1++ckvk=0{}^{\exists} (\, c_{1}, \cdots, c_{k} \,) \neq (\, 0, \cdots, 0 \,) \quad \text{s.t.} \;\; c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}

v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} が線型従属であるということは、上記の定義に従えば(i\text{i}) 「 v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} の間に自明でない線型関係が存在する」ということです。

この条件をより詳しく書き下せば(ii\text{ii}) 「 c1v1++ckvk=0c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0} を成り立たせる、少なくとも 11 つは 00 でない c1,,ckc_{1}, \cdots, c_{k} の組が存在する」ということになります。また、このことは、論理記号を用いて(iv\text{iv}) 「 (c1,,ck)(0,,0)    s.t.    c1v1++ckvk=0{}^{\exists} (\, c_{1}, \cdots, c_{k} \,) \neq (\, 0, \cdots, 0 \,) \;\; \text{s.t.} \;\; c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0} 」のように表すこともできます。

線形独立と線型従属は排反

ベクトルの組が線型独立であることと線型従属であることは互いに排反な命題です。

すなわち、あるベクトルの組が線型独立であれば線型従属ではなく、線型従属であれば線形独立ではありません。逆もまた成り立ちます。このことは、上記の定義から明らかといえます。

線形独立・線型従属であるための諸条件

次項以降、線型独立(または線型従属)なベクトルの性質に関する様々な定理を導きます。それらは、主に、あるベクトルの組が線型独立(または線型従属)であるための条件であり、「\sim ならば \sim は線型独立(または線型従属)である」といった命題がよく現れます。

しかしながら、線形独立・線型従属の定義は、上記に示した通り、あくまで自明でない線型関係の有無によるものです。線形独立・線型従属の定義そのものと、定義から導かれる定理を混同しないように注意が必要です。


線形独立なベクトルの基本的性質

次に、定義から直ちに導かれる、線形独立なベクトルの基本的性質を示します。



定理 4.17(線型独立なベクトルの性質)

v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} が線型独立ならば、次が成り立つ。

11v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} はどれも零ベクトル 0\bm{0} ではない。
22v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は互いに相異なる。



解説

線形独立なベクトルの基本的性質

定理 4.17(線型独立なベクトルの性質)は、線形独立なベクトルの組について成り立つ基本的な性質を示しています。すなわち、線形独立なベクトルは、零ベクトル 0\bm{0} や同じベクトルを含みません。

このことは、定義より明らかといえます(下記の証明を参照)。

線形従属なベクトルの基本的性質

定理 4.17(線型独立なベクトルの性質)の対偶は、直ちに線型従属なベクトルの組の基本的性質を表します。すなわち、次が成り立ちます。

1{1}^{\prime}v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} のなかに 0\bm{0} が含まれていれば、v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は線型従属である。
2{2}^{\prime}v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} のなかに同じベクトルが含まれていれば、v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は線型従属である。



証明

VV をベクトル空間として、v1,,vkV\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} \in V が線型独立であるとする。

11)仮に v1=0\bm{v}_{1} = \bm{0} とすると、たとえば、c1=1,c2=ck=0c_{1} = 1, \, c_{2} \cdots = c_{k} = 0c1v1++ckvk=0c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0} を満たす。すなわち、自明でない線型関係が存在するので v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は線型従属となり、仮定に矛盾する。v2,,vk\bm{v}_{2}, \cdots, \bm{v}_{k} についても同様である。よって、v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} はどれも 0\bm{0} ではない。

22)仮に v1=v2\bm{v}_{1} = \bm{v}_{2} とすると、たとえば、c1=1,c2=1,c3=ck=0c_{1} = -1, \, c_{2} = 1, \, c_{3} \cdots = c_{k} = 0c1v1++ckvk=0c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0} を満たす。すなわち、自明でない線型関係が存在するので v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は線型従属となり、仮定に矛盾する。v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} の他の組合せについても同様である。よって、v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は互いに相異なる。\quad \square



証明の考え方

いずれも、定義より明らかといえ、背理法により証明することができます。


まとめ

  • VV をベクトル空間とする。v1,,vkV\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} \in V の間に、自明でない線型関係が存在するとき v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は線型従属であるといい、自明でない線型関係が存在しないとき v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は線型独立であるという。
  • v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} が線型独立であれば、次が成り立つ。
    11v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} はどれも 0\bm{0} ではない。
    22v1,,vk\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k} は互いに相異なる。

参考文献

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初版:2023-02-13   |   改訂:2025-03-18