行列式と線型独立性(2)

線型独立または線型従属であるベクトルの組と行列式との関係について考察します。基本的な考え方は基底と次元の準備に共通していますが、ここで示す定理は行列式が定義できる場合、すなわち正方行列に対応する場合に限られます。

ここでは、正方行列の列ベクトルまたは行ベクトルが線型独立であることと、行列式の値が $0$ でないことが同値であることを示します。

この定理は、行列の階数の性質についての考察などで重要な役割を果たします。

行列式と線型独立・線型従属なベクトル


定理 4.27(行列式と線型独立性)

$A$ を $n$ 次正方行列として、$A$ の列ベクトルを $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$、$A$ の行ベクトルを $\bm{a}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{n}$ とすると、次の条件は同値である。
($\text{1}$)$\vert \, A \, \vert \neq 0$
($\text{2}$)$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が線型独立である。
($\text{3}$)$\bm{a}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{n}$ が線型独立である。



正方行列 $A$ は列ベクトルと行ベクトルにより次のように表すことができます。ここで、$A$ は $n$ 次の正方行列であるので、定理 4.27の($2$)と($3$)は、それぞれ「$A$ のすべての列ベクトルが線型独立である」、「$A$ すべての行ベクトルが線型独立である」と捉えることができます。また、定理 3.22(逆行列を持つための条件) より、「行列式の値が $0$ でない( $\vert \, A \, \vert \neq 0$ )」という定理 4.27の条件($1$)は「$A$ が正則である」ということと同値です。このように考えれば、定理 4.27は、正方行列が正則である(逆行列を持つ)ための条件を示す定理であるとも捉えることができます。

また、$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ を単なる $n$ 個の $n$ 項数ベクトルと捉えることもできます。すなわち定理 4.27は、$n$ 個の $n$ 項数ベクトルが線型独立であるためには、それらを列ベクトル(または行ベクトル)として持つ行列の行列式が $0$ でないことが必要にして十分であることを表していると理解できます。



証明

$\vert \, A \, \vert \neq 0$ であれば、$A$ は正則であり逆行列を持つから $A \bm{x} = \bm{0}$ ならば $\bm{x} = \bm{0}$ が成り立つ。したがって、$A \bm{x} = \bm{0}$ は自明でない解を持たず、$A$ の列ベクトル $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は線型独立である。逆に、$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が線型独立であり、かつ $\vert \, A \, \vert = 0$ であると仮定すると、定理 4.26より $A \bm{x} = \bm{0}$ は自明でない解を持つことになるが、これは $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は線型独立であることに矛盾する。よって、$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が線型独立であれば $\vert \, A \, \vert = 0$ である。以上から($1$)と($2$)は同値である。また、$\vert \, {}^{t} A \, \vert = \vert \, A \, \vert $ であるから、同様に($1$)と($3$)は同値である。$\quad \square$



証明の骨子

まず($1$)$\Leftrightarrow$($2$)を示した後で($1$)$\Leftrightarrow$($3$)を示し、$3$ つの条件が同値であることを証明します。($1$)$\Leftrightarrow$($2$)は、定理 4.26(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)を用いて示します。また($1$)$\Leftrightarrow$($2$)が成り立つとき、定理 3.13(転置行列の行列式)により($1$)$\Leftrightarrow$($3$)も成り立つことが示されます。

  • ($1$)$\Leftrightarrow$($2$)

    • ($1$)$\Rightarrow$($2$)
      • いま $\vert \, A \, \vert \neq 0$ を仮定していますので、$A$ は正則であり逆行列 $A^{-1}$ を持ちます。

      • 斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ に、左から $A^{-1}$ をかけると $\bm{x} = \bm{0}$ が得られます。

        $$ A \bm{x} = \bm{0} \; \Rightarrow \; A^{-1} A \bm{x} = A^{-1} \bm{0} \; \Rightarrow \; E \bm{x} = \bm{0} \; \Rightarrow \; \bm{x} = \bm{0} $$

      • よって、$A \bm{x} = \bm{0}$ ならば $\bm{x} = \bm{0}$ が成り立ち、$A \bm{x} = \bm{0}$ は自明でない解を持たない(自明な解しか持たない)すなわち $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は線型独立であるということがわかります。

        • このことは、背理法により、仮に自明でない解 $\bm{x}^{\prime} \neq 0$ が存在するとして、$A \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ に左から $A^{-1}$ をかければ $\bm{x}^{\prime} = 0$ となることから矛盾を導くことで確かめることもできます。
      • ここまでで($1$)$\Rightarrow$($2$)が示されました。

    • ($1$)$\Leftarrow$($2$)
      • 背理法により証明します。
        • $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が線型独立であり、かつ $\vert \, A \, \vert = 0$ であると仮定します。これは「($2$)$\land \; {}^{\lnot}$($1$)」であり、すなわち「($2$)$\Rightarrow$($1$)」の否定を仮定していることに相当します。
        • $\vert \, A \, \vert = 0$ であるから、前項の定理 4.26(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)より $A \bm{x} = \bm{0}$ は自明でない解を持つことになります。
        • つまり、$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は線型従属であるということが導かれますが、これは $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は線型独立であるという仮定に矛盾します。
        • したがって($1$)$\Leftarrow$($2$)が示されました。
    • 以上の考察から($1$)$\Rightarrow$($2$)かつ($1$)$\Leftarrow$($2$)、よって($1$)$\Leftrightarrow$($2$)が成り立つことが示されました。
  • ($1$)$\Leftrightarrow$($3$)

    • $A$ の列ベクトルに関して($1$)$\Leftrightarrow$($2$)が示されました。
    • 定理 3.13(転置行列の行列式)より、$\vert \, {}^{t} A \, \vert = \vert \, A \, \vert $ であるから、行列式に関して、$A$ の列ベクトルに成り立つことは、$A$ の行ベクトルにも成り立つといえます。
      • ($1$)$\Leftrightarrow$($2$)において $A$ を ${}^{t} A$ に置き換えて考えれば、$\vert \, {}^{t} A \, \vert = 0$ であることと ${}^{t} A$ の列ベクトルが線型独立であることは同値となります。ここで、${}^{t} A$ の列ベクトルとは $A$ の行ベクトル $\bm{a}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{n}$ に他なりません。
      • また、定理 3.13(転置行列の行列式)より $\vert \, {}^{t} A \, \vert = \vert \, A \, \vert \neq 0$ が成り立ちます。
      • よって、$\vert \, A \, \vert \neq 0$ であることと $A$ の行ベクトルが線型独立であることは同値である、すなわち($1$)$\Leftrightarrow$($3$)が成り立つといえます。
    • したがって($1$)$\Leftrightarrow$($2$)ならば、同様に($1$)$\Leftrightarrow$($3$)が成り立つことがわかります。
  • 以上から($1$)$\Leftrightarrow$($2$)かつ($1$)$\Leftrightarrow$($3$)であるので、($1$)($2$)($3$)は同値であることが示されました。


まとめ

  • $A$ を $n$ 次正方行列として、$A$ の列ベクトルを $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$、$A$ の行ベクトルを $\bm{a}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{n}$ とすると、次の条件は同値である。
    ($\text{1}$)$\vert \, A \, \vert \neq 0$
    ($\text{2}$)$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が線型独立である。
    ($\text{3}$)$\bm{a}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{n}$ が線型独立である。


参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
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[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
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[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2023-02-27   |   改訂:2024-08-25