基底と次元の準備(2)
次節にてベクトル空間の基底と次元を定義しますが、その準備として、線型従属なベクトルの組に関する一連の定理を示します。これらの定理は、ベクトル空間の基底の数(次元)が一意に定まるということの根拠を与えるものです。
ここでは、あるベクトルの組が線型従属であるための条件を示します。すなわち、ベクトルの数($n$)がそれぞれのベクトルの要素の数($m$)よりも大きければ、そのベクトルの組は線型従属となります。
この定理は、前項の定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)と本質的に同じ趣旨であり、これをベクトルの組の線型関係に置き換えて表したものといえます。
基底と次元の準備
定理 4.24(線型従属なベクトルの組 $1$)
$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in K^{m}$ とする。$n \gt m$ ならば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型従属である。
あるベクトルの組について、ベクトルの数($n$)が、それぞれのベクトルの要素の数($m$)よりも大きければ、そのベクトルの組は線型従属となります。より端的に、$n \gt m$ であるとき、$n$ 個の $m$ 項列ベクトルは線型従属であるともいえます。
下の証明にみるように、この定理は前項の定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)と本質的には同じことを表しています。すなわち、ベクトルの組の線型関係と斉次連立一次方程式は同じものとして扱うことができ、あるベクトルの組が線型従属である(自明でない線型関係が存在する)ことと、対応する斉次連立一次方程式が自明でない解を持つことは同値であるということができます。このような点から、定理 4.24を定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)の系としている教科書もあります([4])。また、定理 4.24は、次項に示す定理 4.25から導くこともできますので、先に定理 4.25を示しているものもあります([2])。
証明
$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in K^{m}$ を次のようにおくと、
$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型関係 $x_1 \, \bm{v}_{1} + x_2 \, \bm{v}_{2} + \cdots + x_n \, \bm{v}_{n} = \bm{0}$ は次のように表せる。
ここで $A$ を $(m, n)$ 型行列、$\bm{x}$ を $n$ 項列ベクトルとして、次のようにおけば、
$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型関係($\ast$)は $A \bm{x} = \bm{0}$ と表すことができ、これは次の斉次連立一次方程式と等しい。
いま $n \gt m$ であるから、定理 4.23より($\ast \ast$)は自明でない解を持つ。これを $x^{\prime}_{1}, \cdots, x^{\prime}_{n}$ とすると、$x^{\prime}_{1}, \cdots, x^{\prime}_{n}$ は($\ast$)を満たす。すなわち、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ には自明でない線型関係が存在するので、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型従属である。$\quad \square$
証明の骨子
ベクトルの間の線型関係と斉次連立一次方程式が対応することを示した上で、定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)を用いて証明します。
まず、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型関係 $x_1 \, \bm{v}_{1} + x_2 \, \bm{v}_{2} + \cdots + x_n \, \bm{v}_{n} = \bm{0}$ と、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ が対応することを示します。
$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in K^{m}$ を次のようにおきます。
$$ \begin{array} {cccc} \bm{v}_{1} = \begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{21} \\ \vdots \\ a_{m1} \end{pmatrix}, & \bm{v}_{2} = \begin{pmatrix} a_{12} \\ a_{22} \\ \vdots \\ a_{m2} \end{pmatrix}, & \cdots, & \bm{v}_{n} = \begin{pmatrix} a_{1n} \\ a_{2n} \\ \vdots \\ a_{mn} \end{pmatrix} \end{array} $$すると、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型関係は次の($\ast$)のように表せます。
$$ \begin{align*} \tag{$\ast$} x_{1} \begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{21} \\ \vdots \\ a_{m1} \end{pmatrix} + x_{2} \begin{pmatrix} a_{12} \\ a_{22} \\ \vdots \\ a_{m2} \end{pmatrix} + \cdots + x_{n} \begin{pmatrix} a_{1n} \\ a_{2n} \\ \vdots \\ a_{mn} \end{pmatrix} = \bm{0} \end{align*} $$$A$ を $(m, n)$ 型行列、$\bm{x}$ を $n$ 項列ベクトルとして、次のようにおくと、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型関係は更に $A \bm{x} = \bm{0}$ と表すことができます。ここで、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ をまとめて $A = (\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n})$ としています。
$$ \begin{array} {cc} A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \\ \end{pmatrix}, & \bm{x} = \begin{pmatrix} x_{1} \\ x_{2} \\ \vdots \\ x_{n} \end{pmatrix} \end{array} $$また、$A \bm{x} = \bm{0}$ は、斉次連立一次方程式を係数行列を用いて表したものに他なりません。これを改めて斉次連立一次方程式の形で表すと、次のようになります。
$$ \begin{align*} \tag{$\ast \ast$} \left\{ \begin{array} {c} a_{11} x_{1} + a_{12} x_{2} + \cdots + a_{1n} x_{n} = 0 \\ a_{21} x_{1} + a_{22} x_{2} + \cdots + a_{2n} x_{n} = 0 \\ \vdots \\ a_{m1} x_{1} + a_{m2} x_{2} + \cdots + a_{mn} x_{n} = 0 \\ \end{array} \right. \end{align*} $$以上から、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型関係 $x_1 \, \bm{v}_{1} + x_2 \, \bm{v}_{2} + \cdots + x_n \, \bm{v}_{n} = \bm{0}$($\ast$)と、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$($\ast \ast$)が対応することが示されました。
次に、定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)を用いて $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型従属であることを示します。
- いま $n \gt m$ であるから、定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)より、斉次連立一次方程式($\ast \ast$)は自明でない解を持つことがわかります。
- このことは、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ に自明でない線型関係が存在することと同値です。すなわち($\ast \ast$)の自明でない解を $x^{\prime}_{1}, \cdots, x^{\prime}_{n}$ とすると、$x^{\prime}_{1}, \cdots, x^{\prime}_{n}$ は($\ast$)を満たします。よって、$x^{\prime}_1 \, \bm{v}_{1} + x^{\prime}_2 \, \bm{v}_{2} + \cdots + x^{\prime}_n \, \bm{v}_{n} = \bm{0}$ であり、かつ $x^{\prime}_{1}, \cdots, x^{\prime}_{n}$ のうち少なくとも $1$ つは $0$ でないので、$x^{\prime}_1 \, \bm{v}_{1} + x^{\prime}_2 \, \bm{v}_{2} + \cdots + x^{\prime}_n \, \bm{v}_{n} = \bm{0}$ は自明でない線型関係となります。
- 以上から、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型従属であることが示されました。
まとめ
- $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in K^{m}$ とする。$n \gt m$ ならば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型従属である。
参考文献
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.