基底と次元の定義(1)

ベクトル空間の基底とは、ベクトル空間を生成する線型独立なベクトルの組です。

ベクトル空間の基底を定義し、ベクトルの組が基底であることと同値な条件を示します。ベクトル空間の様々な性質について考察する上で、基底は基本的で重要な概念です。

基底の定義

まず、ベクトル空間の基底の定義を示します。


定義 4.8(ベクトル空間の基底)

$V$ をベクトル空間とする。$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in V$ が次の $2$ つの条件を満たすとき、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底($\text{basis}$)であるという。

($1$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立である。
($2$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成する。


解説

基底とは(定義と表記法)

ベクトル空間 $V$ の基底とは、$V$ を生成する線型独立なベクトルの組のことです。

基底をなすベクトルを並べて、「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底である」のように表します。また、基底をなすベクトルの組を集合として捉えて、「$\{\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,\}$ は $V$ の基底である」のように表されることもあります。なお、基底が $1$ つのベクトルからなる場合もあります。

基底であるための条件

あるベクトルの組がベクトル空間 $V$ の基底であるためには、次の $2$ つの条件を満たすことが必要にして十分です。
($1$)線型独立であること。
($2$)$V$ を生成すること。

条件($2$)について、「ベクトルの組 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ を生成する」ということは、「任意の $V$ の元が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表せる」ということに他なりません。

ベクトル空間を「生成する」ことの意味

「生成する」という表現は部分空間に対して用いられるものでありました( 定理 4.16(線型結合))が、ベクトル空間 $V$ は $V$ 自身の部分空間である( 部分空間の定義)ことを考えれば、この表現に違和感はありません。

また、条件($2$)は、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が生成する部分空間を $\langle \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \rangle$ として、$V = \langle \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \rangle$ のように表すこともできます。


基底の定義と同値な条件

次に、ベクトル空間の基底の定義と同値な条件を示します。


定理 4.28(基底であることと同値な条件)

$V$ をベクトル空間とする。$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in V$ が $V$ の基底であるためには、次の条件が成り立つことが必要にして十分である。

($3$)$V$ の任意の元が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せる。


解説

基底であるための条件の集約

定理 4.28(基底であることと同値な条件)は、ベクトルの組が基底であるための条件( 基底の定義)を集約したものです。

すなわち、次の $3$ つの条件の間には($1$)$\land$($2$)$\Leftrightarrow$($3$)という関係が成り立ちます。ここで、条件($1$)と($2$)は、上記の 基底の定義による条件です。

($1$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立である。
($2$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成する。
($3$)$V$ の任意の元が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せる。

実際には、 基底の定義による条件($1$)と($2$)は充分コンパクトで使いやすく、これを条件($3$)に集約する意義はあまりありません。



証明

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底であれば、 定義より $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成するので、任意の $\bm{v} \in V$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として $\bm{v} = c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n}$ のように表せる。仮に $\bm{v}$ が$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として $2$ 通りに表せるとすると、次が成り立つ。

$$ \begin{gather*} & c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} = c^{\prime}_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \, \bm{v}_{n} \\ \Leftrightarrow & (c_{1} - c^{\prime}_{1}) \, \bm{v}_{1} + \cdots + (c_{n} - c^{\prime}_{n}) \, \bm{v}_{n} = \bm{0} \end{gather*} $$

しかしながら、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立であるから、$c_{1} = c^{\prime}_{1}, \cdots, c_{n} = c^{\prime}_{n}$ となる。したがって、$\bm{v} \in V$ の $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合としての表し方は一意的である。

逆に、任意の $\bm{v} \in V$ が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せるとすると、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ を生成することは明らかである。また、$\bm{v} = c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} = \bm{0}$ とすると、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ には自明な線型関係 $0 \, \bm{v}_{1} + \cdots + 0 \, \bm{v}_{n} = \bm{0}$ が存在するため、次が成り立つ。

$$ \begin{split} c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} &= \bm{0} \\ &= 0 \, \bm{v}_{1} + \cdots + 0 \, \bm{v}_{n} \\ \end{split} $$

いま、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合の表し方は一意的であるから $c_{1} = 0, \cdots, c_{n} = 0$ となる。したがって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立である。$\quad \square$



証明の考え方

下記の $3$ つの条件について、まず($1$)$\land$($2$)$\Rightarrow$($3$)を示した後に、逆を示します。

($1$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立である。
($2$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成する。
($3$)$V$ の任意の元が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せる。

逆の証明において、条件($3$)は条件($2$)を含んでいます。つまり、($2$)$\Leftarrow$($3$)は明らかであり、($1$)$\Leftarrow$($3$)のみを示せば良いことがわかります。いずれも、 基底の定義にしたがって示すことができます。

($1$)$\land$($2$)$\Rightarrow$($3$)の証明

線型結合により表せることの証明
  • 任意の $\bm{v} \in V$ が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表せることは、 基底の定義より明らかといえます。
    • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底であるならば、 定義の条件($2$)より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成します。
    • すなわち、任意の $\bm{v} \in V$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として $\bm{v} = c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n}$ のように表せるということです。
一意性の証明
  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合による、$\bm{v} \in V$ の表し方が一意的であることを示します。

    • 背理法により、仮に $\bm{v}$ が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として $2$ 通りに表せるとして、矛盾を導きます。
  • $\bm{v} \in V$ が $2$ 通りに表せるとします(背理法の仮定)。

    $$ \begin{align*} \bm{v} &= c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} \\ \bm{v} &= c^{\prime}_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \, \bm{v}_{n} \\ \end{align*} $$

  • 上記の仮定より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型関係が得られます。

    $$ \begin{gather*} & c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} = c^{\prime}_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \, \bm{v}_{n} \\ \Leftrightarrow & (c_{1} - c^{\prime}_{1}) \, \bm{v}_{1} + \cdots + (c_{n} - c^{\prime}_{n}) \, \bm{v}_{n} = \bm{0} \end{gather*} $$

  • いま、 基底の定義の条件($1$)より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立でるため、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ には自明でない線型関係が存在しません。したがって、次が成り立ちます。

    $$ \begin{gather*} & (c_{1} - c^{\prime}_{1}) \, \bm{v}_{1} + \cdots + (c_{n} - c^{\prime}_{n}) \, \bm{v}_{n} = \bm{0} \\ \Rightarrow & c_{1} - c^{\prime}_{1} = 0, \, \cdots, \, c_{n} - c^{\prime}_{n} = 0 \end{gather*} $$

  • よって、$c_{1} = c^{\prime}_{1}, \cdots, c_{n} = c^{\prime}_{n}$ となりますが、これは $\bm{v}$ が $2$ 通りに表せることに矛盾します。

  • 以上から、$\bm{v} \in V$ の $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合としての表し方は一意的であることが示されました。


($1$)$\land$($2$)$\Leftarrow$($3$)の証明

($2$)$\Leftarrow$($3$)の証明
  • 条件($3$)は条件($2$)を含んでおり、($2$)$\Leftarrow$($3$)は明らかといえます。

    ($2$)任意の $\bm{v} \in V$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表せる。
    ($3$)任意の $\bm{v} \in V$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せる。

    • 条件($3$)が成り立てば、条件($2$)も必ず成り立ちます。
    • したがって、条件($3$)は明らかに条件($2$)を含んでいます。
    • 一意性を要求している分、条件($3$)の方がより厳しい条件ということもできます。
($1$)$\Leftarrow$($3$)の証明
  • 条件($3$) 「任意の $\bm{v} \in V$ が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せる」ことは、次のように表せます。

    $$ \begin{gather*} & c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} = c^{\prime}_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \, \bm{v}_{n} \\ \Rightarrow & c_{1} = c^{\prime}_{1}, \cdots, c_{n} = c^{\prime}_{n} \end{gather*} $$

  • また、示すべき条件($1$) 「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型独立である」ことは、次のように表せます。

    $$ \begin{gather*} & c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} = \bm{0} \\ \Rightarrow & c_{1} = 0, \cdots, c_{n} = 0 \end{gather*} \tag{$\ast$} $$

    • これは、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ には自明な線型関係しか存在しない(すなわち、自明でない線型関係が存在しない)ことを意味しています( 線型独立の定義)。
  • $\bm{v} = 0 \in V$ を $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表すと、次のようになります。

    $$ \begin{align*} \bm{v} = c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} = \bm{0} \end{align*} $$

  • 一方で、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ には必ず自明な線型関係が存在する( 線型関係の定義)ため、次が成り立ちます。

    $$ \begin{align*} 0 \, \bm{v}_{1} + \cdots + 0 \, \bm{v}_{n} = \bm{0} \end{align*} $$

  • よって、上記の $2$ 式より、次が成り立ちます。

    $$ \begin{split} c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} &= \bm{0} \\ &= 0 \, \bm{v}_{1} + \cdots + 0 \, \bm{v}_{n} \\ \end{split} $$

  • いま、定理の仮定より、$\bm{0} \in V$ の($\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合としての)表し方は一意的であるので、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} = 0 \, \bm{v}_{1} + \cdots + 0 \, \bm{v}_{n}$ ならば、$c_{1} = 0, \cdots, c_{n} = 0$ が成り立ちます。

    $$ \begin{gather*} & c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \, \bm{v}_{n} = 0 \, \bm{v}_{1} + \cdots + 0 \, \bm{v}_{n} \\ \Rightarrow & c_{1} = 0, \cdots, c_{n} = 0 \end{gather*} $$

    • これは、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ には自明な線型関係しか存在しない(自明でない線型関係が存在しない)ことを表す ($\ast$)式に他なりません。
  • したがって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立であるといえます。

  • 以上から、($2$)$\Leftarrow$($3$)$\land$($1$)$\Leftarrow$($3$)であるので、($1$)$\land$($2$)$\Leftarrow$($3$)が示されました。


まとめ

  • $V$ をベクトル空間とする。$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in V$ が次の $2$ つの条件を満たすとき、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底であるという。

    ($1$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立である。
    ($2$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成する。

  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底であるための条件($1$)と($2$)は、次の条件($3$)に集約できる。

    ($3$)$V$ の任意の元が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せる。


参考文献

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初版:2023-02-28   |   改訂:2025-02-20