同型なベクトル空間の次元(3)
任意の $n$ 次元ベクトル空間は、$n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ に同型です。
この定理は、抽象的なベクトル空間と具体的な形を持った数ベクトル空間が構造的に同じものであることを示しています。
ベクトル空間と数ベクトル空間の同型
定理 4.42(ベクトル空間と数ベクトル空間の同型)
$V$ を $n$ 次元ベクトル空間とすれば、$V$ は $n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ に同型である。
解説
ベクトル空間と数ベクトル空間の同型
任意の $n$ 次元ベクトル空間は、$n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ に同型です。
前項の 定理 4.41(ベクトル空間が同型であることと同値な条件)より、次元が等しいベクトル空間は互いに同型です。このことから直ちに、$n$ 次元ベクトル空間と $n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ が同型であるといえます。
ベクトル空間と数ベクトル空間は構造的に同じ
定理 4.42(ベクトル空間と数ベクトル空間の同型)は、あくまで公理的に定義されたベクトル空間と、具体的な形を持った数ベクトル空間が構造的に同じであることを表しています。
このことから、抽象的なベクトル空間についての考察を、具体的な数ベクトル空間に還元することが妥当であるといえます。つまり、一般的なベクトル空間の問題に取り組むにあたって、必要に応じて、数ベクトル空間を用いて考えることが有効であるということです。 定理 4.42の意義はこの点にあります。
次元が等しいベクトル空間は互いに同型である
定理 4.42(ベクトル空間と数ベクトル空間の同型)から、次元の等しいベクトル空間はすべて互いに同型であるといえます。次元の等しいベクトル空間は、すべて同じ次元の数ベクトル空間に同型となるためです。
このことは、 定理 4.41(ベクトル空間が同型であることと同値な条件)からも直ちに導けることです。
定理 4.42を証明する方法
定理 4.42(ベクトル空間と数ベクトル空間の同型)は 定理 4.41(ベクトル空間が同型であることと同値な条件)の系であるといえます。
上記の通り、 定理 4.42は 定理 4.41から直ちに導くことができるためです。
しかしながら、 定理 4.41に先立って 定理 4.42を導くこともできます。実際に、そのような流れをとっている教科書( [1], [2] など)もあります。下記の 証明では、 定理 4.41を用いない証明を示すこととします。
証明
$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in V$ を $V$ の基底、$\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}$ を $K^{n}$ の標準基底として、次のような $f : V \to K^{n}$ を考えると、$f$ は明らかに線型写像である。
$\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}$ は $K^{n}$ の基底であるので、任意の $\bm{x} \in K^{n}$ は $\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}$ の線型結合として表すことができ、これに対して $c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n} \in V$ が存在する。よって $f$ は全射である。また、任意の $\bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ を、それぞれ $\bm{v} = c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n}, \; \bm{v}^{\prime} = c^{\prime}_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \bm{v}_{n}$ とすると、次が成り立つ。
よって $f$ は単射である。以上から $f$ は同型写像であり、$V$ は $K^{n}$ に同型である。$\quad \square$
証明の考え方
$V$ と $K^{n}$ の基底をおいて、$V$ から $K^{n}$ への 同型写像が存在することを示します。基本的な考え方は 定理 4.41(ベクトル空間が同型であることと同値な条件)の証明の後半と同じです。
前提事項の整理
- 定理の仮定より $V$ と $K^{n}$ の次元が等しいので、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in V$ を $V$ の基底、$\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}$ を $K^{n}$ の標準基底とします。
- このとき、次のような $f : V \to K^{n}$ を考え、これが
同型写像(
線型独立かつ
全単射)であることを示せばよいです。$$ \begin{align*} \tag{$\ast$} f( c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n} ) = c_{1} \bm{e}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{e}_{n} \end{align*} $$
写像 $f$ が存在することの確認
($\ast$)により定められる対応 $f : V \to K^{n}$ が写像であることは明らかといえます。
上記の 証明では省略していますが、このことは次のように確かめられます。
- $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底であるので、その線型結合である $c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n}$ は任意の $V$ の元を表すことができます( 定理 4.28(基底であることと同値な条件))。
- したがって($\ast$)は任意の $V$ の元に対して成り立つといえます。これは、任意の $\bm{v} \in V$ に対して $\bm{x} = f( \bm{v} )$ となるような $\bm{x} \in K^{n}$ が存在するということに他なりません。
- また、任意の $\bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ を、それぞれ $\bm{v} = c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n}, \; \bm{v}^{\prime} = c^{\prime}_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \bm{v}_{n}$ とすると、次のことが成り立ちます。$$ \begin{split} \bm{v} = \bm{v}^{\prime} \; &\Rightarrow \; c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n} = c^{\prime}_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \bm{v}_{n} \\ &\Rightarrow \; (c_{1} - c^{\prime}_{1}) \, \bm{v}_{1} + \cdots + (c_{n} - c^{\prime}_{n}) \, \bm{v}_{n} = \bm{0} \\ &\Rightarrow \; c_{1} = c^{\prime}_{1}, \, \cdots, \, c_{n} = c^{\prime}_{n} \\ &\Rightarrow \; c_{1} \bm{e}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{e}_{n} = c^{\prime}_{1} \bm{e}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \bm{e}_{n} \\ &\Rightarrow \; f(\bm{v}) = f(\bm{v}^{\prime}) \end{split} $$
以上から $f : V \to K^{n}$ は 写像であるための条件を満たします( 写像の定義)。
$f$ が線型写像であることの確認
- また、$f : V \to K^{n}$ が線型写像であることも明らかといえます。
- このことも、上記の 証明において省略していますが、次のように確かめられます。
- すなわち、 線型写像の定義にしたがって、$f$ が和とスカラー倍の演算をそれぞれ保存することを確かめます。
$f$ が和の演算を保存することの確認
- $2$ つのベクトル $\bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ を $\bm{v} = c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n}, \; \bm{v}^{\prime} = c^{\prime}_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \bm{v}_{n}$ とすると、$\bm{v}$ と $\bm{v}^{\prime}$ の和について次が成り立ちます。すなわち、$f$ はベクトルの和の演算を保存するといえます。$$ \begin{split} f( \bm{v} + \bm{v}^{\prime} ) &= f \Big( \, (c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n}) + (c^{\prime}_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \bm{v}_{n}) \, \Big) \\ &= f \Big( \, (c_{1} + c^{\prime}_{1}) \, \bm{v}_{1} + \cdots + (c_{n} + c^{\prime}_{n}) \, \bm{v}_{n} \, \Big) \\ &= (c_{1} + c^{\prime}_{1}) \, \bm{e}_{1} + \cdots + (c_{n} + c^{\prime}_{n}) \, \bm{e}_{n} \\ &= (c_{1} \bm{e}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{e}_{n}) + (c^{\prime}_{1} \bm{e}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \bm{e}_{n}) \\ &= f( \bm{v} ) + f( \bm{v}^{\prime} ) \end{split} $$
$f$ がスカラー倍の演算を保存することの確認
ベクトル $\bm{v} \in V$ とスカラー $\alpha \in K$ について、$\bm{v} = c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n}$ とすると、$\bm{v}$ の $\alpha$ 倍について次が成り立ちます。すなわち、$f$ はスカラー倍の演算を保存するといえます。
$$ \begin{split} f( \alpha \bm{v} ) &= f \Big( \, \alpha \, (c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n}) \, \Big) \\ &= f \Big( \, (\alpha c_{1}) \, \bm{v}_{1} + \cdots + (\alpha c_{n}) \, \bm{v}_{n} \, \Big) \\ &= (\alpha c_{1}) \, \bm{e}_{1} + \cdots + (\alpha c_{n}) \, \bm{e}_{n} \\ &= \alpha \, (c_{1} \bm{e}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{e}_{n}) \\ &= \alpha \, f( \bm{v} ) \end{split} $$以上から、$f$ が 線型独立であることが確かめられました。
$f$ が全単射であることの証明
- 線型写像 $f$ が 全単射であることを確かめます。ここが証明の主要な部分です。
$f$ が全射であることの証明
- $\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}$ は $K^{n}$ の基底であるので、任意の $\bm{x} \in K^{n}$ は $\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}$ の線型結合として $\bm{x} = c_{1} \bm{e}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{e}_{n}$ と表すことができます。すなわち ($\ast$)式の右辺は $K^{n}$ 全体をわたるといえます。
- この任意の $\bm{x} \in K^{n}$ に対して、 ($\ast$)式により $c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n} \in V$ が存在します
- したがって、$f$ は全射であるといえます( 全射の定義)。
$f$ が単射であることの証明
同様に、任意の $\bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ を、それぞれ $\bm{v} = c_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{v}_{n}, \; \bm{v}^{\prime} = c^{\prime}_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \bm{v}_{n}$ とすると、 ($\ast$)式より、次が成り立ちます。
$$ \begin{split} f(\bm{v}) = f(\bm{v}^{\prime}) \; &\Rightarrow \; c_{1} \bm{e}_{1} + \cdots + c_{n} \bm{e}_{n} = c^{\prime}_{1} \bm{e}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{n} \bm{e}_{n} \\ &\Rightarrow \; (c_{1} - c^{\prime}_{1}) \, \bm{e}_{1} + \cdots + (c_{n} - c^{\prime}_{n}) \, \bm{e}_{n} = \bm{0} \\ &\Rightarrow \; c_{1} = c^{\prime}_{1}, \, \cdots, \, c_{n} = c^{\prime}_{n} \\ &\Rightarrow \; \bm{v} = \bm{v}^{\prime} \\ \end{split} $$したがって、$f$ は単射であるといえます( 単射の定義)。
証明のまとめ
- 以上から、$f$ は線型写像かつ全単射、すなわち同型写像であることが確かめられました。
- $V$ から $K^{n}$ への同型写像 $f : V \to K^{n}$ が存在するので、$V$ と $K^{n}$ は同型であるといえます。
まとめ
- $V$ を $n$ 次元ベクトル空間とすれば、$V$ は $n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ に同型である。$$ \begin{equation*} \dim V = n \; \Rightarrow \; V \simeq K^{n} \end{equation*} $$
参考文献
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.