基底と次元の基本的性質(1)

ベクトル空間 $V$ に含まれる線型独立なベクトルの最大個数は、$V$ の次元に等しくなります。

これは、ベクトル空間の基底と次元に関する基本的な性質の $1$ つです。

線型独立なベクトルと次元


定理 4.30(線型独立なベクトルと次元)

$V$ をベクトル空間とする。$\dim V = n$ ならば、$V$ には $n$ 個の線型独立なベクトルが存在するが、$n$ 個より多くの線型独立なベクトルは存在しない。



解説

線型独立なベクトルの最大個数は次元に等しい

ベクトル空間 $V$ に含まれる線型独立なベクトルの最大個数は、$V$ の次元($\dim V$)に等しくなります。

したがって、$n$ 次元のベクトル空間に存在する線型独立なベクトルは高々 $n$ 個であり、$n$ 個以上のベクトルの組は必ず線型従属になるといえます。



証明

$\dim V = n$ であるから、$V$ には $n$ 個の元からなる基底が存在し、これを $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ とすれば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $n$ 個の線型独立なベクトルである。このとき、$n$ 個より多くの線型独立なベクトルが存在すると仮定する。すなわち、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m} \in V$ が線型独立であり、$m > n$ であると仮定する。いま、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底であることから、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m} \in \langle \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \rangle$ であり、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表せる。また、$m > n$ であることから、 定理 4.25(線型従属なベクトルの組)より、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m}$ は線型従属となる。よって、$n$ 個より多くの線型独立なベクトルは存在しない。$\quad \square$



証明の考え方

($1$)前半($n$ 個の線型独立なベクトルが存在すること)は、 基底次元の定義より明らかといえます。

($2$)後半($n$ 個より多くの線型独立なベクトルは存在しないこと)は、背理法により、 定理 4.25(線型従属なベクトルの組)を用いて証明します。

(1)定理の前半の証明

  • $\dim V = n$ であるので、 次元の定義より、$V$ には $n$ 個の元からなる基底が存在することになります。
  • $V$ の基底を $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ とすれば、 基底の定義より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立となります。
  • したがって、$V$ には $n$ 個の線型独立なベクトルが存在するといえます。

(2)定理の後半の証明

  • 先ず、背理法により、$V$ に $n$ 個より多くの線型独立なベクトルが存在すると仮定します。
  • すなわち、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m} \in V$ が線型独立であり、かつ $m > n$ であると仮定します。
    • ここで、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m}$ は $V$ の元であり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底であるので、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m} \in \langle \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \rangle$ であり、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表せるはずです( 基底の定義)。
  • 次に、 定理 4.25(線型従属なベクトルの組)を用いて矛盾を導きます。
  • 上記の考察から、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表せることがわかりました。
  • いま $m > n$ であるので、 定理 4.25(線型従属なベクトルの組)を適用すれば、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m}$ は線型従属であることになります。
    • 定理 4.25は「より個数の少ないベクトルの組($\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$)の線型結合として表せるベクトルの組($\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m}$)は線型従属である」という趣旨であり、これをそのまま用います。
    • 文字の出現順により、 定理 4.25と添え字の付き方が異なりますので混同しないよう注意します。
    • 元の 定理 4.25では、「$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m}$ の線型結合として表せるとき、$n \gt m$ ならば $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ は線型従属」としており、$\bm{v}$ に $m$、$\bm{w}$ に $n$ が対応しています。
  • これは、背理法の仮定($\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{m}$ が線型独立であること)に矛盾します。
  • 以上から、$V$ に $n$ 個より多くの線型独立なベクトルは存在しないことが示されました。

まとめ

  • $\dim V = n$ ならば、$V$ には $n$ 個の線型独立なベクトルが存在するが、$n$ 個より多くの線型独立なベクトルは存在しない。
  • つまり、$V$ に含まれる線型独立なベクトルの最大個数は、$V$ の次元($\dim V$)に等しい。

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.


初版:2023-03-04   |   改訂:2024-12-25