基底と次元の基本的性質(3)

ベクトル空間 $V$ の次元が明らかな場合に、ベクトルの組が $V$ の基底であるための条件を示します。すなわち、$\dim V = n$ であるとき、$n$ 個の線型独立なベクトルの組は $V$ の基底であり、$V$ を生成する $n$ 個のベクトルの組もまた $V$ の基底となります。

つまり、$V$ の次元が分かっている場合、$n$ 個のベクトルが基底であるためには、 定義の条件のいずれかを満たせばよいということです。

基底の条件(次元が明らかな場合)


定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)

$V$ をベクトル空間とする。$\dim V = n$ ならば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in V$ に関する次の $3$ つの条件は同値である。

($1$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底である。
($2$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立である。
($3$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成する。


解説

基底であるための条件

定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)は、ベクトル空間 $V$ の次元がわかっている場合、すなわち $\dim V = n$ という条件の下で、あるベクトルの組が $V$ の基底であるための条件(必要十分条件)を示すものです。

一般の場合

基底の定義より、一般に、ベクトルの組 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in V$ が($1$)「$V$ の基底である」ためには、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が($2$)「線型独立であり」かつ($3$)「$V$ を生成する」という $2$ つの条件を満たしている必要があります。

すなわち、一般に($1$)$\Leftrightarrow$($2$)$\land$($3$)が成り立つといえます。

次元が明らかな場合

一方で、 定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)は、$V$ の次元が明らかな場合の基底の条件を示すものです。すなわち、$\dim V = n$ という条件の下で、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が($1$)「$V$ の基底である」ためには、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が($2$)「線型独立である」か($3$)「$V$ を生成する」かのいずれかを満たせばよいということです。

つまり、$n$ 次元ベクトル空間においては($1$)$\Leftrightarrow$($2$)$\Leftrightarrow$($3$)が成り立つということです。



証明

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底であれば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立であり $V$ を生成するので、($1$)$\Rightarrow$($2$)および($1$)$\Rightarrow$($3$)が成り立つ。

逆に、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型独立であるとして、これが $V$ の基底を成すことを示す。$\dim V = n$ であるから、 定理 4.30(線型独立なベクトルと次元)より、$n$ 個より多くの線型独立なベクトルは $V$ に存在しない。すなわち、$\bm{v}$ を任意の $V$ の元とすれば $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}, \bm{v}$ は線型従属である。いま、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型独立であり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}, \bm{v}$ が線型従属であるから、 定理 4.21(線型独立なベクトルの線型結合)より $\bm{v}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せる。つまり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成する。したがって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底であり、($2$)$\Rightarrow$($1$)が成り立つ。

同様に、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ を生成するとして、これが $V$ の基底を成すことを示す。$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型従属であると仮定すると、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ のうち線型独立であるベクトルの最大個数を $r$ として、$r \lt n$ が成り立つ。このとき、$r \lt s \leqslant n$ を満たす任意の $s$ について $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{v}_{s}$ は線型従属となるから、 定理 4.21(線型独立なベクトルの線型結合)より、$\bm{s}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ の線型結合として一意に表せる。したがって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は $V$ を生成し、$V$ の基底をなす。このとき、$\dim V = r$ となるが、いま $r \lt n$ であるので、これは $\dim V = n$ に矛盾する。よって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立であり、$V$ の基底を成す。すなわち($3$)$\Rightarrow$($1$)が成り立つ。

以上から、($1$)$\Leftrightarrow$($2$)および($1$)$\Leftrightarrow$($3$)が成り立つ。$\quad \square$



証明の考え方

($1$)$\Leftrightarrow$($2$)および($1$)$\Leftrightarrow$($3$)を示せば、$3$ つの条件の同値性を示したことになります。

($1$)$\Rightarrow$($2$)と($1$)$\Rightarrow$($3$)は 基底の定義より明らかです。したがって、($1$)$\Leftarrow$($2$)と($1$)$\Leftarrow$($3$)のみ示せばよいです。いずれの証明においても、 定理 4.21(線型独立なベクトルの線型結合)を利用します。特に、($1$)$\Leftarrow$($3$)の証明は背理法によります。

($1$)$\Rightarrow$($2$)、($1$)$\Rightarrow$($3$)の証明

  • 基底の定義より明らかといえます。
  • すなわち、($1$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底である」ならば、($2$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立」であり、かつ($3$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成する」という $2$ つの条件が成り立ちます( 基底の定義)。

($1$)$\Leftarrow$($2$)の証明

  • ($2$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型独立である」ならば、($1$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底である」ことを導きます。
  • いま、$\dim V = n$ であるので、 定理 4.30(線型独立なベクトルと次元)より、$V$ に含まれる線型独立なベクトルの最大個数は $n$ 個であり、$n$ 個より多くの線型独立なベクトルは $V$ に存在しません。
  • すなわち、$\bm{v}$ を任意の $V$ の元とすれば、$n + 1$ 個のベクトルの組 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}, \bm{v}$ は線型従属となります。
  • 仮定より $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型独立であり、同時に $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}, \bm{v}$ が線型従属であることから、 定理 4.21(線型独立なベクトルの線型結合)より、$\bm{v}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せます。
  • $V$ の任意の元である $\bm{v}$ が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表せるということは、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ を生成するということを意味します。
    • この証明において、一意性は示す必要はありません。
  • 以上から、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立であり $V$ を生成するので、 $V$ の基底となります。

($1$)$\Leftarrow$($3$)の証明

  • ($3$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ を生成する」ならば、($1$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底である」ことを導きます。
  • 次のように、背理法を用いて証明します。
背理法の仮定
  • まず、「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型従属である」と仮定します。
  • このとき、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ のうち線型独立なベクトルの最大個数を $r$ とすると、$r \lt n$ が成り立ちます。
    • 厳密にいえば、 定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)は $n \geqslant 1$ であることを前提としているので、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は、少なくとも $1$ つの線型独立なベクトルを含むといえます。
    • 仮に、$\bm{v}_{2}, \cdots, \bm{v}_{n}$ がすべて $\bm{v}_{1}$ のスカラー倍として表せるとしても、$\bm{v}_{1}$ のみは線型独立となります( $1$ つのベクトルの線型独立性を参照)。
      • 零ベクトルでない $1$ つのベクトル $\bm{v}_{1} \neq \bm{0}$ は、 定義より、線型独立です。
      • また、いま $n \geqslant 1$ であることから、$\bm{v}_{1} = \bm{0}$、すなわち $V = \{ \bm{0} \}$ となる場合は除外されます。
    • したがって、「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型従属である」と仮定しても、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ のうち、$1 \leqslant r \lt n$ を満たすような $r$ 個の線型独立なベクトルが存在するといえます。
矛盾の導出
  • 背理法の仮定より、$r \lt s \leqslant n$ を満たす任意の $s$ について $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{v}_{s}$ は線型従属となります。

  • 仮定より $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型独立であり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{v}_{s}$ は線型従属であるので、 定理 4.21(線型独立なベクトルの線型結合)より、$\bm{s}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ の線型結合として一意に表せることがわかります。

    • 具体的には、$\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ の線型結合として表せるということと理解できます。
    • つまり、$n$ 個のベクトル $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ のうち、$r$ 個のベクトル $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ により、残りの $(n - r)$ 個のベクトル $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が表せるということです。
      $$ \begin{gather*} \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \, \fbox{$\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n} \vphantom{V_{V}}$} \end{gather*} $$
  • よって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は $V$ を生成します。

    • 仮定より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成します。すなわち、任意の $V$ の元は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表せます。
    • 上記の考察から、いま、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ のうち $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ の線型結合として表せます。
    • したがって、任意の $V$ の元は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ の線型結合として表せるということになります。
  • このとき、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型独立であり $V$ を生成するので、 $V$ の基底となります。また、$V$ は $r$ 個のベクトルからなる基底を持つので $\dim V = r$ となりますが、いま $r \lt n$ であるので、これは $\dim V = n$ であることに矛盾します。

  • したがって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立であるといえます(背理法)。

  • 以上から、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立であり $V$ を生成するので、$V$ の基底となります。

証明のまとめ

  • 以上から、($1$)$\Leftrightarrow$($2$)および($1$)$\Leftrightarrow$($3$)が成り立つことが示されました。

まとめ

  • $V$ をベクトル空間とする。$\dim V = n$ ならば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in V$ に関する次の $3$ つの条件は同値である。
    ($1$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底である。
    ($2$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立である。
    ($3$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ を生成する。

参考文献

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初版:2023-03-06   |   改訂:2025-12-29