基底と次元の基本的性質(4)
線型独立なベクトルにいくつかのベクトルを加えることで、ベクトル空間の基底を作ることができます。
これは、$V = \{ \bm{0} \}$ の場合を除いて、有限次元ベクトル空間 $V$ が有限個のベクトルからなる基底を持つことを示す重要な定理です。
線型独立なベクトルと基底
定理 4.33(線型独立なベクトルと基底)
$V$ を $n$ 次元ベクトル空間とする。$r \lt n$ として、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r} \in V$ が線型独立であれば、適当な $n - r$ 個のベクトル $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in V$ を選んで、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底となるようにすることができる。
解説
線型独立なベクトルから基底を作る方法
定理 4.33(線型独立なベクトルと基底)は、線型独立なベクトルに適切なベクトルを加えることで基底を作れることを示しています。どのような(線型独立な)ベクトルの組から始めたとしても、 定理 4.33により、必ず、与えられたベクトル空間の基底が得られます。
ただし、ベクトル空間に対して 基底のとり方は一通りではないので、どのようなベクトルの組から始めたかにより、 定理 4.33により得られる基底も当然異なります。
一方で、ベクトル空間の基底の個数は一意に定まります( 定理 4.29(次元の一意性))。したがって、$n$ 次元ベクトル空間において、$r$ 個の線型独立なベクトルが与えられた場合、追加する必要のあるベクトルの数は $n - r$ 個であり、最終的に、$r + (n - r) = n$ 個の基底をなすベクトルが得られることになります。
有限次元ベクトル空間の基底
次元の定義で述べたように、いま、我々は有限次元のベクトル空間について考えています(無限次元ベクトル空間については考慮外に置いています)。
そうすると、 定理 4.33(線型独立なベクトルと基底)は、「$V = \{ \bm{0} \}$ の場合を除いて、有限次元ベクトル空間 $V$ は有限個のベクトルからなる基底を持つ」ことを表していると捉えられます。
$V \neq \{ \bm{0} \}$ の場合、すなわち、$V$ に零ベクトルでない元が少なくとも $1$ つ存在する場合、その元を出発点として $V$ の基底を作ることができるからです。
ベクトル空間が零ベクトルのみからなる場合
上記の考察において、なぜ $V = \{ \bm{0} \}$ の場合を除く必要があるか考えます。
いま、 定理 4.3(ベクトルの演算)より、$\bm{v} \neq \bm{0}$ ならば $c \, \bm{v} = \bm{0} \Rightarrow c = 0$ が成り立ちます。したがって、零ベクトルでない $1$ つのベクトルは線型独立であるといえます。これに対して、$\bm{v} = \bm{0}$ とすると、$c \, \bm{v} = \bm{0}$ は任意の $c$ について成り立ちます。したがって、零ベクトル $\bm{0}$(すなわち、零ベクトル $\bm{0}$ のみからなるベクトルの組)は線型独立ではないといえます。
このような理由から、零ベクトルのみからなるベクトル空間 $V = \{ \bm{0} \}$ は(普通に定義された)基底を持ちません( 次元の定義)。よって、「有限次元ベクトル空間 $V$ が有限個のベクトルからなる基底を持つ」というとき、$V = \{ \bm{0} \}$ の場合を例外として除く必要があるというわけです。
ただし、 次元の定義に述べた通り、$V = \{ \bm{0} \}$ は空集合 $\phi$ を基底にもつと定義すれば、便宜的にこの例外を外し、すべての有限次元ベクトル空間は有限個のベクトルからなる基底を持つということができます。
証明
$V$ は $n$ 次元ベクトル空間なので、$V$ の基底をなす $n$ 個のベクトルが存在し、これを $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ とする。$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ のうち $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ の線型結合として表されないものを $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ に加えて、線型独立なベクトルの組 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ を作る。すなわち、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ に対して、$\bm{w}_{1}$ を加えた $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{w}_{1}$ が線型独立であれば $\bm{v}_{r + 1} = \bm{w}_{1}$ とする、という操作を $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ について繰り返せば、高々 $n$ 回の操作で $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が得られる。いま、$V$ は $n$ 次元ベクトル空間であり、$V$ の線型独立なベクトルの最大個数は $n$ 個であるので、$s \leqslant n$ である。また、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ の線型結合として表せ、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ は線型独立であるので、 定理 4.25(線型従属なベクトルの組)より、$n \leqslant s$ である。よって、$s = n$ が成り立つ。したがって、 定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底である。$\quad \square$
証明の考え方
$V$ の基底 $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ のうち、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ の線型結合として表されないものを $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ に加えて($1$)$s$ 個のベクトルの組 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ を作り、これが($2$)基底の条件を満たすことを確かめます。
- 定理の仮定より、$V$ の次元が明らかになっているため、 定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)を用いることができます。
- 特に、$s = n$ であることは、 定理 4.30(線型独立なベクトルと次元)と 定理 4.25(線型従属なベクトルの組)を用いて示します。
(1)線型独立なベクトルの組を作る
- $V$ は $n$ 次元ベクトル空間なので、$V$ の基底をなす $n$ 個のベクトルが存在するはずであり、これを $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ とします。
- いま、与えられた $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ と基底 $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ の間には、何の関係性も仮定していません。
- $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ のうち、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ の線型結合として表されないものを $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ に加えて、線型独立なベクトルの組 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ を作ります。
- これは、ベクトルの組 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ に対して、既に基底である $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ のうち適当なベクトルを加えていき、新たな基底を得ようとする操作です。
- 具体的には、次のような操作を行います。
- $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ に $\bm{w}_{1}$ を加えた、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{w}_{1}$ が線型独立であるかどうか調べます。
- $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{w}_{1}$ が線型独立であれば、$\bm{v}_{r + 1} = \bm{w}_{1}$ として $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ の最後尾に $\bm{v}_{r + 1}$ を付け加えます。
- これにより、新たに $r +1$ 個のベクトルの組 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{v}_{r + 1}$ を得ます。
- $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{w}_{1}$ が線型従属であれば、何もせず次の操作($\bm{w}_{2}$ の判定)に移ります。
- このとき、 定理 4.21(線型独立なベクトルの線型結合)より、$\bm{w}_{1}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ の線型結合として表されます。
- これを $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ について繰り返します。
- すなわち、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ に $\bm{w}_{1}$ を加えた $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{w}_{1}$ が線型独立であるかどうか調べ、線型独立であれば $\bm{v}_{r + 1} = \bm{w}_{1}$ として最後尾に付け加える $\cdots$、という操作を $\bm{w}_{n}$ まで($n$ 回)繰り返します。
- 添え字の運用に注意が必要です。つまり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{w}_{1}$ が線型従属であった場合、ベクトルの組は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ のまま次の文字に移ります。このとき、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ に $\bm{w}_{2}$ を加えた $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, \bm{w}_{2}$ が線型独立であるかどうか調べ、線型独立であれば $\bm{v}_{r + 1} = \bm{w}_{2}$ として最後尾に付け加える、ということになります。
- これにより、$s$ 個のベクトルの組 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が得られます。
(2)基底の条件を満たすことの証明
- $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が $V$ の基底であることを示します。
- いま、定理の仮定より $V$ の次元が明らかになっているため、 定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)を用います。
- すなわち、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立な $n$ 個のベクトルであることを示せばよいということです。
(2-1)線型独立性の確認
- $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立であることは、その作り方 ($1$)から明らかといえます。
- 仮定より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型独立であり、これに対して、線型独立となるベクトルを加えたものが $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ であるためです。
(2-2)$s=n$ の証明
- 定理 4.30(線型独立なベクトルと次元)より、$V$ の線型独立なベクトルの最大個数は $n$ 個であり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型独立であるため、$s \leqslant n$ が成り立ちます。
- また、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ の線型結合として表せ、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ は線型独立であるので、
定理 4.25(線型従属なベクトルの組)の対偶より、$n \leqslant s$ となります。
- ($1$)の操作より、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ の各ベクトルは、最終的に得られるベクトルの組 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ に直接含まれるか、その線型結合として表されるかの何れかです。
- したがって、$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ の線型結合として表せることになります。
- したがって、($s \leqslant n$ かつ $n \leqslant s$ より)$s = n$ が成り立つことが確かめられました。
証明のまとめ
- 以上から、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型独立な $n$ 個のベクトルであることが示されました。
- いま、$V$ の次元は $n$ である($\dim V = n$)ので、 定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)より、線型独立な $n$ 個のベクトルは $V$ の基底となります。
- したがって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底であることが示されました。
まとめ
- $V$ を $n$ 次元ベクトル空間とする。$r \lt n$ として、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r} \in V$ が線型独立であれば、適当な $n - r$ 個のベクトル $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n} \in V$ を選んで、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r},$ $\bm{v}_{r + 1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ の基底となるようにすることができる。
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