基底と次元の基本的性質(5)

ベクトル空間を生成するベクトル(生成元)から適当なベクトルを選ぶことで、そのベクトル空間の基底を作ることができます。

これは、 前項定理 4.33(線型独立なベクトルと基底)と併せて、$V = \{ \bm{0} \}$ の場合を除いて、有限次元ベクトル空間 $V$ が有限個のベクトルからなる基底を持つことを示す重要な定理です。

生成元と基底


定理 4.34(生成元と基底)

$V$ をベクトル空間として、$V \neq \{ \bm{0} \}$ とする。$V$ が有限個の元 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ により生成されるならば $V$ は基底を持つ。また、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ から適当なベクトルを選んで $V$ の基底を作ることができ、$\dim V \leqslant s$ となる。



解説

生成元から基底が作れる( 定理 4.34の意味)

定理 4.34(生成元と基底)は、ベクトル空間 $V$ を生成するベクトル(生成元)から、$V$ の基底を成すベクトルを選ぶことができることを意味しています。

これは、 前項定理 4.33(線型独立なベクトルと基底)と対を成す定理といえます。

すなわち、 定理 4.33が「 $V$ の線型独立な元の集合に適当な元を加えることで $V$ の基底を作れる」ことを示しているのに対して、 定理 4.34は「 $V$ を生成する元の集合から適当な元のみを選んで(不要な元を除いて)$V$ の基底を作れる」ことを示しています。

有限次元ベクトル空間の基底

また、 定理 4.34(生成元と基底)は、$V = \{ \bm{0} \}$ の場合を除いて、有限次元ベクトル空間 $V$ は有限個のベクトルからなる基底を持つことを示しています。

定理 4.34(生成元と基底)より、有限個($s$ 個)のベクトルが生成されるベクトル空間 $V$ の基底は、$s$ 個以下のベクトルからなるといえるためです。

なお、 次元の定義で述べたように、いま、我々は有限次元のベクトル空間について考えています(無限次元ベクトル空間については考慮外に置いています)。

ベクトル空間が零ベクトルのみからなる場合

定理 4.34(生成元と基底)において、$V \neq \{ \bm{0} \}$ とする($V = \{ \bm{0} \}$ の場合を除く)理由について考えます。

いま、 定理 4.3(ベクトルの演算)より、$\bm{v} \neq \bm{0}$ ならば $c \, \bm{v} = \bm{0} \Rightarrow c = 0$ が成り立ちます。したがって、零ベクトルでない $1$ つのベクトルは線型独立であるといえます。これに対して、$\bm{v} = \bm{0}$ とすると、$c \, \bm{v} = \bm{0}$ は任意の $c$ について成り立ちます。したがって、零ベクトル $\bm{0}$(すなわち、零ベクトル $\bm{0}$ のみからなるベクトルの組)は線型独立ではないといえます。

このような理由から、零ベクトルのみからなるベクトル空間 $V = \{ \bm{0} \}$ は(普通に定義された)基底を持ちません( 次元の定義)。よって、「有限次元ベクトル空間 $V$ が有限個のベクトルからなる基底を持つ」というとき、$V = \{ \bm{0} \}$ の場合を例外として除く必要があるというわけです。

ただし、 次元の定義に述べた通り、$V = \{ \bm{0} \}$ は空集合 $\phi$ を基底にもつと定義すれば、便宜的にこの例外を外し、すべての有限次元ベクトル空間は有限個のベクトルからなる基底を持つということができます。



証明

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は $V$ を生成するから、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立であれば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は $V$ の基底であり、$\dim V = s$ となる。$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型従属であるとすると、$V \neq \{ \bm{0} \}$ より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ のうち少なくとも $1$ つは零ベクトルではないベクトルが存在するので、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ から線型独立なベクトルのみを選ぶことができる。いま、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ のうち線型独立なベクトルの最大個数を $n$ とすれば、$n \lt s$ であり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立である。このとき、$n \lt r \leqslant s$ を満たす任意の $r$ について $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}, \bm{v}_{r}$ は線型従属であるから、 定理 4.21(線型独立なベクトルの線型結合)より、$\bm{v}_{r}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せる。よって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線形独立であり $V$ を生成する。したがって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底であり、このとき $\dim V = n \lt s$ となる。$\quad \square$



証明の考え方

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立か否かで場合分けして考えます。

  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立であれば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は既に $V$ の基底となっています。
  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型従属であれば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ から線型独立なベクトル $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \; (n \lt s)$ を選ぶことができるはずであり、これが $V$ の基底となります。

($1$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立である場合

  • 仮定より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は $V$ を生成しますので、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は 基底の条件を満たします( 基底の定義)。
  • このとき、$V$ は $s$ 個のベクトルからなる基底を持つことになるので、$\dim V = s$ が成り立ちます( 次元の定義)。

($2$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型従属である場合

  • $V \neq \{ \bm{0} \}$ であるので、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ のうち少なくとも $1$ つは零ベクトルではない元が存在することになります。よって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ から線型独立なベクトルのみを選ぶことができます。

    • 定理 4.3(ベクトルの演算 2)より、$\bm{v} \neq \bm{0}$ ならば $c \, \bm{v} = \bm{0} \Rightarrow c = 0$ であるので、$1$ つのベクトル(つまり、$1$ つの元からなるベクトルの組)も線型独立であるといえます。
    • $V \neq \{ \bm{0} \}$ を仮定しているいま、$V$ には少なくとも $1$ つ以上の線型独立なベクトルが存在するといえます。
  • いま、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ のうち線型独立なベクトルの最大個数を $n$ とすれば、$n \lt s$ となります。

    • これは、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ の部分集合のうち、線型独立なベクトルのみを含む部分集合で最も多くのベクトルを含むものを $\{ \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \}$ と置いていることに等しいです。
    • 仮定より $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型従属であるため、$n \lt s$ が成り立ちます。仮に $n = s$ とすると、これは上記の ($1$)に他なりません。
    • したがって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ のうち $n$ 個のベクトル $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立であるが、$n$ 個より多くのベクトルは線型従属であるといえます。
  • $n \lt r \leqslant s$ を満たす任意の $r$ について、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}, \bm{v}_{r}$ は線型従属であることから、 定理 4.21(線型独立なベクトルの線型結合)より、$\bm{v}_{r}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せます。

    • すなわち、$V$ を生成する $s$ 個のベクトル $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ のうち、$n$ 個のベクトル $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ により、残りの $(s - n)$ 個のベクトル $\bm{v}_{n + 1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が表せるということです。
      $$ \begin{gather*} \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}, \, \fbox{$\bm{v}_{n + 1}, \cdots, \bm{v}_{s} \vphantom{V_{V}}$} \end{gather*} $$
  • したがって、$V$ の任意の元は、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表せるといえます。

  • 以上から、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立であり $V$ を生成するので、$V$ の基底を成すことが示されました。

  • また、このとき $\dim V = n \lt s$ が成り立ちます( 次元の定義)。

証明のまとめ

  • ($1$)および ($2$)から、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ から線型独立なベクトルを選んで $V$ の基底を作ることができることが示されました。
  • また、$\dim V = s$ または $\dim V \lt s$ が成り立つことから、$\dim V \leqslant s$ が示されました。

まとめ

  • $V$ をベクトル空間として $V \neq \{ \bm{0} \}$ とする。$V$ が有限個の元 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ により生成されるならば $V$ は基底を持つ。また、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ から選んで $V$ の基底を作ることができ、$\dim V \leqslant s$ となる。

参考文献

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初版:2023-03-10   |   改訂:2025-12-29