部分空間の直和(1)
部分空間の直和を定義し、部分空間の和(和空間)が直和であることと同値な条件を示します。
部分空間の直和は、ベクトル空間の次元だけでなく、計量ベクトル空間や行列の標準化などの考察においても重要な概念です。
直和の定義
まず、部分空間の直和の定義を示します。
定義 4.10(部分空間の直和)
$V$ をベクトル空間、$W_{1}, W_{2}$ を $V$ の部分空間とする。任意の $V$ の元が $W_{1}$ の元と $W_{2}$ の元の和として一意に表されるとき、$V$ は $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和($\text{direct sum}$)であるといい、次のように表す。
解説
直和であるための必要条件(和空間であること)
上記の定義より、ベクトル空間 $V$ が部分空間 $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和であるためには、$V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の 和空間であることが必要条件となります。
ここで、和空間と和集合を混同しないよう注意が必要です( 定理 4.7(共通部分と和空間)参照)。$V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の 和空間であるとき、任意の $\bm{v} \in V$ は $\bm{w}_{1} \in W_{1}$ と $\bm{w}_{2} \in W_{2}$ の和 $\bm{w}_{1} + \bm{w}_{2}$ として表されます。
そして、更に、この $\bm{v} = \bm{w}_{1} + \bm{w}_{2}$ という表し方が一意的であるとき、$V$ は $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和であるということになります。
部分空間の直和とは
したがって、部分空間の直和とは、部分空間の 和空間の特別な場合であるといえます。
上記では、和空間 $W_{1} + W_{2}$ の任意の元 $\bm{w}_{1} + \bm{w}_{2}$ の表し方が一意的であるとき、これを直和 $W_{1} \oplus W_{2}$ であると定義しています。この 定義と同値な条件はいくつかあります。以下に、和空間が 直和であることと同値な条件を示します。
直和であることと同値な条件
次に、 直和の定義と同値な条件を示します。
定理 4.38(部分空間の直和)
$V$ をベクトル空間、$W_{1}, W_{2}$ を $V$ の部分空間とする。$V = W_{1} + W_{2}$ であるとき、次の $3$ つの条件は同値である。
($2$)$W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$
($3$)$\dim \, (\, W_{1} + W_{2} \,) = \dim W_{1} + \dim W_{2}$
解説
直和の定義と同値な条件
定理 4.38(部分空間の直和)は、 直和の定義と同値な条件を示します。すなわち、 上記の条件($1$)$\sim$($3$)は、いずれも、部分空間の和(和空間)が直和であるための必要十分条件であるといえます。
(1)直和の定義そのもの
条件($1$)は、 上記に示した 直和の定義そのものです。すなわち、任意の $V$ の元が $W_{1}$ の元と $W_{2}$ の元の和として一意に表せるとき、$V$ は $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和であるといえます。
(2)部分空間が零ベクトルのみを共有する
条件($2$)は、部分空間が零ベクトルのみを共有することを表しています。すなわち、$V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の和空間であり、かつ、$W_{1}$ と $W_{2}$ が零ベクトルのみを共有する($W_{1}$ と $W_{2}$ の共通部分が零ベクトルのみである)とき、$V$ は $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和となります。
(3)和空間の次元が部分空間の次元の和に等しい
条件($3$)は、和空間の次元が部分空間の次元の和に等しいことを表しています。 すなわち、$V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の和空間であり、かつ、和空間の次元 $\dim \, (\, W_{1} + W_{2} \,)$ が、それぞれの部分空間の次元の和 $\dim W_{1} + \dim W_{2}$ に等しいとき、$V$ は $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和となります。
直和の定義(教科書による違い)
定理 4.38(部分空間の直和)が示す通り、 直和の定義と同値な条件は複数あります。したがって、 直和の定義の仕方も複数あるということになります。
直和の定義の仕方は教科書によって異なりますが、 上記のように「部分空間の元の和としての表し方が一意的であること」を条件としているものが多いです( [1], [3], [4], [6] など)。
一方で、 [2] のように、 定理 4.38の 条件($2$)にあたる 「 $V = W_{1} + W_{2}$ かつ $W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$ であること」を、$V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和であることの定義としているものもあります。
証明
定理 4.36(和空間の次元)より、部分空間 $W_{1}, W_{2}$ について、次が成り立つ。
また、 次元の定義より、$W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$ であることは $\dim \, (\, W_{1} \cap W_{2} \,) = 0$ であることと同値である。したがって、($2$)と($3$)は同値である。
いま、$V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和であるとして、$\bm{w} \in W_{1} \cap W_{2}$ となる $\bm{w}$ が存在すると仮定すると、$W_{1} \cap W_{2}$ は部分空間であるから $-\bm{w}$ も $W_{1} \cap W_{2}$ の元である。したがって、$\bm{0} \in V$ は $W_{1}$ の元と $W_{2}$ の元の和として、次のように $2$ 通りに表せる。
しかしながら、これは $V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和であるに矛盾する。よって、$V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和であれば、$W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$ である。
逆に、$W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$ であるとして、$\bm{v} \in V$ が、次のように $2$ 通りに表せると仮定する。
このとき、
となり、左辺は $W_{1}$ の元、右辺は $W_{2}$ の元であるから、$\bm{w}_{1} - \bm{w}^{\prime}_{1} = \bm{w}_{2} - \bm{w}^{\prime}_{2} \in W_{1} \cap W_{2}$ である。よって、$\bm{w}_{1} - \bm{w}^{\prime}_{1} = \bm{0}$ かつ $\bm{w}_{2} - \bm{w}^{\prime}_{2} = \bm{0}$ 、つまり、$\bm{w}_{1} = \bm{w}^{\prime}_{1}$ かつ $\bm{w}_{2} = \bm{w}^{\prime}_{2}$ が成り立つが、これは $\bm{v}$ が $2$ 通りに表せることに矛盾する。したがって、$W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$ であれば、$V$ は $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和である。以上から、($1$)と($2$)は同値である。$\quad \square$
証明の考え方
定理 4.36(和空間と共通部分の次元)より、($2$)$\Leftrightarrow$($3$)が示せます。これに加えて、($1$)$\Leftrightarrow$($2$)を示せば題意が満たされます。($1$)$\Rightarrow$($2$)および($1$)$\Leftarrow$($2$)は、それぞれ 直和の定義にしたがって、背理法により示すことができます。
($2$)$\Leftrightarrow$($3$)の証明
定理 4.36(和空間と共通部分の次元)より、部分空間 $W_{1}, W_{2}$ について、次が成り立ちます。
$$ \begin{gather*} \dim W_{1} + \dim W_{2} = \dim \, (\, W_{1} + W_{2} \,) + \dim \, (\, W_{1} \cap W_{2} \,) \end{gather*} $$また、 次元の定義より、$W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$ であることは $\dim \, (\, W_{1} \cap W_{2} \,) = 0$ であることと同値です。
$$ \begin{gather*} & W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \} \\ \Leftrightarrow & \; \dim \, (\, W_{1} \cap W_{2} \,) = 0 \end{gather*} $$したがって、 定理 4.36において、$W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$ とすると、($2$)$\Leftrightarrow$($3$)を直ちに導くことができます。
$$ \begin{gather*} & W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \} \\ \Leftrightarrow & \dim W_{1} + \dim W_{2} = \dim \, (\, W_{1} + W_{2} \,) \end{gather*} $$
($1$)$\Rightarrow$($2$)の証明
背理法により、$V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和であり、かつ、$\bm{w} \in W_{1} \cap W_{2}$ となる $\bm{w} \neq \bm{0}$ が存在すると仮定して、矛盾を導きます。
- 背理法の仮定は、「$V = W_{1} \oplus W_{2}$ かつ $W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$ でない」、です。
- ($1$)$\Rightarrow$($2$)を示すために、その否定である($1$)$\land$ $\, {}^{\lnot}$($2$)を仮定しているわけです。
いま、$W_{1} \cap W_{2}$ は部分空間であるから、$\bm{w}$ が $W_{1} \cap W_{2}$ の元であれば、$-\bm{w}$ も $W_{1} \cap W_{2}$ の元となります。
- これは、 ベクトル空間の公理より、任意のベクトルに対して逆ベクトルが存在することによります。
したがって、$\bm{0} \in V$ は $W_{1}$ の元と $W_{2}$ の元の和として、次のように $2$ 通りに表せることになります。
$$ \begin{alignat*} {3} V \ni \bm{0} &= \bm{0} + \bm{0} & (\, \bm{0} \in W_{1},& \; \bm{0} \in W_{2} \,) \\ &= \bm{w} + (-\bm{w}) & \quad (\, \bm{w} \in W_{1},& \; -\bm{w} \in W_{2} \,) \\ \end{alignat*} $$- $\bm{w}, -\bm{w} \in W_{1} \cap W_{2}$ ですので、$\bm{w} \in W_{1}, -\bm{w} \in W_{2}$ と考えて問題ないです。
- 矛盾を導く方法は、他にもいくつか考えられます。
- 例えば、同様に $\bm{w} \neq \bm{0} \in V$ があると仮定すると、$\bm{w} \in W_{1} \cap W_{2}$ であることから、これは次のように $2$ 通りに表せます。$$ \begin{alignat*} {3} V \ni \bm{w} &= \bm{w} + \bm{0} & (\, \bm{w} \in W_{1}, \; \bm{0} \in W_{2} \,) \\ &= \bm{0} + \bm{w} & \quad (\, \bm{0} \in W_{1}, \; \bm{w} \in W_{2} \,) \\ \end{alignat*} $$
しかしながら、これは、 定義より、$V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和であるに矛盾します。
したがって、($1$)$\Rightarrow$($2$)が成り立ちます。
($1$)$\Leftarrow$($2$)の証明
同様に、背理法により、$W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$ であり、かつ、$V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和でないと仮定して、矛盾を導きます。
- ($1$)$\Leftarrow$($2$)をしめすために、その否定である $\, {}^{\lnot}$($1$)$\land$($2$)を仮定しています。
- $V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和でないことを仮定していますが、定理の前提である $V$ が $W_{1}$ と $W_{2}$ 和空間であることは否定していません(要注意! 直和であるための必要条件を参照)。
- すなわち、$V$ は $W_{1}$ と $W_{2}$ 和空間であるが、直和ではないということになります。
- よって、任意の $V$ の元は $W_{1}$ の元と $W_{2}$ の元の和として表せるが、表し方は一意的でないということになります。
このとき、$\bm{v} \in V$ は、次のように $2$ 通りに表せるとします。
$$ \begin{gather*} & \begin{align*} \bm{v} &= \bm{w}_{1} + \bm{w}_{2} \\ &= \bm{w}^{\prime}_{1} + \bm{w}^{\prime}_{2} \\ \end{align*} \\ & (\, \bm{w}_{1}, \bm{w}^{\prime}_{1} \in W_{1}, \; \bm{w}_{2}, \bm{w}^{\prime}_{2} \in W_{2} \,) \end{gather*} $$- $\bm{v} \in V$ の表し方が一意的でないことを仮定していますので、$\bm{w}_{1} \neq \bm{w}^{\prime}_{1}$ かつ $\bm{w}_{2} \neq \bm{w}^{\prime}_{2}$ となります。
この等式は、次のように変形できます。
$$ \begin{alignat*}{3} && \bm{w}_{1} + \bm{w}_{2} &= \bm{w}^{\prime}_{1} + \bm{w}^{\prime}_{2} \\ & \Leftrightarrow & \quad \bm{w}_{1} - \bm{w}^{\prime}_{1} &= \bm{w}_{2} - \bm{w}^{\prime}_{2} \end{alignat*} $$- ここで、左辺は $W_{1}$ の元であり、右辺は $W_{2}$ の元であるので、$\bm{w}_{1} - \bm{w}^{\prime}_{1} = \bm{w}_{2} - \bm{w}^{\prime}_{2} \in W_{1} \cap W_{2}$ となります。
- また、背理法の仮定より、$W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$ なので、$\bm{w}_{1} - \bm{w}^{\prime}_{1} = \bm{0}$ かつ $\bm{w}_{2} - \bm{w}^{\prime}_{2} = \bm{0}$ となります。
- したがって、$\bm{w}_{1} = \bm{w}^{\prime}_{1}$ かつ $\bm{w}_{2} = \bm{w}^{\prime}_{2}$ が成り立ちます。
しかしながら、$\bm{w}_{1} = \bm{w}^{\prime}_{1}$ かつ $\bm{w}_{2} = \bm{w}^{\prime}_{2}$ ということは $\bm{v} \in V$ が $W_{1}$ の元と $W_{2}$ の元の和として $2$ 通りに表せるという仮定に矛盾します。
したがって、($1$)$\Leftarrow$($2$)が成り立ちます。
証明のまとめ
- 以上の考察から、($1$)$\Leftrightarrow$($2$)かつ($2$)$\Leftrightarrow$($3$)であり、$3$ つの条件は同値であることが示されました。
まとめ
$V$ をベクトル空間、$W_{1}, W_{2}$ を $V$ の部分空間とする。任意の $V$ の元が $W_{1}$ の元と $W_{2}$ の元の和として一意に表されるとき、$V$ は $W_{1}$ と $W_{2}$ の直和であるといい、これを次のように表す。
$$ \begin{equation*} V = W_{1} \oplus W_{2} \end{equation*} $$$V$ をベクトル空間、$W_{1}, W_{2}$ を $V$ の部分空間とする。$V = W_{1} + W_{2}$ であるとき、次の $3$ つの条件は同値である。
($1$)$V = W_{1} \oplus W_{2}$
($2$)$W_{1} \cap W_{2} = \{ \bm{0} \}$
($3$)$\dim \, (\, W_{1} + W_{2} \,) = \dim W_{1} + \dim W_{2}$
参考文献
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
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[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
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[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.