相似な行列の間の関係
同じ線形変換を表現する行列は、正則行列により互いに変換可能です。このような行列は、互いに相似()な行列と呼ばれます。
線型写像の場合と同様に、線型変換 の行列表示はベクトル空間 の基底のとり方に依存します。ここでは、基底の変更により線型変換 の表現行列がどのように変更されるかを示します。 相似な行列に関する考察は、行列の対角化において非常に重要な役割を果たします。
線型変換の行列表示と基底の変更
定理 4.56(相似な行列)
をベクトル空間、 を線型変換とする。 の基底 に関する の表現行列を として、 の基底 に関する の表現行列を とする。また、 から への基底変換行列を とする。このとき、次が成り立つ。
解説
相似な行列の間の関係
同じ線型変換を表現する異なる行列
定理 4.56(相似な行列)は、同じ線型変換を表現する行列の間の関係を示しています。
すなわち、基底 に関する の表現行列 と、基底 に関する の表現行列 との間には、基底変換行列 により結ばれる(4.6.13)式で表される関係が成り立ちます。
基底変換行列 が正則であることから、同様に が成り立つことも簡単に確かめられます。つまり、 の表現行列 と は互いに置き換え可能であるといえます。
相似な行列の定義と同値関係
上記の(4.6.13)式を満たすような行列 を、互いに相似()な行列といいます。また、 は に相似である等と表すこともあります。(このとき、もちろん は に相似であるともいえます。)
行列の間の “相似” という関係は、明らかに における同値関係となります。すなわち、対等な行列の間には、反射律、対称律、推移律が成り立つということです(定理 4.15(ベクトル空間の同型)を参照)。このような意味で、相似な行列は のように表されることもあります。
線形写像の場合(対等な行列)との違い
線型変換は線形写像の特別な場合
線型変換は線形写像の特別な場合であるといえます。したがって、ここまでの考察は、定理 4.52(対等な行列)において一般の線型写像について考えたこととほとんど同じです。
線型変換の場合、表現行列が正方行列になること(定義域と値域がともに同じベクトル空間であり、それぞれの次元が等しいため)、基底の変更により成り立つ同値関係を表す用語が異なること(一般の線型写像の場合「対等()」といい、線型変換の場合「相似()」という)、といった軽微な違いしかないように思われます。
しかしながら、基底変更における制約、および応用対象については、重要な違いがあります。
基底変更における制約
線型変換の行列表現において、最も重要で一般の線型写像と異なる点は、基底の変更による相似な行列の関係式(すなわち(4.6.13)式)が つの基底変換行列により表されるという点です。
一般の線型写像 の場合、定義域 と値域 でそれぞれ独立に基底を選べます。したがって、対等な行列を示す関係式 は、 つの基底変換行列 を用いて表されます。
これに対して、線型変換 の行列表現においては、定義域としての と値域としての で同じ基底を選ぶ(定理 4.54(線型変換の行列表示))こととしています。したがって、相似な行列を示す関係式 は、 つの基底変換行列 のみを用いて表されます。
つまり、対等な行列を示す関係式 に対して、相似な行列を示す関係式 は変数が つ少ないものとなります。(線型変換の場合、 という条件式が追加されているとも捉えられます。)
応用対象の違い
一般の線型写像の場合、表現行列は任意の 型行列となります。したがって、定理 4.52(対等な行列)の関係式は、具体的に与えられた行列の基本変形や標準化において利用されます。これらは、主に連立一次方程式の解法において重要となります。
これに対して、線型変換の場合、表現行列は必ず正方行列となります。したがって、定理 4.56(相似な行列)の関係式は、具体的に与えられた正方行列の対角化において利用されます。これは、主に固有値と固有ベクトルの領域において重要となります。
基底変更の制約の影響
一般の線型写像の場合、 と でそれぞれ独立に基底を選べるため、表現行列の標準形は必ず得られます。
これに対して、線型変換の場合、 という条件の下、標準化の問題を解かなければなりません。そのため、すべての(線型変換に対応する)正方行列が対角化可能であるとは限りません。
このような理由から、どのような正方行列が対角化可能であるかという問題が引き起こされるというわけです。
証明
定理の仮定から、 の表現行列 と基底変換行列 について、次が成り立つ。
は線型写像であるから、()と()より、次が成り立つ。
また、()と()より、次が成り立つ。
したがって、
いま、 は線型独立であるから、 が成り立つ。更に、 は正則であるから、次が成り立つ。
証明の考え方
線型変換の行列表示に関する関係式(定理 4.54(線型変換の行列表示))と基底変換行列に関する関係式(定理 4.49(基底の変換))を用いて、
一般の線型写像の行列表示の場合(定理 4.52(対等な行列))と考え方は同じです。
(1)前提事項の整理
定理の前提にしたがって、
の表現行列f f と基底変換行列A , B A, B に関する関係式を整理します。P P 定理 4.52(対等な行列)より、線型変換
の表現行列f f について、次の関係式が成り立ちます。A , B A, B ( f ( v 1 ) , ⋯ , f ( v n ) ) = ( v 1 , ⋯ , v n ) A ( f ( v 1 ′ ) , ⋯ , f ( v n ′ ) ) = ( v 1 ′ , ⋯ , v n ′ ) B \begin{align*} (\, f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n}) \,) &= (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,) \, A \tag{\text{i}} \\ (\, f(\bm{v}^{\prime}_{1}), \cdots, f(\bm{v}^{\prime}_{n}) \,) &= (\, \bm{v}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{v}^{\prime}_{n} \,) \, B \tag{\text{ii}} \\ \end{align*} また、定理 4.49(基底の変換)より、基底変換行列
について、次の関係式が成り立ちます。P P ( v 1 ′ , ⋯ , v n ′ ) = ( v 1 , ⋯ , v n ) P \begin{align*} (\, \bm{v}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{v}^{\prime}_{n} \,) &= (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,) \, P \tag{\text{iii}} \\ \end{align*} - (
)iii \text{iii} とv 1 , ⋯ , v n \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} はともにv 1 ′ , ⋯ , v n ′ \bm{v}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{v}^{\prime}_{n} の基底であることから定理 4.48(基底の間の関係)によりV V は正則であり、逆行列P P を持ちます。P − 1 P^{-1}
- (
(2)相似な行列の関係式の導出
関係式(
)i \text{i} (∼ \sim )を組み合わせてiii \text{iii} を導きます。P B = A P P B = A P - 証明すべきは
ですが、上記の考察より、B = P − 1 A P B = P^{-1} A P が正則であることがわかっていますので、関係式(P P )i \text{i} (∼ \sim )を上手く組み合わせてiii \text{iii} を得ることを考えます。P B = A P P B = A P
- 証明すべきは
まず、(
)と(i \text{i} )を組み合わせると、次が成り立ちます。iii \text{iii} ( f ( v 1 ′ ) , ⋯ , f ( v n ′ ) ) = ( α ) ( f ( v 1 ) , ⋯ , f ( v n ) ) P = ( β ) ( v 1 , ⋯ , v n ) A P \begin{split} (\, f(\bm{v}^{\prime}_{1}), \cdots, f(\bm{v}^{\prime}_{n}) \,) &\overset{(\alpha)}{=} (\, f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n}) \,) \, P \\ &\overset{(\beta)}{=} (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,) \, A P \\ \end{split} - (
)基底変換行列に関する(α \alpha )式に対して、定理 4.45(線型結合の行列表記)を適用することで得られます。すなわち、iii \text{iii} が線型写像であるとき、f f ( v 1 ′ , ⋯ , v n ′ ) (\, \bm{v}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{v}^{\prime}_{n} \,) = = ならば( v 1 , ⋯ , v n ) P (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,) \, P ( f ( v 1 ′ ) , ⋯ , f ( v n ′ ) ) (\, f(\bm{v}^{\prime}_{1}), \cdots, f(\bm{v}^{\prime}_{n}) \,) = = が成り立ちます。( f ( v 1 ) , ⋯ , f ( v n ) ) P (\, f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n}) \,) \, P - (
)上記で得られた(β \beta )に、α \alpha の表現行列に関する(f f )式を適用することで得られます。i \text{i}
- (
次に、(
)と(ii \text{ii} )を組み合わせると、次が成り立ちます。iii \text{iii} ( f ( v 1 ′ ) , ⋯ , f ( v n ′ ) ) = ( v 1 ′ , ⋯ , v n ′ ) B = ( v 1 , ⋯ , v n ) P B \begin{split} (\, f(\bm{v}^{\prime}_{1}), \cdots, f(\bm{v}^{\prime}_{n}) \,) &= (\, \bm{v}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{v}^{\prime}_{n} \,) \, B \\ &= (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,) \, P B \\ \end{split} - これは、
の表現行列に関する(f f )式と基底変換行列に関する(ii \text{ii} )式から、直ちに導くことができます。iii \text{iii}
- これは、
以上から、次の関係式が得られます。
( v 1 , ⋯ , v n ) A P = ( v 1 , ⋯ , v n ) P B \begin{gather*} (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,) \, A P = (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,) \, P B \end{gather*} いま、
はv 1 , ⋯ , v n \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} の基底であるから線型独立であり、定理 4.47(線型独立なベクトルの組V V )より、2 2 が成り立ちます。A P = P B A P = P B さらに、
が正則であることから、P P の両辺に左からA P = P B A P = P B を掛けることで、P − 1 P^{-1} が導かれます。B = P − 1 A P B = P^{-1} A P P B = A P ⇔ B = P − 1 A P \begin{alignat*} {3} && P B &= A P \\ & \Leftrightarrow \quad & B &= P^{-1} A P \tag*{ } \end{alignat*}□ \square 以上で題意が示されました。
- 同様の考え方により、
という関係式を導くこともできます。A = P B P − 1 A = P B P^{-1}
- 同様の考え方により、
可換図式による表現
相似な行列の可換図式
基底の変更により線型変換の表現行列が相似な行列に変わることを可換図式で表すと、次のようになります。

可換図式の構成と意味
上記の可換図式は、線型変換の行列表示の可換図式と基底変換行列の可換図式を組み合わせて構成されています(詳細は、定理 4.54(線型変換の行列表示)と可換図式による表現を参照)。特に、基底変換行列
ここで、
同様に、
上記の考察で述べたように、線型変換
可換図式の経路と線型変換の対応
このとき、
したがって、これらを用いて
となり、定理 4.56(相似な行列)の主張と整合することが確かめられます。
まとめ
線型変換
のf : V → V f : V \to V つの表現行列2 2 の間には次の関係式が成り立つ。A , B A, B B = P − 1 A P \begin{align*} B = P^{-1} A P \end{align*} :A A の基底V V に関するv 1 , ⋯ , v n \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} の表現行列。f f :B B の基底V V に関するv 1 ′ , ⋯ , v n ′ \bm{v}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{v}^{\prime}_{n} の表現行列。f f :P P からv 1 , ⋯ , v n \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} への基底変換行列。v 1 ′ , ⋯ , v n ′ \bm{v}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{v}^{\prime}_{n}
参考文献
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