斉次連立一次方程式の解(2)
斉次連立一次方程式が自明な解のみを持つための条件(必要十分条件)と、自明でない解を持つための条件(十分条件)を示します。
これらは、 前項の 定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)の系といえます。
自明な解のみを持つ条件
まず、斉次連立一次方程式が自明な解のみを持つための条件を示します。
系 5.3(斉次連立一次方程式が自明な解のみを持つ条件)
$A$ を $(m, n)$ 型行列とする。斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解のみを持つためには、$n = \text{rank} \, A$ であることが必要にして十分である。
解説
自明な解のみを持つための条件(必要十分条件)
系 5.3(斉次連立一次方程式が自明な解のみを持つ条件)は、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解のみを持つための必要十分条件を示しています。
斉次連立方程式の自明な解
前項などに示した通り、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ は必ず自明な解($\bm{x} = \bm{0}$)を持ちます。
したがって、 系 5.3は、斉次連立一次方程式がただ一つの解($\bm{x} = \bm{0}$)を持つための条件を示しているともいえます。
定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)の系
下記の 証明に示す通り、 系 5.3(斉次連立一次方程式が自明な解のみを持つ条件)は、 定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)から、直ちに導くことができます。
このような意味で、 系 5.3は、 定理 5.2の系であるといえます。
証明(系 5.3)
$A$ により定まる線型写像を $f_{A}$ とすると、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間は $\text{Ker} f_{A}$ と表すことができる。このとき、$A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解のみを持つことは $\text{Ker} f_{A} = \{\, \bm{0} \,\}$ であることと同値であり、すなわち、$\dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) = 0$ であることと同値である。また、 定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)より、$\dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) = n - \text{rank} \, A$ が成り立つ。したがって、$A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解のみを持つことは、$n = \text{rank} \, A$ であることと同値である。$\quad \square$
証明の考え方(系 5.3)
定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)を用いた同値変形により示すことができます。
前提事項の整理
- $A$ により定まる線型写像を $f_{A} : K^{n} \to K^{m}$ とします。
- このとき、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間は $\text{Ker} f_{A}$ と表すことができます( 定理 5.2の証明など参照)。
- また、$A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解($\bm{x} = \bm{0}$)のみを持つということは、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間が零ベクトル $\bm{0}$ のみからなるということに他なりません。
- このことは、次のように表すことができます。$$ \text{Ker} f_{A} = \{\, \bm{0} \,\} $$
定理 5.2による同値変形
定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)を用いて同値変形します。
$$ \begin{split} \text{Ker} f_{A} = \{\, \bm{0} \,\} \; &\overset{(\text{i})}{\iff} \dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) = 0 \\ &\overset{(\text{ii})}{\iff} n - \text{rank} \, A = 0 \\ &\overset{(\text{iii})}{\iff} n = \text{rank} \, A \\ \end{split} $$- ($\text{i}$) 定理 4.35(部分空間の次元)より成り立ちます。
- ($\text{ii}$) 定理 5.2より、解空間の次元は $n - \text{rank} \, A$ に等しく、$\dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) = n - \text{rank} \, A$ であることから、$n - \text{rank} \, A = 0$ が成り立ちます。
以上から、 $A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解のみを持つ($\text{Ker} f_{A} = \{\, \bm{0} \,\}$)ことと、$\text{rank} \, A = n$ であることが同値であることが示されました。
自明でない解を持つ条件
次に、斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件を示します。
系 5.4(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つ条件)
$A$ を $(m, n)$ 型行列とする。$n \gt m$ ならば、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ は自明でない解を持つ。
解説
自明でない解を持つための条件(十分条件)
系 5.4(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つ条件)は、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ が自明でない解を持つための十分条件を示しています。
系 5.3(斉次連立一次方程式が自明な解のみを持つ条件)の対偶ではない
斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ が自明でない解を持つということは、自明な解のみを持つことの否定のにあたります。
しかしながら、 系 5.4(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つ条件)は、 系 5.3(斉次連立一次方程式が自明な解のみを持つ条件)の対偶ではありません。
これは、 系 5.3が自明な解を持つための必要十分条件を示しているのに対して、 系 5.4は自明でない解を持つための十分条件のみを示すものであるためです。
系 5.3:
$A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解のみを持つ $\; \Leftrightarrow \;$ $n = \text{rank} \, A$
系 5.4:
$A \bm{x} = \bm{0}$ が自明でない解を持つ $\; \Leftarrow \;$ $n \gt m$
すなわち、 系 5.4の対偶は、次のようになります。
$A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解のみを持つ $\; \Rightarrow \;$ $n \leqslant m$
いま、 系 5.3と 系 5.4の対偶から、次の関係式を導くことができます。
ここで、行列 $A$ の階数が $A$ により定まる線形写像 $f_{A} : K^{n} \to K^{m}$ の像の次元であること( 階数の定義)、$f_{A}$ の像は $K^{m}$ の部分空間であること( 定理 4.11(線型写像の像と核))から、$\text{rank} \, A = \dim (\, \text{Im} f_{A} \,) \leqslant m$ であることは、明らかといえます。
したがって、上記の考察から導かれた「 $n = \text{rank} \, A \; \Rightarrow \; n \leqslant m$ 」も自明で、あまり意味のある命題とはいえません。つまり、 系 5.3と 系 5.4は、それぞれ別々に用いるものであり、合わせて考える意義はあまりないといえます。
定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)の系
下記の 証明に示す通り、 系 5.4(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つ条件)は、 定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)から、直ちに導くことができます。
このような意味で、 系 5.4は、 定理 5.2の系であるといえます。
定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)との関係
系 5.4(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つ条件)の主張は、基底と次元の準備において導入した、 定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)の主張と同じです。
これらの定理はともに、ベクトル空間の次元を定義する(次元の一意性を示す)上で極めて重要な役割を果たします。
系 5.4(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つ条件)を導入する意義
既に 定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)を示している場合、あらためて 系 5.4(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つ条件)を示す必要はありません。では、 系 5.4を導入する意義は何でしょうか。主に、次の $2$ つが考えられます。
ここでは、$2$ 点目について考えます。
次元と階数を定義するまでの論理展開
ベクトル空間の次元と行列の階数を定義するまでの論理展開の仕方(流れ)は、主に $2$ 通りあります。
($1$)次元を用いて階数を定義する
($2$)次元より先に階数を定義する
それぞれの場合において、 定理 4.23および 系 5.4がどのような役割を果たすか、簡単に流れをみてみます。
(1)次元を用いて階数を定義する場合
定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)は、 次元の定義の根拠となる 定理 4.29(次元の一意性)の証明に必要な定理でした。また、ある行列により定まる線型写像の像の次元として、行列の階数が定義できます( 階数の定義)。
つまり、この場合、 定理 4.23を用いて次元を定義し、次元の概念を用いて階数が定義されます。したがって、階数の概念を用いて( 定理 4.23と同じ) 系 5.4(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つ条件)を改めて導入する必要はありません。
比較的多くの教科書( [2], [3], [4], [6] など)において、このような流れで論理が展開されています。勿論、教科書により若干の違いがあります。本サイトの論理展開は、 [4] にもっとも近いです。
(2)次元より先に階数を定義する場合
一方で、次元の概念を用いずに階数を定義することもできます( 階数の定義を参照)。この場合、 行列の基本変形により得られる 標準形を用いて階数を定義するわけですが、その際、ベクトル空間やその次元といった概念は必要ありません。
このとき、 行列の標準形を用いて階数を定義し、階数の性質を用いて( 定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)と同じ) 系 5.4(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つ条件)を示すことができます。そして、 系 5.4を用いて次元の一意性を示し、これをもって次元を定義するという論理の展開が可能です。
例えば、 [1] では、概ねこのような流れで論理が展開されています。
証明(系 5.4)
行列 $A$ の階数は $A$ の行の数を超えないので、$\text{rank} \, A \leqslant m$ が成り立つ。いま $n \gt m$ なので、$\text{rank} \, A \leqslant m \lt n$ であり、$n - \text{rank} \, A \gt 0$ が成り立つ。したがって、 定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)より $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の次元は $0$ より大きく、$A \bm{x} = \bm{0}$ は自明でない解を持つ。$\quad \square$
証明の考え方(系 5.4)
階数の性質と 定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)を用いて示します。
階数の性質の利用($\text{rank} \, A \lt n$ の証明)
定理 4.57(行階数)より、ある行列の階数はその行列の行の数を超えません。
$$ \text{rank} \, A \leqslant m $$定理の仮定より $n \gt m$ であるので、次が成り立ちます。
$$ \begin{gather*} & \text{rank} \, A \leqslant m \lt n \\ \Rightarrow & \text{rank} \, A \lt n \end{gather*} $$
定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)の利用($A \bm{x} = \bm{0}$ が自明でない解を持つことの証明)
上の考察から、$n - \text{rank} \, A \gt 0$ が成り立つことがわかります。
$$ \begin{gather*} & \text{rank} \, A \lt n \\ \Leftrightarrow & n - \text{rank} \, A \gt 0 \end{gather*} $$定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)より $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の次元は $n - \text{rank} \, A$ に等しく、これが $0$ より大きいということなので、$A \bm{x} = \bm{0}$ は自明でない解を持つといえます。
$$ \dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) = n - \text{rank} \, A \gt 0 $$以上から、題意が示されました。
まとめ
- $A$ を $(m, n)$ 型行列とすると、
- 斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ が自明な解のみを持つための必要十分条件は、$\text{rank} \, A = n$ であること。
- $n \gt m$ ならば、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ は自明でない解を持つ。
参考文献
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.