基本的な性質(5)
相似な行列の トレースは等しくなります。
相似な行列とは、同じ線型変換を表現する行列に他なりません。したがって、相似な行列のトレースが等しいということは、トレースが(表現行列によらず)線型変換に対して一意に定まるということを意味しています。
相似な行列のトレース
定理 6.8(相似な行列のトレース)
$2$ つの正方行列 $A, B$ が相似であれば、それぞれの行列のトレースは等しい。
解説
相似な行列とは
相似な行列とは、同じ線型変換の、異なるの基底に関する表現行列です( 定理 4.56(相似な行列))。
すなわち、ある線型変換 $f : V \to V$ に対して、$V$ の基底 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ に関する表現行列を $A$ 、$V$ の別の基底 $\bm{v}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{v}^{\prime}_{n}$ に関する表現行列を $B$ とすると、行列 $A, B$ は互いに相似であるということになります。
このとき、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ から $\bm{v}^{\prime}_{1}, \cdots, \bm{v}^{\prime}_{n}$ への 基底変換行列を $P$ とすると、 定理 4.56(相似な行列)より、次が成り立ちます。
基底変換行列を用いた表し方
このように考えると、 定理 6.8(相似な行列のトレース)は、基底変換行列(正則行列)を用いて、次のように言い換えることができます。
すなわち、 定理 6.8より、「 $2$ つの正方行列 $A, B$ について、$B = P^{-1} A P$ を満たす正則行列 $P$ が存在するならば $\text{tr} A = \text{tr} B$ 」が成り立ちます。また、このとき (6.2.7)式は、次のようになります。
行列のトレースは線型変換に対して定まる
また、 定理 6.8(相似な行列のトレース)は、行列の トレースが(表現行列によらず)線型変換に対して一意に定まるものであることを意味しています。
すなわち、同じ線型写像の異なる表現行列は、同じトレースの値を持つということです。
証明
$A, B$ の固有多項式を、それぞれ $\phi_{A} (t),$ $\phi_{B} (t)$ とすると、 定理 6.6(相似な行列の固有多項式)より、相似な行列の固有多項式は等しいから、次が成り立つ。
したがって、固有多項式 $\phi_{A} (t)$ と $\phi_{B} (t)$ において、$t$ のすべての次数の係数は等しい。特に、 定理 6.7(固有多項式の係数)より、$(n-1)$ 次の係数について、次が成り立つ。
証明の考え方
($1$)相似な行列 $A, B$ の固有多項式が等しいことを導き($2$)固有多項式の係数が行列のトレースで表せることから、$\text{tr} A = \text{tr} B$ を示します。
それぞれ、 定理 6.6(相似な行列の固有多項式)と 定理 6.7(固有多項式の係数)により直ちに示すことができます。
(1)相似な行列の固有多項式が等しいことの導出
- まず、 定理 6.6(相似な行列の固有多項式)より、相似な行列の固有多項式が等しいことを用います。
- $A, B$ の固有多項式を、それぞれ $\phi_{A} (t),$ $\phi_{B} (t)$ とします。
- 相似な行列の固有多項式は等しいことから、次が成り立ちます(
定理 6.6)。$$ \begin{gather*} \phi_{A} (t) = \phi_{B} (t) \end{gather*} $$
(2)固有多項式の係数が行列のトレースで表せることの利用
次に、 定理 6.7(固有多項式の係数)を用いて $A$ と $B$ のトレースが等しいことを導きます。
固有多項式が等しいということは、固有多項式のすべての項(すべての次数の係数)がそれぞれ等しいということを意味しています。
- すなわち、$\phi_{A} (t),$ $\phi_{B} (t)$ を $n$ 次の多項式とすると、次が成り立ちます。$$ \begin{gather*} a_{i} = b_{i} \quad (\, 0 \leqslant i \leqslant n\,) \\ \\ \left[ \; \; \begin{align*} \phi_{A} (t) &= a_{n} \, t^{n} + a_{n-1} \, t^{n-1} + \cdots + a_{0} \, , \\ \phi_{B} (t) &= b_{n} \, t^{n} + b_{n-1} \, t^{n-1} + \cdots + b_{0} \end{align*} \; \; \right] \end{gather*} $$
- すなわち、$\phi_{A} (t),$ $\phi_{B} (t)$ を $n$ 次の多項式とすると、次が成り立ちます。
また、 定理 6.7(固有多項式の係数)より、$(n-1)$ 次の係数 $a_{n-1}, b_{n-1}$ は、それぞれ $A, B$ のトレースにより、次のように表されます。
$$ \begin{align*} a_{n-1} &= (-1)^{n-1} \, \text{tr} A \; , \\ b_{n-1} &= (-1)^{n-1} \, \text{tr} B \end{align*} $$したがって、特に $a_{n-1} = b_{n-1}$ より、次が成り立ちます。
$$ \begin{alignat*} {3} && (-1)^{n-1} \, \text{tr} A &= (-1)^{n-1} \, \text{tr} B \\ & \Leftrightarrow \quad & \text{tr} A &= \text{tr} B \end{alignat*} $$以上から、題意が示されました。
まとめ
$2$ つの正方行列 $A, B$ が相似であれば、それぞれの行列のトレースは等しい。
$$ \begin{equation*} \text{tr} A = \text{tr} B \end{equation*} $$すなわち、行列のトレースは(表現行列によらず)線型変換に対して一意に定まる。
参考文献
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