計量を保つ線型写像(2)
計量を保つ線型写像は単射となります。
これは、計量を保つ線型写像の基本的な性質であり、線型写像の性質と、計量を保つ(すなわち内積を保存する)線型写像の定義により証明することができます。
計量を保つ線型写像の基本的性質
定理 7.16(計量を保つ線型写像の単射性)
$V, W$ を計量ベクトル空間、$f : V \to W$ を線形写像とする。$f$ が計量を保つならば、$f$ は単射である。
解説
計量を保つ線型写像は単射
定理 7.16(計量を保つ線型写像の単射性)は、計量を保つ線型写像が単射であることを示しています。
線形写像が単射であるための十分条件
また、 定理 7.16(計量を保つ線型写像の単射性)より、計量を保つことは、線形写像 $f$ が単射であるための十分条件であるといえます。
ただし、線型写像 $f$ が計量を保つことは、$f$ が単射であるための十分条件ではありますが、必要条件ではありません。すなわち、 定理 7.16の逆(線形写像 $f$ が単射であるならば、$f$ は計量を保つ)は、必ずしも成り立つ訳ではありません。
線形写像が計量を保つことと同値な条件
前項に示した通り、線型写像 $f : V \to W$ が計量を保つということは、$f$ が内積の値(あるいは、ノルムの値)を保存するということに他なりません。
内積の値を保存する
線型写像 $f : V \to W$ が計量を保つということは、$f$ が内積の値を保存するということに他なりません。つまり、$f$ が計量を保つとき、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ について、次が成り立ちます( 計量を保つ線形写像の定義)。
ノルムの値を保存する
また、 定理 7.15(計量を保つ線型写像)より、$f$ が計量を保つことと $f$ が長さを保つ(ノルムの値を保存する)ことは同値です。
$f$ が長さを保つとき、任意の $\bm{x} \in V$ について、次が成り立ちます。
単射であるための条件
単射という概念は、あくまで線型写像に限らない一般の写像に対して定義されるものです。しかしながら、 定理 7.16(計量を保つ線型写像の単射性)では、与えられた写像が線形写像であることを前提として、これが単射であるための十分条件を示すものです。
ある写像が単射であるための条件としては、主に次のようなものがあり、一般の写像である場合と線形写像である場合で異なります。
- 一般の写像の場合
- 必要十分条件: 単射の定義
- 線型写像の場合
- 必要十分条件: 定理 4.12(線型写像と単射)
- 十分条件: 定理 7.16(計量を保つ線型写像の単射性)
一般の写像の場合
集合 $A$ から集合 $B$ への写像 $f : A \to B$ が単射であるということは、任意の $x, y \in A$ について、次が成り立つことに他なりません。
すなわち、$f$ により同じ像に移る $A$ の元が等しいことが、$f$ が単射であるための必要十分条件であるといえます。
また、上記 ($\star$)式の対偶をとると、次のようになります。すなわち、異なる $A$ の元が異なる像に移ることも、$f$ が単射であるための必要十分条件であるといえます。
線型写像の場合(必要十分条件)
一方で、写像 $f : V \to W$ が線形写像である場合、$f$ が単射であるためには、$\text{Ker} f = \{ \bm{0} \}$ であることが必要にして十分です( 定理 4.12(線型写像と単射))。
ここで、$\text{Ker} f = \{ \bm{0} \}$ であることは、$\bm{0} \in W$ に移されるベクトルが $\bm{0} \in V$ のみであるということを意味しています。
線型写像の場合(十分条件)
同様に、 定理 7.16(計量を保つ線型写像の単射性)は、写像 $f : V \to W$ が線形写像である場合に、$f$ が単射であるための十分条件を示すものです。
すなわち、$f$ が単射であるためには、$f$ が計量を保つことが十分であり、$f$ が計量を保つということは、$f$ が内積の値(あるいは、ノルムの値)を保存するということに他なりません。
証明
線形写像 $f$ が計量を保つならば、$f$ は長さを保つ。このとき、任意の $\bm{x} \in V$ について、$\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} \, \rVert$ が成り立つ。したがって、$f(\bm{x}) = \bm{0}$ とすると、
となり、$\bm{x} = \bm{0}$ となる。また、$f$ が線形写像であることから $f (\bm{0}) = \bm{0}$ となる。したがって、$\text{Ker} \, f = \{\, \bm{0} \,\}$ 。更に、$f$ が線型写像であることから、 定理 4.12(線型写像と単射)より、$f$ は単射である。$\quad \square$
証明の考え方
定理 7.15(計量を保つ線型写像)より、線型写像 $f$ が計量を保つことと、$f$ が長さを保つことが同値であることを利用します。また、$f$ が線型写像であることより、 定理 4.12(線型写像と単射)から、$f$ が単射であることと $\text{Ker} \, f = \{\, \bm{0} \,\}$ であることが同値であることを利用します。
$f$ の核が零ベクトルのみであることの証明
- 線型写像 $f$ が計量を保つことを仮定して、$f$ が単射であることと同値な条件、$\text{Ker} \, f = \{\, \bm{0} \,\}$ を導きます。
- いま、$f : V \to W$ は線型写像であるので、 定理 4.12(線型写像と単射)より、$f$ が単射であることを示すためには、$f$ に関して $\text{Ker} \, f = \{\, \bm{0} \,\}$ が成り立つことを示せばよいことがわかります。
- また、$\text{Ker} \, f = \{\, \bm{0} \,\}$ であることは、$\{\, \bm{0} \,\} \subset \text{Ker} \, f \, \land \, \{\, \bm{0} \,\} \subset \text{Ker} \, f$ が成り立つことを示せばよいです。
$\{\, \bm{0} \,\} \subset \text{Ker} \, f$ の証明
- このことは、線型写像の性質( 定理 4.9(零ベクトルの像))より明らかといえます。
- 線形写像は零ベクトルを零ベクトルに移します( 定理 4.9(零ベクトルの像))。よって、$\bm{0} \in V$ ならば $f(\bm{0}) = \bm{0}$ が成り立ちます。
- したがって、$\{\, \bm{0} \,\} \subset \text{Ker} \, f$ が成り立ちます。
$\text{Ker} \, f \subset \{\, \bm{0} \,\}$ の証明
定理 7.15(計量を保つ線型写像)より、線形写像 $f$ が計量を保つことと、$f$ が長さを保つことが同値であることを利用します。
すなわち、$f$ が計量を保つならば $f$ は長さを保つので、任意の $\bm{x} \in V$ について、次が成り立ちます。
$$ \begin{gather*} \lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} \, \rVert \end{gather*} $$したがって、任意の $\bm{x} \in V$ について $f(\bm{x}) = \bm{0}$ とすると、次が成り立ちます。
$$ \begin{align*} \lVert \, \bm{x} \, \rVert &\overset{(\text{i})}{=} \lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \lVert \, \bm{0} \, \rVert \\ &\overset{(\text{iii})}{=} 0 \\ \end{align*} $$
$\{\, \bm{0} \,\} = \text{Ker} \, f$ の証明
- 以上から、$\{\, \bm{0} \,\} \subset \text{Ker} \, f \land \text{Ker} \, f \subset \{\, \bm{0} \,\}$ が成り立つことが示されました。
- したがって、$\text{Ker} f = \{ \bm{0} \}$ が成り立ちます。
- これは、$\bm{0} \in W$ に移されるベクトルが $\bm{0} \in V$ のみであるということを意味しています。
$f$ が単射であることの証明
- 上記の考察から、$\text{Ker} \, f = \{\, \bm{0} \,\}$ が示されました。
- このとき、 定理 4.12(線型写像と単射)より、$f$ が計量を保つならば、$f$ は単射であることが示されました。
まとめ
- $V, W$ を計量ベクトル空間、$f : V \to W$ を線形写像とする。$f$ が計量を保つならば、$f$ は単射である。
参考文献
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