計量ベクトル空間と計量同型
次元の等しい計量ベクトル空間は、互いに 計量同型となります。つまり、次元の等しい計量ベクトル空間の間には、必ず 計量同型写像が存在します。
また、このことは、任意の $n$ 次元の計量ベクトル空間が、$n$ 次元数ベクトル空間に計量同型であることを意味しています。
計量同型なベクトル空間の次元
まず、次元の等しい計量ベクトル空間が、互いに 計量同型であることを示します。
定理 7.19(計量同型)
$V, W$ を次元の等しい計量ベクトル空間とすると、$V$ と $W$ は互いに計量同型である。
解説
次元の等しい計量ベクトル空間は計量同型
定理 7.19(計量同型)は、次元の等しい計量ベクトル空間が、互いに 計量同型であることを表しています。
$2$ つの計量ベクトル空間 $V$ と $W$ が計量同型であるということは、$V$ と $W$ の間に、次の($\text{i}$)$\sim$($\text{iii}$)を満たすような 計量同型写像 $f$ が存在するということに他なりません( 計量同型写像の定義)。
計量同型であるための必要十分条件(次元が等しいこと)
定理 7.19(計量同型)は、次元が等しいことが、計量同型であることの十分条件であることを示しています。すなわち、$2$ つの計量ベクトル空間 $V, W$ について、「 $\dim V = \dim W$ $\Rightarrow$ $V$ と $W$ が計量同型」が成り立ちます。
一方で、 計量同型写像の定義より、 定理 7.19(計量同型)の逆も成り立ち、「 $V$ と $W$ が計量同型 $\Rightarrow$ $\dim V = \dim W$」であるといえます。すなわち、次元が等しいことは、計量同型であるための必要条件でもあるということです。
したがって、$2$ つの計量ベクトル空間 $V, W$ の次元が等しいことは、$V$ と $W$ が計量同型であるための必要十分条件であるといえます。
定理 4.41(ベクトル空間が同型であることと同値な条件)の拡張
上記の考察の通り、 定理 7.19(計量同型)とその逆が成り立つということは、次元が等しいことが計量同型であるための必要十分条件であるということに他なりません。すなわち、$2$ つの計量ベクトル空間 $V, W$ について、「 $V$ と $W$ が計量同型 $\Leftrightarrow$ $\dim V = \dim W$ 」が成り立ちます。
このように考えると、 定理 7.19(計量同型)は(内積の定義されていない)通常のベクトル空間における 定理 4.41(ベクトル空間が同型であることと同値な条件)を拡張したものと捉えることができます。
つまり、 定理 4.41により、$2$ つの ベクトル空間 $V$ と $W$ の次元が等しいことは $V$ と $W$ が 同型 であることと同値です。同様に、 定理 7.19により、$2$ つの 計量ベクトル空間 $V$ と $W$ の次元が等しいことは $V$ と $W$ が 計量同型 であることと同値となります。
証明
$V$ と $W$ の次元を $n$ として、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ と $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ をそれぞれ $V$ と $W$ の正規直交基底とする。このとき、任意の $\bm{x} = x_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} \in V$ に対して、次のような $f(\bm{x})$ を対応させる $f : V \to W$ を考えると、
$f$ は線型写像であり、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ に対して次が成り立つ。
したがって、$f$ は計量を保つから、 定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)より、$f$ は計量同型写像である。よって、$V$ と $W$ は計量同型である。$\quad \square$
証明の考え方
$V$ と $W$ の間に計量同型写像が存在することを示します。 定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)より、線型写像 $f$ が計量を保つことと、$f$ が計量同型写像であることは同値です。つまり、($1$)$V$ と $W$ の間に線型写像 $f$ を定め($2$)$f$ が計量を保つことを示せばよいということです。
(1)線形写像の設定
$V$ と $W$ の正規直交基底を用いて、線型写像 $f : V \to W$ を定めます。
- $V$ と $W$ の次元を $n$ とおきます。すなわち、$\dim V = \dim W = n$ とします。
- また、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ と $\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ を、それぞれ $V$ と $W$ の正規直交基底とします。
任意の $\bm{x} = x_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} \in V$ に対して、次のような $f(\bm{x}) \in W$を対応させる $f : V \to W$ を考えます。
$$ \begin{align*} \tag{$\ast$} f(\bm{x}) &= x_{1} \bm{w}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{w}_{n} \end{align*} $$$f$ が線型写像であることは、次のようにして、簡単に確かめられます。上記の 証明では、この確認を省略しています。
$f$ が写像であることの確認
- まず、そもそも、対応 $\bm{v} \mapsto f(\bm{v})$ が写像であることを確かめます。
- 次の $2$ つの条件が満たされるとき、$f : V \to W$ は写像であるといえます。
- 任意の $\bm{v} \in V$ に対して、$\bm{w} = f(\bm{v})$ となる $\bm{w} \in W$ が存在する。
- 任意の $\bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ に対して、$\bm{v} = \bm{v}^{\prime}$ ならば $f(\bm{v}) = f(\bm{v}^{\prime})$ が成り立つ。
- これらの条件は、いずれも $f$ の定め方 ($\ast$)と、$\{\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,\} \, , \, \{\, \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} \,\}$ がそれぞれ $V, W$ の正規直交基底であることから、成り立つといえます。
$f$ が線型写像であることの確認
- 次に、$f : V \to W$ が線型写像であることを確かめます。
- 次の $2$ つの条件が満たされるとき、$f$ は線型写像であるといえます(
線型写像の定義)。
- 任意の $\bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ に対して $f(\bm{v} + \bm{v}^{\prime}) = f(\bm{v}) + f(\bm{v}^{\prime})$ が成り立つ。
- 任意の $\bm{v} \in V, \; c \in K$ に対して、$f(c \bm{v}) = c \, f(\bm{v})$ が成り立つ。
- これも、$f$ の定め方 ($\ast$)と、$\{\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,\} \, , \, \{\, \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} \,\}$ がそれぞれ $V, W$ の正規直交基底であることから、簡単に導くことができます。
(2)計量を保つことの証明
$f : V \to W$ が計量を保つ(内積の値を保存する)ことを確かめます。
任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ に対して、その像 $f(\bm{x})$ と $f(\bm{y})$ の内積を考えると、次が成り立ちます。
$$ \begin{align*} f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) &\overset{(\text{i})}{=} (\, x_{1} \bm{w}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{w}_{n} \,) \\ &\quad \; \cdot (\, y_{1} \bm{w}_{1} + \cdots + y_{n} \bm{w}_{n} \,) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} x_{1} \overline{\, y_{1} \vphantom{i} \,} + \cdots + x_{n} \overline{\, y_{n} \vphantom{i} \,} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \bm{x} \cdot \bm{y} \vphantom{\Big(\Big)}\\ \end{align*} $$- ($\text{i}$)$f$ の定め方 ($\ast$)によります。
- ($\text{ii}$)$\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}$ が
正規直交基底であることによります。
- すなわち、内積の計算にあたって、$\bm{w}_{i} \cdot \bm{w}_{j} = \delta_{ij}$ が成り立ちます。
- ($\text{iii}$)同様に、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が
正規直交基底であることによります。
- $\bm{x}, \bm{y} \in V$ の内積について、次が成り立ちます。$$ \begin{align*} \bm{x} \cdot \bm{y} = x_{1} \overline{\, y_{1} \vphantom{i} \,} + \cdots + x_{n} \overline{\, y_{n} \vphantom{i} \,} \end{align*} $$
- $\bm{x}, \bm{y} \in V$ の内積について、次が成り立ちます。
よって、$f$ は線型写像であり、かつ、内積の値を保存します。つまり、$f$ は計量を保つということです( 計量を保つ線形写像の定義)。
定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)より、$f$ が計量を保つことと $f$ が計量同型写像であることは同値です。したがって、$f : V \to W$ は計量同型写像であり、$V$ と $W$ は計量同型であることが導かれました。
証明方法に関する考察
- 定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)を用いることで、証明がかなり簡潔になります。$f$ が計量同型写像であることを示すために、$f$ が計量を保つことのみを示せばよいためです。
- 計量同型写像の定義に従ってこれを示そうとすると、$f$ が計量を保ち、かつ同型写像(線型写像であり、かつ全単射)であることを示さなければなりませんが、これは大変面倒です。 TODO: Insert Figure !(1)
次元の等しい計量ベクトル空間
次に、任意の $n$ 次元計量ベクトル空間が、標準的内積を備えた $n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ に計量同型であることを示します。
系 7.20(計量同型と数ベクトル空間)
任意の $K$ 上の $n$ 次元計量ベクトル空間は、$n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ に計量同型である。
解説
計量ベクトル空間と数ベクトル空間は計量同型
系 7.20(計量同型と数ベクトル空間)は、任意の $n$ 次元計量ベクトル空間 $V$ と $n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ が計量同型であることを示しています。
数ベクトル空間は標準的内積により計量ベクトル空間となる
数ベクトル空間 $K^{n}$ には、必ず 標準的内積が存在します( 定理 7.2(標準的内積))。よって、任意の次元の数ベクトル空間 $K^{n}$ は、標準的内積により、計量ベクトル空間となります。
定理 7.19(計量同型)の系
したがって、$n$ 次元計量ベクトル空間 $V$ と $n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ は、次元の等しい計量ベクトル空間であるといえます。 定理 7.19(計量同型)より、次元の等しい計量ベクトル空間は互いに計量同型であるので、$V$ と $K^{n}$ は計量同型であるというわけです。
このように、 系 7.20(計量同型と数ベクトル空間)は、 定理 7.19から直ちに導くことができるため、 定理 7.19の系としています。
定理 4.42(ベクトル空間と数ベクトル空間の同型)の拡張
定理 7.19(計量同型)と同様に、 系 7.20(計量同型と数ベクトル空間)は(内積の定義されていない)通常のベクトル空間における 定理 4.42(ベクトル空間と数ベクトル空間の同型)を拡張したものと捉えることができます。
つまり、 定理 4.42は、任意の $n$ 次元ベクトル空間 が $n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ に 同型 であることを表しています。同様に、 系 7.20は、任意の $n$ 次元計量ベクトル空間 が $n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ に 計量同型 であることを表しています。
まとめ
- $V, W$ を次元の等しい計量ベクトル空間とすると、$V$ と $W$ は互いに計量同型である。
- 任意の $K$ 上の $n$ 次元計量ベクトル空間は、$n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ に計量同型である。
参考文献
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