ユニタリ変換とユニタリ行列(1)
標準内積を備えた計量ベクトル空間 $K^{n}$ において、ユニタリ行列により定まる線型変換はユニタリ変換となります。
これは、一般の計量ベクトル空間における、ユニタリ変換とユニタリ行列の対応関係を示唆する重要な定理です。
数ベクトル空間のユニタリ変換
定理 7.25(数ベクトル空間のユニタリ変換)
$A$ を $n$ 次の正方行列として、その列ベクトルを $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ とする。$A$ により定まる線型変換を $f_{A} : K^{n} \to K^{n}$ とすると、次の $3$ つの条件は互いに同値である。
($2$)$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は $K^{n}$ の正規直交基底である。
($3$)$f_{A}$ は $K^{n}$ のユニタリ変換である。
解説
ユニタリ行列により定まる線型変換
定理 7.25(数ベクトル空間のユニタリ変換)は、標準内積を備えた計量ベクトル空間 $K^{n}$ において、 ユニタリ行列により定まる線型変換が ユニタリ変換であることを示しています。
また、逆に、$K^{n}$ における ユニタリ変換の行列表示が ユニタリ行列であることを示しています。
ユニタリ行列とユニタリ変換の対応
定理 7.25(数ベクトル空間のユニタリ変換)は、あくまで、数ベクトル空間 $K^{n}$ におけるユニタリ変換とユニタリ行列の対応関係を示すものです。
ところで、標準内積を備えた数ベクトル空間 $K^{n}$ は、一般の(内積を備えた)$n$ 次元計量ベクトル空間に同型であることがわかっています( 定理 7.19(計量同型)、 系 7.20(計量同型と数ベクトル空間)を参照)。
このように考えると、 定理 7.25は、一般の計量ベクトル空間におけるユニタリ変換とユニタリ行列との対応関係を示唆するものです。実際に、ユニタリ変換とユニタリ行列との対応関係は一般に成り立ちます。このことは、 次項の 定理 7.26(ユニタリ変換とユニタリ行列)に改めて整理します。
証明
まず、$A = (\, \bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n} \,)$ なので、$A$ の転置行列と共役行列の積について、次が成り立つ。
したがって、$A$ がユニタリ行列であるならば、$A^{\ast} A = E$、すなわち ${}^{t} A \, \overline{A \vphantom{\big(\big)} \,} = E$ が成り立つことから、$\bm{a}_{i} \cdot \bm{a}_{j} = \delta_{ij}$ となる。また、逆に $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が $K^{n}$ の正規直交基底であるならば、$\bm{a}_{i} \cdot \bm{a}_{j} = \delta_{ij}$ が成り立つことから、$A^{\ast} A = A \, A^{\ast} = E$ となる。よって、$A$ がユニタリ行列であることと、$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が $K^{n}$ の正規直交基底であることは同値である。
次に、$f_{A} : K^{n} \to K^{n}$ は $A$ により定まる線型変換であることから、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in K^{n}$ について、$\bm{y} = f(\bm{x})$ ならば $\bm{y} = A \bm{x}$ が成り立つ。よって、$\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}$ を $K^{n}$ の標準基底とすると、$1\leqslant i \leqslant n$ について、次が成り立つ。
したがって、 定理 7.21(ユニタリ変換であることと同値な条件)より、$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が $K^{n}$ の正規直交基底であることと、$f_{A}$ が $K^{n}$ のユニタリ変換であることは同値である。$\quad \square$
証明の考え方
($1$)$\Leftrightarrow$($2$)と ($2$)$\Leftrightarrow$($3$)を、それぞれ示します。
($2$)$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は $K^{n}$ の正規直交基底である。
($3$)$f_{A}$ は $K^{n}$ のユニタリ変換である。
- ($1$)$\Leftrightarrow$($2$)の証明では、$A$ の転置行列と共役行列の積が、$A$ の列ベクトルの内積により表せることを利用します。
- ($2$)$\Leftrightarrow$($3$)の証明では、 定理 7.21(ユニタリ変換であることと同値な条件)を利用します。
($1$)$\Leftrightarrow$($2$)の証明
行列の積と列ベクトルの内積
$A = (\, \bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n} \,)$ とすると、$A$ の 転置行列 ${}^{t} A$ は次のように表せます。
$$ \begin{align*} {}^{t} A = \begin{pmatrix} \, {}^{t} \bm{a}_{1} \, \\ \, \vdots \, \\ \, {}^{t} \bm{a}_{n} \, \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$したがって、$A$ の 転置行列と 共役行列の積を考えると、次が成り立つことがわかります。
$$ \begin{align*} {}^{t} A \, \overline{A \vphantom{\big(\big)} \,} &\overset{(\text{i})}{=} \begin{pmatrix} \, {}^{t} \bm{a}_{1} \, \\ \, \vdots \, \\ \, {}^{t} \bm{a}_{n} \, \\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \; \overline{\bm{a}_{1} \vphantom{k}}, \cdots, \overline{\bm{a}_{n} \vphantom{k}} \; \end{pmatrix} \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \begin{pmatrix} \, {}^{t} \bm{a}_{1} \overline{\bm{a}_{1} \vphantom{k}} & {}^{t} \bm{a}_{1} \overline{\bm{a}_{2} \vphantom{k}} & \cdots & {}^{t} \bm{a}_{1} \overline{\bm{a}_{n} \vphantom{k}} \, \\ \, {}^{t} \bm{a}_{2} \overline{\bm{a}_{1} \vphantom{k}} & {}^{t} \bm{a}_{2} \overline{\bm{a}_{2} \vphantom{k}} & \cdots & {}^{t} \bm{a}_{2} \overline{\bm{a}_{n} \vphantom{k}} \, \\ \, \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ \, {}^{t} \bm{a}_{n} \overline{\bm{a}_{1} \vphantom{k}} & {}^{t} \bm{a}_{n} \overline{\bm{a}_{2} \vphantom{k}} & \cdots & {}^{t} \bm{a}_{n} \overline{\bm{a}_{n} \vphantom{k}} \, \\ \end{pmatrix} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \big(\, {}^{t} \bm{a}_{i} \, \overline{\, \bm{a}_{j} \vphantom{k} \,} \,\big) \vphantom{\big(\big)} \\ &\overset{(\text{iv})}{=} \big(\, \bm{a}_{i} \cdot \bm{a}_{j} \,\big) \tag{$\star$} \end{align*} $$- ($\text{iii}$) 成分による行列の表記によります。すなわち、$(i, j)$ 成分が ${}^{t} \bm{a}_{i} \, \overline{\, \bm{a}_{j} \vphantom{k} \,}$ であるような行列は、$\big(\, {}^{t} \bm{a}_{i} \, \overline{\, \bm{a}_{j} \vphantom{k} \,} \,\big) \vphantom{\big(\big)}$ のように表せます。
- ($\text{iv}$)
標準的内積と行列の積の対応によります。すなわち、$2$ つの数ベクトル $\bm{x}, \bm{y}$ の標準的内積は、それぞれの転置行列と共役行列を用いて、次のように表せます。$$ \begin{align*} \bm{x} \cdot \bm{y} = {}^{t} \bm{x} \, \overline{\, \bm{y} \vphantom{k} \,} \end{align*} $$
($\star$)式より、$A$ の転置行列と共役行列の積は、$A$ の列ベクトルの内積により表せることがわかります。
- ($\star$)式の導出は少し突飛に見えますが、$A$ の 随伴行列 $A^{\ast} \, (\, = {}^{t} \overline{A \vphantom{\big(\big)} \,} \,)$ と $A$ の積がどのように表せるかを考えることで、自然に導くことができます。
($1$)$\Rightarrow$($2$)ユニタリ行列の列ベクトルが正規直交基底であることの証明
いま、$A$ がユニタリ行列であるとすると、次が成り立ちます( ユニタリ行列の定義)。
$$ \begin{alignat*} {2} && A^{\ast} A &= E \\ & \Leftrightarrow \quad & {}^{t} A \, \overline{A \vphantom{\big(\big)} \,} &= E \end{alignat*} $$また、 ($\star$)式より ${}^{t} A \, \overline{A \vphantom{\big(\big)} \,} = (\, \bm{a}_{i} \cdot \bm{a}_{j} \,)$ であることから、$A$ の列ベクトル $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ について、次が成り立ちます。
$$ \begin{align*} \bm{a}_{i} \cdot \bm{a}_{j} = \delta_{ij} \end{align*} $$これは、$A$ の列ベクトル $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が 正規直交系であることを意味する式に他なりません。
更に、 定理 7.8(直交系をなすベクトル)より、正規直交基底をなすベクトルは線型独立であるので、$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は正規直交基底をなすベクトルであるといえます。
($1$)$\Leftarrow$($2$)列ベクトルが正規直交基底となる行列はユニタリ行列であることの証明
逆に、$A$ の列ベクトル $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が $K^{n}$ の正規直交基底であるとすると、次が成り立ちます( 正規直交基底の定義)。
$$ \begin{align*} \bm{a}_{i} \cdot \bm{a}_{j} = \delta_{ij} \end{align*} $$このとき、 ($\star$)式より、次が成り立ちます。
$$ \begin{align*} A^{\ast} A &= \big(\, \bm{a}_{i} \cdot \bm{a}_{j} \,\big) \\ &= \big(\, \delta_{ij} \, \big) \\ &= E \end{align*} $$したがって、$A$ はユニタリ行列となります。
以上から、($1$)$A$ がユニタリ行列であることと($2$)$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が $K^{n}$ の正規直交基底であることが同値であることが確かめられました。
($2$)$\Leftrightarrow$($3$)の証明
線型変換とその表現行列の関係
$f_{A} : K^{n} \to K^{n}$ は $A$ により定まる線型変換であることから、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in K^{n}$ について、$\bm{y} = f(\bm{x})$ ならば $\bm{y} = A \bm{x}$ が成り立ちます( 定理 4.51(線型写像の行列表示と座標)などを参照)。
よって、$\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}$ を $K^{n}$ の標準基底とすると、$1\leqslant i \leqslant n$ について、次が成り立ちます。
$$ \begin{split} f (\bm{e}_{i}) &= A \, \bm{e}_{i} \\ &= \bm{a}_{i} \\ \end{split} $$- ここまで、$f_{A}$ は(ただの)線型変換であり、$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は、その表現行列 $A$ の列ベクトルとして扱っています。
ユニタリ変換であることと表現行列の列ベクトルが正規直交基底であることの同値性
- いま、$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が $K^{n}$ の正規直交基底であるとすると、$f_{A}$ は正規直交基底を正規直交基底に移すので、 定理 7.21(ユニタリ変換であることと同値な条件)より、$f_{A}$ は $K^{n}$ のユニタリ変換となります。
- 逆に、$f_{A}$ がユニタリ変換であるとすると、同じく 定理 7.21より、ユニタリ変換は正規直交基底を正規直交基底に移します。したがって、$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は $K^{n}$ の正規直交基底になります。
- すなわち、 定理 7.21により、($2$)$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が $K^{n}$ の正規直交基底であることと($3$)$f_{A}$ が $K^{n}$ のユニタリ変換であることは同値であるといえます。
証明のまとめ
- 以上から、 ($1$)$\Leftrightarrow$($2$)および ($2$)$\Leftrightarrow$($3$)が成り立つことが示されましたので、$3$ つの条件が互いに同値であることが示されたことになります。
まとめ
- $A$ を $n$ 次の正方行列として、その列ベクトルを $\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ とする。$A$ により定まる線型変換を $f_{A} : K^{n} \to K^{n}$ とすると、次の $3$ つの条件は互いに同値である。
($2$)$\bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は $K^{n}$ の正規直交基底である。
($3$)$f_{A}$ は $K^{n}$ のユニタリ変換である。
参考文献
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