ユニタリ行列による行列の三角化
正方行列がユニタリ行列により三角化可能であるための条件(必要十分条件)を示します。
すなわち、$n$ 次の正方行列 $A$ が重複を含めて $n$ 個の固有値を持つことは、$A$ を三角化するようなユニタリ行列が存在することと同値です。したがって、複素数の範囲で考えれば、正方行列は、常にユニタリ行列により三角化可能であるといえます。
ユニタリ行列による三角化
定理 7.28(ユニタリ行列による三角化)
$A$ を $n$ 次の正方行列とする。$A$ が重複を含めて $n$ 個の固有値を持つならば、$A$ は、ユニタリ行列により三角化可能である。すなわち、次の式を満たすユニタリ行列 $U$ が存在する。
解説
ユニタリ行列による三角化とは
定理 7.28(ユニタリ行列による三角化)は、ある正方行列が、ユニタリ行列により三角化可能であるための条件(必要十分条件)を示しています。
行列の三角化とは
行列の三角化については、 定理 6.14(三角化の条件)や 行列を三角化する方法などに整理した通りです。
すなわち、$n$ 次の正方行列 $A$ が三角化可能であるということは、次のような式を満たす正則行列 $P$ が存在するということに他なりません。
三角化可能であるための必要十分条件
また、 定理 6.14(三角化の条件)より、$n$ 次の正方行列 $A$ が三角化可能であるためには、$A$ が重複を含めて $n$ 個の固有値を持つことが必要にして十分であることがわかっています。
$n$ 次正方行列の 固有方程式は $n$ 次方程式となることから、 代数学の基本定理より、複素数の範囲で考えれば、$A$ は常に $n$ 個の固有値を持つことになります。
つまり、複素数の範囲で考えれば、すべての正方行列が三角化可能であり、任意の正方行列 $A$ に対して $A$ を三角化するような正則行列 $P$ が存在するといえます。
行列を三角化する正則行列としてユニタリ行列が選べる
このことを踏まえて考えると、 定理 7.28(ユニタリ行列による三角化)の主張は、 定理 6.14(三角化の条件)と形式的に類似しています。すなわち、どちらも、ある正方行列が三角化可能であるための条件に関する定理です。
定理 6.14に対する 定理 7.28の差異で特に重要な部分は、正方行列を三角化する正則行列としてユニタリ行列を選ぶことができるという部分です。
定理 6.14で確かめたように、ある正方行列を三角化する正則行列は一意には定まりません。
これに対して、正方行列を三角化する行列として、正則行列の中でも構造のよいユニタリ行列を選ぶこともできるというのが 定理 7.28のオリジナルな部分です。
このことは、計量ベクトル空間における行列の対角化について考える際や、実際の数値計算において重要な意味を持ちます。
三角化の手順(通常の手順とユニタリ行列による手順)
通常の三角化の手順と ユニタリ行列による三角化の手順を比較します。
通常、与えられた行列 $A$ の固有ベクトルを含む基底を作ることで、部分的な三角化を繰り返し、最終的に $A$ を三角化する正則行列 $P$ が得られます。
これに対して、$A$ の固有ベクトルを含む基底に対して シュミットの正規直交化法などを適用し、これを正規直交基底とすることで、最終的にられる正則行列をユニタリ行列にできます。
通常の三角化の手順
$A$ を $n$ 次正方行列とすると、通常、$A$ を三角化するための手順は、次の通りです( 行列を三角化する方法を参照)。
- $A$ の固有方程式を解き、$A$ が(重複を含めて)$n$ 個の固有値を持つことを確認する。
- $A$ の固有ベクトルに適当なベクトルを加えて $K^{n}$ の基底を作り、それらを列ベクトルに持つ行列により $A$ を部分的に三角化する。
- この操作を繰り返すことで、最終的に $A$ の全体を三角化する正方行列を得る。
ユニタリ行列による三角化の手順
上記の手順($2$)において、$A$ の固有ベクトルを含む基底に対して シュミットの正規直交化法などを適用し、これを正規直交基底とすることで、最終的にられる正則行列をユニタリ行列にできます。
($1$)三角化可能性の判定
- $A$ の固有方程式を解き、$A$ が(重複を含めて)$n$ 個の固有値を持つことを確認する。
($2$)三角化
- $A$ の固有ベクトルに適当なベクトルを加えて $K^{n}$ の基底を作る。
- 上記の $K^{n}$ の基底に対して シュミットの正規直交化法を適用し、これを正規直交基底とする。
- $K^{n}$ の正規直交基底を列ベクトルに持つ行列により $A$ を部分的に三角化する。
- この操作を繰り返すことで、最終的に $A$ の全体を三角化する正方行列を得る。
この手順が妥当なものであることは、下記の 証明により確かめられます。
証明
$A$ を $n$ 次正方行列とする。$n = 1$ のとき、 (7.5.6)式が成り立つことは明らか。
$n \gt 1$ のとき、$(n-1)$ 次までの正方行列について、 (7.5.6)式が成り立つと仮定する。このとき、$A$ の固有値 $\lambda_{1}$ に属する固有ベクトルを $\bm{x}_{1}$ とすると、$\bm{x}_{1} \neq \bm{0}$ であり、$\bm{x}_{1}$ に $(n-1)$ 個のベクトルを加えて $K^{n}$ の基底を作ることができる。これに対して シュミットの正規直交化法を適用して正規直交基底としたものを改めて $\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n}$ とし、まとめて $Q = (\, \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} \,)$ と表すと、$Q$ はユニタリ行列であり、次が成り立つ。
ここで、$A_{1}$ は $(n-1)$ 次の正方行列であり、帰納法の仮定より、三角化可能である。したがって、$R_{1}$ を $(n-1)$ 次のユニタリ行列とすると、次が成り立つ。
いま、次のような $n$ 次正方行列 $R$ を考えると、$R$ はユニタリ行列であり、$R^{-1} R = R R^{-1} = E$ が成り立つ。
また、$U = QR$ とすると、 定理 7.23(ユニタリ行列の積)より、$U$ もユニタリ行列であり、次が成り立つ。
証明の考え方
($1$)$n = 1$ のときは、 三角行列の定義より明らかです。($2$)$n \gt 1$ のときは、数学的帰納法により、$(n-1)$ 次までの正方行列が三角化可能であると仮定して、$n$ 次の正方行列も三角化可能であることを示します。
基本的に、 定理 6.14(三角化の条件)の証明と同じ考え方ですが、 シュミットの正規直交化法により正規直交基底が作れることや、 定理 7.23(ユニタリ行列の積)などのユニタリ行列の性質を利用します。
(1)$n = 1$ の場合の証明
このとき、$A$ は $1$ 次正方行列、つまり、$1$ つの成分のみからなる行列となります。
$A$ が固有値 $\lambda_{1}$ を持つとすると、$A$ は、その固有値を用いて、$A = (\, \lambda_{1} \,)$ のように表せます。
このとき、 三角行列の定義より、$A$ は既に三角行列であるといえます。
- 形式的には、$A$ は $1$ 次の単位行列 $E_{1}$ により三角化されるともいえます。$$ \begin{gather*} E_{1}^{-1} A E_{1} = (\, a_{11} \,) \end{gather*} $$
- 形式的には、$A$ は $1$ 次の単位行列 $E_{1}$ により三角化されるともいえます。
したがって、$n = 1$ の場合、$A$ はユニタリ行列により三角化可能であるといえます。
- 単位行列は、 ユニタリ行列の定義の条件を満たしますので、$E_{1}$ はユニタリ行列といえます。
(2)$n \gt 1$ の場合の証明
部分的な三角化
まず、$n$ 次正方行列 $A$ が、$(n-1)$ 次の行列をブロックにもつ行列に、部分的に三角化されることを示します。
$A$ の $1$ つの固有値を $\lambda_{1}$ として、$\lambda_{1}$ に属する固有ベクトルを $\bm{x}_{1}$ とします。固有ベクトルは零ベクトルではないので、このとき、$\bm{x}_{1} \neq \bm{0}$ が成り立ちます( 固有ベクトルの定義)。
したがって、$\bm{x}_{1}$ に $(n-1)$ 個のベクトルを加えて $K^{n}$ の基底を作ることができ、これを $\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n}$ とします( 定理 4.33(線型独立なベクトルと基底))。
- 上記のように、$\bm{x}_{1} \neq \bm{0}$ であることを確かめておくことは重要です。
- 零ベクトル $\bm{0}$ を含むベクトルの組は線型従属であるので、 定理 4.33を用いて、$K^{n}$ の基底を作ることができなくなってしまうためです。
更に、$K^{n}$ の基底 $\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n}$ に対して シュミットの正規直交化法を適用し、正規直交基底としたものを、改めて $\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n}$ とおきます。
これをまとめて $Q = (\, \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} \,)$ と表すと、$\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n}$ が $K^{n}$ の正規直交基底であることから、$Q$ はユニタリ行列であるといえます( 定理 7.25(数ベクトル空間のユニタリ変換))。
$A \bm{x}_{1}, A \bm{x}_{2}, \cdots, A \bm{x}_{n}$ を列ベクトルとして、これをまとめて行列として表すと、次のようになります。
$$ \begin{gather*} A \, (\, \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} \,) = (\, \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} \,) \left( \, \begin{array} {c|c} \lambda_{1} & \large{\ast} \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & A_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \end{gather*} $$このとき、$Q = (\, \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} \,)$ であり、$Q$ がユニタリ行列であることから、次が成り立ちます。
$$ \begin{gather*} & A Q = Q \left( \, \begin{array} {c|c} \lambda_{1} & \large{\ast} \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & A_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \\ \Leftrightarrow & Q^{-1} A Q = \left( \, \begin{array} {c|c} \lambda_{1} & \large{\ast} \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & A_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \tag{$\star$} \end{gather*} $$- ここで、左下のブロックは $(n-1, 1)$ 型の零行列であり、$A$ の第 $1$ 列の成分は $1$ 行目を除いてすべて $0$ に等しくなります。
- したがって、$A$ は $Q$ により部分的に三角化されているといえます。
- また、右下のブロック $A_{1}$ は $(n-1)$ 次の正方行列、$\ast$ は任意の $(1, n-1)$ 型の行列を表しています。
ユニタリ行列による三角化
次に、帰納法の仮定により $A_{1}$ が三角化可能であるとして、上記の ($\star$)式の右辺を三角化するような正方行列を求めます。
($\star$)式において、$A_{1}$ は $(n-1)$ 次の正方行列であるので、帰納法の仮定より、三角化可能です。すなわち、次の式を満たす $(n - 1)$ 次のユニタリ行列 $R_{1}$ が存在します。
$$ \begin{gather*} R_{1}^{-1} A_{1} R_{1} = \left( \begin{array} {ccc} \lambda_{2} & & \large{\ast} \\ & \ddots & \\ \large{O} & & \lambda_{n} \\ \end{array} \right) \end{gather*} $$いま、$R_{1}$ をブロックに持つ、次のような $n$ 次正方行列 $R$ を考えます。
$$ \begin{gather*} R = \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \end{gather*} $$帰納法の仮定より、$R_{1}$ はユニタリ行列であるので、$R_{1}$ の列ベクトルは $K^{n-1}$ の正規直交基底となります( 定理 7.25(数ベクトル空間のユニタリ変換))。
よって、上記のように、$R_{1}$ をブロックに持つ $R$ の列ベクトルは、$K^{n}$ の正規直交基底となることがわかります。
したがって、$R$ はユニタリ行列であり( ユニタリ行列の定義)、逆行列 $R^{-1}$ は、次のように表せます。
$$ \begin{align*} R^{-1} &= R^{\ast} \\ &= \begin{align*} \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1}^{\ast} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \end{align*} \\ &= \begin{align*} \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1}^{-1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \end{align*} \\ \end{align*} $$更に、$U = QR$ とすれば、ユニタリ行列の積がユニタリ行列となる( 定理 7.23(ユニタリ行列の積))ことから、$U$ もユニタリ行列となり、次が成り立ちます。
$$ \begin{align*} U^{-1} A U &\overset{(\text{i})}{=} (\, R^{-1} Q^{-1} \,) \, A \, (\, Q R \,) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} R^{-1} \, (\, Q^{-1} A Q \,) \, R \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1}^{-1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \left( \, \begin{array} {c|c} \lambda_{1} & \large{\ast} \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & A_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \\ &\overset{(\text{iv})}{=} \left( \, \begin{array} {c|c} \lambda_{1} & \large{\ast} \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1}^{-1} A_{1} R_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \\ &\overset{(\text{v})}{=} \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} & & & \large{\ast} \; \\ \; & \lambda_{2} & & \; \\ & & \ddots & \\ \; \large{O} & & & \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$- ($\text{i}$)$U$ は正則でもあるので、 定理 2.5(正則行列)より、$U^{-1} = (QR)^{-1} = R^{-1} Q^{-1}$ が成り立ちます。
- ($\text{ii}$)積の順序の入れ替えにより、 ($\star$)式の右辺と $R$ の積の形を作ります。
- ($\text{iv}$) ブロック行列の積の演算規則により、三角行列が得られます。
以上から、$n \gt 1$ の場合も、$A$ がユニタリ行列により三角化可能であることが示されました。
まとめ
$A$ を $n$ 次の正方行列とする。$A$ が重複を含めて $n$ 個の固有値を持つならば、$A$ は、ユニタリ行列により三角化可能である。すなわち、次の式を満たすユニタリ行列 $U$ が存在する。
$$ \begin{equation*} U^{-1} A U = \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} & & \large{\ast} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} & & \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \end{equation*} $$$n$ 次正方行列 $A$ をユニタリ行列により三角化するための手順は、次の通り。
($1$)三角化可能性の判定
- $A$ の固有方程式を解き、$A$ が(重複を含めて)$n$ 個の固有値を持つことを確認する。
($2$)三角化
- $A$ の固有ベクトルに適当なベクトルを加えて $K^{n}$ の基底を作る。
- 上記の $K^{n}$ の基底に対して シュミットの正規直交化法を適用し、これを正規直交基底とする。
- $K^{n}$ の正規直交基底を列ベクトルに持つ行列により $A$ を部分的に三角化する。
- この操作を繰り返すことで、最終的に $A$ の全体を三角化する正方行列を得る。
参考文献
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