正規行列の定義

正方行列 $A$ が、$A^{\ast} A = A \, A^{\ast}$ を満たすとき、$A$ を正規行列といいます。

ここでは、正規行列を定義し、 ユニタリ行列エルミート行列などの行列が正規行列であることを確かめます。

正規行列の定義

まず、正規行列の定義を示します。


定義 7.13(正規行列)

正方行列 $A$ が、次の式を満たすとき、$A$ を正規行列($\text{normal}$ $\text{matrix}$)という。

$$ \begin{align*} \tag{7.7.1} A^{\ast} A = A \, A^{\ast} \end{align*} $$


解説

正規行列とは

正規行列とは、$A^{\ast} A = A \, A^{\ast}$ を満たす正方行列 $A$ のことです。

ここで、$A^{\ast}$ は、行列 $A$ の 随伴行列を表します。

随伴行列との積について可換な正方行列

したがって、正規行列の定義式である (7.7.1)式は、正方行列 $A$ とその 随伴行列 $A^{\ast}$ が、 行列の積の演算について可換であることを表しています。

すなわち、正規行列とは、 随伴行列との積について可換であるような正方行列を指しているといえます。

正規行列の例

次に、 正規行列の例を示します。すなわち、次の行列が 正規行列であることを確かめます。



エルミート行列

エルミート行列とは、$A = A^{\ast}$ を満たす正方行列 $A$ であり、 正規行列でもあります。

エルミート行列の定義

正方行列 $A$ が次の式を満たすとき、$A$ を エルミート行列といいます( エルミート行列の定義)。

$$ \begin{align*} \tag{7.6.1} A = A^{\ast} \end{align*} $$

すなわち、エルミート行列とは、 随伴行列がもとの行列に等しくなるような正方行列であるといえます。

エルミート行列が正規行列であることの確認

正方行列 $A$ が エルミート行列であるとすると、$A^{\ast} = A$ であることから、次が成り立ちます。

$$ \begin{split} A^{\ast} A &= A A \\ &= A A^{\ast} \\ \end{split} $$

したがって、エルミート行列は 正規行列であるといえます。



実対称行列

実対称行列とは、すべての成分が実数であるような エルミート行列であり、 正規行列でもあります。

実対称行列の定義

実対称行列とは、すべての成分が実数であるような エルミート行列です。( 実対称行列の定義)。

正方行列 $A$ が実対称行列であれば、次が成り立ちます。

$$ \begin{align*} A = {}^{t} A \end{align*} $$

実対称行列が正規行列であることの確認

実対称行列正規行列であることは、定義より明らかといえます。

すなわち、定義より実対称行列は エルミート行列であり、エルミート行列は正規行列であるので、実対称行列は正規行列であるといえます( エルミート行列が正規行列であることの確認を参照)。



歪エルミート行列

歪エルミート行列とは、$A^{\ast} = -A$ を満たす正方行列 $A$ であり、 正規行列でもあります。

歪エルミート行列の定義

正方行列 $A$ が次の式を満たすとき、$A$ を 歪エルミート行列といいます。

$$ \begin{align*} \tag{7.6.2} A^{\ast} = -A \end{align*} $$

すなわち、歪エルミート行列とは、 随伴行列 $A^{\ast}$ がもとの行列 $A$ の $-1$ 倍に等しくなるような正方行列であるといえます。

歪エルミート行列が正規行列であることの確認

正方行列 $A$ が 歪エルミート行列であるとすると、$A^{\ast} = -A$ であることから、次が成り立ちます。

$$ \begin{split} A^{\ast} A &= (-A) A \\ &= A (-A) \\ &= A A^{\ast} \\ \end{split} $$

したがって、歪エルミート行列は 正規行列である。



実交代行列

実交代行列とは、すべての成分が実数であるような歪エルミート行列であり、正規行列でもあります。

実交代行列の定義

実交代行列とは、すべての成分が実数であるような 歪エルミート行列です。当然ながら、実交代行列は 交代行列です。

正方行列 $A$ が実交代行列であれば、次が成り立ちます。

$$ \begin{align*} {}^{t} A = -A \end{align*} $$

実交代行列が正規行列であることの確認

実交代行列が 正規行列であることは、定義より明らかといえます。

すなわち、定義より実交代行列は 歪エルミート行列であり、ワイエルミート行列は正規行列であるので、実交代行列は正規行列であるといえます( 歪エルミート行列が正規行列であることの確認を参照)。



ユニタリ行列

ユニタリ行列とは、$A^{\ast} A = A \, A^{\ast} = E$ を満たす正方行列 $A$ であり、 正規行列でもあります。

ユニタリ行列の定義

正方行列 $A$ が次の式を満たすとき、$A$ を ユニタリ行列といいます( ユニタリ行列の定義)。

$$ \begin{align*} \tag{7.5.3} A^{\ast} A = A \, A^{\ast} = E \end{align*} $$

すなわち、ユニタリ行列とは、 随伴行列がもとの行列の 逆行列に等しくなるような正方行列であるといえます。

$$ \begin{align*} A^{-1} = A^{\ast} \end{align*} $$

ユニタリ行列が正規行列であることの確認

ユニタリ行列正規行列であることは、定義より明らかといえます。

すなわち、正方行列 $A$ について、$A^{\ast} A = A \, A^{\ast} = E$ ならば $A^{\ast} A = A \, A^{\ast}$ が成り立つことは、明らかです。

したがって、ユニタリ行列は 正規行列であるといえます。



直交行列

直交行列とは、すべての成分が実数であるような ユニタリ行列であり、 正規行列でもあります。

直交行列の定義

直交行列とは、すべての成分が実数であるような ユニタリ行列です( 直交行列の定義)。

正方行列 $A$ が直交行列であれば、次が成り立ちます。

$$ \begin{align*} \tag{7.5.4} {}^{t} A \, A = A \, {}^{t} A = E \end{align*} $$

すなわち、直交行列とは、 転置行列がもとの行列の 逆行列に等しくなるような正方行列であるといえます。

$$ \begin{align*} A^{-1} = {}^{t} A \end{align*} $$

直交行列が正規行列であることの確認

直交行列正規行列であることは、定義より明らかといえます。

すなわち、定義より直交行列は ユニタリ行列であり、ユニタリ行列は正規行列であるので、直交行列は正規行列であるといえます( ユニタリ行列が正規行列であることの確認)。



その他の例

ここまで、 エルミート行列ユニタリ行列等の行列が 正規行列であることを確かめてきました。

しかしながら、上記以外にも、正規行列となる例はあります。

エルミート行列やユニタリ行列以外の正規行列

例えば、次の $2$ 次正方行列は、上記に示した エルミート行列ユニタリ行列等の行列ではありませんが、 正規行列となります。

$$ \begin{align*} A = \begin{pmatrix} \, 2 \, & \, i \, \\ \, 1 \, & \, 2 \, \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

正規行列であることの確認

上記の正方行列 $A$ とその 随伴行列 $A^{\ast}$ の積について、$A^{\ast} A = A \, A^{\ast}$ が成り立ちます。このことは、次のように確かめられます。

まず、$A^{\ast} A$ は、次のようになります。

$$ \begin{split} A^{\ast} A &= \begin{pmatrix} \, 2 \, & \, 1 \, \\ \, -i \, & \, 2 \, \\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \, 2 \, & \, i \, \\ \, 1 \, & \, 2 \, \\ \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} \, 5 \, & \, 2 \, (1 + i) \, \\ \, 2 \, (1 - i) \, & \, 5 \, \\ \end{pmatrix} \\ \end{split} $$

次に、$A \, A^{\ast}$ は、次のようになります。

$$ \begin{split} A \, A^{\ast} &= \begin{pmatrix} \, 2 \, & \, i \, \\ \, 1 \, & \, 2 \, \\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} \, 2 \, & \, 1 \, \\ \, -i \, & \, 2 \, \\ \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} \, 5 \, & \, 2 \, (1 + i) \, \\ \, 2 \, (1 - i) \, & \, 5 \, \\ \end{pmatrix} \\ \end{split} $$

したがって、$A^{\ast} A = A \, A^{\ast}$ が成り立ちます。



まとめ


参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
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[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.


初版:2025-05-11   |   改訂:2025-05-13