対角化と正規直交基底

行列 $A$ が対角化可能であるためには、$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在することが必要にして十分です。

ここでは、 正規行列による対角化の条件を示した上で、これまでに導入した、行列が対角化可能であるための条件(必要十分条件)についてまとめます。

対角化と正規直交基底


定理 7.36(対角化と正規直交基底)

$n$ 次正方行列 $A$ について、次の $2$ つの条件は同値である。

($1$)$A$ が正規行列である。
($2$)$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在する。


解説

対角化の条件(正規行列)

定理 7.36(対角化と正規直交基底)は、正方行列が 正規行列であることと同値な条件を示しています。すなわち、正方行列 $A$ が正規行列であることは、$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在することと同値です。

これは、 正規行列を用いて、行列が対角化可能であるための条件(必要十分条件)を表したものです。

(1)正規行列であること

正方行列 $A$ が 正規行列であるということは、$A$ が次を満たすことにほかなりません( 正規行列の定義)。

$$ \begin{align*} A^{\ast} A = A \, A^{\ast} \end{align*} $$

ここで、$A^{\ast}$ は、$A$ の 随伴行列を表します。

正規行列であることは対角化可能であることと同値

前項定理 7.35(正規行列の対角化)より、正方行列 $A$ が 正規行列であることは、$A$ が対角化可能であることと同値です。

したがって、 定理 7.36(対角化と正規直交基底)は、正方行列が対角化可能であるための条件を示しているといえます。

(2)固有ベクトルからなる正規直交基底が存在すること

複素数の範囲で考えれば、$n$ 次の正方行列 $A$ は(重複を含めて)必ず $n$ 個の固有値と固有ベクトルを持ちます( 定理 6.3(固有方程式))。

いま、$A$ の固有値を $\lambda_{1}, \cdots, \lambda_{n}$ として、それぞれに属する固有ベクトルを $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ とすると、次が成り立ちます( 固有値と固有ベクトルの定義)。

$$ \begin{align*} A \, \bm{v}_{i} = \lambda_{i} \, \bm{v}_{i} && (1 \leqslant i \leqslant n) \end{align*} $$

このとき、$K^{n}$ の 正規直交基底となるような $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が存在するというのが、 定理 7.36(対角化と正規直交基底)条件($2$)です。

対角化の条件と同値

定理 7.36(対角化と正規直交基底)条件($2$)もまた、正方行列が対角化可能であるための条件と同値です。

定理 6.13(対角化の条件)より、$n$ 個の線型独立な $A$ の固有ベクトルが存在することと、$n$ 次正方行列 $A$ が対角化可能であることは同値です。

いま、$n$ 個の線型独立なベクトルからは、 シュミットの正規直交化法などの方法により、$K^{n}$ の正規直交基底が作れます( 定理 7.11(正規直交化))。また、逆に、$K^{n}$ の正規直交基底は(当然ながら)線型独立です。

したがって、$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在することもまた、$A$ が対角化可能であることと同値といえます。

対角化の条件(まとめ)

行列が対角化可能であるための条件(必要十分条件)として、これまでに示してきた定理をまとめると、次のようになります。すなわち、$n$ 次の正方行列 $A$ について、次の条件はすべて同値です。

($0$)$A$ が対角化可能である。
($1$)$A$ が正規行列である。
($2$)$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在する。
($3$)$A$ の相異なる固有値の固有空間の次元の和が $n$ に等しい。
($4$)$n$ 個の線型独立な $A$ の固有ベクトルが存在する。

条件($1$)と($2$)は、 正規行列の性質によるものであり、 定理 7.35(正規行列の対角化)定理 7.36(対角化と正規直交基底)を根拠としています。

また、条件($3$)と($4$)は、 固有値と固有ベクトルに関する考察によるものであり、 定理 6.13(対角化の条件)を根拠としています。



証明

$A$ が正規行列であるとすると、 定理 7.35(正規行列の対角化)より、$A$ は適当なユニタリ行列 $U$ により対角化可能であり、次が成り立つ。

$$ \begin{alignat*} {2} && U^{-1} A U = \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} && \large{O} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} && \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \\ & \Leftrightarrow & A U = U \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} && \large{O} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} && \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \end{alignat*} $$

ここで、$U = \left(\, \bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n} \,\right)$ とすると、

$$ \begin{align*} A \, \bm{u}_{i} = \lambda_{i} \, \bm{u}_{i} && (1 \leqslant i \leqslant n) \end{align*} $$

であり、$\lambda_{i}$ は $A$ の固有値、$\bm{u}_{i}$ は $\lambda_{i}$ に属する固有ベクトルとなる。また、$U$ がユニタリ行列であることから、 定理 7.25(数ベクトル空間のユニタリ変換)より、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ は $K^{n}$ の正規直交基底である。したがって、$A$ が正規行列であれば、$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在する。

逆に、$\lambda_{1}, \cdots, \lambda_{n}$ を $A$ の固有値、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ を $\lambda_{1}, \cdots, \lambda_{n}$ に属する $A$ の固有ベクトルとすると、次が成り立つ。

$$ \begin{align*} A \, \bm{u}_{i} = \lambda_{i} \, \bm{u}_{i} && (1 \leqslant i \leqslant n) \end{align*} $$

ここで、$U = \left(\, \bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n} \,\right)$ とすると、次が成り立つ。

$$ \begin{align*} A U = U \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} && \large{O} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} && \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

いま、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ が $K^{n}$ の正規直交基底であるとすると、 定理 7.25(数ベクトル空間のユニタリ変換)より、$U$ はユニタリ行列であり、$U^{-1} = U^{\ast}$ が成り立つ。したがって、

$$ \begin{gather*} & A U = U \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} && \large{O} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} && \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \\ \Leftrightarrow & U^{-1} A U = \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} && \large{O} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} && \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \end{gather*} $$

よって、$A$ はユニタリ行列 $U$ により対角化可能であるから、 定理 7.35(正規行列の対角化)より、$A$ は正規行列である。したがって、$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在するならば、$A$ は正規行列である。$\quad \square$



証明の考え方

定理 7.25(数ベクトル空間のユニタリ変換)定理 7.35(正規行列の対角化)を利用して、次の $2$ つの条件が同値であることを導きます。

($1$)$A$ が正規行列である。
($2$)$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在する。

($1$)$\Rightarrow$($2$)の証明

  • まず、($1$)$A$ が 正規行列であれば($2$)$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在することを示します。

  • $A$ が正規行列であるとすると、 定理 7.35(正規行列の対角化)より、$A$ は適当なユニタリ行列 $U$ により対角化可能です。

    $$ \begin{alignat*} {2} && U^{-1} A U = \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} && \large{O} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} && \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \\ & \Leftrightarrow & A U = U \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} && \large{O} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} && \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \end{alignat*} $$

  • ここで、$U$ を列ベクトルに分けて、$U = \left(\, \bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n} \,\right)$ とすると、次が成り立ちます。

    $$ \begin{align*} A \, \bm{u}_{i} = \lambda_{i} \, \bm{u}_{i} && (1 \leqslant i \leqslant n) \end{align*} $$

  • これは、$A$ の固有値と固有ベクトルの関係を表す式に他なりません( 固有値と固有ベクトルの定義)。

  • したがって、$\lambda_{i}$ は $A$ の固有値、$\bm{u}_{i}$ は $\lambda_{i}$ に属する固有ベクトルとなります。

  • また、$U$ がユニタリ行列であることから、 定理 7.25(数ベクトル空間のユニタリ変換)より、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ は $K^{n}$ の正規直交基底であるといえます。

  • 以上から、($1$)$A$ が正規行列であれば($2$)$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在することが示されました。

($1$)$\Leftarrow$($2$)の証明

  • 次に、($2$)$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在するならば($1$)$A$ は 正規行列であることを示します。

  • いま、$\lambda_{1}, \cdots, \lambda_{n}$ を $A$ の固有値、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ を $\lambda_{1}, \cdots, \lambda_{n}$ に属する $A$ の固有ベクトルとすると、次が成り立ちます( 固有値と固有ベクトルの定義)。

    $$ \begin{align*} A \, \bm{u}_{i} = \lambda_{i} \, \bm{u}_{i} && (1 \leqslant i \leqslant n) \end{align*} $$

  • ここで、$n$ 個の固有ベクトルをまとめて、$U = \left(\, \bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n} \,\right)$ とすると、次が成り立ちます。

    $$ \begin{align*} A U = U \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} && \large{O} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} && \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

  • また、仮定より、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ は $K^{n}$ の正規直交基底です。したがって、 定理 7.25(数ベクトル空間のユニタリ変換)より、$U$ はユニタリ行列となります。

  • このとき、 ユニタリ行列の定義$ より、U^{-1} = U^{\ast}$ となります。また、当然ながら、$U$ は 正則です。

  • よって、次が成り立ちます。

    $$ \begin{gather*} & A U = U \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} && \large{O} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} && \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \\ \Leftrightarrow & U^{-1} A U = \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} && \large{O} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} && \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \end{gather*} $$

  • したがって、$A$ はユニタリ行列 $U$ により対角化可能であるから、 定理 7.35(正規行列の対角化)より、$A$ が正規行列であることが確かめられました。

  • 以上から、($2$)$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在するならば($1$)$A$ は正規行列であることが示されました。


まとめ

  • $n$ 次正方行列 $A$ について、次の $2$ つの条件は同値である。

($1$)$A$ が正規行列である。
($2$)$A$ の固有ベクトルからなる $K^{n}$ の正規直交基底が存在する。

  • 上記の条件($1$)と($2$)は、いずれも $A$ が対角化可能であることと同値である。

参考文献

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初版:2025-05-02   |   改訂:2025-05-23