全単射

全単射とは、 全射であり、かつ 単射であるような 写像です。集合 $A$ から $B$ への写像 $f : A \to B$ が全単射であるということは、$A$ と $B$ の元が $1$ 対 $1$ に対応することを意味します。

ここでは、全単射を定義するとともに、ある写像が全単射であることと 逆写像を持つことが同値であることを示します。

全単射の定義

まず、全単射の定義を示します。


定義 A.8(全単射)

写像 $f$ が全射かつ単射であるとき、$f$ は全単射($\text{bijection}$)であるという。



解説

全単射とは:全射かつ単射である写像

名前の通り、全単射とは、 全射であり、かつ 単射であるような 写像です。

全単射であるための条件

写像 $f$ が全単射であるということは、$f$ が 全射であるための条件単射であるための条件をともに満たすということに他なりません。

したがって、写像 $f : A \to B$ が全単射であることは、$f$ が、次の $2$ つの条件を満たすことと同値です。

($\text{i}$)集合 $B$ の任意の元 $b \in B$ に対して、$f(a) = b$ となる $a \in A$ が存在する。
($\text{ii}$)集合 $A$ の任意の元 $a_{1}, a_{2}$ について、$a_{1} \neq a_{2}$ ならば $f(a_{1}) \neq f(a_{1})$ が成り立つ。

全単射であるための条件の論理式

このことを、論理式を用いて表すと、次のようになります。

$$ \begin{align*} (\text{i}) \, & \qquad {}^{\forall} b \in B, {}^{\exists} a \in A, \; \; \text{s.t.} \; \; f(a) = b \\ (\text{ii}) & \quad {}^{\forall} a_{1}, a_{1} \in A, \; \; a_{1} \neq a_{1} \Rightarrow f(a_{1}) \neq f(a_{1}) \\ \end{align*} \tag{$a.1.10$} $$

ここで、($\text{i}$)は $f$ が 全射であるための条件、($\text{ii}$)は $f$ が 単射であるための条件に、それぞれ対応します。

全単射であることの意味:1 対 1 対応

集合 $A$ から $B$ への 写像 $f : A \to B$ が 全単射であるということは、$A$ と $B$ の元が $1$ 対 $1$ に対応するということを意味しています。

すなわち、$f : A \to B$ が全単射であるならば、任意の $b \in B$ に対して、$f(a) = b$ となる $a \in A$ がただ $1$ つ存在するといえます。任意の $B$ の元に対応する $A$ の元が存在することは、$f$ が 全射であることからいえます。また、それがただ $1$ つに定まることは、$f$ が 単射であることからいえます。

前項に倣ってくだけた表現をとれば、全単射 $f : A \to B$ は、集合 $A$ から $B$ への、漏れなく被りない写像であるといえます。


逆写像を持つための条件

次に、ある写像が 全単射であることと、 逆写像を持つことが同値であることを示します。


定理 A.1(逆写像を持つことと同値な条件)

写像 $f$ が逆写像を持つためには、$f$ が全単射であることが必要にして十分である。



解説

逆写像を持つための条件(必要十分条件)

定理 A.1(逆写像を持つことと同値な条件)は、ある 写像逆写像を持つための条件(必要十分条件)を示しています。

すなわち、$A, B$ を集合として、写像 $f : A \to B$ に対してその逆写像 $f^{-1} : B \to A$ が存在することと、$f$ が 全単射であることは同値です。



証明

$f$ が全単射であるとすると、$f$ が全射であることから、任意の $b \in B$ に対して、$f(a) = b$ を満たす $a \in A$ が存在する。また、$f$ が単射であることから、任意の $a_{1}, a_{2}$ について、$f(a_{1}) = f(a_{2}) \Rightarrow a_{1} = a_{2}$ が成り立つ。よって、$B$ から $A$ への対応を $g : B \to A$ として、$g$ が $b \in B$ に対して $f(a) = b$ を満たす $a \in A$ を対応させるとすると、任意の $b \in B$ に対して $g(b)$ はただ $1$ つに定まる。したがって、$g : B \to A$ は写像である。

いま、$f(a) = b$ とすると $g(b) = a$ であるから、$f$ と $g$ の合成写像 $g \circ f$ を考えると、任意の $a \in A$ について、次が成り立つ。

$$ \begin{split} g \circ f \, (a) &= g \big( f(a) \big) \\ &= g(b) \\ &= a \end{split} $$

よって、$g \circ f = \text{id}_{A}$ である。同様に、任意の $b \in B$ について、

$$ \begin{split} f \circ g \, (b) &= f \big( g(b) \big) \\ &= f(a) \\ &= b \end{split} $$

が成り立つから、$f \circ g = \text{id}_{B}$ である。したがって、$g$ は $f$ の逆写像である。

逆に、写像 $f$ の逆写像 $g$ が存在するとすると、$g$ は写像であるので、任意の $b \in B$ に対して $g(b) = a$ となる $a \in A$ が存在する。このとき、$a$ の $f$ による像について、次が成り立つ。

$$ \begin{split} f(a) &= f\big( g(b) \big) \\ &= f \circ g \, (b) \\ &= \text{id}_{B} \, (b) \\ &= b \end{split} $$

つまり、任意の $b \in B$ に対して $f(a) = b$ となる $a \in A$ が存在する。したがって、$f$ は全射である。

次に、$f(a_{1}) = f(a_{2})$ となる $a_{1}, a_{2} \in A$ が存在するとして、$f(a_{1})$ と $f(a_{2})$ の $g$ による像を考えると、$g$ は写像であることから $f(a_{1}) = f(a_{2}) \Rightarrow g \big( f(a_{1}) \big) = g \big( f(a_{2}) \big)$ が成り立つ。また、$g$ が $f$ の逆写像であることから、次が成り立つ。

$$ \begin{align*} g \big( f(a_{1}) \big) &= g \circ f \, (a_{1}) \\ &= \text{id}_{A} \, (a_{1}) \\ &= a_{1} \, , \\ g \big( f(a_{2}) \big) &= g \circ f \, (a_{2}) \\ &= \text{id}_{A} \, (a_{2}) \\ &= a_{2} \\ \end{align*} $$

つまり、任意の $a_{1}, a_{2} \in A$ について、$f(a_{1}) = f(a_{2}) \Rightarrow a_{1} = a_{2}$ が成り立つ。したがって、$f$ は単射である。以上から、$f$ は全単射である。$\quad \square$



証明の考え方

写像 $f : A \to B$ について、($1$)$f$ が 全単射であることと($2$)$f$ が 逆写像を持つことの同値性を示します。

($1$)$\Rightarrow$($2$)の証明

逆対応 $g$ が写像であることの証明
  • まず、$f$ の逆対応である $g$ が、次の 写像であるための条件を満たすことを確かめます。

    ($\text{i}$)集合 $A$ の 任意の 元 $a$ に対して、対応する集合 $B$ の元 $b$ が存在する。
    ($\text{ii}$)集合 $A$ の元 $a$ に対応する集合 $B$ の元 $b$ は ただ $1$ つ に定まる。

  • 写像の要件($\text{i}$)任意性を満たす(すべての元に行き先がある)ことは、$f$ が全射であることから明らかです。

    • $f$ が全射であることから、任意の $b \in B$ に対して、$f(a) = b$ を満たす $a \in A$ が存在します。
    • ここで、$g(b) = a$ と定めれば、任意の $b \in B$ に対して $g$ による行き先があるといえます。
      $$ \begin{gather*} & {}^{\forall} b \in B, \; {}^{\exists}a \in A \; \; \text{s.t.} \; \; f(a) = b \\ & \Rightarrow \; \; {}^{\forall}b \in B, \; {}^{\exists}a \in A \; \; \text{s.t.} \; \; g(b) = a \\ \end{gather*} $$
  • 写像の要件($\text{ii}$)唯一性(同じ元の行き先は同じ)を満たすことは、$f$ が単射であることから明らかです。

    • $f$ が単射であることから、任意の $a_{1}, a_{2}$ について、$f(a_{1}) = f(a_{2}) \Rightarrow a_{1} = a_{2}$ が成り立ちます。
    • ここでも、$f(a_{1}) = b_{1},$ $g(b_{1}) = a_{1}$ と置き換えることで、任意の $b \in B$ に対して、$g$ による行き先が一意に定まることがわかります。
      $$ \begin{gather*} & {}^{\forall}a_{1}, a_{2} \in A, \; f(a_{1}) = f(a_{2}) \Rightarrow a_{1} = a_{2} \\ & \Rightarrow \; \; {}^{\forall}b_{1}, b_{2} \in B, \; b_{1} = b_{2} \Rightarrow g(b_{1}) = g(b_{2}) \\ \end{gather*} $$
  • したがって、$g : B \to A$ は写像であるといえます。
    • $f : A \to B$ と $g : B \to A$ がともに写像であることが確認できましたので、ここではじめて $f$ と $g$ の合成写像が定義できるようになります。
$g$ が逆写像であることの証明
  • 次に、$g$ が $f$ の逆写像であることを示します。

    • 逆写像の定義より、「$f$ が逆写像を持つこと」は、「ある写像 $g$ が存在し、$g \circ f = \text{id}_{A},$ $f \circ g = \text{id}_{B}$ が成り立つ」と言い換えられます。
    • 上記において、$g$ が写像であることは既に示されています。
    • したがって、$f$ と $g$ の合成写像 $g \circ f,$ $f \circ g$ が、それぞれ恒等写像になることを示せばよいです。
  • $g \circ f = \text{id}_{A}$ を示します。$a \in A$ について $(g \circ f) (a) = a$ となることは、以下の式より導けます。1つ目の等号は合成写像の定義のとおり、2つ目の等号は $f$ について$f(a) = b$ であること、3つ目の等号は、 $g$ について$g(b) = a$ であることによります。

  • いま、合成写像 $g \circ f$ を考えると、任意の $a \in A$ について、次が成り立ちます。

    $$ \begin{split} g \circ f \, (a) &\overset{(\text{i})}{=} g \big( f(a) \big) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} g(b) \\ &\overset{(\text{iii})}{=} a \end{split} $$

    • ($\text{i}$) 合成写像の定義によります。
    • ($\text{ii}$)写像 $f$ の定め方より、$f(a) = b$ となります。
    • ($\text{iii}$)写像 $g$ の定め方より、$g(b) = a$ となります。
  • $g \circ f \, (a) = a$ であることから、$g \circ f = \text{id}_{A}$ が成り立ちます。

  • $f \circ g = \text{id}_{B}$ についても、同様に示すことができます。

($1$)$\Rightarrow$($2$)の証明まとめ
  • 以上から、($1$)$f$ が 全単射であれば($2$)$f$ が 逆写像を持つことが示されました。

($1$)$\Leftarrow$($2$)の証明

全射であることの証明
  • まず、$f$ が 全射であるための条件を満たすことを示します。

    • $f$ が全射であるための条件は、「任意の $b \in B$ に対して、$f(a) = b$ となる $a \in A$ が存在すること」です。
  • いま、$f$ に対して、その 逆写像 $g$ が存在するとすると、$g$ は 写像であり、任意の $b \in B$ に対して $g(b) = a$ となる $a \in A$ が存在します。

  • このとき、$a \in A$ の $f$ による像について、次が成り立ちます。

    $$ \begin{split} f(a) &\overset{(\text{i})}{=} f\big( g(b) \big) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} f \circ g \, (b) \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \text{id}_{B} \, (b) \\ &\overset{(\text{iv})}{=} b \end{split} $$

    • ($\text{i}$)$g$ が $f$ の 逆写像であることによります。すなわち、任意の $b \in B$ に対して $g(b) = a \in A$ が存在します。
    • ($\text{ii}$) 合成写像の定義によります。
    • ($\text{iii}$)再び、$g$ が $f$ の 逆写像であることより、$f \circ g = \text{id}_{B}$ が成り立ちます( 逆写像の定義)。
    • ($\text{iv}$) 恒等写像の定義によります。
  • よって、任意の $b \in B$ に対して $f(a) = b$ となる $a \in A$ が存在するといえます。

  • したがって、$f$ が全射であることが示されました。

単射であることの証明
  • 次に、$f$ が 単射であるための条件を満たすことを示します。

    • $f$ が単射であるための条件は、「任意の $a_{1}, a_{2} \in A$ に対して、$f(a_{1}) = f(a_{2})$ $\Rightarrow$ $a_{1} = a_{2}$ が成り立つこと」です。
  • いま、$f(a_{1}) = f(a_{2})$ となる $a_{1}, a_{2} \in A$ が存在するとして、$f(a_{1})$ と $f(a_{2})$ の $g$ による像を考えると、$g$ は写像であることから $f(a_{1}) = f(a_{2}) \Rightarrow g \big( f(a_{1}) \big) = g \big( f(a_{2}) \big)$ が成り立ちます。

  • また、$g$ が $f$ の逆写像であることから、次が成り立ちます。

    $$ \begin{align*} g \big( f(a_{1}) \big) &\overset{(\text{i})}{=} g \circ f \, (a_{1}) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \text{id}_{A} \, (a_{1}) \\ &\overset{(\text{iii})}{=} a_{1} \, , \\ g \big( f(a_{2}) \big) &\overset{(\text{i})}{=} g \circ f \, (a_{2}) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \text{id}_{A} \, (a_{2}) \\ &\overset{(\text{iii})}{=} a_{2} \\ \end{align*} $$

  • よって、任意の $a_{1}, a_{2} \in A$ について、$f(a_{1}) = f(a_{2})$ $\Rightarrow$ $a_{1} = a_{2}$ が成り立つといえます。

  • したがって、$f$ が単射であることが示されました。

  • 以上から、($2$)$f$ が 逆写像を持つならば($1$)$f$ が 全単射であることが示されました。

($1$)$\Leftarrow$($2$)の証明まとめ
  • 以上から、$f$ が逆写像を持つとき、$f$ が全単射になることが示されました。

まとめ

  • 写像 $f$ が全射かつ単射であるとき、$f$ は全単射であるという。
    • 集合 $A$ から $B$ への 写像 $f : A \to B$ が 全単射であるということは、$A$ と $B$ の元が $1$ 対 $1$ に対応すること。
  • 写像 $f$ が逆写像を持つためには、$f$ が全単射であることが必要にして十分である。

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.


初版:2022-11-05   |   改訂:2025-06-16