単射と全射
単射とは、集合 $A$ から $B$ への写像であって、任意の異なる $A$ の元に対して異なる $B$ の元を対応させるようなものです。また、 全射とは、集合 $A$ から $B$ への写像であって、任意の $B$ の元に対応する $A$ の元が存在するものです。
ここでは、単射と全射を定義するとともに、写像が単射・全射であるための条件を明らかにします。
単射の定義
まず、単射の定義を示します。
定義 A.6(単射)
$A, B$ を集合として、$f : A \to B$ を写像とする。$A$ の任意の異なる元 $a_{1}, a_{1}$ が、$f$ によって異なる $B$ の元 $f(a_{1}), f(a_{1})$ に移されるとき、$f$ は単射($\text{injection}$)であるという。
解説
単射とは:行き先に被りのない写像
集合 $A$ から $B$ への写像であって、$A$ の任意の異なる元 $a_{1}, a_{1}$ に対して、異なる $B$ の元 $f(a_{1}), f(a_{1})$ を対応させるようなものを、 単射といいます。
$A$ の任意の異なる元が異なる $B$ の元に移されるということは、$A$ の任意の元について、$f$ による行き先が異なる(被らない)ということに他なりません。
このような意味で、単射とは、行き先に被りのない写像であるといえます。
単射であるための条件
ある写像 $f : A \to B$ が 単射であるための条件は、端的に、次のように表すことができます。
つまり、$f$ が単射であるということは、もとの元が異なれば($a_{1} \neq a_{2}$)その行き先も異なる($f(a_{1}) \neq f(a_{1})$)ということに他なりません。
単射であるための条件の論理式
このことを、論理式を用いて表すと、次のようになります。
単射であるための条件の否定
写像 $f : A \to B$ が 単射にならないのはどういう場合でしょうか。ここでは、あえて 単射であるための条件の否定を考えてみます。
単射であるための条件は、端的にいえば、「異なる元の行き先は必ず異なる」ことでした。したがって、この条件の否定は、「異なる元であるにもかかわらず、行き先が同じになるものが存在する」ことです。
つまり、下図のような場合、$f$ は単射ではありません。異なる $A$ の元にもかかわらず、$B$ での行き先が同じものが存在するためです。

このことは、論理式を用いても確かめられます。すなわち、 (a.1.8)式の否定は、次のようになります。
単射であることの確認
$f$ が単射であることを示すときは、このような元の組($a_{1}, a_{2}$)が存在しないか、よく確かめる必要があります。逆に、行き先が同じになるような元の組が $1$ 組でも存在すれば、$f$ は単射ではないということができます。
単射であるための条件の論理式の別形
写像 $f$ が 単射であるための条件の論理式は、次のように表すこともできます。
(a.1.8$^{\prime}$)式は (a.1.8)式の対偶にほかなりません。 すなわち、 (a.1.8)式が「異なる $A$ の元の行き先は異なる」ことを表しているのに対して、 (a.1.8$^{\prime}$)式は「同じ $B$ の元に来るならば、もととなるの元も同じである」ことを表しています。
写像について考える際に、どこへ「行くか」、どこから「来るか」、どちらから考えても同じことです。場合により、考えやすい(扱いやすい)条件を用いることが重要です。
全射の定義
次に、全射の定義を示します。
定義 A.7(全射)
$A, B$ を集合として、$f : A \to B$ を写像とする。任意の $b \in B$ に対して、$f(a) = b$ となる $a \in A$ が存在するとき、$f$ は全射($\text{surjection}$)であるという。
解説
全射とは:行き先に漏れのない写像
集合 $A$ から $B$ への写像であって、任意の $B$ の元に対して、対応する $A$ の元が存在するものを、 全射といいます。
任意の $B$ の元に対して、対応する $A$ の元が存在するということは、$f$ による $A$ の 像が $B$ に等しいということに他なりません。すなわち、$f : A \to B$ が全射であるならば、次が成り立ちます。
また、これは、$f$ による $A$ の元と $B$ の元の対応が、$B$ の全域を(漏れなく)カバーしているということを意味します。
このような意味で、全射とは、行き先に漏れのない写像であるといえます。
全射であるための条件
ある写像 $f : A \to B$ が 全射であるための条件は、端的に、次のように表すことができます。
全射であるための条件の論理式
このことを、論理式を用いて表すと、次のようになります。
全射であるための条件の否定
写像 $f : A \to B$ が 全射にならないのはどういう場合でしょうか。 単射のときと同様に、あえて 全射であるための条件の否定を考えてみます。
全射であるための条件は、端的にいえば、「任意の $B$ の元に対応する $A$ の元が存在する」ことでした。したがって、この条件の否定は、「どの $A$ の元にも対応しない $B$ の元が存在する」ことです。
つまり、下図のような場合、$f$ は全射ではありません。どの $A$ の元からも来ていない $B$ の元が存在するためです。

このことは、論理式を用いても確かめられます。すなわち、 (a.1.9)式の否定は、次のようになります。
全射であることの確認
$f$ が全射であることを示すときは、このような $B$ の元が存在しないか、よく確かめる必要があります。逆に、$A$ から来ていない $B$ の元が $1$ つでも存在すれば、$f$ は全射ではないということができます。
まとめ
- $A, B$ を集合として、$f : A \to B$ を写像とする。$A$ の任意の異なる元 $a_{1}, a_{1}$ が、$f$ によって異なる $B$ の元 $f(a_{1}), f(a_{1})$ に移されるとき、$f$ は単射であるという。
- 写像 $f : A \to B$ が単射であるためには、次の条件を満たすことが必要にして十分である。
- $A, B$ を集合として、$f : A \to B$ を写像とする。任意の $b \in B$ に対して、$f(a) = b$ となる $a \in A$ が存在するとき、$f$ は全射であるという。
- 写像 $f : A \to B$ が全射であるためには、次の条件を満たすことが必要にして十分である。
参考文献
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