写像の定義
集合 $A$ の任意の元に対して、集合 $B$ の元がただ $1$ つに定まるような対応を、$A$ から $B$ への写像といいます。
ここでは、写像を定義するとともに、$2$ つの集合の間の元の対応が写像であるための条件(任意性、一意性)を明らかにします。
写像の定義
定義 A.1(写像)
集合 $A$ の任意の元 $a$ に対して、$f(a) = b$ となる集合 $B$ の元 $b$ がただ $1$ つ定まるとき、$f$ を $A$ から $B$ への写像($\text{mapping}$)といい、$f : A \to B$ と表す。
解説
写像とは:$2$ つの集合の元の対応
写像とは、$2$ つの集合 $A$ と $B$ の間の元の対応であり、$A$ の任意の元に対して $B$ の対応する元がただ $1$ つに定まるものです。
端的にいえば、写像とは $2$ つの集合の間の元の対応です。集合 $A$ の元 $a$ に対して、集合 $B$ の元 $b$ が対応するとき、この対応関係を $f(a) = b$ のように表します。
写像の定義の仕方は教科書によって様々ですが、 上記の定義文がもっとも丁寧で簡潔だと思います。これをそのまま記憶しておいてもよいのですが、ここでは、 写像の定義を分解しつつ、写像が写像であるための条件を明らかにします。
写像であるための条件
定義より、$2$ つの集合 $A$ と $B$ の間の元の「対応」が「写像」であるためには、「集合 $A$ の ($\text{i}$)任意の 元に対して、集合 $B$ の元が ($\text{ii}$)ただ $1$ つ 定まる」必要があります。
この条件を分解して書き下すと、次のようになります。
($\text{ii}$)集合 $A$ の元 $a$ に対応する集合 $B$ の元 $b$ は ただ $1$ つ に定まる。
このような条件の分解は、 写像の定義を理解する上で、非常に有益です。例えば、「$\sim$ が写像であることを示せ」のような証明は、 上記の条件($\text{i}$)と($\text{ii}$)が成立することを示す問題に置き換えられます。
写像の条件($\text{i}$)任意性
まず、写像であるための 条件($\text{i}$)は、「集合 $A$ のすべての元に行き先がある」ことを表しています。
これは、写像 $f$ が集合 $A$ の任意の元に対して定義できることを要請するものです。このような意味で、集合 $A$ を $f$ の定義域と呼びます。
写像の条件($\text{i}$)の論理式
このことを、論理式を用いて表すと、次のようになります。
写像の条件($\text{i}$)の否定
写像の条件($\text{i}$)は、本質的に何を意味しているでしょうか。ここでは、あえて 条件($\text{i}$)の否定を考えてみます。
条件($\text{i}$)は、「集合 $A$ の 任意の 元 $a$ に対して、対応する集合 $B$ の元 $b$ が存在する」ことを示していました。したがって、 条件($\text{i}$)の否定は、「どんな集合 $B$ の元 $b$ にも対応しない、集合 $A$ の元 $a$ が存在する」ことです。
つまり、下図のような場合、$f$ は写像ではありません。行き先が $B$ に入らない $A$ の元が存在するためです。

このことは、論理式を用いても確かめられます。すなわち、 (a.1.1)式の否定は、次のようになります。
つまり、「集合 $A$ の 任意の 元 $a$ に対して、対応する集合 $B$ の元 $b$ が存在しない」ということは、「どんな集合 $B$ の元 $b$ にも対応しない、集合 $A$ の元 $a$ が存在する」ことと同値です。
写像の例と反例($\text{i}$)
具体例を考えてみます。集合 $A, B$ をともに実数全体の集合 $\mathbb{R}$ とします。このとき、$f : x \mapsto \sqrt{x}$ という対応は $A$ から $B$ への写像でしょうか。
否です。例えば、$-1 \in A$ について考えると、これは確かに $A$(実数の集合)の元です。しかしながら、$f(-1) = \sqrt{-1 \vphantom{()}}$ は明らかに $B$(実数の集合)の元ではありません。すなわち、「どんな集合 $B$ の元 $b$ に対しても $f(-1) = b$ とならない集合 $A$ の元 $-1$ が存在する」ことになります。
したがって、このとき、$f$ は 写像の条件($\text{i}$)を満たさないので、写像ではありません。
この例において、$f : x \mapsto \sqrt{x}$ が写像とならない要因は、集合 $A$ と $B$ の設定にあります。つまり、集合 $A$ を $\mathbb{R}$ から $\mathbb{R}_\gt$(正の実数全体の集合)に制限するか、$B$ を $\mathbb{R}$ から $\mathbb{C}$(複素数全体の集合)に拡張することで、$f$ は 写像の条件($\text{i}$)を満たし、写像となります。
写像の条件($\text{ii}$)一意性
次に、写像であるための 条件($\text{ii}$)は、「写像による行き先はただ $1$ つに定まる」ことを表しています。
これは、写像 $f$ による元の対応が一意的であることを要請するものです。また、これは、写像 $f$ による 像が一意に定まることを意味しています。
写像の条件($\text{ii}$)の論理式
このことを、論理式を用いて表すと、次のようになります。
これは、集合 $A$ の任意の $2$ つの元 $a_{1}$ と $a_{2}$ が等しければ、それぞれに対応する集合 $B$ の元(すなわち、$a_{1}$ と $a_{2}$ の 像)$f(a_{1})$ と $f(a_{2})$ も等しいことを表しています。
端的に言えば、「もとの元が同じであれば、写像による行き先も同じになる」といえます。
写像の条件($\text{ii}$)の否定
条件($\text{i}$)の場合と同様に、 条件($\text{ii}$) の否定を考えてみます。
条件($\text{ii}$)は、「集合 $A$ の元 $a$ に対応する集合 $B$ の元 $b$ は ただ $1$ つ に定まる」を示していました。したがって、 条件($\text{ii}$)の否定は、「集合 $A$ の元 $a$ に対応する集合 $B$ の元 $b$ は ただ $1$ つ に定まらない($2$ つ以上存在する)」ことです。
つまり、下図のような場合、$f$ は写像ではありません。行き先が $2$ つある $A$ の元が存在するためです。

このことは、論理式を用いても確かめられます。すなわち、 (a.1.2)式の否定は、次のようになります。
つまり、「集合 $A$ の元 $a$ に対応する集合 $B$ の元 $b$ は ただ $1$ つ に定まらない($2$ つ以上存在する)」ということは、「$a_{1} = a_{2}$ にもかかわらず $f(a_{1}) \neq f(a_{2})$ となる $a_{1}, a_{2} \in A$ が存在する」ことと同値です。
写像の例と反例($\text{ii}$)
具体例を考えてみます。集合 $X, Y$ をともに実数全体の集合 $\mathbb{R}$ として、$x \in X, y \in Y$ が $x = y^2$ 満たすとします。このとき、$f : x \mapsto y$ という対応は $A$ から $B$ への写像でしょうか。
否です。$f$ は、与えられた実数 $x$ に対して、$2$ 乗して $x$ になる $y$(つまり $x$ の平方根)を対応させます。しかしながら、例えば、$2$ の平方根は $\pm \sqrt{2}$ の $2$ つあります。すなわち、「$x = 2 \in X$ に対して $x = y^2$ を満たす $y \in Y$ は $y = \sqrt{2}, -\sqrt{2}$ の $2$ つ存在する」ことになります。
したがって、このとき、$f$ は 条件($\text{ii}$)を満たさないので、写像ではありません。
写像の条件($\text{ii}$)の論理式の別形
写像であるための 条件($\text{ii}$)は、次のように表すこともできます。
これは、明らかに (a.1.2)式の対偶です。つまり、集合 $A$ の任意の $2$ つの元 $a_{1}$ と $a_{2}$ に対応する集合 $B$ の元(すなわち、$a_{1}$ と $a_{2}$ の 像)$f(a_{1})$ と $f(a_{2})$ が異なるならば、$a_{1}$ と $a_{2}$ も異なることを表しています。
(a.1.2)式が「同じ元の行き先は同じになる」ことを表しているのに対して、 (a.1.2$^{\prime}$)式は「行き先の異なれば、もとの元も異なる」ことを表しています。
写像の条件の論理式の別形
写像であるための $2$ つの条件を示す論理式は、まとめて次のように表すこともできます。
ここで、あまり見慣れない記号 $\exist!$ は、唯一存在量化($\text{uniqueness}$ $\text{quantification}$)の記号です。すなわち、${}^{\exists!} x \; \; \text{s.t.} \; \cdots$ は、「$\cdots$ を満たす $x$ がただ $1$ つ存在する」という意味です。
(a.1.3)式は、これまでに示してきた写像であるための 条件($\text{i}$)と ($\text{ii}$)の論理式 (a.1.1)式と (a.1.2)式を合わせたものであるといえます。
まとめ
- 集合 $A$ の任意の元 $a$ に対して、$f(a) = b$ となる集合 $B$ の元 $b$ がただ $1$ つ定まるとき、$f$ を $A$ から $B$ への写像といい、$f : A \to B$ と表す。
- $f : A \to B$ が写像であることは、次の $2$ つの条件を満たすことと同値である。
($\text{ii}$)集合 $A$ の元 $a$ に対応する集合 $B$ の元 $b$ は ただ $1$ つ に定まる。
参考文献
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