写像の像と逆像

集合 $S$ の像とは、写像 $f$ により $S$ の元の行く先の集合です。また、集合 $T$ の逆像とは、写像 $f$ により $T$ に移される元の集合です。写像の像と逆像は、いずれも写像により定まる部分集合です。

ここでは、像と逆像を定義するとともに、その具体例を示します。

像と逆像の定義

まず、写像の像と逆像の定義を示します。


定義 A.2(像と逆像)

$A, B$ を集合として、$f : A \to B$ を写像とする。部分集合 $S \subset A, T \subset B$ に対して、次のような集合 $f(S)$ を $S$ の像($\text{image}$)、$f^{-1} (T)$ を $T$ の逆像($\text{inverse}$ $\text{image}$)という。

$$ \begin{align*} f(S) &= \{\, f(a) \mid a \in S \, \} \, , \\ f^{-1} (T) &= \{ \, a \in A \mid f(a) \in T \, \} \\ \end{align*} \tag{$a.1.4$} $$


解説

像とは:写像による行き先の集合

写像 $f : A \to B$ と $A$ の部分集合 $S$ が与えられたとき、部分集合 $S$ の任意の元に対応する $B$ の元の集合を、$S$ の像といいます。

$$ \begin{align*} f(S) = \{\, f(a) \mid a \in S \, \} \end{align*} $$

端的にいえば、$S$ の像とは、「$S$ の元の 写像 $f$ による行き先 の集合」といえます。

像は $f$ の値域の部分集合

写像 $f$ による $S$ の像 $f(S)$ は、集合 $B$(写像 $f$ の値域)の部分集合です。すなわち、$f(S) \subset B$ が成り立ちます。

定義より、$S$ は $A$ の部分集合です($S \subset A$)。また、$f$ は写像であるので、任意の $a \in A$ について $f(a) \in B$ が成り立ちます( 写像の条件($\text{i}$)任意性)。

すなわち、任意の $s \in S$ について $f(s) \in B$ が成り立ちます。したがって、$f(s) \in f(S)$ ならば $f(s) \in B$ となり、$f(S) \subset B$ が成り立ちます。

以上から、$S$ の像 $f(S)$ は $B$ の部分集合であることが確かめられました。


逆像とは:写像により移された元の集合

写像 $f : A \to B$ と $B$ の部分集合 $T$ が与えられたとき、部分集合 $T$ の任意の元に対応する $A$ の元の集合を、$T$ の逆像といいます。

$$ \begin{align*} f^{-1} (T) = \{ \, a \in A \mid f(a) \in T \, \} \end{align*} $$

端的にいえば、$T$ の逆像とは、「$f$ により $T$ に移されたの元 の集合」といえます。

逆像は $f$ の定義域の部分集合

写像 $f$ による $T$ の逆像 $f^{-1} (T)$ は、集合 $A$(写像 $f$ の定義域)の部分集合です。すなわち、$f^{-1}(T) \subset A$ が成り立ちます。

定義より、$t \in f^{-1} (T)$ であれば、明らかに $t \in A$ となります。したがって、$f^{-1} (T) \subset A$ 、すなわち、$T$ の逆像 $f^{-1} (T)$ は $A$ の部分集合であることが確かめられます。

逆像と逆写像の違い

写像による逆像と(後に定義する)逆写像を混同しないよう注意が必要です。

上記の通り、逆像とは、写像により定まる部分集合です。写像 $f : A \to B$ により定まる、集合 $T \subset A$ の逆像を $f^{-1}(T)$ のように表します( 逆像の定義)。

これに対して、逆写像とは、ある写像により定まる写像です。すなわち、写像 $f : A \to B$ による集合 $A$ と $B$ の元の対応の逆対応が写像であるとき、これを $f$ の逆写像といい、$f^{-1} : B \to A$ のように表します( 逆写像の定義)。

ただし、ある写像の逆対応は、必ずしも写像になるわけではありません( 下記の考察を参照)。


像と逆像:部分集合としての定義と注意点

写像による像(および逆像)は、 上記の通り、あくまで部分集合として定義されています。

しかしながら、文脈によっては、像(および逆像)が集合の $1$ つの要素を表す場合がありますので、注意が必要です。

(例)要素が $1$ つしかない集合の像

例えば、$f$ を写像として、要素が $1$ つしかない部分集合の $f$ による像を考えてみます。

いま、集合 $A$ から $B$ への写像 $f : A \to B$ があり、$a \in A$ と $b \in B$ について、$f(a) = b$ が成り立つとします。

このとき、$S = \{ a \}$ とすると、$S$ の像は、次のように表せます。

$$ \begin{align*} f(S) &\overset{(\text{i})}{=} f( \{ a \} ) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \{ f(a) \} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \{ b \} \end{align*} $$

  • ($\text{i}$)$1$ つ目の等号は $S = \{ a \}$ という仮定によります。
  • ($\text{ii}$)$2$ つ目の等号は、 像の定義によります。すなわち、$f(S) = \{\, f(a) \mid a \in S \, \}$ において、$S = \{ a \}$ であることから、$f( \{ a \} ) = \{ f(a) \}$ が成り立ちます。
  • ($\text{iii}$)$3$ つ目の等号は $f : a \mapsto b$ という仮定によります。このとき $f(a) = b$ が成り立ちます。

上式において、$f( \{ a \} )$ と $f(a)$ は、異なる意味を持っています。

すなわち、$f( \{ a \} )$ は、$a$ のみを要素として持つ集合 $\{ a \}$ の像を表しており、$b$ のみを要素として持つ集合 $\{ b \}$ と等しく($f( \{ a \} ) = \{ b \}$)なります。一方で、$f(a)$ は集合 $B$ の $1$ つの要素を表しており、$b$ と等しく($f(a) = b$)なります。


用語について(部分集合としての像と、元としての像)

教科書により、$f( \{ a \} )$ と $f(a)$ のどちらにも、像という用語が用いられることがあります。

したがって、像という言葉が部分集合を指しているのか、集合の $1$ つの要素(元)を指しているか、意識して読み解く必要があります。

また、自分で定理を証明したり問題を解く際には、どちらを指しているか明確に区別すべきです。これは、曖昧な記述を避け、論理的に考察を進める上で重要です。


像と逆像の例

次に、写像による像と逆像の例を示します。


例(平仮名と母音の対応)

$A, B$ を、次のような集合とする。

$$ \begin{align*} A &= \{\; \small{い}, \small{ろ}, \small{は}, \small{に}, \small{ほ} \; \} \, , \\ B &= \{\; \small{あ}, \small{い}, \small{う}, \small{え}, \small{お} \; \} \\ \end{align*} $$

また、集合 $A$ から $B$ への写像 $f : A \to B$ を、次のように定める。

$$ \begin{alignat*} {4} f(\small{い}) &= \small{\small{い}} \, , \quad f(\small{ろ}) &= \small{\small{お}} \, , \\ f(\small{は}) &= \small{\small{あ}} \, , \quad f(\small{に}) &= \small{\small{い}} \, , \\ f(\small{ほ}) &= \small{お} \\ \end{alignat*} $$

このとき、$f$ による像と逆像に関して、次が成り立つ。

$$ \begin{alignat*} {3} & \; (\text{i}) & \quad f(\{\, \small{い}, \small{は}, \small{に} \,\}) &= \{\, \small{あ}, \small{い} \,\} \\ & \, (\text{ii}) & f^{-1}(\{\, \small{い} \,\}) &= \{\, \small{い}, \small{に} \,\} \\ & (\text{iii}) & f(\{\, \small{い} \,\}) &= \{\, \small{い} \,\} \\ & (\text{iv}) & f^{-1}(\{\, \small{う}, \small{え} \,\}) &= \; \phi \\ \end{alignat*} $$



解説

写像による元の対応(平仮名と母音の対応)

上記の $f : A \to B$ は、いろは歌の最初の平仮名 $5$ 文字(集合 $A$)と、日本語の母音(集合 $B$)を対応させるものです。

$f$ による集合 $A$ と $B$ の元の対応は、次のように図示できます。

像と逆像の例:平仮名と母音の対応を表す写像

$f$ が写像であることの確認

写像による像と逆像について考える前に、まず、 上記の対応 $f$ が写像であることを確かめます。

写像であるための条件

いま、集合 $A$ から $B$ への対応 $f$ は、次のように定められています。

$$ \begin{alignat*} {4} f(\small{い}) &= \small{\small{い}} \, , \quad f(\small{ろ}) &= \small{\small{お}} \, , \\ f(\small{は}) &= \small{\small{あ}} \, , \quad f(\small{に}) &= \small{\small{い}} \, , \\ f(\small{ほ}) &= \small{お} \\ \end{alignat*} $$

このとき、($\text{i}$)集合 $A$ の任意の元に対して、 対応する集合 $B$ の元が存在し、しかも($\text{ii}$)集合 $A$ の元に対応する集合 $B$ の元は、ただ $1$ つに定まります。

したがって、$f : A \to B$ は 写像であるための条件を満たします。


$f$ の像と逆像

上記の写像 $f : A \to B$ による像と逆像に関して、次が成り立ちます。

$$ \begin{alignat*} {3} & \; (\text{i}) & \quad f(\{\, \small{い}, \small{は}, \small{に} \,\}) &= \{\, \small{あ}, \small{い} \,\} \\ & \, (\text{ii}) & f^{-1}(\{\, \small{い} \,\}) &= \{\, \small{い}, \small{に} \,\} \\ & (\text{iii}) & f(\{\, \small{い} \,\}) &= \{\, \small{い} \,\} \\ & (\text{iv}) & f^{-1}(\{\, \small{う}, \small{え} \,\}) &= \; \phi \\ \end{alignat*} $$

($\text{i}$)左辺の $f(\{\, \small{い}, \small{は}, \small{に} \,\})$ は、$A$ の部分集合 $\{\, \small{い}, \small{は}, \small{に} \,\}$ の像を表しています。ここで、$A$ の部分集合の各元($\small{い}, \small{は}, \small{に} \in A$)は $f$ により、$\small{あ}, \small{い} \in B$ に移されます。

($\text{ii}$)左辺の $f^{-1}(\{\, \small{い} \,\})$ は、$B$ の部分集合 $\{\, \small{い} \,\}$ の逆像を表しています。写像 $f$ により、$\small{い} \in B$ に移される $A$ の元は、$\small{い}, \small{に} \in A$ の $2$ つです。

($\text{iii}$)少しややこしいですが、左辺の $f(\{\, \small{い} \,\})$ は $A$ の部分集合である $\{\, \small{い} \,\}$ の像を、右辺の $\{\, \small{い} \,\}$ は $B$ の部分集合を表しています。つまり、写像 $f$ により、$\small{い} \in A$ が $\small{い} \in B$ に移されることを表しています。

($\text{iv}$)左辺の $f^{-1}(\{\, \small{う}, \small{え} \,\})$ は、$B$ の部分集合 $\{\, \small{う}, \small{え} \,\}$ の逆像を表しています。写像 $f$ により $\small{う}, \small{え} \in B$ に移される $A$ の元はありません。よって、これは、空集合 $\phi$ に等しくなります。


写像の逆対応は必ずしも写像ではない

$A$ から $B$ への対応 $f$ が写像であったとしても、その逆対応が $B$ から $A$ への写像になるとは限りません。このことを、 上記の例を用いて確かめます。

写像の逆対応

上記の例における、写像 $f$ による $A$ から $B$ への対応の逆を考えます。

このような逆対応 $f^{-1}$ は、次のように図示できます。これは、 上図において、$A$ の元から $B$ の元への対応を表す矢印を反転させたものに他なりません。

像と逆像の例:平仮名と母音の写像の逆対応

このとき、$f$ の逆対応 $f^{-1} : B \to A$ は写像でしょうか。

逆対応が写像であるかの確認($\text{i}$)任意性

いま、$f^{-1}$ の定義域である集合 $B$ の元 $\small{う}, \small{え}$ には、逆対応 $f^{-1}$ による行き先がありません。

したがって、$f^{-1}$ は、 写像の条件($\text{i}$)任意性を満たさず、写像ではないといえます。

定義域の制限

では、逆対応 $f^{-1}$ の定義域を $B$ から $B^{\prime} = \{\, \small{あ}, \small{い}, \small{お} \,\}$ に制限するとどうでしょうか。

定義域を $B$ から $B^{\prime}$ に制限することで、任意の $B^{\prime}$ の元($\small{あ}, \small{い}, \small{お}$)に対応する $A$ の元が存在するようになります。

したがって、逆対応 $f^{-1} : B^{\prime} \to A$ は 写像の条件($\text{i}$)任意性を満たすようになります。

逆対応が写像であるかの確認($\text{ii}$)一意性

しかしながら、定義域を制限しても、逆対応 $f^{-1} : B^{\prime} \to A$ は写像になりません。

$B^{\prime}$ の元 $\small{い}, \small{お}$ の行き先がただ $1$ つに定まらず、 写像の条件($\text{ii}$)一意性を満たさないためです。

例えば、$\small{い} \in B^{\prime}$ について、$f^{-1}(\small{い}) = \small{い} \in A$ $\land$ $f^{-1}(\small{い}) = \small{に} \in A$ が成り立ちます。すなわち、$\small{い} \in B^{\prime}$ には、行き先が $2$ つあります。

逆対応が写像であるための条件

以上から、ある写像 $f : A \to B$ の逆対応は、一般に写像ではないことがわかります。

後に示すように、ある写像 $f$ が 逆写像 $f^{-1}$ を持つ($f$ の逆対応が写像である)ためには、$f$ が 全単射である必要があります( 定理 A.1(逆写像を持つことと同値な条件))。


まとめ

  • $A, B$ を集合として、$f : A \to B$ を写像とする。部分集合 $S \subset A, T \subset B$ に対して、次のような集合 $f(S)$ を $S$ の像、$f^{-1} (T)$ を $T$ の逆像という。

    $$ \begin{align*} f(S) &= \{\, f(a) \mid a \in S \, \} \, , \\ f^{-1} (T) &= \{ \, a \in A \mid f(a) \in T \, \} \\ \end{align*} $$

    • $S$ の像は、「写像 $f$ により $S$ の元が移る先 の集合」といえる。
    • $T$ の逆像は、「写像 $f$ により $T$ に移される元 の集合」といえる。
  • ある写像 $f$ の逆対応 $f^{-1}$ は、必ずしも写像ではない。


参考文献

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初版:2022-10-29   |   改訂:2025-06-05