二項定理
二項定理とは、$(x + y)^n$ の展開式の一般形を表す定理です。
ここでは、二項定理を証明するとともに、展開式に現れる係数(二項係数)の意味や性質、組合せとの関係を明らかにします。二項定理は、確率論と統計学の重要な基礎です。
二項定理
まず、二項定理を示すとともに、展開式に現れる係数の性質や組合せとの関係を明らかにします。
定理 1.1(二項定理)
任意の実数 $x, y$ と自然数 $n$ について、次が成り立つ。
ここで、$\displaystyle\binom{n}{k} = \frac{n!}{k!(n - k)!} \;\; (0 \leqslant k \leqslant n)$ であり、これを二項係数($\text{binomial}$ $\text{coefficient}$)という。
解説
二項定理とは:$(x + y)^{n}$ の展開式の一般形
二項定理($\text{binomial}$ $\text{theorem}$) とは、$2$ つの項の和を $n$ 乗した展開式の一般形を表す定理です。
すなわち、$2$ つの実数 $x, y$ の和の $n$ 乗の展開式について、次が成り立ちます。
$n$ が小さい場合(低次の二項定理)
$n$ が小さい($n = 2, 3, 4$)場合、$(x + y)^{n}$ の展開式は次のようになります。
$n = 2$ の場合
$$ (x + y)^2 = x^2 + 2xy + y^2 $$$n = 3$ の場合
$$ (x + y)^3 = x^3 + 3x^2y + 3xy^2 + y^3 $$$n = 4$ の場合
$$ (x + y)^4 = x^4 + 4x^3y + 6x^2y^2 + 4xy^3 + y^4 $$
これらの展開式に現れる各項の係数($\{1, 2, 1\}$ $,\{1, 3, 3, 1\}$ $,\{1, 4, 6, 4, 1\}$)は、すべて $\displaystyle \binom{n}{k}$ の形になっています。例えば、$(x + y)^4$ の第 $3$ 項は、$n = 4$, $k = 2$ のときの二項係数に対応しています。
逆に、これらの展開式を一般化したものが二項定理であるということもできます。
このように、二項定理は任意の自然数 $n$ に対して $(x + y)^n$ の展開式を与える強力な道具です。
二項係数とは
定理 1.1(二項定理)において、$(x + y)^{n}$ の展開式の一般項の係数を 二項係数($\text{binomial}$ $\text{coefficient}$) といい、次のように表します。
ここで、$n!$ は $n$ の 階乗を表しています。
二項係数と組合せ
定理 1.1(二項定理)において、二項係数 $\displaystyle \binom{n}{k}$ は、「$n$ 個の異なるもののから $k$ 個を選ぶ場合の数」に一致します。
これは、 組合せの考え方により、$(x + y)^{n}$ の展開式における $x^{n-k} y^{k}$ の係数を求めることで理解できます。
二項係数の意味
$(x + y)^{n}$ の展開式における $x^{n-k} y^{k}$ の係数は、$n$ 個の $(x + y)$ から $y$ を $k$ 個、$x$ を $n - k$ 個選ぶ場合の数に等しくなります。
これは、$n$ 個の $(x + y)$ という項から $y$ を取る $k$ 個を選ぶ場合の数に他なりません。($y$ を取る $n$ 個の項が決まれば、$x$ を取る残りの $n-k$ 個の項は自ずと決まります。)
逆に、$n$ 個の異なるもののから $k$ 個を選ぶ場合の数は、二項定数を用いて表すことができます( 組合せの定義を参照)。
以上から、 定理 1.1(二項定理)における二項係数は、「$n$ 個の異なるもののから $k$ 個を選ぶ場合の数」に一致するといえます。
二項定理と二項係数の拡張
二項係数と 組合せの対応関係は、 定理 1.1(二項定理)において $n$ を自然数に限定している限り成り立ちます。
解析学などでは、二項定理は複素数の範囲まで拡張されます。二項係数についても、より一般化して再定義されます。すなわち、任意の複素数 $m$ と自然数 $n$ に対して、次のように 一般化された二項係数 が定義されます。
このような一般化により、二項係数と 組合せの対応関係は成り立たなくなります。組合せは、あくまで自然数で数え上げられるものに対して定義されるからです。
二項係数に関する重要な関係式
定理 1.1(二項定理)や 二項係数の定義から直ちに導かれる重要な関係式についてまとめます。
二項係数の基本的性質
二項係数に関して、次の $2$ つの関係式が成り立ちます。
これらは、いずれも 二項係数の定義から直ちに導くことができます。
また、二項係数と組合せの対応関係を踏まえると、$2$ つの関係式はそれぞれ、次のような意味を持つと考えられます。
二項係数の基本的性質(1)
(1.1.10)式は、$n$ 個から $k$ 個を選ぶ場合の数が、$n$ 個から $(n - k)$ 個を選ぶ場合の数に等しいことを表しています。
すなわち、$n$ 個から $k$ 個を選ぶ組合せが定まれば、(選ばれなかった)残りの $(n - k)$ の組合せも自ずから定まるということです。
二項係数の基本的性質(2)
(1.1.11)式は、$(n + 1)$ 個から $k$ 個を選ぶ場合の数が、$n$ 個から $(k - 1)$ 個を選ぶ場合の数と、$n$ 個から $k$ 個を選ぶ場合の数の和に等しいことを表しています。
この式は、$(n + 1)$ 個から $k$ 個を選ぶとき、特定の $1$ 個(仮に $A$ とする)を「含む場合」と「含まない場合」に分けて数え上げるという組合せ論的な考え方に基づいています。
$A$ を含む場合、$A$ 以外の $n$ 個から残りの $(k - 1)$ 個を選ぶ場合の数は $\displaystyle\binom{n}{k - 1}$ 通りです。また、$A$ を含まない場合、$A$ 以外の $n$ 個から $k$ 個を選ぶ場合の数は $\displaystyle\binom{n}{k}$ 通りです。
当然ながら、$A$ を含む場合と $A$ を含まない場合は排反なので、 和の法則より、これらの場合の数を足したものが「$(n + 1)$ 個から $k$ 個を選ぶ場合の数」に等しくなるということです。
組合せの和に関する恒等式
定理 1.1(二項定理)において、$x = y = 1$ とすると、次の関係式が得られます。
二項係数と組合せの対応関係を踏まえると、これは、すべての組合せの総数は $2^n$ 通りある という意味を持つと捉えられます。
すなわち、$n$ 個の異なるものからいくつかを選ぶ組合せにおいて、選ばれる個数 $k = 0, 1, \cdots, n$ にわたるすべての場合の数を足し上げると $2^n$ 通りになるということです。
証明
すべての自然数 $n$ に対して、次が成り立つことを、数学的帰納法により証明する。
まず、$n = 1$ のとき、$(x + y)^1 = x + y$ であり、
である。したがって、$n = 1$ のとき (1.1.8)式が成り立つ。
次に、$n = m$ のとき、次が成り立つと仮定する。
このとき、$(x + y)^{m+1}$ について、次が成り立つ。
ここで、第2項の文字を $l = k + 1$ と置くと、
となる。したがって、
となり、$n = m + 1$ のときも (1.1.8)式が成り立つ。以上から、すべての自然数 $n$ について (1.1.8)式が成り立つ。$\quad \square$
証明の考え方
数学的帰納法 により証明します。
- $n = 1$ のとき: 二項係数の定義から明らかといえます。
- $n \gt 1$ のとき: 二項係数の基本的性質に関する関係式を利用するとともに、積に関する分配法則を丁寧に適用することで (1.1.8)式が成り立つことを導きます。
$n = 1$ の場合の証明
$n = 1$ のとき、 (1.1.8)式は次のようになります。
$$ \begin{align*} \tag{1.1.8} (x + y)^1 = \sum_{k=0}^{1} \, \binom{1}{k} \; x^{1-k} y^k \end{align*} $$左辺について、$(x + y)^1 = x + y$ であることは明らかです。
また、右辺について、 二項係数の定義より、次が成り立ちます。
$$ \begin{split} \sum_{k=0}^{1} \binom{1}{k} \; x^{1-k} y^k &= \binom{1}{0} x^1 y^0 + \binom{1}{1} x^0 y^1 \\ &= x + y \end{split} $$よって(左辺)$=$(右辺)であり、$n = 1$ のとき (1.1.8)式が成り立つことが示されました。
$n \gt 1$ の場合の証明
$n = m$ のとき (1.1.8)式が成り立つと仮定して、$n = m+1$ のときも同様に (1.1.8)式が成り立つことを導きます。
帰納法の仮定は次の通りです。
- $m \gt 1$ について、次が成り立つ。$$ \begin{align*} (x + y)^m = \sum_{k=0}^{m} \, \binom{m}{k} \; x^{m-k} y^k \end{align*} $$
- $m \gt 1$ について、次が成り立つ。
このとき、$(x + y)^{m+1}$ に分配法則を適用して計算すると、次のようになります。
$$ \begin{align*} (x + y)^{m+1} &\overset{(\text{i})}{=} (x + y)^m \cdot (x + y) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \left( \sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} x^{m-k} y^k \right) (x + y) \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} x^{m-k+1} y^k + \sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} x^{m-k} y^{k+1} \tag{$\star$} \end{align*} $$- ($\text{ii}$)帰納法の仮定によります。
- ($\text{iii}$)積に関する分配法則をそのまま適用します。
上記 ($\star$)式において、第 $2$ 項の文字を整理すると、次のようになります。
$$ \begin{align*} \sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} x^{m-k} y^{k+1} &\overset{(\text{i})}{=} \sum_{l=1}^{m+1} \binom{m}{l-1} x^{m-l+1} y^{l} \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \sum_{k=1}^{m+1} \binom{m}{k-1} x^{m-k+1} y^{k} \tag{$\star \star$} \end{align*} $$- ($\text{i}$)$l = k + 1$ として、$k$ に関する和を $l$ に関する和に置き換えます。文字の置換に伴って、$k = 0, 1, 2, \cdots, m$ に関する和は、$l = 1, 2, 3, \cdots, m+1$ に関する和に置き換わります。
- ($\text{ii}$)$k = l$ として、文字 $l$ を $k$ に単純に置き換えます。改めて $k$ に関する和に置換し直すのは、次のステップで、第 $1$ 項と第 $2$ 項の和を取るときに文字が同じになるようにするためです。
よって、$(x + y)^{m+1}$ は、改めて次のように計算されます。
$$ \begin{align*} (x + y)^{m+1} &\overset{(\text{i})}{=} \sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} x^{m-k+1} y^k + \sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} x^{m-k} y^{k+1} \tag{$\star$} \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \sum_{k=0}^{m} \binom{m}{k} x^{m-k+1} y^k + \sum_{k=1}^{m+1} \binom{m}{k-1} x^{m-k+1} y^{k} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \binom{m}{0} x^{m+1} + \sum_{k=1}^{m} \left\{ \binom{m}{k} + \binom{m}{k-1} \right\} x^{m+1-k} y^k + \binom{m}{m} y^{m+1} \\ &\overset{(\text{iv})}{=} \binom{m+1}{0} x^{m+1} + \sum_{k=1}^{m} \binom{m+1}{k} x^{(m+1)-k} y^k + \binom{m+1}{m+1} y^{m+1} \\ &\overset{(\text{v})}{=} \sum_{k=0}^{m+1} \binom{m+1}{k} \; x^{(m+1)-k} y^k \end{align*} $$- ($\text{i}$) ($\star$)式そのもの。
- ($\text{ii}$) ($\star$)式の第 $2$ 項を ($\star \star$)式により置き換えます。
- ($\text{iii}$)($\text{ii}$)式の第 $1$ 項と第 $2$ 項を展開して、同じ項の係数をまとめます。
- $k = 0$ の項は、第 $1$ 項からのみ出てきます。
- $k = 1, 2, \cdots, m$ については、第 $1$ 項と第 $2$ 項それぞれから $1$ 項ずつ出てきます。
- $k = m+1$ の項は、第 $2$ 項からのみ出てきます。
- ($\text{iv}$)
二項係数の基本的性質より、次が成り立つことを利用します。$$ \begin{align*} \binom{n + 1}{k} &= \binom{n}{k - 1} + \binom{n}{k} \tag{1.1.11} \\ \end{align*} $$
したがって、$n = m + 1$ のときも (1.1.8)式が成り立つことが示されました。
以上から、すべての自然数 $n$ について (1.1.8)式が成り立つといえます。
二項定理の例題
次に、二項定理に関連する例題とその解答を示します。
例題 1(展開式の係数)
$(x + y)^8$ の展開式における $x^5y^3$ の係数を求めよ。
解答
定理 1.1(二項定理)より、$(x + y)^8$ は、次のように展開できる。
ここで、$x^5 y^3$ に対応するのは $k = 3$ のときである。したがって、$x^5 y^3$ の係数は、次の通り。
例題 2(割り算の余りと二項定理)
$12^{10}$ を $10$ で割った余りを求めよ。
解答
次のように、$12$ を $(10 + 2)$ として、 定理 1.1(二項定理)を用いて展開すると、次の通り。
この展開式において、$10$ の倍数でない項($10$ で割った余りに影響を与える項)は、$k=10$ の場合(つまり $10^{0} = 1$ の場合)のみ。したがって、
を $10$ で割った余りを求めればよい。
より、求める余りは $4$ 。
解答のポイント
- 「$m$ で割った余り」を求めるために、$m$ の倍数でない項だけを取り出す($m$ の倍数である項を取り除く)ことを考えます。
- 二項定理を用いて、$m$ のべき乗を因数に含む形に展開することで、計算を簡単にできます。
二項定理を利用したべき乗の展開
$12^{10}$ は、計算するにはあまりも大きな数字です。そこで、$12 = 10 + 2$ と見なして二項定理を適用することで、$12^{10}$ を $10$ のべき乗を因数に含む形に展開します。
$10$ の倍数でない項のみ取り出す
上記の展開式において、$12^{10}$ を $10$ で割った余りに影響を与える項は、$10$ の倍数でない項のみです。
- $0 \leqslant k \leqslant 9$ であれば、上記の展開式の対応する項は、必ず $10$ の倍数($10$ のべき乗を因数に含む形)になります。したがってこれらの項を $10$ で割って余りは、当然 $0$ になります。
- $k = 10$ のとき、上記の展開式において $10^{0} = 1$ となり、対応する項は $10$ の倍数になりません。
したがって、$12^{10}$ を $10$ で割った余りに寄与するのは $k = 10$ の項のみです。
以上から、$12^{10}$ を $10$ で割った余りは、$1024$ を $10$ で割った余りに等しく、求める余りは $4$ です。
上記の解答をまとめると、次のように表せます。
余りを求める問題を解く際の注意点
割り算の余りを求める問題に対して、二項定理による展開がいつも有効とは限りません。合同式を用いた解法など、幅広に検討する必要があります。
例題 3(べき乗と階乗、二項係数の大小関係)
$n$ を正の整数とする。$n \geqslant 4$ に対して、次が成り立つことを示せ。ただし、$0 \leqslant k \leqslant n$ とする。
解答
($1$)$\sim$($3$)の不等式をそれぞれ示す。
($1$)$n$ は正の整数であるので、$n^{n} \gt 0$ かつ $n! \gt 0$ である。また、$n \geqslant 4$ であることから、次が成り立つ。
したがって、$n^n \gt n!$ が成り立つ。
($2$)$n=4$ のとき、$4! = 24$ かつ $2^{4} = 16$ であるから、$4! \gt 2^{4}$ が成り立つ。
$m \gt 4$ として、$n = m$ のとき、$m! \gt 2^{m}$ が成り立つとすると、
が成り立つ。したがって、$n \geqslant 4$ に対して、$n! \geqslant 2^{n}$ が成り立つ。
($3$) 定理 1.1(二項定理)より、$2^{n}$ について、次が成り立つ。
すなわち、$2^{n}$ は $0 \leqslant k \leqslant n$ の二項係数の総和であり、すべての二項係数は $0$ より大きいから、次が成り立つ。
解答のポイント
($1$)$\sim$($3$)の不等式に分けて、それぞれ証明します。
- ($1$) 階乗の定義から明らかといえます。
- ($2$)数学的帰納法により証明します。($2$)の不等式が成り立つためには、$n \geqslant 4$ である必要があります。
- ($3$) 定理 1.1(二項定理)から直ちに導ける、 組合せの和に関する恒等式を利用します。
(1)$n^n \gt n!$ の証明
$n^n \gt n!$ であることは、 階乗の定義から明らかといえます。
$n^n$($n$ の $n$ 乗)は $n$ 個の $n$ の積です。
$$ n^n = \underbrace{n \cdot n \cdot \cdots \cdot n \vphantom{()}}_{n \, \text{個の積}} $$$n!$($n$ の階乗)は、$1$ から $n$ までのすべての自然数の積です( 階乗の定義)。
$$ n! = \underbrace{n \cdot (n-1) \cdots 1 \vphantom{()}}_{n \, \text{個の積}} $$これらを比較すると、$n^n$ ではすべての項が $n$ ですが、$n!$ は $n$ よりも小さい数も掛けているので、明らかに $n^n \gt n!$ が成り立つといえます。
いま、$n^{n} \gt 0$ かつ $n! \gt 0$ であることから、$n!$ を $n^n$ で割った数を考えると、次のようになります。
$$ \begin{align*} \frac{\, n! \,}{\, n^n \,} = \frac{n}{n} \cdot \frac{n-1}{n} \cdots \frac{2}{n} \cdot \frac{1}{n} \end{align*} $$問題の仮定より、$n \geqslant 4$ であることから、これは必ず $1$ よりも小さい数となります。
$$ \begin{align*} \frac{\, n! \,}{\, n^n \,} = \frac{n}{n} \cdot \frac{n-1}{n} \cdots \frac{2}{n} \cdot \frac{1}{n} \lt 1 \end{align*} $$- 実は、上式より、$n^n \gt n!$ が成り立つためには、$n \geqslant 2$ であれば十分であるといえます。
以上から、$n \geqslant 4$ に対して、$n^n \gt n!$ が成り立つことが示されました。
(2)$n! \gt 2^n$ の証明
- 数学的帰納法により証明します。
(2-1)$n=4$ の場合
$n=4$ のとき、$4!$ と $2^{4}$ は次のように計算されます。
$$ \begin{align*} 4! = 24 \, , \quad 2^{4} = 16 \\ \end{align*} $$したがって、$4! \gt 2^{4}$ が成り立ちます。
(2-2)$n \gt 4$ の場合
$m \gt 4$ として、$n = m$ のとき $m! \gt 2^{m}$ が成り立つと仮定します(帰納法の仮定)。
このとき、$n = m + 1$ について、次が成り立ちます。
$$ \begin{align*} (m+1)! &\overset{(\text{i})}{=} (m+1) \cdot m! \\ &\overset{(\text{ii})}{\gt} (m+1) \cdot 2^{m} \\ &\overset{(\text{iii})}{\gt} 2 \cdot 2^{m} \\ &\overset{(\text{iv})}{=} 2^{m+1} \end{align*} $$- ($\text{ii}$)帰納法の仮定より $m! \gt 2^{m}$ が成り立ちます。
- ($\text{iii}$)いま、$m \gt 4$ であることから、$m + 1 \gt 5 \gt 2$ です。
したがって、$n \gt 4$ の場合も、$n! \geqslant 2^{n}$ が成り立つといえます。
以上から、$n \geqslant 4$ に対して、$n! \geqslant 2^{n}$ が成り立つことが示されました。
(参考)$n$ が $4$ より小さい場合
- (2)$n! \gt 2^n$ が成り立つためには、$n \geqslant 4$ である必要があります。
- これは、$n$ が小さい数字の場合について計算することで、簡単に確かめることができます。$$ \begin{alignat*} {4} &n = 1: & \quad 1! = 1 \; & \boxed{\lt} \; 2 = 2^1 & \quad (\times) \vphantom{\big(\big)} \\ &n = 2: & \quad 2! = 2 \; & \boxed{\lt} \; 4 = 2^2 & \quad (\times) \vphantom{\big(\big)} \\ &n = 3: & \quad 3! = 6 \; & \boxed{\lt} \; 8 = 2^3 & \quad (\times) \vphantom{\big(\big)} \\ &n = 4: & \quad 4! = 24 \; & \boxed{\gt} \; 16 = 2^4 & \quad (\checkmark) \vphantom{\big(\big)} \\ &n = 5: & \quad 5! = 120 \; & \boxed{\gt} \; 32 = 2^5 & \quad (\checkmark) \vphantom{\big(\big)} \\ &n = 6: & \quad 6! = 720 \; & \boxed{\gt} \; 64 = 2^6 & \quad (\checkmark) \vphantom{\big(\big)} \\ \end{alignat*} $$
(3)$2^n \gt \displaystyle \binom{n}{k}$ の証明
定理 1.1(二項定理)から直ちに導ける、 組合せの和に関する恒等式を利用します。
すなわち、 定理 1.1(二項定理)において、$x = y = 1$ とすると、次の関係式が得られます。
$$ \begin{align*} 2^n &= (1 + 1)^{n} \\ &= \sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} \end{align*} $$- これは、すべての組合せの総数は $2^n$ 通りある という意味を持つ恒等式です。
- $n$ 個の異なるものからいくつかを選ぶ組合せにおいて、選ばれる個数 $k = 0, 1, \cdots, n$ にわたるすべての場合の数を足し上げると $2^n$ に等しくなるということです。
ここで、$2^{n}$ は $0 \leqslant k \leqslant n$ の二項係数の総和であり、すべての二項係数は $0$ より大きいから、次が成り立ちます。
$$ \begin{align*} 2^n = \sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} \gt \binom{n}{k} \end{align*} $$以上から、$2^n \gt \displaystyle \binom{n}{k}$ が成り立つことが示されました。
べき乗と階数、二項係数の大小関係に関する考察
上記に示した不等式の意味について考察します。
$$ n^n \overset{(1)}{\; \gt \vphantom{()}} n! \overset{(2)}{\; \gt \vphantom{()}} 2^n \overset{(3)}{\; \gt \vphantom{()}} \binom{n}{k} $$これは $3$ つの不等式からなる不等式列であり、左から順に「$n^n$($n$ の $n$ 乗)」、「$n!$($n$ の階乗)」、「$2^n$($2$ の $n$ 乗)」、および「二項係数」が並べられています。
この不等式列は、$n$ が十分大きな数字の場合の 指数関数・階乗・二項係数の増加スピードを表していると捉えられます。
- $n^n$ は $n!$ よりも早く増加します。
- $n \geq 4$ 以降、$n!$ は $2^n$ よりも早く増加します。
- $\displaystyle \binom{n}{k}$ は $2^n$ の一部であり、$2^n$ を超えることはありません。
このような順序関係は、確率論や解析学だけでなく、数値計算などにおいても利用されます。
参考文献
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