場合の数

「場合の数」とは、ある事象が起こり得る場合の総数です。

場合の数は確率の(古典的な)定義に直結しています。場合の数を「漏れなく被りなく」数え上げることは、確率の計算においても極めて重要です。

場合の数の数え上げ

確率論や統計学を学ぶ上で、「場合の数」を正しく理解することは必要不可欠です。

ここでは、場合の数の数え上げの基本的な考え方や、「和の法則」、「積の法則」について解説します。



場合の数とは

「場合の数」とは、ある事象が起こり得る場合の総数です。

つまり、ある事柄が何通り起こり得るかを数え上げたものが「場合の数」です。



数え上げの基本的な考え方

場合の数は正確に数え上げる必要があります。

そのためには、あらかじめ数える「対象や基準」を明らかにし、「漏れなく」かつ「被りなく」数え上げる必要があります。



数える対象と基準を明らかにする

数える対象が何で、どういった基準で数えるかを明確にすることが重要です。

例えば、$10$ 人から $2$ 人を選ぶ場合の数を考える際に、選ばれた $2$ 人に区別をつけるかどうか等は、あらかじめ明確にしておく必要があります。

$A$ と $B$ の $2$ 人を選ぶとき、$(A, B)$ と $(B, A)$ を区別せずに $1$ 組として数えることもできます。しかしながら、選ばれた $2$ 人に(委員長, 副委員長)のような役職があるとすると、$(A, B)$ と $(B, A)$ を区別して $2$ 組として数えるべきです。

このように、数え上げの対象や基準を明らかにすることは、場合の数を考える際の基本です。

漏れなく数え上げる

数え上げにあたっては、すべての場合を網羅的に列挙する必要があります。

起こり得る場合に数え漏れがあると、確率の計算に誤差が生じてしまいます。

被りを防ぐための重複排除

特に注意すべきなのが、重複(ダブルカウント)です。同じ場合を重複して数えてしまうのは、よくある(しかも重大な!)ミスです。

場合の数について考える際は、「場合分けが排反か」、「異なる観点から同じ場合を数えていないか」」を常に意識する必要があります。



和の法則

和の法則とは、「$A$ が起きる場合の数が $m$ 通り、$B$ が起きる場合の数が $n$ 通りであり、しかも、$A$ と $B$ が同時に起こり得ない(互いに排反である)とき、どちらかが起きる場合の数は $m+n$ 通りある」という原則のことです。



解説(和の法則)

排反になるように整理して数え上げる

和の法則のポイントは、すべての場合を重複のないように(互いに排反になるように)場合分けすれば、ダブルカウントは必ず防げるということです。

排反でない場合について考える必要があるとき

しかしながら、どうしても重複する場合について考える必要があるときもあります。

その場合、重複する場合の数($A$ かつ $B$ である場合の数)を数え上げ、これを除く必要があります。

和の法則の数式表現

$A$ が起きる場合の数を $n(A)$ のように表すとすると、次が成り立ちます。

  • $A$ と $B$ が同時に起こり得ない(排反である)とき

    $$ n(A \cup B) = n(A) + n(B) $$

  • $A$ と $B$ が同時に起こり得る(排反でない)とき

    $$ n(A \cup B) = n(A) + n(B) - n(A \cap B) $$



例 1(和の法則)

例えば、白いシャツを $3$ 枚、黒いシャツを $2$ 枚持っているとする。「$1$ 枚のシャツを選んで着る」という行動に対して、白いシャツを着る場合は $3$ 通り、黒いシャツを着る場合は $2$ 通りある。よって、「$1$ 枚のシャツを選んで着る」場合の数は、$3 + 2 = 5$ 通り。



いま、選んで着るのは $1$ 枚と決まっているので、「白いシャツを着る場合」と「黒いシャツを着る場合」は排反です。したがって、それぞれの場合の数を足したものが、全体としての場合の数になります。


例 2(和の法則)

サイコロを $1$ 回振って出る目を確認する。

  • $A$:$4$ 以下の目が出る
  • $B$:偶数の目が出る

とすると、$A$ または $B$ が起きる場合の数は $5$ 通り。



この例では、$A$ と $B$ は排反ではなく、$A$ かつ $B$($4$ 以下の偶数の目が出る)という場合が起こり得ます。したがって、$A$ と $B$ の場合の数を足したものから、$A$ かつ $B$ である場合の数を引く必要があります。

これを、 上記のような数式により表現すると、次のようになります。

$$ \begin{gather*} \begin{align*} n(A \cup B) &= n(A) + n(B) - n(A \cap B) \\ &= 4 + 3 - 2 \\ &= 5 \\ \end{align*} \\ \\ \left[\quad \begin{align*} & n(A) = n(\{ \fbox{1}, \fbox{2}, \fbox{3}, \fbox{4} \}) = 4 \\ & n(B) = n(\{ \fbox{2}, \fbox{4}, \fbox{6} \}) = 3 \\ & n(A \cap B) = n(\{ \fbox{2}, \fbox{4} \}) = 2 \\ \end{align*} \quad \right] \end{gather*} $$



積の法則

積の法則とは、「$A$ が起きる場合の数が $m$ 通りであり、そのそれぞれに対して、$B$ が起きる場合の数が $n$ 通りである場合、$A$ と $B$ がともに起きる場合の数は $m \times n$ 通りである」という原則のことです。



解説(積の法則)

独立した事象がともに起きる場合の数

積の法則のポイントは、独立した事象がともに起きるの場合の数は、それぞれの場合の数の積になる ということです。

ただし、もし、$A$ の結果により $B$ の結果が変わるような場合、積の法則はそのまま適用できません。$B$ の結果により $A$ の結果が変わるような場合も同様です。

つまり、積の法則は、基本的には独立した事象に対して適用できるということです。

段階的な事象によく適用できる

積の法則は、事象が 段階的に起きる場合 によく適用できます。

例えば、「服の上着を選んでからズボンを選ぶ」ように、$1$ つの選択のあとにもう $1$ つの選択が続くような場合、積の法則を用いて、上着とズボンの組合せの総数を求めることができます。

時間的な前後関係を前提とするものではない

積の法則は、事象の起こる順序、すなわち 時間的な前後関係 を前提とするものではありません。

積の法則を説明する際、わかりやすさのために「まず上着を選んで、次にズボンを選ぶ」のように、事象の起こる順序(時間的な前後関係)を強調して表現することがあります。

しかしながら、積の法則の適用条件はあくまで事象の独立性です。「上着を選んだ結果」が「ズボンを選んだ結果」に影響しないことが重要です。

積の法則の数式表現

$A$ と $B$ がともに起きる場合の数を $n(A \times B)$ のように表すとすると、次が成り立ちます。

  • $A$ と $B$ が独立しているとき
    $$ n(A \times B) = n(A) \times n(B) $$


例 1(積の法則)

例えば、$4$ 種類の帽子と $3$ 種類のシャツを持っており、それぞれから $1$ つずつ選んで身に着けるとき、可能なコーディネートの数は $4 \times 3 = 12$ 通り。



帽子を選んだ結果はシャツを選んだ結果(どのシャツを選ぶか)に影響しません。したがって、積の法則をそのまま適用できます。


例 2(積の法則)

$60$ の正の約数がいくつあるか考える。

$60$ を素因数分解すると $60 = 2^{2} \cdot 3 \cdot 5$ であるから、$60$ の約数は $2^{x} \cdot 3^{y} \cdot 5^{z}$ の形で表せる。

ここで、$x = 0, 1, 2$ $, y = 0, 1$ $, z = 0, 1$ であり、$x, y, z$ の選び方はそれぞれ独立であるから、$3 \times 2 \times 2 = 12$ 通りある。

したがって、$60$ の正の約数は $12$ 個。



積の法則は、自然数(正の整数)の約数の個数を求める問題の基礎となる考え方です。



参考文献

[1] 舟木直久. 確率論. 朝倉書店. 2004.
[2] 縄田和満. 確率・統計 $\text{I}$. 丸善出版. 2013.
[3] 小針晛宏. 確率・統計入門. 岩波書店. 1973.
[4] 真貝寿明. 徹底攻略 確率統計. 共立出版. 2012.
[5] 東京大学教養学部統計学教室 編. 統計学入門. 東京大学出版会. 1991.
[6] W. Feller. An Introduction to Probability Theory and Its Applications. John Wiley & Sons, Inc.. 1968.
[7] Robert B. Ash. Basic Probability Theory. Dover Publications, Inc.. 2008.
[8] G. Andrews. Special Functions. Cambridge University Press. 1999.
[9] 杉浦光夫. 解析入門 $\text{I}$. 東京大学出版会. 1980.
[10] 吉田伸生. [新装版] ルベーグ積分入門. 日本評論社. 2021.


初版:2025-07-15   |   改訂:2025-08-05