条件付き確率
条件付き確率とは、ある事象がすでに起こったという条件の下で、別の事象が起こる確率です。
ここでは、条件付き確率の定義を示すとともに、その考え方や計算方法について例題を用いて解説します。
条件付確率の定義
まず、条件付き確率の定義を示します。
定義 1.9(条件付き確率)
任意の事象 $A, B$ に対して、$A$ が起こったという条件の下で $B$ が起こる確率を、$A$ を条件とする $B$ の条件付き確率($\text{conditional}$ $\text{probability}$)といい、$P(B \mid A)$ と表す。
解説
条件付き確率とは
条件付き確率とは、ある事象 $A$ が起こったという条件の下で、別の事象 $B$ が起こる確率を表す概念です。
条件付き確率の直感的な理解
直感的には、 条件付き確率は、「事象 $A$ が起こった」世界に標本空間を制限した上で、事象 $B$ が起こる確率であるともいえます。
このことは、次の $2$ つの確率を比較することで理解できます。
(1)事象 $B$ が起こる確率:$P(B)$
まず、単に事象 $B$ が起こる確率を考えます。いま、標本空間 $\varOmega$ とその部分集合(正確には 可算加法族の要素)としての事象 $B$ が、次のように表せるとします。

ここで、事象 $B$ が起こる確率 $P(B)$ は $B$ の測度(確率測度)であり、標本空間の確率は $1$ に規格化されている($P(\varOmega \,) = 1$ が成り立つ)ことから、次が成り立ちます( 確率の定義を参照)。
すなわち、事象 $B$ が起こる確率とは、標本空間 $\varOmega$ 全体の測度(太枠部分)に対する、部分集合 $B$ の測度(斜線部分)であるといえます。
(2)事象 $A$ を条件として事象 $B$ が起こる確率:$P(B \mid A)$
これに対して、事象 $A$ を条件として事象 $B$ が起こる確率は、次の式により表せます( 条件付き確率の定義)。
いま、部分集合 $A$ について $A = (A \cap B) \cup (A \cap \overline{B \, \vphantom{\big(\big)}})$ が成り立つことから、上式に対応する標本空間は、次のように表すことができます。

ここで、事象 $A$ を条件として事象 $B$ が起こる確率は、部分集合 $A$ の測度(太枠部分)に対する、部分集合 $A \cap B$ の測度(斜線部分)に対応しています。すなわち、条件付き確率 $P(B \mid A)$ は、「事象 $A$ が起こった」世界に標本空間を制限した上で、事象 $B$ が起こる確率であるといえます。
これが、「情報が与えられることで確率が変わる」という 条件付き確率の考え方です。「事象 $A$ が起こった」という情報が得られたいま、もはや標本空間全体を考える必要はなく、部分集合 $A$ の中における確率を考えればよいということです。
条件付き確率を表す表現
このような意味で、 条件付き確率は「ある事象 $A$ が 起こったという条件の下で、別の事象 $B$ が起こる確率」と表現されます。
また、同様の表現として、「事象 $A$ が 起こったとわかっている場合に 事象 $B$ が起こる確率」、「事象 $A$ が起こったという 情報を得た上で 事象 $B$ が起こる確率」、「事象 $A$ が 必ず起こるという条件の下で 事象 $B$ が起こる確率」などと言い換えられます( [1], [3], [5] など)。
英語の教科書では、"$\text{conditional}$ $\text{probability}$ $\text{of}$ $B$ $\textbf{given}$ $A$", “$\text{conditional}$ $\text{probability}$ $\text{of}$ $B$ $\textbf{given}$ $\textbf{that}$ $A$ $\textbf{has}$ $\textbf{occurred}$”, “$\text{the}$ $\text{probability}$ $\text{of}$ $\text{event}$ $B,$ $\textbf{assuming}$ $\textbf{that}$ $\textbf{event}$ $A$ $\textbf{has}$ $\textbf{occurred}$” などと表現されています( [6], [7] など)。いずれも、「$A$ が起こった という条件(仮定)の下で $B$ が起こる確率」を意味しています。
定義の前提:$P(A) \gt 0$
条件付き確率の定義において、明らかに、$P(A) \gt 0$ であることが前提となっています。
すなわち、起こり得る事象についてのみ、それを条件とする条件付き確率を考えることができるということです。逆にいえば、事象 $A$ を条件とする条件付き確率を考えるためには(当然ながら)$A$ がすでに起こっている必要があるということです。
条件付き確率と同時確率の違い
$2$ つの事象 $A, B$ に関する確率を考えるとき、$A$ を条件として $B$ が起こる確率( 条件付き確率)と、$A$ と $B$ がともに起こる確率(同時確率)を混同しないように注意が必要です。
これらは、主に、事象 $A$ が既に起こったか否かにより異なります。
(1)同時確率:$P(A \cap B)$
同時確率とは、事象 $A$ と $B$ がともに(同時に)起こる確率であり、$P(A \cap B)$ と表されます。
例えば、$52$ 枚のトランプから $1$ 枚を選ぶとき、選ばれたカードのスート(マーク)が $\heartsuit$ であることを事象 $A$、ランク(数字)が偶数であることを事象 $B$ とします。このとき、事象 $A$ と $B$ の同時確率 $P(A \cap B)$ とは、選ばれたカードが $\heartsuit$ の $2, 4, 6, 8, 10 ,12$ のいずれかである確率に他なりません。
(2)条件付き確率:$P(B \mid A)$
一方で、 条件付き確率とは、事象 $A$ が起こったという条件の下で事象 $B$ が起こる確率であり、$P(B \mid A)$ と表されます( 条件付き確率の定義)。
上記のトランプの例において、事象 $A$ を条件として $B$ が起こる確率(条件付き確率)$P(B \mid A)$ とは、選ばれたカードのスート(マーク)が $\heartsuit$ であることが既にわかっているとき、更にランク(数字)が偶数である確率に他なりません。これは、 条件付き確率の定義および (1.2.8)式より、次のように求められます。
このように、条件付き確率と同時確率は、事象 $A$ を前提条件とするか否か($A$ が既に起こったか否か)により異なります。
条件付き確率の計算
次に、例題を用いて、条件付き確率の考え方と計算方法について解説します。
例題 1(2人の子供の性別)
子供が $2$ 人いる家庭を考える。子供の性別は、$2$ 人とも男の子、上が男の子で下が女の子、上が女の子で下が男の子、$2$ 人とも女の子、の $4$ 通りがあり、それらは同様に確からしいとする。いま、ある家庭を訪れたところ、子供は $2$ 人で、うち $1$ 人が男の子であることが分かったとする。このとき、もう $1$ 人も男の子である確率を求めよ。
解答
男の子を $M$、女の子を $F$ と表すとすると、子供が $2$ 人いる家庭は、次の $4$ 通り。
いま、これらは同様に確からしいので、「少なくとも $1$ 人が男の子である」ことを事象 $A$、「$2$ 人とも男の子である」ことを事象 $B$ とすると、
したがって、子供の $1$ 人が男の子であることが分かった上で、もう $1$ 人も男の子である確率は、
解答の考え方
条件付き確率の定義から直ちに求められます。$2$ 人の子供の性別の組合せが $4$ 通りあり、そのいずれであるかは同様に確からしいという点に注意します。
前提事項の整理
子供が $2$ 人いる家庭において、子供の性別の組合せは、次の $4$ 通りです。ここで、$M$ は男の子、$F$ は女の子を表します。
$$ \begin{align*} \big\{\, (M, M), \, (M, F), \, (F, M), \, (F, F) \,\big\} \end{align*} $$問題文より、$2$ の子供の性別の組合せ(上記 $4$ 通り)は同様に確からしいとします。つまり、子供が $2$ 人いる家庭は、等しい確率で上記 $4$ 通りのいずれかであるということです。
事象の定義
子供が $2$ 人いる家庭を訪れたときに起こり得る事象 $A, B$ を、それぞれ次のように定めます。
- 事象 $A$:少なくとも $1$ 人が男の子である
- 事象 $B$:$2$ 人とも男の子である
このように定めると、事象 $A$ の起こる確率は、訪れた家庭が $(M, M), \, (M, F), \, (F, M)$ のいずれかである確率に他なりません。
$$ \begin{gather*} P(A) = \frac{\, 3 \,}{\, 4 \,} \end{gather*} $$また、事象 $B$ が起こる確率は、訪れた家庭が $(M, M)$ である確率です。
$$ \begin{gather*} P(B) = \frac{\, 1 \,}{\, 4 \,} \end{gather*} $$いま、事象 $A$ と $B$ の 定義より、事象 $A$ と $B$ がともに起こる確率(同時確率)は、$B$ が起こる確率に等しくなります。
$$ \begin{align*} P(A \cap B) &= P(B) \\ &= \frac{\, 1 \,}{\, 4 \,} \end{align*} $$- 事象 $A$ と $B$ を部分集合と考えると、 定義より $B \sub A$ であるため、$A \cap B = B$ が成り立ちます。よって、$P(A \cap B) = P(B)$ となります。
条件付確率の計算
- 以上から、子供の $1$ 人が男の子であることが分かった上で、もう $1$ 人も男の子である確率とは、事象 $A$ を条件とする事象 $B$ の確率(条件付き確率)として表すことができます。
- これは、
条件付き確率の定義および
(1.2.8)式より、次のように計算できます。$$ \begin{align*} P(B \mid A) &= \frac{\, P(A \cap B) \,}{\, P(A) \,} \\ &= \frac{\; \displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 4 \,} \vphantom{\bigg(\bigg)} \;}{\; \displaystyle\frac{\, 3 \,}{\, 4 \,} \vphantom{\bigg(\bigg)} \;} \\ &= \frac{\, 1 \,}{\, 3 \,} \\ \end{align*} $$
よくある誤答とその理由
例題1の誤答としてよくあるのが、$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,}$ と $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 4 \,}$ です。これらがなぜ誤りか、以下に考察します。
(1)$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,}$(誤答)
誤りの原因:「兄弟(姉妹)の性別は独立である」という前提の適用
これは、主に、問題文に明示されていない「兄弟(姉妹)の性別は独立である」という前提を適用したことによる誤答と考えられます。
すなわち、兄弟(姉妹)の性別は独立であるので、$2$ 人の子供のうち、下の子が男の子である確率は(上の子の性別によらず)$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,}$ である、というわけです。
一見もっともらしい論理ですが、これは誤りです。なぜならば、 例題1において、男の子であると判明した子の生まれ順(兄か弟か)は不明だからです。
正しい考え方:「$2$ の子供の性別の組合せ」が同様に確からしい
「兄弟(姉妹)の性別は独立である」という考え方自体は正しいです。これは、$2$ 人の子供の性別の組合せ(下記の $4$ 通り)が同様に確からしいという、 例題1の前提とも矛盾しません。
しかしながら、 例題1において求める確率の条件は、「上の子か下の子かは分からないが、どちらか $1$ 人が男の子であることが分かった」というものです。つまり、男の子と判明した子の生まれ順(兄か弟か)は不明であるということです。
この条件により、$2$ 人の子供の性別の可能な組み合わせは $(M, M), \, (M, F), \, (F, M)$ の $3$ 通りに限定されます。このうち、$2$ 人とも男であるのは $(M, M)$ のみであるから、正しい答えは $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 3 \,}$ になるというわけです。
参考:$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,}$ が正答になる場合
したがって、 例題1の問題文が、例えば「ある家庭を訪れたところ、子供は $2$ 人で、上の子が男の子であることが分かったとする」や「兄がいることが分かった」等であれば、もう $1$ 人(下の子)も男の子である確率は $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,}$ が正答となります。
これは、「上の子が男の子」という条件により、$2$ 人の子供の性別の可能な組み合わせが $(M, M), \, (M, F)$ の $2$ 通りに限定されるからです。このうち、$2$ 人とも男であるのは $(M, M)$ のみであるから、正しい答えは $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,}$ になります。兄弟(姉妹)を入れ替えても同様です。
(2)$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 4 \,}$(誤答)
誤りの原因:条件付き確率と同時確率の混同
これは、条件付き確率と同時確率の混同による誤答と考えられます。
条件付き確率と同時確率は、次のように異なります( 条件付き確率と同時確率の違いを参照)。
- 同時確率:$A$ と $B$ がともに起こる確率
- 条件付き確率:$A$ を条件として $B$ が起こる確率
いま、 例題1において、事象 $A, B$ を、次のように定めています。
- 事象 $A$:少なくとも $1$ 人が男の子である
- 事象 $B$:$2$ 人とも男の子である
このとき、$A$ と $B$ の同時確率は($B$ が起こる確率に等しく)$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 4 \,}$ となります( 解答の考え方を参照)。
正しい考え方:「$1$ 人が男の子であることが分かった」という条件を考慮する
しかしながら、これは、「うち $1$ 人が男の子であることが分かった」という条件を考慮した確率ではありません。
つまり、$A$ と $B$ の同時確率は、訪れた家庭に「少なくとも $1$ 人男の子がいる」という情報がない中で、直接的に「$2$ 人とも男の子である」確率を求めたものです。
逆にいえば、訪れた家庭の子供が「$2$ 人とも男の子である」確率は、何も情報が無い状態では $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 4 \,}$(同時確率)であるのに対して、「少なくとも $1$ 人が男の子である」という情報を得ることで $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 3 \,}$(条件付き確率)にまで高まるということです。
例題 2(ホテルの部屋と宿泊者の性別)
ホテルに $3$ つの部屋があり、それぞれに男性 $2$ 人、男性と女性、女性 $2$ 人が宿泊している。$1$ つの部屋をノックしたところ、女性の声で「誰か来たから開けて」と聞こえた。このとき、ドアを開けて出てくるのが男性である確率を求めよ。
解答
女性の声が聞こえることを事象 $A$、男性がドアを開けることを事象 $B$ とする。ノックに反応して誰が声を出すかは同様に確からしいとすると、女性の声が聞こえる確率 $P(A)$ は、
また、声に応えてドアを開ける人は $6$ 通りであるが、女性と同室の男性がドアを開けるのはそのうち $1$ 通りである。したがって、
以上から、女性の声が聞こえたという条件の下で男性がドアを開ける確率 $P(B \mid A)$ は、次の通り。
解答の考え方
条件付き確率の定義から直ちに求められます。問題文より、「ノックに反応して誰が声を出すかは同様に確からしい」、「声を出した人とドアを開ける人は別である」という前提があることに注意が必要です。
前提事項の整理
- ホテルの部屋割りについて整理すると、次のようになります。
各部屋に $2$ 人ずつ宿泊しており、宿泊客の性別の組み合わせは、次の通りです。ここで、$M$ は男性、$F$ は女性を表します。
$$ \begin{align*} \big\{\, (M_{1}, M_{2}), \, (M_{3}, F_{1}), \, (F_{2}, F_{3}) \,\big\} \end{align*} $$仮に、部屋の名前を $X, Y, Z$ とすると、 例題2の状況は、次のように図示できます。
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- 「ノックに反応して誰が(どの宿泊客が)声を出すかは同様に確からしい」(前提 $1$)とします。
- 問題文に明示的な記述はありませんが、これは妥当な前提です。
- 実際には、男性の方が(社会心理的に)声を出しやすいとか、女性の方が(知覚能力的に)ノックに反応しやすいといった、性別による偏りがあるかもしれません。
- しかしながら、問題文に明示されていない限り、性別による偏りは考慮すべきではありません。
- また、「声を出した人とドアを開ける人は別である」(前提 $2$)とします。
- すなわち、『声を出した宿泊客の「誰か来たから開けて」という依頼に応じて、必ずもう $1$ 人の宿泊客がドアを開ける』とします。
- これも、問題文から読み取れる、妥当な前提です。
- 実際には、「誰か来たから開けて」と依頼した宿泊客が(もう $1$ 人も手がふさがっているなどの理由で)自分でドアを開けることもあるでしょう。しかしながら、そこまで考えないということです。なお、このようなケースを許すか否かにより答えが変わります( よくある誤答とその理由を参照)。
事象の定義
上記のような状況で、ホテルの $1$ つの部屋をノックしたときに起こり得る事象 $A, B$ を、それぞれ次のように定めます。
- 事象 $A$:女性の声で「誰か来たから開けて」と聞こえる
- 事象 $B$:男性がドアを開ける
このとき、ノックに反応して女性の声が聞こえる確率 $P(A)$ は、次の通りです。
$$ \begin{align*} P(A) &= \frac{\, 3 \,}{\, 6 \,} \\ &= \frac{\, 1 \,}{\, 2 \,} \end{align*} $$- 前提$1$より、「ノックに反応して誰が(どの宿泊客が)声を出すかは同様に確からしい」とします。
- したがって、ノックに反応して声を出しうる人は $6$ 人いますが、そのうち女性は $3$ 人($F_{1}, F_{2}, F_{3}$)です。
また、女性の声が聞こえ、かつ男性がドアを開ける確率(すなわち $A$ と $B$ の同時確率)$P(A \cap B)$ は、次の通りです。
$$ \begin{align*} P(A \cap B) = \frac{\, 1 \,}{\, 6 \,} \end{align*} $$前提$2$より、「声を出す人とドアを開ける人は別である」とします。
したがって、$\small(\footnotesize{\text{声を出す人}},$ $\footnotesize{\text{ドアを開ける人}}\small)$ の組合せは、次の $6$ 通りになります。
$$ \begin{alignat*} {4} \big\{\, (& M_1, M_2 &),& \, (& M_2, M_1 &), \\ \, (& M_3, \, F_1 &),& \, (& F_1 \,, M_3 &), \\ \, (& \, F_2 \,, \, F_3 &),& \, (& F_3 \,, \, F_2 \, &) \,\big\} \end{alignat*} $$このとき、声に応えてドアを開ける人は $6$ 通り考えられますが、女性と同室の男性がドアを開けるのはそのうち $1$ 通り($(F_{1}, M_{3})$ の場合のみ)です。
条件付確率の計算
- 以上から、女性の声が聞こえたという条件の下で男性がドアを開ける確率は、事象 $A$ を条件とする事象 $B$ の確率(条件付き確率)として表すことができます。
- これは、
条件付き確率の定義および
(1.2.8)式より、次のように計算できます。$$ \begin{align*} P(B \mid A) &= \frac{\, P(A \cap B) \,}{\, P(A) \,} \\ &= \frac{\; \displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 6 \,} \vphantom{\bigg(\bigg)} \;}{\; \displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,} \vphantom{\bigg(\bigg)} \;} \\ &= \frac{\, 1 \,}{\, 3 \,} \end{align*} $$
よくある誤答とその理由
例題2の誤答としてよくあるのが、$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,}$ と $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 6 \,}$ です。これらがなぜ誤りか、以下に考察します。
(1)$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,}$(誤答)
誤りの原因:部屋ごとの宿泊客の偏りを考慮していない
これは、主に、部屋を単位として考えることにより、問題文の前提(部屋ごとの宿泊客の偏り)の考慮が抜け落ちたことによる誤答と考えられます。
部屋を単位として考えると、事象 $A$ が起こった(女性の声が聞こえた)時点で、ノックした部屋は女性が宿泊している $2$ 部屋(下図の $Y$ か $Z$ のどちらか)に絞れます。
したがって、事象 $B$ が起こる(男性が出てくる)確率は $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,}$ である、というわけです。
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一見もっともらしい論理ですが、これは誤りです。なぜならば、いま同様に確からしいとしているのは、「ノックに反応して誰が声をあげるか」( 前提$1$)だからです。これは、あくまで人を単位とするもので、部屋を単位とするものではありません。
正しい考え方:「ノックに反応して誰が声を出すか」が同様に確からしい
前提$1$にしたがって、「ノックに反応して誰が声を出すか」が同様に確からしいとすると、声を出す可能性のある女性は、部屋 $Y$ では $F_{1}$、部屋 $Z$ では $F_{2}$ か $F_{3}$ です。すなわち、事象 $A$ が起こった(女性の声が聞こえた)時点で、ノックした部屋が $Z$ である確率は $Y$ である確率よりも $2$ 倍高いことになります。
このように考えると、求める確率(事象 $A$ を条件として事象 $B$ が起こる確率)は「$F_{1}, F_{2}, F_{3}$ のいずれかのうち、声を出したのが $F_{1}$ であった確率」に等しく $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 3 \,}$ が正答となります。
部屋を単位とする考え方は、「ノックした部屋が $X, Y, Z$ のいずれかであることは同様に確からしい」という前提を置くことに他なりません。しかしながら、これは部屋ごとの宿泊客の偏り($Z$ には $Y$ の $2$ 倍女性がいる)を考慮できないため、 例題2を解くためには、不適切な前提といわざるを得ません。
(2)$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 6 \,}$(誤答)
誤りの原因 1:条件付き確率と同時確率の混同
これは、条件付き確率と同時確率の混同による誤答と考えられます。
上記の 解答の通り、事象 $A$(女性の声が聞こえる)と事象 $B$(男性がドアを開ける)の同時確率 $P(A \cap B)$ は $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 6 \,}$ です。
しかしながら、いま求めているのは、事象 $A$ を条件として事象 $B$ が起こる確率(条件付き確率)であり、事象 $A$ は既に起こっているものとして考える必要があります。
条件付き確率と同時確率を混同しないように注意が必要です( 条件付き確率と同時確率の違いを参照)。
誤りの原因 2:「誰か来たから開けて」の意味の見落とし
また、これは、「誰か来たから開けて」というセリフの意味を捉え損ね、「声を出した人とドアを開ける人は別である」という前提( 前提$2$)を置き忘れたことによる誤答とも考えられます。
いま、仮に 前提$2$を置かずに、「誰か来たから開けて」といった宿泊客も(もう $1$ 人の宿泊客と等しく)ドアを開けうるとして考えてみます。
このとき、$\small(\footnotesize{\text{声を出す人}},$ $\footnotesize{\text{ドアを開ける人}}\small)$ の組合せは、次の $12$ 通りになります。
このうち、女性($F_{1}$)が声を出し、かつ男性($M_{3}$)がドアを開けるのは $1$ 通りであるので、事象 $A$(女性の声が聞こえる)と事象 $B$(男性がドアを開ける)の同時確率は $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 12 \,}$ となります。
よって、事象 $A$ を条件として事象 $B$ が起こる確率(条件付き確率)は $\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 6 \,}$ となる、というわけです。
正しい考え方:「声を出した人とドアを開ける人は別である」と考える
しかしながら、 前提事項の整理において検討した通り、 例題2を解く上では、「誰か来たから開けて」というセリフから「声を出した人とドアを開ける人は別である」( 前提$2$)と考えるのが妥当です。
なお、明示的な記述はありませんが、 [3], [4] では、このような考えに基づく解答が示されています。
参考:$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 6 \,}$ が正答になる場合
例題2の問題文が、例えば、「部屋をノックしたところ中から女性の声が聞こえた」や『部屋をノックしたところ女性の声で「誰か来たわ」と聞こえた』等であれば、$\displaystyle\frac{\, 1 \,}{\, 6 \,}$ が正答になります。
この場合、声を出した宿泊客も(もう $1$ 人の宿泊客と等しく)ドアを開けうると考える方が妥当であるからです。
参考文献
[1] 舟木直久. 確率論. 朝倉書店. 2004.
[2] 縄田和満. 確率・統計 $\text{I}$. 丸善出版. 2013.
[3] 小針晛宏. 確率・統計入門. 岩波書店. 1973.
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[5] 東京大学教養学部統計学教室 編. 統計学入門. 東京大学出版会. 1991.
[6] W. Feller. An Introduction to Probability Theory and Its Applications. John Wiley & Sons, Inc.. 1968.
[7] Robert B. Ash. Basic Probability Theory. Dover Publications, Inc.. 2008.
[8] G. Andrews. Special Functions. Cambridge University Press. 1999.
[9] 杉浦光夫. 解析入門 $\text{I}$. 東京大学出版会. 1980.
[10] 吉田伸生. [新装版] ルベーグ積分入門. 日本評論社. 2021.