対称群の定義

これまでの準備(置換の定義置換の積の定義)を踏まえて、置換全体の集合を対称群として定義します。また、前項で示した群の定義に従って、置換全体の集合が積の演算により群であること(対称群が群であること)を確かめます。

対称群の定義


定義 3.4(対称群)

MnM_nnn 個の要素からなる集合とする。MnM_n 上の置換全体からなる群を nn 次の対称群(symmetric group\text{symmetric group})という。



下に改めて確認するように、置換は積の演算により群となり、これを対称群と呼びます。nn 次の対称群は、普通 SnS_nSn\mathfrak{S}_n などと表記します。S\mathfrak{S} はドイツ文字で英字の SS(エス)に相当します。次数 nn は置換により並べ替える MnM_n の元の数を指しています。一方、置換の定義の項でみた通り、対称群 SnS_n の位数(群の元の数)は n!n! になりますので、これを混同しないように注意が必要です。

MnM_n 上の置換全体からなる群ですので、置換群(permutation group\text{permutation group})といいたくなります。実際、置換群といっても問題ないことも多いのですが、対称群の部分群を置換群と定義する仕方もありますので、MnM_n 上の置換全体からなる群を指す場合は対称群を用いる方が好ましいかと思われます。


置換全体の集合が群であることの確認

前項で示した群の定義に従って、置換全体の集合が積の演算により群であることを確かめます。

GG を空集合でない集合とする。GG についての 22 項演算(law of composition\text{law of composition})が定義されていて、次の条件を満たすとき、GG を群(group\text{group})という。
11)任意の a,b,cGa, b, c \in G に対して (ab)c=a(bc)(ab)c = a(bc) が成り立つ。(結合法則)
22)任意の aGa \in G に対して ae=ea=aae = ea = a となる eGe \in G が存在する。(単位元の存在)
33)任意の aGa \in G に対して ab=ba=eab = ba = e となる bGb \in G が存在する。(逆元の存在)

まず、nn を自然数として、MnM_nnn 個の要素からなる集合、SnS_nMnM_n 上の置換全体の集合とします。nn は自然数なので MnM_n は少なくとも 11 つの要素を持つため MnM_n は空集合ではありません。また、このとき MnM_n の要素からそれ自身への置換(恒等置換)が必ず存在することになります。よって、SnS_n は空集合ではないため、群の前提条件を満たしているといえます。

次に、22 項演算として置換の積の演算を考えます。置換の積とは、置換の積の項で定義した通り、2つの置換(写像)の合成写像のことでした。すなわち、σ,τSn\sigma, \tau \in S_n に対して、置換の積 τσ\tau \, \sigmaσ\sigmaτ\tau の合成写像 τσ\tau \circ \sigma のことを指します。この積の演算が、群の定義における条件(1\text{1}\sim3\text{3})を満たすことを確認していきます。

  • 条件(1\text{1})について

    • 置換の積を写像の合成と考えます。合成写像の定義より、写像の合成について結合法則が成り立つことから明らかといえますから、置換の積についても結合法則が成り立ちます。
    • このことは、次のように、置換の積の項に示した計算によっても確かめられます。
      • ρ,σ,τSn\rho, \sigma, \tau \in S_n とすると、(τσ)ρ,  τ(σρ)(\tau \sigma) \rho, \; \tau (\sigma \rho) はそれぞれ次のようになります。

        (τσ)ρ=((12nτ(1)τ(2)τ(n))(12nσ(1)σ(2)σ(n)))(12nρ(1)ρ(2)ρ(n))=(12nτ(σ(1))τ(σ(2))τ(σ(n)))(12nρ(1)ρ(2)ρ(n))=(12nτ(σ(ρ(1)))τ(σ(ρ(2)))τ(σ(ρ(n))))τ(σρ)=(12nτ(1)τ(2)τ(n))((12nσ(1)σ(2)σ(n))(12nρ(1)ρ(2)ρ(n)))=(12nτ(1)τ(2)τ(n))(12nσ(ρ(1))σ(ρ(2))σ(ρ(n)))=(12nτ(σ(ρ(1)))τ(σ(ρ(2)))τ(σ(ρ(n)))) \begin{split} (\tau \sigma) \rho &= \Bigl( \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(1) & \tau(2) & \cdots & \tau(n) \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n) \end{pmatrix} \Bigr) \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \rho(1) & \rho(2) & \cdots & \rho(n) \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(\sigma(1)) & \tau(\sigma(2)) & \cdots & \tau(\sigma(n)) \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \rho(1) & \rho(2) & \cdots & \rho(n) \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(\sigma(\rho(1))) & \tau(\sigma(\rho(2))) & \cdots & \tau(\sigma(\rho(n))) \end{pmatrix} \\ \\ \tau (\sigma \rho) &= \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(1) & \tau(2) & \cdots & \tau(n) \end{pmatrix} \Bigl( \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n) \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \rho(1) & \rho(2) & \cdots & \rho(n) \end{pmatrix} \Bigr) \\ &= \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(1) & \tau(2) & \cdots & \tau(n) \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \sigma(\rho(1)) & \sigma(\rho(2)) & \cdots & \sigma(\rho(n)) \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(\sigma(\rho(1))) & \tau(\sigma(\rho(2))) & \cdots & \tau(\sigma(\rho(n))) \end{pmatrix} \\ \end{split}

      • したがって (τσ)ρ=τ(σρ)(\tau \sigma) \rho = \tau (\sigma \rho) が成り立つといえます。

  • 条件(2\text{2})について

    • 次のような恒等置換 ϵSn\epsilon \in S_n を考えると、任意の σSn\sigma \in S_n に対して σϵ=ϵσ=σ\sigma \epsilon = \epsilon \sigma = \sigma が成り立ちます。つまり、SnS_n の単位元は ϵ\epsilon であるといえます。
    • 恒等置換は、11,  22,  ,  nn1 \to 1, \; 2 \to 2, \; \cdots, \; n \to n のように、すべての文字を動かさない置換のことです。 ϵ=(12n12n) \begin{align*} \epsilon = \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ 1 & 2 & \cdots & n \end{pmatrix} \end{align*}
  • 条件(3\text{3})について

    • σSn\sigma \in S_n に対して、以下のような逆置換 σ1\sigma^{-1} を定義すると、任意の σSn\sigma \in S_n に対して σσ1=σ1σ=ϵ\sigma \sigma^{-1} = \sigma^{-1} \sigma = \epsilon が成り立ちます。
    • 逆置換 σ1\sigma^{-1} とは、σ(1)1,  σ(2)2,  ,  σ(n)n\sigma(1) \to 1, \; \sigma(2) \to 2, \; \cdots, \; \sigma(n) \to n のような σ\sigma の逆対応です。置換の定義より、σ\sigma は全単射であるので σ1\sigma^{-1} も写像となり σ1Sn\sigma^{-1} \in S_n となります(写像の条件)。
    • 逆置換 σ1\sigma^{-1}σ\sigma の逆写像に他なりません。下の2行目の並び替えは、そのことを端的に示しています。

      σ1=(σ(1)σ(2)σ(n)12n)=(12nσ1(1)σ1(2)σ1(n)) \begin{align*} \begin{split} \sigma^{-1} &= \begin{pmatrix} \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n) \\ 1 & 2 & \cdots & n \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \sigma^{-1} (1) & \sigma^{-1} (2) & \cdots & \sigma^{-1} (n) \end{pmatrix} \\ \end{split} \end{align*}

    • 以上から、置換全体の集合 SnS_n は空でない集合であり、積の演算は群の条件(1\text{1}\sim3\text{3})を満たすことが確かめられました。よって、SnS_n は積の演算により群であるといえます。

ここまで通して、置換全体の集合が群であることが分かったわけですが、この意義について考えます。置換全体が群ということは、一般の群に対して成り立つ事項が置換全体の群にも成り立つことになります。例えば、一般の群に対して成り立つ簡約律(「a,b,cGa, b, c \in G について ab=acb=c  ab = ac \Rightarrow b = c \;」)などの命題が、置換全体の群においても成り立つことになります。このような命題は、例えば、行列式の性質を導く際に使えなくもないのですが、あえて群の理論を用いずとも置換の性質のみからも割と素直に導くことができます。つまり、線型代数学の定理や命題は、線型代数に閉じた形で導出することができますので、代数の理論を用いることに実用的な意義は薄いといえます。 どちらかというと、代数学というより一般的な目線を持つことで線型代数に対する理解が深まることや、線型代数と代数の有機的な繋がりを知ることで、次に代数学を学ぶ際の段差を埋めるといった意義の方が大きいと思います。つまり、線型代数のみを学ぶ上では、これらの概念は参考程度としても問題ないかと思います。身も蓋もないことをいってしまえば、線型代数の試験に合格するためだけにはあまり必要ないかもしれません \cdots


まとめ

  • MnM_n 上の置換全体からなる群を nn 次の対称群という。
    • SnS_n の単位元は恒等置換 ϵ\epsilon である。

      ϵ=(12n12n) \begin{align*} \epsilon = \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ 1 & 2 & \cdots & n \end{pmatrix} \end{align*}

    • 置換 σ\sigma に対して逆置換 σ1\sigma^{-1} が存在し、σ\sigma に対する逆元となる。

      σ1=(σ(1)σ(2)σ(n)12n) \begin{align*} \sigma^{-1} = \begin{pmatrix} \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n) \\ 1 & 2 & \cdots & n \end{pmatrix} \end{align*}


参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
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[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2022-11-09   |   改訂:2024-08-16