基底と次元の準備(3)
前項に続き、ベクトルの組が線型従属であるための条件を示します。すなわち、より少ないベクトルの線型結合として表せるベクトルの組は線型従属となります。
この定理は、ベクトル空間の基底の数(すなわち、次元)が一意に定まることの根拠となる、大変重要な定理です。
ベクトルの組が線型従属であるための条件
定理 4.25(線型従属なベクトルの組 2)
をベクトル空間として、 とする。 が の線型結合として表せるとき、 ならば は線型従属である。
解説
ベクトルの組が線型従属であるための条件(定理 4.25の意味)
定理 4.25(線型従属なベクトルの組 2)において、 と は同じベクトル空間 の元であり、 であるので、 は よりも個数の少ないベクトルの組といえます。
このことから、定理 4.25の主旨は、「より個数の少ないベクトルの組()の線型結合として表せるベクトルの組()は線型従属である」と理解することができます。
ベクトルの線型結合と生成する部分空間
が の線型結合として表せるということは、「 は が生成する(張る)部分空間の元である」ことに他なりません。
ベクトル空間 の元 の線型結合全体は の部分空間となります(定理 4.16(線型結合))。いま、 は の線型結合で表せるので、 の線型結合全体に含まれます。したがって、 は が生成する部分空間の元であるといえます。このことを簡潔に表すと、 となります。
部分空間における制約(線型独立なベクトルの個数)
以上のことを合わせて考えると、定理 4.25(線型従属なベクトルの組 2)は、「 個のベクトル が生成する部分空間において( より多い) 個のベクトル は線型従属になる」ことを意味していると理解できます。
つまり、「 個のベクトルが生成する部分空間の線型独立なベクトルの数は高々 個である」ということです。
次元の一意性の根拠(定理 4.25 の意義)
「 個のベクトルが生成する部分空間の線型独立なベクトルの数は高々 個である」という視点は極めて重要であり、後にベクトル空間の次元が一意に定まることの根拠を与える重要な役割を果たします(定理 4.29(次元の一意性))。
後に改めて定義しますが、ベクトル空間の基底とは、ベクトル空間を生成する線型独立なベクトル(基底の定義)であり、ベクトル空間の次元とは、そのベクトル空間の基底を成すベクトルの個数(次元の定義)のことです。
定理 4.25により、ベクトル空間を生成する基底の個数(すなわち、次元)に上限(最大数)があることが導かれ、それにより、ベクトル空間の次元が一意に定まることが根拠づけられるということです。このような意味で、定理 4.25は、ベクトル空間の基底と次元を定義するにあたって、非常に重要な定理であるといえます。
証明
は の線型結合で表せるので、 とすると、 は次のように表せる。
したがって、 の線型結合 は の線型結合として表すことができ、次が成り立つ。
ここで、 に対して が成り立つが、これは次の連立一次方程式()に等しい。
いま
したがって、
証明の考え方
(
前提事項の整理
定理の仮定より、
はw 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} の線型結合で表すことができます。v 1 , ⋯ , v m \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} すなわち、
は、w 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} を係数として次のように表せます。a i j ∈ K ( 1 ⩽ i ⩽ m , 1 ⩽ j ⩽ n ) a_{ij} \in K \; (\, 1 \leqslant i \leqslant m, \, 1 \leqslant j \leqslant n \,) w j = ∑ i m a i j v i \begin{align*} \tag{i} \bm{w}_{j} = \displaystyle \sum_{i}^{m} \; a_{ij} \, \bm{v}_{i} \end{align*} これを連立一次方程式の形で表すと、次のようになります。
{ w 1 = a 11 v 1 + a 21 v 2 + ⋯ + a m 1 v m w 2 = a 12 v 1 + a 22 v 2 + ⋯ + a m 2 v m ⋮ w n = a 1 n v 1 + a 2 n v 2 + ⋯ + a m n v m ( i ′ ) \begin{align*} \left\{ \; \, \begin{alignat*} {3} & \bm{w}_{1} &= a_{11} \bm{v}_{1} &+ a_{21} \bm{v}_{2} &+ \cdots &+ a_{m1} \bm{v}_{m} \\ & \bm{w}_{2} &= a_{12} \bm{v}_{1} &+ a_{22} \bm{v}_{2} &+ \cdots &+ a_{m2} \bm{v}_{m} \\ &&& \vdots && \\ & \bm{w}_{n} &= a_{1n} \bm{v}_{1} &+ a_{2n} \bm{v}_{2} &+ \cdots &+ a_{mn} \bm{v}_{m} \\ \end{alignat*} \right. \end{align*} \tag{i }′ ^\prime また、線型結合の行列表記を用いれば、次のように表すこともできます。
( w 1 , ⋯ , w n ) = ( v 1 , ⋯ , v m ) A \begin{align*} \tag{i } (\, \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} \,) = (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} \,) \, A \end{align*}′ ′ ^{\prime \prime} ここで、
は次のようなA A 型行列です。( m , n ) (m, n) A = ( a 11 a 12 ⋯ a 1 n a 21 a 22 ⋯ a 2 n ⋮ ⋮ ⋱ ⋮ a m 1 a m 2 ⋯ a m n ) \begin{gather*} A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \\ \end{pmatrix} \end{gather*} この表記法は、ベクトルの組
を、あたかもベクトルを成分とする行ベクトルのように扱うものです。( w 1 , ⋯ , w n ) , ( v 1 , ⋯ , v m ) (\, \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} \,), \; (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} \,) (
)や(i \text{i} )とは、添え字の並び順が(縦と横で)異なります。混同しないよう注意が必要です。i ′ \text{i}^{\prime} 行ベクトル
と( v 1 , ⋯ , v m ) (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} \,) 型行列( m , n ) (m, n) の積を考えれば、(A A )と(i ′ ′ \text{i}^{\prime \prime} )が同じであることがわかります。i \text{i}
(1)線型結合による表現
はw 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} の線型結合で表すことができるので、v 1 , ⋯ , v m \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} の線型結合w 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} はx 1 w 1 + ⋯ + x n w n x_{1} \bm{w}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{w}_{n} の線型結合として、次のように表すことができるはずです。v 1 , ⋯ , v m \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} x 1 w 1 + ⋯ + x n w n = y 1 v 1 + ⋯ + y m v m ⇔ ∑ j n x j w j = ∑ i m y i v i \begin{alignat*} {2} && x_{1} \bm{w}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{w}_{n} &= y_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + y_{m} \bm{v}_{m} \\ \\ & \Leftrightarrow & \displaystyle \sum_{j}^{n} \; x_{j} \, \bm{w}_{j} &= \displaystyle \sum_{i}^{m} \; y_{i} \, \bm{v}_{i} \end{alignat*} このとき、次が成り立ちます。
∑ j n x j w j = ( i ) ∑ j n x j ( ∑ i m a i j v i ) = ( ii ) ∑ i m ( ∑ j n a i j x j ) v i = ( iii ) ∑ i m y i v i \begin{split} \displaystyle \sum_{j}^{n} \; x_{j} \, \bm{w}_{j} &\overset{(\text{i})}{=} \displaystyle \sum_{j}^{n} \; x_{j} \left( \displaystyle \sum_{i}^{m} \; a_{ij} \, \bm{v}_{i} \right) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \displaystyle \sum_{i}^{m} \left( \displaystyle \sum_{j}^{n} \; a_{ij} \, x_{j} \right) \bm{v}_{i} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \displaystyle \sum_{i}^{m} \; y_{i} \, \bm{v}_{i} \\ \end{split} - (
)i \text{i} をw 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} の線型結合に置き換えています。v 1 , ⋯ , v m \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} - (
)和の順序の入れ替えです。いま、ii \text{ii} に関する和とi i に関する和は順序によらないので、入れ替えることができます。j j - (
)iii \text{iii} に対して1 ⩽ i ⩽ m 1 \leqslant i \leqslant m と置きます。y i = ∑ j n a i j x j y_{i} = \displaystyle \sum_{j}^{n} \; a_{ij} \, x_{j}
- (
上式より、線型結合の係数
とx j x_{j} について、次の関係式(y i y_{i} )が得られます。∗ \ast { y 1 = a 11 x 1 + a 12 x 2 + ⋯ + a 1 n x n y 2 = a 21 x 1 + a 22 x 2 + ⋯ + a 2 n x n ⋮ y m = a m 1 x 1 + a m 2 x 2 + ⋯ + a m n x n ( ∗ ) \begin{align*} \left\{ \; \, \begin{alignat*} {3} & y_{1} &= a_{11} x_{1} &+ a_{12} x_{2} &+ \cdots &+ a_{1n} x_{n} \\ & y_{2} &= a_{21} x_{1} &+ a_{22} x_{2} &+ \cdots &+ a_{2n} x_{n} \\ &&& \vdots && \\ & y_{m} &= a_{m1} x_{1} &+ a_{m2} x_{2} &+ \cdots &+ a_{mn} x_{n} \\ \end{alignat*} \right. \end{align*} \tag{ }∗ \ast をx \bm{x} 項列ベクトル、n n をy \bm{y} 項列ベクトルとすれば、(m m )式は、連立一次方程式∗ \ast として表すことができます。A x = y A \bm{x} = \bm{y}
以上から、
の線型結合w 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} をx 1 w 1 + ⋯ + x n w n x_{1} \bm{w}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{w}_{n} の線型結合v 1 , ⋯ , v m \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} として表すと、線型結合の係数y 1 v 1 + ⋯ + y m v m y_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + y_{m} \bm{v}_{m} とx j x_{j} の間には(y i y_{i} )式の関係が成り立つことがわかりました。∗ \ast
(2)自明でない線型関係の確認
定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)を用いて、
に自明でない線型関係が存在することを導きます。w 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} 上記の(
)式において∗ \ast とすれば、次のような斉次連立一次方程式y 1 = ⋯ = y m = 0 y_{1} = \cdots = y_{m} = 0 が得られます。これを(A x = 0 A \bm{x} = \bm{0} )とします。∗ ′ {\ast}^{\prime} { a 11 x 1 + a 12 x 2 + ⋯ + a 1 n x n = 0 a 21 x 1 + a 22 x 2 + ⋯ + a 2 n x n = 0 ⋮ a m 1 x 1 + a m 2 x 2 + ⋯ + a m n x n = 0 ( ∗ ′ ) \begin{align*} \left\{ \; \, \begin{alignat*} {3} & a_{11} x_{1} &+ a_{12} x_{2} &+ \cdots &+ a_{1n} x_{n} &= 0 \\ & a_{21} x_{1} &+ a_{22} x_{2} &+ \cdots &+ a_{2n} x_{n} &= 0 \\ &&& \vdots && \\ & a_{m1} x_{1} &+ a_{m2} x_{2} &+ \cdots &+ a_{mn} x_{n} &= 0 \\ \end{alignat*} \right. \end{align*} \tag{ }∗ ′ {\ast}^{\prime} いま、定理の仮定より
なので、定理 4.23(斉次連立一次方程式が自明でない解を持つための条件)より、(n > m n \gt m )式は自明でない解を持ちます。∗ ′ {\ast}^{\prime} この自明な解を
として、逆に(x 1 ′ , ⋯ , x n ′ {x}^{\prime}_{1}, \cdots, {x}^{\prime}_{n} )式において∗ \ast とすれば、x 1 = x 1 ′ , ⋯ , x n = x n ′ x_{1} = {x}^{\prime}_{1}, \cdots, x_{n} = {x}^{\prime}_{n} となり、次が成り立ちます。y 1 = ⋯ = y m = 0 y_{1} = \cdots = y_{m} = 0 ∑ j n x j ′ w j = ∑ i m y i v i = ∑ i m 0 v i = 0 \begin{split} \displaystyle \sum_{j}^{n} \; {x}^{\prime}_{j} \, \bm{w}_{j} &= \displaystyle \sum_{i}^{m} \; y_{i} \, \bm{v}_{i} \\ &= \displaystyle \sum_{i}^{m} \; 0 \, \bm{v}_{i} \\ &= \bm{0} \\ \end{split} このことは、線型結合の行列表記を用いれば、次のように表すことができます(前提事項の整理を参照)。
( w 1 , ⋯ , w n ) x ′ = ( i ) ( v 1 , ⋯ , v m ) A x ′ = ( ii ) ( v 1 , ⋯ , v m ) 0 = ( iii ) 0 \begin{align*} \begin{split} (\, \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} \,) \, \bm{{x}^{\prime}} &\overset{(\text{i})}{=} (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} \,) \, A \, \bm{{x}^{\prime}} \\ &\overset{(\text{ii})}{=} (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} \,) \, \bm{0} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \bm{0} \\ \end{split} \end{align*} (
)i \text{i} の線型結合は、行ベクトルw 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} と( w 1 , ⋯ , w n ) (\, \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} \,) 項列ベクトルn n の積で表せます(前提事項の整理の(x ′ \bm{{x}^{\prime}} )を参照)。i ′ ′ \text{i}^{\prime \prime} (
)いま、ii \text{ii} が成り立ちます。A x ′ = 0 A \bm{{x}^{\prime}} = \bm{0} (
)行ベクトルiii \text{iii} と零ベクトルの積は零ベクトルになります。( v 1 , ⋯ , v m ) (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} \,)
これは、
に自明でない線型関係w 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} が存在することを示す式に他なりません。x 1 ′ w 1 + ⋯ + x n ′ w n = 0 {x}^{\prime}_{1} \bm{w}_{1} + \cdots + {x}^{\prime}_{n} \bm{w}_{n} = \bm{0} 以上から、
には自明でない線型関係が存在する、すなわちw 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} は線型従属であることが示されました。w 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}
まとめ
をベクトル空間としてV V とする。v 1 , ⋯ , v m , w 1 , ⋯ , w n ∈ V \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m}, \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} \in V がw 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} の線型結合として表せるとき、v 1 , ⋯ , v m \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{m} ならばn > m n \gt m は線型従属である。w 1 , ⋯ , w n \bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}
参考文献
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学
[7] 雪江明彦. 代数学
[8] 桂利行. 代数学
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.