斉次連立一次方程式の解と係数行列の階数
斉次連立一次方程式の解空間の次元が係数行列の階数と型により定まることを示します。
A を (m,n) 型の行列として A の階数が r であれば、斉次連立一次方程式 Ax=0 の解空間の次元は n−r に等しくなります。つまり、係数行列の階数と型から斉次連立一次方程式の基本解の数が定まるといえます。
この定理は行階数と列階数が等しいことを示すためにも用いられます。
階数の基本的性質#
定理 4.58(斉次連立一次方程式の解空間の次元)#
A を (m,n) 型行列とする。A の階数を r とすれば、斉次連立一次方程式 Ax=0 の解空間の次元は n−r に等しい。
Ax=0 の解空間とは、Ax=0 の解全体からなる集合 W={x∈Kn∣Ax=0} であり、Kn の部分空間です(定理 4.8(斉次連立一次方程式の解空間))。すなわち、x∈W ならば Ax=0 が成り立ちます。つまり、Ax=0 の解空間とは fA の核 KerfA に他ならず、Ax=0 の解空間の次元は dim(KerfA) と表すことができます。したがって、この定理の主張は次の式により表すことができます。
dim(KerfA)=n−r(4.7.2)
また、階数の定義より、行列 A により定まる線型写像を fA:Kn→Km とすれば、r=rankA=dim(ImfA) が成り立ちます。これにより、(4.7.2)式は更に次のようになります。
dim(KerfA)=n−r=n−dim(ImfA)(4.7.2′)
斉次連立一次方程式の基本解#
定理 4.8(斉次連立一次方程式の解空間)でみたように、斉次連立一次方程式は自明な解を持ちます。つまり、どのような係数行列 AAA に対しても x=0\bm{x} = \bm{0}x=0 とすれば A⋅0=0A \cdot \bm{0} = \bm{0}A⋅0=0 が成り立つことから、Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 は少なくとも 111 つの解 x=0\bm{x} = \bm{0}x=0 を持ち、これを自明な解といいます。
いま、Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 が自明な解しか持たないとすると、明らかに KerfA={0}\text{Ker} f_{A} = \{ \bm{0} \}KerfA={0} であり、次元の定義より dim (KerfA)=0\dim \, (\text{Ker} f_{A}) = 0dim(KerfA)=0 となります。dim (KerfA)>0\dim \, (\text{Ker} f_{A}) \gt 0dim(KerfA)>0 である場合、Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 は自明でない解を持ち、解空間 KerfA\text{Ker} f_{A}KerfA はこれらの自明でない解を要素に含む集合(部分空間)となります。(細かい点ですが、この場合も自明な解 x=0\bm{x} = \bm{0}x=0 は解空間に含まれます。すなわち、この場合、解空間は自明な解と自明でない解をともに含む集合(部分空間)になります。)
このとき、定理 4.58(斉次連立一次方程式の解空間の次元)は非常に重要な意味を持ちます。すなわち、Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 の解空間の次元が n−rn - rn−r に等しいということは、斉次連立一次方程式 Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 は (n−r)(n - r)(n−r) 個の特別な(自明でない)解 x1,x2,⋯ ,xn−r\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n-r}x1,x2,⋯,xn−r を持ち、Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 の任意の解は x1,x2,⋯ ,xn−r\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n-r}x1,x2,⋯,xn−r の線型結合として表すことができるということを意味します。ベクトル空間の観点からみれば、Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 の解空間 KerfA\text{Ker} f_{A}KerfA は (n−r)(n - r)(n−r) 個のベクトル x1,x2,⋯ ,xn−r\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n-r}x1,x2,⋯,xn−r から成る基底を持ち、KerfA\text{Ker} f_{A}KerfA の任意の元(つまり Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 の解)は x1,x2,⋯ ,xn−r\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n-r}x1,x2,⋯,xn−r の線型結合として表すことができるということを意味します。
これは斉次連立一次方程式がどのような解を持つかということに関する重要な考察であり、x1,x2,\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2},x1,x2, ⋯ ,\cdots,⋯, xn−r\bm{x}_{n-r}xn−r のように解空間の基底を成す解を基本解(fundamental\text{fundamental}fundamental solutions\text{solutions}solutions)などといいます。基本解という用語は、連立一次方程式に限って用いられるものではなく、微分方程式などにおいても用いられます。また、線型代数の教科書においても [2], [3], [4] 等にみられますが、[1], [5] ではこのような呼称は用いられていません。[10] では、基本解に相当する用語として互いに独立な解(independent\text{independent}independent solutions\text{solutions}solutions)が用いられています。しかしながら、いずれも [13] には見出し語として現れません。
AAA により定まる線型写像を fA:Kn→Kmf_{A} : K^{n} \to K^{m}fA:Kn→Km とすると、定理 4.37(線型写像の基本定理)より次が成り立つ。
dimKn=dim (KerfA)+dim (ImfA)⇔dim (KerfA)=dimKn−dim (ImfA)
\begin{gather*}
\dim K^{n} = \dim \, (\text{Ker} f_{A}) + \dim \, (\text{Im} f_{A}) \\
\Leftrightarrow \quad \dim \, (\text{Ker} f_{A}) = \dim K^{n} - \dim \, (\text{Im} f_{A})
\end{gather*}
dimKn=dim(KerfA)+dim(ImfA)⇔dim(KerfA)=dimKn−dim(ImfA)
dimKn=n\dim K^{n} = ndimKn=n であり、AAA の階数が rrr であることから dim (ImfA)=rankA=r\dim \, (\text{Im} f_{A}) = \text{rank} A = rdim(ImfA)=rankA=r であるので、
dim (KerfA)=n−r
\dim \, (\text{Ker} f_{A}) = n - r
dim(KerfA)=n−r
が成り立つ。したがって、Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 の解空間の次元は n−rn - rn−r に等しい。□\quad \square□
証明の骨子#
定理 4.37(線型写像の基本定理)により直ちに示すことができます。
- AAA により定まる線型写像に対して、定理 4.37(線型写像の基本定理)を適用します。
AAA は (m,n)(m, n)(m,n) 型行列なので、AAA により定まる線型写像は fA:Kn→Kmf_{A} : K^{n} \to K^{m}fA:Kn→Km となります。
fA:Kn→Kmf_{A} : K^{n} \to K^{m}fA:Kn→Km に対して定理 4.37(線型写像の基本定理)を適用すれば次のようになります。
dimKn=dim (KerfA)+dim (ImfA)
\begin{gather*}
\dim K^{n} = \dim \, (\text{Ker} f_{A}) + \dim \, (\text{Im} f_{A})
\end{gather*}
dimKn=dim(KerfA)+dim(ImfA)
階数の定義などにより次のように変形できます。
dim (KerfA)=(1)dimKn−dim (ImfA)=(2)n−rankA=(3)n−r
\begin{split}
\dim \, (\text{Ker} f_{A})
&\overset{(1)}{=} \dim K^{n} - \dim \, (\text{Im} f_{A}) \\
&\overset{(2)}{=} n - \text{rank} A \\
&\overset{(3)}{=} n - r \\
\end{split}
dim(KerfA)=(1)dimKn−dim(ImfA)=(2)n−rankA=(3)n−r
- (111)定理 4.37(線型写像の基本定理)により得られた式について、dim (KerfA)\dim \, (\text{Ker} f_{A})dim(KerfA) が左辺にくるように移項します。
- (222)dimKn=n\dim K^{n} = ndimKn=n であり、階数の定義より dim (ImfA)=rankA\dim \, (\text{Im} f_{A}) = \text{rank} Adim(ImfA)=rankA となります。
- (333)定理の仮定より AAA の階数を rrr としていますので、更に rankA=r\text{rank} A = rrankA=r となります。
以上から、dim (KerfA)=n−r\dim \, (\text{Ker} f_{A}) = n - rdim(KerfA)=n−r が成り立ちます。つまり、Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 の解空間の次元が n−rn - rn−r に等しいことが示されました。
まとめ#
- AAA を (m,n)(m, n)(m,n) 型行列とする。AAA の階数を rrr とすれば、斉次連立一次方程式 Ax=0A \bm{x} = \bm{0}Ax=0 の解空間の次元は n−rn - rn−r に等しい。
dim (KerfA)=n−r
\begin{align*}
\dim \, (\text{Ker} f_{A}) = n - r \\
\end{align*}
dim(KerfA)=n−r
参考文献#
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学 111 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 222 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 I\text{I}I 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.
初版:2023-05-22 | 改訂:2024-08-31