転置行列の階数 目次 行列の階数が行と列に関して対称的であることを示します。すなわち、行列の階数(線型独立な列ベクトルの最大数)と線型独立な行ベクトルの最大数は等しく、転置行列の階数はもとの行列の階数に等しくなります。
これらは、前項の定理 4.59(列階数と行階数) の系ともいうべき定理です。
階数の基本的性質(行階数)# まず、行列の階数と線型独立な行ベクトルの最大数が等しくなることを示します。
定理 4.60(行階数)# A A A を ( m , n ) (m, n) ( m , n ) 型行列とする。A A A の行ベクトルを a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ \bm{a}^{\prime}_{1}, \bm{a}^{\prime}_{2}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{m} a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ とすると、A A A の階数は a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ \bm{a}^{\prime}_{1}, \bm{a}^{\prime}_{2}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{m} a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ のうち線型独立なベクトルの最大数に等しい。
行階数と階数は等しい# 行列 A A A は行ベクトルを用いて次のように表すことができます(行列の表記 )。
A = ( a 1 ′ a 2 ′ ⋮ a m ′ )
A = \begin{pmatrix}
\, \bm{a}^{\prime}_{1} \, \\ \, \bm{a}^{\prime}_{2} \, \\ \, \vdots \, \\ \, \bm{a}^{\prime}_{m} \,
\end{pmatrix}
A = a 1 ′ a 2 ′ ⋮ a m ′
ここで、m m m 個の行ベクトル a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ \bm{a}^{\prime}_{1}, \bm{a}^{\prime}_{2}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{m} a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ のうち線型独立であるものの最大数とは、前項で導入した行階数 に他なりません。(より詳しくいえば、A A A の行階数とは、A A A の行ベクトル a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ \bm{a}^{\prime}_{1}, \bm{a}^{\prime}_{2}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{m} a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ が生成する K n K^{n} K n の部分空間の次元を指しています。)
このように考えると、定理 4.60(行階数) の主張は「行列 A A A の階数は A A A の行階数に等しい」のように簡潔に表すことができます。
定理 4.59(列階数と行階数)の系# 我々は、既に定理 4.59(列階数と行階数) において、「A A A の線型独立な列ベクトルの最大数と A A A 線型独立な行ベクトルの最大数は等しい」ことを示しています。
また、定理 4.57(列階数) より、「A A A 線型独立な行ベクトルの最大数(列階数)」は行列の階数に等しいこともわかっています。
このような意味で、定理 4.60(行階数) は、定理 4.59(列階数と行階数) から直ちに導ける系ともいえます。
証明(定理 4.60)# A A A の線型独立な列ベクトルの最大数を r r r とすれば、定理 4.57(列階数) より A A A の階数は r r r に等しい。また、A A A の線型独立な行ベクトルの最大数を s s s とすれば、定理 4.59(列階数と行階数) より r r r と s s s は等しい。したがって、A A A の階数は s s s に等しい。□ \quad \square □
証明の考え方(定理4.60)# 定理 4.57(列階数) および定理 4.59(列階数と行階数) により直ちに導くことができます。
A A A の列階数を r r r 、行階数を s s s として r = s r = s r = s を示します。A A A の列ベクトルを a 1 , a 2 , ⋯ , a n \bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n} a 1 , a 2 , ⋯ , a n 、行ベクトルを a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ \bm{a}^{\prime}_{1}, \bm{a}^{\prime}_{2}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{m} a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ とすると A A A は次のように表すことができます。
A = ( a 1 , a 2 , ⋯ , a n ) = ( a 1 ′ a 2 ′ ⋮ a m ′ )
A
= (\, \bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n} \,)
= \begin{pmatrix}
\, \bm{a}^{\prime}_{1} \, \\ \, \bm{a}^{\prime}_{2} \, \\ \, \vdots \, \\ \, \bm{a}^{\prime}_{m} \,
\end{pmatrix}
A = ( a 1 , a 2 , ⋯ , a n ) = a 1 ′ a 2 ′ ⋮ a m ′
A A A の線型独立な列ベクトルの最大数を r r r とすれば、定理 4.57(列階数) より A A A の階数は r r r に等しくなります。すなわち rank A = r \text{rank} \, A = r rank A = r が成り立ちます。
A A A の線型独立な行ベクトルの最大数を s s s とすれば、定理 4.59(列階数と行階数) より r r r と s s s は等しく、r = s r = s r = s が成り立ちます。
したがって、rank A = r = s \text{rank} \, A = r = s rank A = r = s となり、A A A の階数は A A A の線型独立な行ベクトルの最大数に等しいことが示されました。
階数の基本的性質(転置行列の階数)# 次に、転置行列の階数がもとの行列の階数に等しくなることを示します。
定理 4.61(転置行列の階数)# A A A を ( m , n ) (m, n) ( m , n ) 型行列とする。A A A の転置行列の階数は A A A の階数に等しい。
rank t A = rank A
\begin{equation} \tag{4.7.4}
\text{rank} \, {}^{t} A = \text{rank} \, A
\end{equation}
rank t A = rank A ( 4.7.4 ) 行列の転置 により、階数は不変です。転置行列 t A {}^{t} A t A の階数はもとの行列 A A A の階数に等しくなります。
定理 4.59(列階数と行階数)の系# 下の証明 に示す通り、転置行列の階数がもとの行列の階数に等しいことは、行列の階数が行と列に関して対称的であること(定理 4.59(列階数と行階数) )から直ちに導くことができます。
このような意味で、定理4.61 も、定理 4.59(列階数と行階数) から直ちに導ける系ともいえます。
証明(定理 4.61)# A A A の線型独立な列ベクトルの最大数を r r r とすれば、定理 4.57(列階数) より A A A の階数は r r r に等しい。また、定理 4.59(列階数と行階数) より A A A の線型独立な行ベクトルの最大数は線型独立な列ベクトルの最大数に等しく r r r となる。ここで、A A A の転置行列 t A {}^{t} A t A の列ベクトルは A A A の行ベクトルに等しいから、 t A {}^{t} A t A の階数は A A A の階数に等しく r r r となる。□ \quad \square □
証明の考え方(定理 4.61)# 定理 4.57(列階数) および定理 4.59(列階数と行階数) により直ちに導くことができます。
前提事項の整理# A A A の階数を r r r として、rank t A = rank A = r \text{rank} \, {}^{t} A = \text{rank} \, A = r rank t A = rank A = r となることを示します。A A A の列ベクトルを a 1 , a 2 , ⋯ , a n \bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n} a 1 , a 2 , ⋯ , a n 、行ベクトルを a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ \bm{a}^{\prime}_{1}, \bm{a}^{\prime}_{2}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{m} a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ とすると A A A は次のように表すことができます。
A = ( a 1 , a 2 , ⋯ , a n ) = ( a 1 ′ a 2 ′ ⋮ a m ′ )
A
= (\, \bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n} \,)
= \begin{pmatrix}
\, \bm{a}^{\prime}_{1} \, \\ \, \bm{a}^{\prime}_{2} \, \\ \, \vdots \, \\ \, \bm{a}^{\prime}_{m} \,
\end{pmatrix}
A = ( a 1 , a 2 , ⋯ , a n ) = a 1 ′ a 2 ′ ⋮ a m ′
A A A の線型独立な列ベクトルの最大数を r r r とすれば、定理 4.57(列階数) より A A A の階数は r r r に等しくなります。すなわち rank A = r \text{rank} \, A = r rank A = r が成り立ちます。定理 4.59(列階数と行階数) より、A A A の線型独立な行ベクトルの最大数は線型独立な列ベクトルの最大数に等しく r r r となります。(このことは、定理 4.60(行階数) から導くこともできます。)転置行列の定義 より、t A {}^{t} A t A の列ベクトルは A A A の行ベクトルに、t A {}^{t} A t A の行ベクトルは A A A の列ベクトルにそれぞれ等しいので、t A {}^{t} A t A は次のように表すことができます。
t A = ( a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ ) = ( a 1 a 2 ⋮ a n )
{}^{t} A
= (\, \bm{a}^{\prime}_{1}, \bm{a}^{\prime}_{2}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{m} \,)
= \begin{pmatrix}
\, \bm{a}_{1} \, \\ \, \bm{a}_{2} \, \\ \, \vdots \, \\ \, \bm{a}_{n} \,
\end{pmatrix}
t A = ( a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ ) = a 1 a 2 ⋮ a n
再び定理 4.57(列階数) より t A {}^{t} A t A の階数は t A {}^{t} A t A の線型独立な列ベクトルの最大数、すなわち A A A の線型独立な行ベクトルの最大数に等しく、rank t A = r \text{rank} \, {}^{t} A = r rank t A = r が成り立ちます。 以上から、rank t A = rank A \text{rank} \, {}^{t} A = \text{rank} \, A rank t A = rank A となり、t A {}^{t} A t A の階数が A A A の階数に等しいことが示されました。
まとめ# A A A を ( m , n ) (m, n) ( m , n ) 型行列とするA A A の行ベクトルを a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ \bm{a}^{\prime}_{1}, \bm{a}^{\prime}_{2}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{m} a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ とすると、A A A の階数は a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ \bm{a}^{\prime}_{1}, \bm{a}^{\prime}_{2}, \cdots, \bm{a}^{\prime}_{m} a 1 ′ , a 2 ′ , ⋯ , a m ′ のうち線型独立なベクトルの最大数に等しい。A A A の転置行列の階数は A A A の階数に等しい。rank t A = rank A
\begin{equation*}
\text{rank} \, {}^{t} A = \text{rank} \, A
\end{equation*}
rank t A = rank A 参考文献# [1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966. [2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986. [3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010. [4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018. [5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987. [6] 雪江明彦. 代数学 1 1 1 群論入門. 日本評論社. 2010. [7] 雪江明彦. 代数学 2 2 2 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010. [8] 桂利行. 代数学 I \text{I} I 群と環. 東京大学出版会. 2004. [9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976. [10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965. [11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005. [12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014. [13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.初版:2023-05-25 | 改訂:2024-10-20