正則行列の条件(行列の階数)

階数に基づく正則行列の条件を示します。すなわち、正方行列 $A$ の次数と階数が等しいことは $A$ が正則であることと同値です。

ここでは、ある行列が正則である(逆行列をもつ)ための条件について、これまで様々な観点から示した定理を整理します。

階数の基本的性質


定理 4.62(正則行列と階数)

$A$ を $n$ 次の正方行列とすると、$A$ が正則であるためには $\text{rank} \, A = n$ であることが必要にして十分である。



解説

正則であるための条件(行列の階数)

定理 4.62(正則行列と階数)は、行列の階数の観点から、ある行列が正則である(逆行列をもつ)ための必要十分条件を示すものです。端的にいえば、「$A$ が正則 $\; \Leftrightarrow \; \text{rank} \, A = n$」 というのが定理 4.62の主張です。

当然ながら、ある行列が正則であるためには正方行列でなければならない(正則行列の定義)ので、定理 4.62は正方行列に限って成り立ちます。

正則であるための条件(まとめ)

ある行列が正則であるための条件は、様々な観点から示すことができます。これまでに示してきた定理と合わせると、次のようなものがあります。

($1$)行列式に関して $\det A \neq 0$ であること(定理 3.22
($2$)$A$ の列ベクトル(または行ベクトル)が線型独立であること(定理 4.27
($3$)連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ が自明でない解を持たないこと(定理 4.26
($4$)$\text{rank} \, A = n$ であること(定理 4.62

それぞれ、($1$)行列式($2$)ベクトルの線型独立性($3$)連立一次方程式の観点から、正則行列の条件を表しています。定理 4.62(正則行列と階数)により、新たに($4$)行列の階数の観点から正則行列の条件を表す定理を得たことになります。

定理 4.62の証明方法

上記の通り、正則行列の条件には様々な表し方があるため、定理 4.62(正則行列と階数)の証明も複数通り考えることができます。

以下に示す証明は、主に($2$)列ベクトルの線型独立性の観点を用いたものですが、他にも様々な証明が考えられます。

階数の定義と同値な条件

行列の階数には、定義と同値な条件が複数あります。我々は、ある行列が定める線型写像の像の次元として行列の階数を定義しました(階数の定義)。しかしながら、行列式(特に小行列式)によって行列の階数を定義することもできます。すなわち、ある行列 $A$ の階数は、$A$ の $0$ でない小行列式の最大次数に等しくなります。

このことについては次項定理 4.63(階数と小行列式)に詳しくみますが、定理 4.62(正則行列と階数)定理 4.63の証明において非常に重要な役割を果たします。そのような意味で、定理 4.62は、行列の階数と行列式の関係を明らかにする上で重要な定理であるともいえます。



証明

$A$ の列ベクトルを $\bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n}$ とする。定理 4.57(列階数)より、$A$ の階数が $n$ であることと、 $\bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は線型独立であることは同値である。また、定理 4.27(行列式と線型独立性)より、$\bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n}$ が線型独立であることと、$\det A \neq 0$ が成り立つことは同値である。定理 3.22(逆行列を持つための条件)より、$\det A \neq 0$ であることと $A$ が正則であることは同値である。以上から、$A$ の階数が $n$ であることと $A$ が正則であることは同値である。$\quad \square$



証明の考え方

定理 4.57(列階数)定理 4.27(行列式と線型独立性)等による同値変形を行い、「$\text{rank} \, A = n$」 $\Leftrightarrow$ 「$A$ が正則」を導きます。

具体的には、行列 $A$ が $n$ 次の正方行列であるという条件の下で、「$\text{rank} \, A = n$」 $\overset{(1)}{\Leftrightarrow}$ 「$A$ の列ベクトルが線型独立である」 $\overset{(2)}{\Leftrightarrow}$ 「$\det A \neq 0$」 $\overset{(3)}{\Leftrightarrow}$ 「$A$ が正則である」という順に同値変形します。

  • まず、定理 4.57(列階数)により「$\text{rank} \, A = n$」と「$A$ の列ベクトルが線型独立である」ことが同値であることを示します。

    • 定理 4.57(列階数)より、「$\text{rank} \, A = n$」と「$A$ の線型独立な列ベクトルの最大数が $n$ に等しいこと」は同値です。これは、(正方行列に限らない)一般の行列について成り立ちます。
    • いま、$A$ は $n$ 次の正方行列であるので $n$ 個の列ベクトルにより表すことができ、これを $\bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n}$ とすれば、$A = (\, \bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n} \,)$ となります。
    • $n$ 個の列ベクトル $\bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n}$ があって、線型独立なベクトルの最大数が $n$ であるので、明らかに $\bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n}$ は線型独立であるといえます。
    • したがって、行列 $A$ が $n$ 次の正方行列であるとき、「$\text{rank} \, A = n$」と「$A$ の列ベクトルが線型独立である」ことは同値であるといえます。
  • 次に、定理 4.27(行列式と線型独立性)により「$A$ の列ベクトルが線型独立である」ことと「$A$ が正則である」ことが同値であることを導きます。

    • 定理 4.27(行列式と線型独立性)より、「$A$ の列ベクトルが線型独立である」ことと「$\det A \neq 0$ が成り立つ」ことは同値です。これは、任意の正方行列について成り立ちます。
    • 定理 3.22(逆行列を持つための条件)より、「$\det A \neq 0$ が成り立つ」ことと「$A$ が正則である」ことは同値です。
    • すなわち、任意の正方行列について「$A$ の列ベクトルが線型独立である」ことと「$A$ が正則である」ことは同値です。
  • 以上から、行列 $A$ が $n$ 次の正方行列であるとき、「$\text{rank} \, A = n$」と「$A$ が正則である」ことは同値であることが示されました。


まとめ

  • $A$ を $n$ 次の正方行列とすると、$A$ が正則であるためには $\text{rank} \, A = n$ であることが必要にして十分である。

参考文献

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初版:2023-05-26   |   改訂:2024-11-21