連立一次方程式の解(2)
前項に続き、連立一次方程式($1$)$A \bm{x} = \bm{b}$ の解と、同じ係数行列を持つ斉次連立一次方程式($2$)$A \bm{x} = \bm{0}$ の解がどのような関係にあるかについて考えます。
ここでは、連立一次方程式($1$)が解を持つならば、その一般解は($1$)の特殊解と($2$)の基本解の線型結合の和として表せることを示します。これは、一般の連立一次方程式の解の形を与える定理といえます。
連立一次方程式の解
定理 5.6(連立一次方程式の解の形)
連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{b}$ が解を持つとき、その $1$ つの解を $\bm{x}_{0}$ とする。$A \bm{x} = \bm{b}$ と同じ係数行列を持つ斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の基本解を $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ とすると、$A \bm{x} = \bm{b}$ の一般解は次のように表せる。ただし $r = \text{rank} \, A$ であり、$c_{r + 1}, \cdots, c_{n} \in K$ である。
解説
($1$)$A \bm{x} = \bm{b}$、($2$)$A \bm{x} = \bm{0}$ とすると、定理 5.6は($1$)の解が(5.1.4)式の形で表せることを示しています。
ここで、$\bm{x}_{0}$ は($1$)の特殊解であり、$\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ は($2$)の基本解です。定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)より、($2$)の基本解とは斉次連立一次方程式の解空間の基底に他なりません。したがって、その個数($n - r$ 個)は一意に定まりますが、基底を成すベクトルの組は複数考えられます(定理 4.29(次元の一意性))。よって、より正しくは、$\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ は($2$)の基本解のうちの $1$ 組であるといえます。
前提事項の確認
細かい点ですが、定理 5.6において、$A$ は $(m, n)$ 型行列であることを前提としています。これは、($1$)$A \bm{x} = \bm{b}$ と($2$)$A \bm{x} = \bm{0}$ が、それぞれ $n$ 個の変数についての $m$ 個の式からなる連立一次方程式であるということを前提としているに等しいです。
したがって、当然ながら、$\text{rank} \, A = r \leqslant m, \, n$ が成り立ちます(定理 4.54(列階数)、定理 4.57(行階数))。また、定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)(または系 5.3)より、($2$)$A \bm{x} = \bm{0}$ が自明でない解($\bm{x} = \bm{0}$ 以外の解)を持つならば $\text{rank} \, A = r \lt n$ が成り立ちます。このことからも、(5.1.4)式において($2$)の基本解の個数が $n - r$ 個と表せられることが納得できます。
定理 5.5 との関係
定理 5.6は、前項の定理 5.5(連立一次方程式の解の集合)の系ともいうべき定理です。すなわち、定理 5.5において($1$)$A \bm{x} = \bm{b}$ の解の集合を $W_{1}$、($2$)$A \bm{x} = \bm{0}$ の解の集合を $W_{2}$ とすれば、$W_{1}$ は $W_{2}$ を $\bm{x}_{0}$ だけ平行移動させたものであることがわかります。
$W_{2}$ の基本解が $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ であるということは、任意の $W_{2}$ の元が $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ の線型結合として表せるということを意味しており、次が成り立ちます。
したがって、任意の $W_{1}$ の元が $\bm{x}_{0}$ と $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ の線型結合の和として表せるという、定理 5.6の主張は定理 5.5の主張から直ちに導くことができます。
証明
連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{b}$ が解を持つとして、その $1$ つの解を $\bm{x}_{0}$ とする。定理 5.2より、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の次元は $n - r$ に等しい。したがって、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の基底を成すベクトルを $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ とすれば、任意の $A \bm{x} = \bm{0}$ の解 $\bm{y}$ は $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ の線型結合として表せる。
また、定理 5.5より、$A \bm{x} = \bm{b}$ の一般解は $\bm{x} = \bm{x}_{0} + \bm{y}$ により与えられるから、次が成り立つ。
以上から、$A \bm{x} = \bm{b}$ の一般解は(5.1.4)式により与えられる。$\quad \square$
証明の骨子
定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)と定理 5.5(連立一次方程式の解の集合)を用います。
前提事項の整理
- 連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{b}$ が解を持つとして、$A \bm{x} = \bm{b}$ の $1$ つの解(特殊解)を $\bm{x}_{0}$ とします。
- $A \bm{x} = \bm{b}$ と同じ係数行列を持つ斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解を $\bm{y}$ とします。
- 係数行列 $A$ は $(m, n)$ 型行列であり、階数は $r$ に等しいとします。すなわち、$\text{rank} \, A = r$ とします。
斉次連立方程式の解の形
- まず、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解が $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ の線型結合で表せることを示します。
定理 5.2より、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の次元は $n - r$ に等しくなります。仮に $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間を $W$ とすると次が成り立ちます。
$$ \dim W = n - r $$したがって、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の基底は $n - r$ 個のベクトルから成るといえます。この、解空間の基底を成すベクトルを $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ とします。
- 任意の $A \bm{x} = \bm{0}$ の解 $\bm{y}$ は解空間の元であるので、その基底 $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ の線型結合として表すことができます。$$ \bm{y} = c_{r + 1} \bm{y}_{r + 1} + \cdots + c_{n} \bm{y}_{n} $$
連立一次方程式の解の形
- 次に、$A \bm{x} = \bm{b}$ の解が $\bm{x}_{0}$ と $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ の線型結合の和で表せることを示します。
定理 5.5より、$A \bm{x} = \bm{b}$ の一般解は $\bm{x} = \bm{x}_{0} + \bm{y}$ により与えられます。
$$ \bm{x} = \bm{x}_{0} + \bm{y} $$上の考察より、$A \bm{x} = \bm{0}$ の任意の解を表す $\bm{y}$ は $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ の線型結合として表すことができるので、次が成り立ちます。
$$ \begin{split} \bm{x} &= \bm{x}_{0} + \bm{y} \\ &= \bm{x}_{0} + c_{r + 1} \bm{y}_{r + 1} + \cdots + c_{n} \bm{y}_{n} \\ \end{split} $$以上から、$A \bm{x} = \bm{b}$ の一般解は(5.1.4)式により与えられることが示されました。
まとめ
- $A \bm{x} = \bm{b}$ が解を持つならば、その一般解は、特殊解 $\bm{x}_{0}$ と $A \bm{x} = \bm{0}$ の基本解 $\bm{y}_{r + 1}, \cdots, \bm{y}_{n}$ の線型結合の和として表せる$$ \begin{equation*} \bm{x} = \bm{x}_{0} + c_{r + 1} \bm{y}_{r + 1} + \cdots + c_{n} \bm{y}_{n} \end{equation*} $$
参考文献
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.