三角化の条件
行列が三角化可能であることと同値な条件(必要十分条件)を示します。
すなわち、 次の正方行列 が三角化可能であるためには、 が重複を含めて 個の固有値を持つことが必要にして十分です。したがって、複素数の範囲で考えれば、正方行列は常に三角化可能であるといえます。
三角化可能であることと同値な条件
定理 6.14(三角化の条件)
を 次の正方行列とする。 が重複を含めて 個の固有値を持つならば、 は三角化可能である。すなわち、次の式を満たす正則行列 が存在する。
解説
行列の三角化とは
正方行列 が三角化可能であるということは、(6.3.5)式を満たすような正則行列 が存在するということに他なりません。
このとき、定理 4.56(相似な行列)より、 は三角行列に相似になります。すなわち、三角化可能な行列とは、三角行列に相似な行列であるともいえます。
行列が三角化可能であるための必要十分条件
三角化の十分条件
定理 6.14(三角化の条件)は、正方行列が対角化可能であるための十分条件を示しています。すなわち、重複を含めて 個の固有値を持つならば、 次の正方行列は三角化可能です。
三角化の必要条件
また、重複を含めて 個の固有値を持つことは、 次の正方行列が三角化可能であるための必要条件でもあります。このことは、次のように、固有多項式の性質により確かめられます。
すなわち、(6.3.5)式が成り立つとき、定理 6.4(三角行列の固有値)より の固有値全体は対角成分 に等しくなります。
また、定理 6.6(相似な行列の固有多項式)より、相似な行列の固有値全体は等しいので、 の固有値全体も に等しくなります。
よって、 次正方行列 が三角化かのうであるならば、 は重複を含めて 個の固有値を持つといえます。
行列の三角化は対角化の一部
行列が三角化可能であるための条件(重複を含めて 個の固有値を持つこと)は、行列が対角化可能であるための条件の一部です。これは、対角行列が三角行列でもあることから明らかといえます。具体的には、次のように確かめられます。
正方行列 の相異なる固有値を 、それぞれの重複度を します。このとき、 が「重複を含めて 個の固有値を持つ」という条件は、次のように表すことができます。
これは、前項の定理 6.13(対角化の条件)における、対角化の条件()の一部です(対角化の条件()の分解を参照)。
逆に、 が三角化可能であるとき、各固有空間の次元が重複度に等しい( について が成り立つ)ならば、 は、更に対角化可能であるということができます。
複素数の範囲では、正方行列は常に三角化可能
定理 6.3(固有方程式)に示したように、代数学の基本定理より「 次方程式は複素数の範囲で重複を含めて 個の解を持つ」といえます。
したがって、複素数の範囲で考えれば、 次正方行列 は重複を含めて必ず 個の固有値を持つことになります。つまり、複素数の範囲で考えれば、正方行列は常に三角化可能であるということができます。
行列を三角化する正則行列は一意的でない
(6.3.5)式において、行列 を三角化する正則行列 は一意に定まりません。
正則行列 がどのような行列であるかにより、(6.3.5)式の右辺の三角行列も異なります。しかしながら、対角成分の値( の固有値)については変わりません。
正則行列 として、直行行列やユニタリ行列を選ぶことができ、これにより計量を保ったまま を三角化できることが後にわかります。このことは、計量ベクトル空間の章において、内積を定義してから改めて整理します。
証明
を 次正方行列とする。 のとき、 が固有値を持つならば、定義より、 は既に三角行列であり(6.3.5)式が成り立つ。
のとき、 次までの正方行列について、(6.3.5)式が成り立つと仮定する。このとき、 の固有値 に属する固有ベクトルを とすると、 であり、 に 個のベクトルを加えて の基底を作ることができる。これを として、まとめて と表すと、 は正則であり、次が成り立つ。
ここで、 は 次の正方行列であり、帰納法の仮定より、三角化可能である。したがって、 を 次の正則行列とすると、次が成り立つ。
いま、次のような 次正方行列 を考えると、 が成り立ち、 は正則である。
したがって、 とすると、 は正則であり、次が成り立つ。
証明の考え方
(
(1)n = 1 n = 1 の場合の証明
はA A 次の正方行列、つまり、1 1 つの成分のみからなる行列となります。1 1 が固有値A A を持つとすると、λ 1 \lambda_{1} は、その固有値を用いて、A A のように表せます。A = ( λ 1 ) A = (\, \lambda_{1} \,) このとき、三角行列の定義より、
は既に三角行列であるといえます。A A - 形式的には、
はA A 次の単位行列1 1 により三角化されるともいえます。E 1 E_{1} E 1 − 1 A E 1 = ( a 11 ) \begin{gather*} E_{1}^{-1} A E_{1} = (\, a_{11} \,) \end{gather*}
- 形式的には、
したがって、
が固有値を持つならば、A A は三角化可能であるといえます。A A
(2)n > 1 n \gt 1 の場合の証明
部分的な三角化
まず、
次正方行列n n が、A A 次の行列をブロックにもつ行列に、部分的に三角化されることを示します。( n − 1 ) (n-1) のA A つの固有値を1 1 として、λ 1 \lambda_{1} に属する固有ベクトルをλ 1 \lambda_{1} とします。固有ベクトルは零ベクトルではないので、このとき、x 1 \bm{x}_{1} が成り立ちます(固有ベクトルの定義)。x 1 ≠ 0 \bm{x}_{1} \neq \bm{0} したがって、
にx 1 \bm{x}_{1} 個のベクトルを加えて( n − 1 ) (n-1) の基底を作ることができ、これをK n K^{n} とします(定理 4.33(線型独立なベクトルと基底))。x 1 , x 2 , ⋯ , x n \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} - 上記のように、
であることを確かめておくことは重要です。x 1 ≠ 0 \bm{x}_{1} \neq \bm{0} - 零ベクトル
を含むベクトルの組は線型従属であるので、定理 4.33を用いて、0 \bm{0} の基底を作ることができなくなってしまうためです。K n K^{n}
- 上記のように、
を行列としてまとめてx 1 , x 2 , ⋯ , x n \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} と表すと、Q = ( x 1 , x 2 , ⋯ , x n ) Q = (\, \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} \,) が線型独立であることから、x 1 , x 2 , ⋯ , x n \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} は正則であるといえます(定理 4.27(行列式と線型独立性))。Q Q を列ベクトルとして、これをまとめて行列として表すと、次のようになります。A x 1 , A x 2 , ⋯ , A x n A \bm{x}_{1}, A \bm{x}_{2}, \cdots, A \bm{x}_{n} A ( x 1 , x 2 , ⋯ , x n ) = ( x 1 , x 2 , ⋯ , x n ) ( λ 1 ∗ O A 1 ) \begin{gather*} A \, (\, \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} \,) = (\, \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} \,) \left( \, \begin{array} {c|c} \lambda_{1} & \large{\ast} \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & A_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \end{gather*} このとき、
であり、Q = ( x 1 , x 2 , ⋯ , x n ) Q = (\, \bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}, \cdots, \bm{x}_{n} \,) が正則であることから、次が成り立ちます。Q Q A Q = Q ( λ 1 ∗ O A 1 ) ⇔ Q − 1 A Q = ( λ 1 ∗ O A 1 ) \begin{gather*} & A Q = Q \left( \, \begin{array} {c|c} \lambda_{1} & \large{\ast} \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & A_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \\ \Leftrightarrow & Q^{-1} A Q = \left( \, \begin{array} {c|c} \lambda_{1} & \large{\ast} \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & A_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \tag{ } \end{gather*}⋆ \star - ここで、左下のブロックは
型の零行列であり、( n − 1 , 1 ) (n-1, 1) の第A A 列の成分は1 1 行目を除いてすべて1 1 に等しくなります。0 0 - したがって、
はA A により部分的に三角化されているといえます。Q Q - また、右下のブロック
はA 1 A_{1} 次の正方行列、( n − 1 ) (n-1) は任意の∗ \ast 型の行列を表しています。( 1 , n − 1 ) (1, n-1)
- ここで、左下のブロックは
正則行列による三角化
次に、帰納法の仮定により
が三角化可能であるとして、上記の(A 1 A_{1} )式の右辺を三角化するような正方行列を求めます。⋆ \star (
)式において、⋆ \star はA 1 A_{1} 次の正方行列であるので、帰納法の仮定より、三角化可能です。すなわち、次の式を満たす( n − 1 ) (n-1) 次正則行列( n − 1 ) (n - 1) が存在します。R 1 R_{1} R 1 − 1 A 1 R 1 = ( λ 2 ∗ ⋱ O λ n ) \begin{gather*} R_{1}^{-1} A_{1} R_{1} = \left( \begin{array} {ccc} \lambda_{2} & & \large{\ast} \\ & \ddots & \\ \large{O} & & \lambda_{n} \\ \end{array} \right) \end{gather*} いま、
をブロックに持つ、次のようなR 1 R_{1} 次正方行列n n を考えます。R R R = ( 1 O O R 1 ) \begin{gather*} R = \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \end{gather*} 次が成り立つことから、
は逆行列を持つ、すなわち、R R は正則であるといえます。R R ( 1 O O R 1 − 1 ) ( 1 O O R 1 ) = ( 1 O O R 1 − 1 R 1 ) = ( 1 O O E n − 1 ) = ( 1 O 1 ⋱ O 1 ) = E n \begin{align*} \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1}^{-1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) &= \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1}^{-1} R_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \\ &= \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & E_{n-1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \\ &= \begin{pmatrix} \; 1 & & & \large{O} \; \\ \; & 1 & & \; \\ & & \ddots & \\ \; \large{O} & & & 1 \; \\ \end{pmatrix} \\ &= E_{n} \end{align*} また、上記と同様の計算により、次が成り立つことも確かめられます。
( 1 O O R 1 ) ( 1 O O R 1 − 1 ) = E n \begin{align*} \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1}^{-1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) = E_{n} \end{align*} したがって、
は正則であり(正則行列の定義)、逆行列R R は、次のように表せます。R − 1 R^{-1} R − 1 = ( 1 O O R 1 − 1 ) R^{-1} = \begin{align*} \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1}^{-1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \end{align*}
更に、
とすれば、正則行列の積が正則行列となる(定理 2.5(正則行列))ことから、P = Q R P = QR も正則行列となり、次が成り立ちます。P P P − 1 A P = ( i ) ( R − 1 Q − 1 ) A ( Q R ) = ( ii ) R − 1 ( Q − 1 A Q ) R = ( iii ) ( 1 O O R 1 − 1 ) ( λ 1 ∗ O A 1 ) ( 1 O O R 1 ) = ( iv ) ( λ 1 ∗ O R 1 − 1 A 1 R 1 ) = ( v ) ( λ 1 ∗ λ 2 ⋱ O λ n ) \begin{align*} P^{-1} A P &\overset{(\text{i})}{=} (\, R^{-1} Q^{-1} \,) \, A \, (\, Q R \,) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} R^{-1} \, (\, Q^{-1} A Q \,) \, R \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1}^{-1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \left( \, \begin{array} {c|c} \lambda_{1} & \large{\ast} \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & A_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \left( \, \begin{array} {c|c} 1 & O \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \\ &\overset{(\text{iv})}{=} \left( \, \begin{array} {c|c} \lambda_{1} & \large{\ast} \\ \hline O & \begin{matrix} & & \\ & R_{1}^{-1} A_{1} R_{1} & \\ & & \end{matrix} \\ \end{array} \, \right) \\ &\overset{(\text{v})}{=} \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} & & & \large{\ast} \; \\ \; & \lambda_{2} & & \; \\ & & \ddots & \\ \; \large{O} & & & \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \end{align*} - (
)定理 2.5(正則行列)より、i \text{i} が成り立ちます。P − 1 = ( Q R ) − 1 = R − 1 Q − 1 P^{-1} = (QR)^{-1} = R^{-1} Q^{-1} - (
)積の順序の入れ替えにより、(ii \text{ii} )式の右辺と⋆ \star の積の形を作ります。R R - (
)ブロック行列の積の演算規則により、三角行列が得られます。iv \text{iv}
- (
以上から、
次正方行列n n も、正則行列A A により三角化可能であることが示されました。P P
まとめ
をA A 次の正方行列とする。n n が重複を含めてA A 個の固有値を持つならば、n n は三角化可能である。すなわち、次の式を満たす正則行列A A が存在する。P P P − 1 A P = ( λ 1 ∗ ⋱ O λ n ) \begin{equation*} P^{-1} A P = \begin{pmatrix} \; \lambda_{1} & & \large{\ast} \; \\ & \ddots & \\ \; \large{O} & & \lambda_{n} \; \\ \end{pmatrix} \end{equation*} が重複を含めてA A 個の固有値を持つことは、n n が三角化可能であるための十分条件であり、必要条件でもある。A A - 行列が三角化可能であるための条件(重複を含めて
個の固有値を持つこと)は、行列が対角化可能であるための条件の一部。n n
複素数の範囲で考えれば、
次正方行列n n は重複を含めて必ずA A 個の固有値を持つ。したがって、複素数の範囲で考えれば、正方行列は常に三角化可能である。n n 行列
を三角化する正則行列A A は一意に定まらない。P P
参考文献
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