種々の行列

固有の名称で呼ばれる種々の行列について整理します。詳しくは各行列の定義の項などを参照ください。

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零行列

成分がすべて $0$ であるような $(m, n)$ 型の行列を $(m, n)$ 型の零行列($\text{zero matrix}$)といい、$O_{m, n}$ と表す。混同のおそれがない場合は、単に $O$ とも表す。

$$ \begin{align*} O_{m, n} = \begin{pmatrix} 0 & \cdots & 0 \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & \cdots & 0 \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

関連する事項



正方行列

行の数と列の数が等しい行列を正方行列($\text{square matrix}$)という。特に、$(n, n)$ 型の行列を $n$ 次の正方行列という。

$$ \begin{align*} A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

関連する事項



対角行列

対角成分以外の成分がすべて $0$ である行列を対角行列($\text{diagonal matrix}$)という。

$$ \begin{align*} A = \begin{pmatrix} a_{11} & 0 & \cdots & 0 \\ 0 & a_{22} & \cdots & 0 \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \cdots & a_{nn} \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

関連する事項



単位行列

対角成分が $1$ で、それ以外の成分がすべて $0$ である行列を単位行列($\text{unit matrix}$)という。$n$ 次の単位行列を $E_n$ と表す。また、混同のおそれがない場合は、単に $E$ とも表す。

$$ \begin{align*} E_n = \begin{pmatrix} 1 & 0 & \cdots & 0 \\ 0 & 1 & \cdots & 0 \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \cdots & 1 \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

関連する事項

  • 基本的で重要な行列
  • 単位行列は、クロネッカーのデルタ $\delta_{ij}$ により、$E = (\, \delta_{ij} \,)$ と表せる。


正則行列

$n$ 次の正方行列 $A$ に対して、$AB = BA = E$ となる行列 $B$ が存在するとき、$A$ を正則行列($\text{regular /}$ $\text{invertible /}$ $\text{non-singular matrix}$)という。また、このとき $B$ を $A$ の逆行列($\text{inverse / inverse matrix}$)といい $A^{-1}$ と表す。


関連する事項



三角行列

上三角行列と下三角行列を合わせて、三角行列($\text{triangular matrix}$)という。


関連する事項


上三角行列


正方行列において、対角線より左下の成分がすべて $0$ であるような行列を上三角行列($\text{upper / right triangular matrix}$)という。

$$ \begin{align*} A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ 0 & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \cdots & a_{n n} \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

関連する事項



下三角行列

正方行列において、対角線より右上の成分がすべて $0$ であるような行列を下三角行列($\text{lower / left triangular matrix}$)という。

$$ \begin{align*} A = \begin{pmatrix} a_{11} & 0 & \cdots & 0 \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & 0 \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{n n} \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

関連する事項



転置行列

$(m, n)$ 型の行列 $A$ に対して、$A$ の $(i, j)$ 成分を $(j, i)$ 成分とする $(n, m)$ 型の行列を $A$ の転置行列($\text{transpose / transposed matrix}$)といい、${}^t A$ と表す。

$$ \begin{align*} \begin{array} {ccc} A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \\ \end{pmatrix} , & & {}^t A = \begin{pmatrix} a_{11} & a_{21} & \cdots & a_{m1} \\ a_{12} & a_{22} & \cdots & a_{m2} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{1n} & a_{2n} & \cdots & a_{mn} \\ \end{pmatrix} \end{array} \end{align*} $$

関連する事項



対称行列

正方行列 $A$ が ${}^t A = A$ を満たすとき、$A$ を対称行列($\text{symmetric matrix}$)という。


関連する事項



交代行列

正方行列 $A$ が ${}^t A = -A$ を満たすとき、$A$ を交代行列($\text{alternate matrix}$)という。


関連する事項



共役行列

行列 $A = (\, a_{ij} \,)$ に対して、$A$ の $(i, j)$ 成分 $a_{ij}$ の共役複素数 $\overline{a_{ij}}$ を $(i, j)$ 成分とする行列を $A$ の共役行列($\text{conjugate matrix}$)といい、$\overline{A}$ と表す。



随伴行列

行列 $A$ に対して、$A$ の共役行列の転置行列(${}^t \overline{A}$)を $A$ の随伴行列($\text{adjoint matrix / conjugate transpose}$)といい、$A^{\ast}$ と表す。



エルミート行列

正方行列 $A$ が $A^{\ast} = A$ を満たすとき、$A$ をエルミート行列($\text{hermitian matrix}$)という。


関連する事項

  • エルミート行列の成分がすべて実数である場合、特に、実対称行列という。


歪エルミート行列

正方行列 $A$ が $A^{\ast} = -A$ を満たすとき、$A$ を歪エルミート行列($\text{skew-hermitian matrix}$)という。


関連する事項

  • 歪エルミート行列の成分がすべて実数である場合、特に、実交代行列という。


正規行列

正方行列 $A$ が $A A^{\ast} = A^{\ast} A$ を満たすとき、正規行列($\text{normal matrix}$)という。



ユニタリ行列

正方行列 $A$ が $A A^{\ast} = A^{\ast} A = E$ を満たすとき、ユニタリ行列($\text{unitary matrix}$)という。


関連する事項

  • ユニタリ行列の成分がすべて実数である場合、特に、直交行列($\text{orthogonal matrix}$)という。

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2023-01-15   |   改訂:2024-09-02