空間内の点と平面の距離
空間内の点と平面の距離を与える公式を導きます。
空間内の点と平面の距離を与える公式は、法線ベクトルを用いた平面上の点と直線の距離を与える公式と同じ形になります。また、座標系が与えられている場合の公式も、座標変数を用いた平面上の点と直線の距離を与える公式を自然に拡張した形となります。
空間内の点と平面の距離
まず、空間内の平面が、法線ベクトルに関するベクトル方程式によって与えられている場合について、点と平面の距離を与える公式を示します。
定理 1.13(空間内の点と平面の距離)
空間内の平面 がベクトルに関する方程式 により与えられているとする。空間内の点 の位置ベクトルを とすると、点 と平面 の距離 は次の式により与えられる。
解説
法線ベクトルによる点と平面の距離の公式
(1.4.8)式は、空間内の任意の点と平面の距離を与える公式です。
空間内の平面を表すベクトル方程式は、平面上の直線を表す(法線ベクトルによる)ベクトル方程式と同じ形になります(空間内の平面の方程式を参照)。
したがって、空間内の点と平面の距離を与える公式は、法線ベクトルによる平面上の点と直線の公式(すなわち、定理 1.11(平面上の点と直線の距離(法線ベクトル)))と同じ形になります。
点と平面の距離を定めるベクトル
(1.4.8)式より、点と平面の距離は、点 の位置ベクトル と平面 を定めるベクトル( と )により定まることがわかります。
点 と平面 の距離 は、次のように図示されます。

上図において、点 から平面 に下ろした垂線の足を とすると、点 と平面 の距離 は線分 の長さに他なりません。すなわち、 であり、 の位置ベクトルを とすれば、 となります。
ただし、垂線の足 の位置ベクトル は、点と平面の距離を定める公式(1.4.8)式には表れません。これは、点 と平面 が定まっていれば、 から に下ろした垂線の足が(自ずから)ただ つに定まるためです。
証明(定理 1.13)
から平面 に下ろした垂線の足を として、 の位置ベクトルを とする。このとき、垂線 が平面 に直交することと が平面 上の点であることから、 に関して次が成り立つ。
したがって、
いま、 であることから、 は次のようになる。
また、 であるから、次が成り立つ。
証明の考え方(定理 1.13)
垂線の足
考え方は、平面における点と直線の距離の公式(定理 1.11(平面上の点と直線の距離(法線ベクトル)))の証明と同じです。
(1)垂線の足の位置ベクトルを求める
から平面X 1 X_{1} に下ろした垂線の足をπ \pi として、X 1 ′ X_{1}^{\prime} の位置ベクトルX 1 ′ X_{1}^{\prime} を求めます。x 1 ′ \bm{x}_{1}^{\prime} に関して成り立つ関係式を整理します。x 1 ′ \bm{x}_{1}^{\prime} - 垂線
は平面X 1 X 1 ′ X_{1} X_{1}^{\prime} に直交します。したがって、ベクトルπ \pi とx 1 \bm{x}_{1} の差x 1 ′ \bm{x}_{1}^{\prime} は平面x 1 − x 1 ′ \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} の法線ベクトルπ \pi と平行(同じ向きまたは逆の向き)になります。すなわち、b \bm{b} はx 1 − x 1 ′ \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} のスカラー倍で表すことができ、b \bm{b} となるx 1 − x 1 ′ = t b \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} = t \bm{b} が存在します。t ∈ R t \in \mathbb{R} が平面X 1 ′ X_{1}^{\prime} 上の点です。したがって、π \pi は平面x 1 ′ \bm{x}_{1}^{\prime} を与えるベクトル方程式を満たします。すなわち、π \pi が成り立ちます。( x 1 ′ − x 0 ) ⋅ b = 0 (\bm{x}_{1}^{\prime} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} = 0 - これらをまとめると、次の(
)式のようになります。これは、∗ \ast とx 1 ′ \bm{x}_{1}^{\prime} を未知数とする連立方程式のように捉えることができます。t t { x 1 − x 1 ′ = t b ( x 1 ′ − x 0 ) ⋅ b = 0 ( ∗ ) \left\{ \begin{array} {c} \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} = t \bm{b} \\ (\bm{x}_{1}^{\prime} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} = 0 \end{array} \right. \tag{ }∗ \ast
- 垂線
(
)式を解いて∗ \ast を求めます。x 1 ′ \bm{x}_{1}^{\prime} 定理 1.4(内積の演算法則)より(
)式の第∗ \ast 式は次のように変形できます。2 2 x 1 ′ ⋅ b = x 0 ⋅ b \begin{gather*} \bm{x}_{1}^{\prime} \cdot \bm{b} = \bm{x}_{0} \cdot \bm{b} \end{gather*} (
)式の第∗ \ast 式の両辺のベクトルと法線ベクトル1 1 の内積をとることでb \bm{b} を消去し、まずはx 1 ′ \bm{x}_{1}^{\prime} を求めます。ここでも、定理 1.4(内積の演算法則)とt t であることを用います。x 1 ′ ⋅ b = x 0 ⋅ b \bm{x}_{1}^{\prime} \cdot \bm{b} = \bm{x}_{0} \cdot \bm{b} x 1 ⋅ b − x 1 ′ ⋅ b = t b ⋅ b ⇔ x 1 ⋅ b − x 0 ⋅ b = t ∥ b ∥ 2 ⇔ t = x 1 ⋅ b − x 0 ⋅ b ( v p ) ∥ b ∥ 2 ⇔ t = ( x 1 − x 0 ) ⋅ b ∥ b ∥ 2 \begin{gather*} & \bm{x}_{1} \cdot \bm{b} - \bm{x}_{1}^{\prime} \cdot \bm{b} = t \, \bm{b} \cdot \bm{b} \\ \Leftrightarrow & \bm{x}_{1} \cdot \bm{b} - \bm{x}_{0} \cdot \bm{b} = t \, {\lVert \, \bm{b} \, \rVert}^{2} \\ \Leftrightarrow & t = \displaystyle \frac{\, \bm{x}_{1} \cdot \bm{b} - \bm{x}_{0} \cdot \bm{b} \vphantom{(\bm{vp})} \,}{\, {\lVert \, \bm{b} \, \rVert}^{2} \,} \\ \Leftrightarrow & t = \displaystyle \frac{\, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} \,}{\, {\lVert \, \bm{b} \, \rVert}^{2} \,} \\ \end{gather*} 上式を(
)式の第∗ \ast 式に代入すると、1 1 が次のように求まります。x 1 ′ \bm{x}_{1}^{\prime} x 1 ′ = x 1 − ( x 1 − x 0 ) ⋅ b ∥ b ∥ 2 b \begin{gather*} \bm{x}_{1}^{\prime} = \bm{x}_{1} - \displaystyle \frac{\, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} \,}{\, {\lVert \, \bm{b} \, \rVert}^{2} \,} \; \bm{b} \end{gather*}
(2)点と平面の距離を求める
(
)で求めた1 1 を用いて、x 1 ′ \bm{x}_{1}^{\prime} であることから、点と直線の距離を求めます。d = ∥ x 1 − x 1 ′ ∥ d = \lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} \, \rVert まず、
を求めます。d 2 d^{\, 2} d 2 = ( i ) ∥ x 1 − x 1 ′ ∥ 2 = ( ii ) ∥ x 1 − x 1 + ( x 1 − x 0 ) ⋅ b ∥ b ∥ 2 b ∥ 2 = ( iii ) ∥ ( x 1 − x 0 ) ⋅ b ∥ b ∥ 2 b ∥ 2 = ( iv ) { ( x 1 − x 0 ) ⋅ b } 2 ∥ b ∥ 4 ∥ b ∥ 2 = ( v ) { ( x 1 − x 0 ) ⋅ b } 2 ∥ b ∥ 2 \begin{align*} d^{\, 2} &\overset{(\text{i})}{=} {\lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} \, \rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{ii})}{=} {\Big\lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1} + \displaystyle \frac{\, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} \,}{\, {\lVert \, \bm{b} \, \rVert}^{2} \,} \; \bm{b} \, \Big\rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} {\Big\lVert \, \displaystyle \frac{\, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} \,}{\, {\lVert \, \bm{b} \, \rVert}^{2} \,} \; \bm{b} \, \Big\rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{iv})}{=} \displaystyle \frac{\, \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} \big\}^{2} \,}{\, {\lVert \, \bm{b} \, \rVert}^{4} \,} \; {\lVert \, \bm{b} \, \rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{v})}{=} \displaystyle \frac{\, \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} \big\}^{2} \,}{\, {\lVert \, \bm{b} \, \rVert}^{2} \,} \tag{ } \end{align*}∗ ∗ \ast \ast - (
)内積の定義より、ベクトルi \text{i} の長さについてx \bm{x} が成り立つことから、∥ v ∥ = v ⋅ v v p 1 \lVert \, \bm{v} \, \rVert = \sqrt{\, \bm{v} \cdot \bm{v} \vphantom{\bm{vp}^{1}} \,} となります。∥ v ∥ 2 = v ⋅ v v p 1 {\lVert \, \bm{v} \, \rVert}^{2} = \bm{v} \cdot \bm{v} \vphantom{\bm{vp}^{1}} - (
)(ii \text{ii} )で求めた1 1 を代入します。x 1 ′ \bm{x}_{1}^{\prime} - (
)式を整理すると、iii \text{iii} がd 2 d^{\, 2} つのベクトル2 2 とx 1 − x 0 \bm{x}_{1} - \bm{x}_{0} (いずれも定数ベクトル)により表せることがわかります。b \bm{b} - (
)定理 1.4(内積の演算法則)より、iv \text{iv} が成り立ちます。∥ c v ∥ 2 = c 2 ∥ v ∥ 2 v p 1 {\lVert \, c \, \bm{v} \, \rVert}^{2} = c^{2} \, {\lVert \, \bm{v} \, \rVert}^{2} \vphantom{\bm{vp}^{1}} - (
)更に式を整理すると、v \text{v} はd 2 d^{\, 2} つのベクトル2 2 とx 1 − x 0 \bm{x}_{1} - \bm{x}_{0} の内積と、b \bm{b} の長さのb \bm{b} 乗により表せることがわかります。2 2
- (
次に、
を求めます。d d であるので、d ⩾ 0 d \geqslant 0 は(d d )式の正の平方根であり、次のようになります。∗ ∗ \ast \ast d = { ( x 1 − x 0 ) ⋅ b } 2 ∥ b ∥ v p 1 = ∣ ( x 1 − x 0 ) ⋅ b ∣ ∥ b ∥ v p 1 \begin{split} d &= \displaystyle \frac{\, \sqrt{\, \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} \big\}^{2} \,} \,}{\, \lVert \, \bm{b} \, \rVert \vphantom{\sqrt{\, {\bm{vp}}^{1} \,}} \,} \\ &= \displaystyle \frac{\, \big\lvert \; (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} \; \big\rvert \,}{\, \lVert \, \bm{b} \, \rVert \vphantom{\sqrt{\, {\bm{vp}}^{1} \,}} \,} \\ \end{split}
以上から、点と平面の距離に関する公式(1.4.8)式が導かれました。
点と平面の距離(座標変数)
次に、直交座標系が与えられており、空間内の平面が座標変数の一次方程式によって表される場合について、点と平面の距離を与える公式を導きます。
定理 1.14(空間内の点と平面の距離(座標変数))
空間に直交座標系が与えられており、平面
解説
平面上の点と直線の距離の公式(座標変数)
平面上に直交座標系が与えられている場合、直線
このとき、平面上の点
空間内の点と平面の距離の公式(座標変数)
空間内の点と平面の距離の公式は、平面上の点と直線の距離の公式である(1.3.7)式を自然に拡張した形になります。
平面の場合と同様に、空間に直交座標系が与えられている場合、直線
(1.4.9)式は、平面上の点と直線の距離の公式である(1.3.7)式と同じ形で、座標変数を
また、下記の証明において、ベクトルによる(1.4.9)式と座標変数による(1.3.7)式が同じものであることを示します。
証明(定理 1.14)
平面
また、
このとき、定理 1.13(空間内の点と平面の距離)より次が成り立つ。
ここで、
証明の考え方(定理 1.14)
定理 1.13(空間内の点と平面の距離)から直ちに示すことができます。(1.4.8)式に現れる
平面
考え方は、平面における点と直線の距離の公式(定理 1.10(平面上の点と直線の距離(座標変数)))の証明と同じです。
まとめ
空間内の平面
がベクトルに関する方程式π \pi により与えられているとする。空間内の点( x − x 0 ) ⋅ b = 0 (\bm{x} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} = 0 の位置ベクトルをX 1 X_{1} とすると、点x 1 \bm{x}_{1} と平面X 1 X_{1} の距離π \pi は次の式により与えられる。d d d = ∣ ( x 1 − x 0 ) ⋅ b ∣ ∥ b ∥ v p 1 \begin{equation*} d = \displaystyle \frac{\, \big\lvert \; (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{b} \; \big\rvert \,}{\, \lVert \, \bm{b} \, \rVert \vphantom{\sqrt{\, {\bm{vp}}^{1} \,}} \,} \\ \end{equation*} - 空間内の点と平面の距離を与える公式は、平面上の点と直線の距離を与える公式(法線ベクトル)と同じ形。
空間に直交座標系が与えられており、平面
がπ \pi の一次方程式x , y , z x, y, z により与えられているとする。このとき、空間内の点α x + β y + γ z + δ = 0 \alpha x + \beta y + \gamma z + \delta = 0 の座標をX 1 X_{1} とすると、点( x 1 , y 1 , z 1 ) (x_{1}, y_{1}, z_{1}) と平面X 1 X_{1} の距離π \pi は次の式により与えられる。d d d = ∣ α x 1 + β y 1 + γ z 1 + δ ∣ α 2 + β 2 + γ 2 V P 1 \begin{equation*} d = \displaystyle \frac{\, \lvert \; \alpha x_{1} + \beta y_{1} + \gamma z_{1} + \delta \; \rvert \,}{\, \sqrt{\, {\alpha}^{2} + {\beta}^{2} + {\gamma}^{2} \vphantom{ {\bm{VP}}^{1} } \,} \,} \end{equation*} - 座標系が与えられている場合の空間内の点と平面の距離を与える公式は、同じく、座標系が与えられている場合の平面上の点と直線の距離を与える公式と同じ形で、座標変数を
つ増やしたものとなる。1 1
- 座標系が与えられている場合の空間内の点と平面の距離を与える公式は、同じく、座標系が与えられている場合の平面上の点と直線の距離を与える公式と同じ形で、座標変数を
参考文献
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