空間内の平面の方程式
空間内の平面を表すベクトル方程式を示します。
空間内の平面は、法線ベクトルに関するベクトル方程式により与えられます。また、座標系が与えられている場合、平面の方程式は座標変数に関する一次方程式として表されます。
空間内の平面の方程式#
定義 1.11(法線ベクトル)#
空間内の平面が、次のベクトルに関する方程式で与えられているとき、b を法線ベクトル(normal vector)という。
(x−x0)⋅b=0(1.4.4)
法線ベクトルとは:平面に垂直なベクトル#
法線ベクトルとは、平面に垂直なベクトルです。
また、法線ベクトルは、平面の法線(平面に直交する直線)の方向を与えるベクトル、すなわち、法線の方向ベクトルであるともいえます。法線ベクトルは、単に、法ベクトルと呼ばれることもあります。
平面上の直線の場合と同様、零ベクトルは方向ベクトルになり得ません。つまり(1.4.4)式において b=0 となります。
法線ベクトルによる平面の方程式#
ベクトル方程式(法線ベクトル)#
空間内の平面は、法線ベクトルに関する方程式(ベクトル方程式)として表すことができます。(1.4.4)式は、空間内の平面を表すベクトル方程式です。
(x−x0)⋅b=0(1.4.4) (1.4.4)式をベクトル x に関する方程式としてみると、それぞれ、x0,b は定数、x は変数のように捉えることができます。このようなことから、x0,b を定数ベクトル、x を変数ベクトルと呼びます。
平面のベクトル方程式の意味(法線ベクトル)#
(1.4.4)式は、ベクトル x−x0 と法線ベクトル b の内積が 0 であることを示しています。内積の定義より、これは、「 x−x0 と b のなす角が直角であるための条件」を表していると捉えることができます。
このように考えると、(1.4.4)式は、下図のように表すことができます。
ここで、x0,x の終点をそれぞれ X0,X とすると、(1.4.4)式は、「空間内の点 X が(X0 を通り、b に垂直な)平面 π 上にあるための条件」を表す方程式であるといえます。
平面を表すベクトル方程式と一次方程式の対応#
空間に座標系が与えられているとき、平面を表すベクトル方程式(1.4.4)式は、座標変数に関する一次方程式に対応します。
(x−x0)⋅b=0(1.4.4) このことは、次のようにして確かめられます。
ベクトルの成分と座標変数の対応#
空間に座標系が与えられているとき、(1.4.4)式の定数ベクトル x0,b の成分は一意に定まります。また、変数ベクトル x の成分を 3 つの変数(座標変数)を用いて (x,y,z) とすると、ベクトル方程式(1.4.4)式に現れる 3 つのベクトル x0,b,x の成分表示は、それぞれ、次のようになります。
x0=x0y0z0,b=b1b2b3,x=xyz このとき、定理 1.3(ベクトルの内積)より、平面を表すベクトル方程式(1.4.4)式について、次が成り立ちます。
⇔⇔(x−x0)⋅b=0b1(x−x0)+b2(y−y0)+b3(z−z0)=0b1x+b2y+b3z−(b1x0+b2y0+b3z0)=0(1.4.5) (1.4.5)式は、(1.4.4)式を成分により表したものであり、3 つの変数 x,y,z に関する一次方程式に他なりません。
空間内の平面と一次方程式の対応#
法線ベクトル b が零ベクトルでない(b=0) ことから、b1,b2,b3 の少なくとも 1 つは 0 ではありません。そこで、法線ベクトルの成分のうち 0 に等しいものがいくつあるかにより場合分けします。
(1)法線ベクトルの 2 つの成分が 0 に等しい場合#
まず、仮に b1,b2,b3 のうち 2 つが 0 に等しければ、残り 1 つは必ず 0 でないことになります。例えば、b1=0 ∧ b2=0 ならば b3=0 であり、このとき(1.4.5)式は次のようになります。
⇔⇒⇔b3z−b3z0b3(z−z0)z−z0z=0=0=0=z0 これを満たす平面 π1 は、下図のような、z 軸に垂直な平面となります。また、これは xy 座標平面に平行な平面であるともいえます。
いま、b1=0 ∧ b2=0 ∧ b3=0 の場合を考えましたが、他の 2 つの成分が 0 に等しい場合も、同様に考えることができます。
すなわち、法線ベクトルの 2 つの成分が 0 に等しい場合、(1.4.5)式が表す平面は、座標軸に垂直な平面となります。
(2)法線ベクトルの 1 つの成分が 0 に等しい場合#
次に、b1,b2,b3 のうち 1 つが 0 であり残り 2 つが 0 でない場合について考えます。例えば、b1=0 ∧ b2=0 ∧ b3=0 とすると、このとき(1.4.5)式は次のようになります。
⇔b2y+b3z−(b2y0+b3z0)=0b2y+b3z=b2y0+b3z0 これを満たす平面 π2 は、下図のような、x 軸に平行な平面となります。また、これは yz 座標平面に垂直な平面であるともいえます。
ここで、平面 π2 と y 軸、z 軸との切片を Y0,Z0 とすると、それぞれ次のように表すことができます。
Y0Z0=b2b2y0+b3z0,=b3b2y0+b3z0 いま、b1=0 ∧ b2=0 ∧ b3=0 の場合を考えましたが、他の成分が 0 に等しい場合も、同様に考えることができます。
すなわち、法線ベクトルの 1 つの成分が 0 に等しい場合、(1.4.5)式が表す平面は、座標軸に平行な平面となります。
(3)法線ベクトルのすべての成分が 0 と異なる場合#
最後に、b1,b2,b3 のいずれも 0 でないとすると、b1=0 ∧ b2=0 ∧ b3=0 であり(1.4.5)式は、3 つの座標変数に関する一次方程式のままです。
⇔b1x+b2y+b3z−(b1x0+b2y0+b3z0)=0b1x+b2y+b3z=b1x0+b2y0+b3z0 これを満たす平面 π3 は、下図のような平面となります。
ここで、平面 π3 と x 軸、y 軸、z 軸との切片を X0,Y0,Z0 とすると、それぞれ次のように表すことができます。
X0Y0Z0=b1b1x0+b2y0+b3z0,=b2b1x0+b2y0+b3z0,=b3b1x0+b2y0+b3z0 座標変数の一次方程式は平面を表す#
以上の考察から、空間に座標系が与えられている場合、平面を表すベクトル方程式(1.4.4)式は、座標じぇんすうに関する一次方程式に対応することがわかりました。
空間内の平面、直線、点#
また、前項に示した通り、特別な場合を除いて※、2 つの一次方程式の連立方程式は空間内の直線を、3 つの一次方程式の連立方程式は空間内の点を、それぞれ表します。
すなわち、座標変数の一次方程式により表される要素は、基本的には※、次のようになります。
- 1 つの一次方程式:平面
- 2 つの一次方程式:直線(2 つの平面の交線)
- 3 つの一次方程式:点(2 つの平面の交線と、もう 1 つの平面の交点)
※:いくつかの例外が考えられます。例えば、2 つの一次方程式が表す平面が平行である場合などです。平行な平面は交わらないため、当然ながら、交線を持ちません。
一次方程式が与えられた場合の法線ベクトル#
逆に、平面を表す一次方程式(1.4.5)式から、平面を表すベクトル方程式(1.4.4)式を得ることができます。
特に、空間内の平面が一次方程式 αx+βy+γz+δ=0 により与えられた場合、(1.4.5)式において、b1=α, b2=β b3=γ となります。したがって、この平面の法線ベクトル b は次のように求まります。
b=αβγ 平面内の直線の場合と同様に、平面を定める法線ベクトルも一意的ではないので、(α,β,γ) も法線ベクトルの 1 つに過ぎません。例えば、(2α,2β,2γ) も同じ平面を与える法線ベクトルであることは、簡単に確かめられます。
方向ベクトルによる平面の方程式#
ベクトル方程式の使い分け(空間内の直線と平面)#
平面上の直線をベクトル方程式により表す方法として、主に(1)方向ベクトルによるものと(2)法線ベクトルによるものがありました(平面上の直線の方程式)。
(1)(2)x=x0+ta(x−x0)⋅b=0(1.3.1)(1.3.4) 前項でみたように、(1)平面上の直線を表す方向ベクトルによる方程式(1.3.1)式は、そのまま空間内の直線を表すベクトル方程式として拡張されます。また、上記の空間内の平面の方程式で示したように、(2)平面上の直線を表す法線ベクトルによる方程式(1.3.4)式は、空間内においては平面を表すベクトル方程式となります。
このように、空間内の直線は方向ベクトルを用いて((1.3.1)式)、空間内の平面は法線ベクトルを用いて((1.3.4)式)それぞれ表すのが一般的です。
方向ベクトルによる空間内の平面のベクトル方程式#
法線ベクトルを用いずに空間内の平面を表すこともできますが、その場合、互いに平行でない 2 つのベクトル a1,a2 が必要となります。すなわち、次のようなベクトル方程式は空間内の平面を表します。
x=x0+sa1+ta2(1.4.6) (1.4.6)式は、下図のように表すことができます。
ここで、a1 と a2 は平面 π 上にあり、互いに平行でないベクトルです。平面 π 上の任意のベクトルは a1 と a2 の線型結合 sa1+ta2 により表すことができます。したがって、a1,a2 は(1.3.1)式における方向ベクトルに相当するベクトルであり、(1.4.6)式は方向ベクトルにより(空間内の)平面を表したベクトル方程式であるといえます。
しかしながら、(1.4.6)式は、法線ベクトルによる平面の方程式((1.4.4)式)と比較して明らかに冗長です。このような理由から、空間内の平面を表す方法として方向ベクトルが用いられることはほどんどありません。
まとめ#
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 1 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 2 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 I 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.
初版:2023-08-30 | 改訂:2025-04-04