行列の区分けの定義
行列の区分けとは、行列をいくつかの小さな行列(ブロック)に分けて取り扱う考え方です。
行列の区分けにより、行列の計算や定理の証明を見通しよく進めることができます。
行列の区分けの定義
まず、行列の区分けの定義を示します。
定義 2.10(行列の区分け)
$(l, m)$ 型の行列 $A$ を縦に $p$ 個、横に $q$ 個の区画に分けて表すことを行列の区分けという。また、区分けされた $1$ つ $1$ つの小さな行列をブロック($\text{block}$)といい、上から $s$ 番目、左から $t$ 番目のブロックを $A_{st}$ のように表す。
解説
行列の区分けとは
行列の区分けとは、行列をいくつかの小さな行列(ブロック)に分けて取り扱う考え方です。
行列をブロックに分けて考えるメリット
行列の区分けにより、行列を非常に簡潔に表すことができます。
また、適当な型に区分けされた行列どうしの和や積は、$1$ つ $1$ つのブロックをあたかも成分のようにみみなして、通常の行列の和や積のように実行できます。このことは、 次項の 定理 2.6(ブロック行列の演算)に詳しく示します。
このように、あたかも「行列を成分とする行列」のように行列を捉えることで、定理の証明や計算の見通しを明るくすることが、行列をブロックに分けて考える最大のメリットです。
ブロックは行列の成分ではない
ただし、行列の区分けはあくまで行列の表記の仕方の $1$ つであり、あくまで行列は行列の成分になり得ない( 行列の定義)ことに注意しなければなりません。
区分けされた行列に成り立つ条件
上記の定義において、行列 $A$ は合計 $pq$ 個のブロックに区分けされています。また、$1$ つ $1$ つのブロックを表す $A_{s, t}$ の添え字 $s, t$ は、行列の分割の数 $p, q$ に対応しています。
また、行列 $A$ は $(l, m)$ 型の行列ですので、上から $s$ 番目、左から $t$ 番目のブロック $A_{st}$ を $(l_s, m_t)$ 型とすると、次の条件が成り立ちます。
これは、当然ながら、元の行列 $A$ の行の数と列の数が、区分けされた各ブロックの行の数の和と列の数の和に等しいことを示しています。
用語について(行列の区分け、ブロック)
行列の区分けは、行列の分割とも呼ばれます。区分けされた行列を、特に、ブロック行列と呼ぶこともあります。
英語の教科書( [13], [14] など)では、$1$ つ $1$ つのブロックを $\text{block}$ としたり、区分けされた行列を $\text{block matrix}$ 等と表現されています。
行列の区分け(例)
次に、具体的に与えられた行列を、適当なブロックに区分けする例を示します。
$(4, 4)$ 型行列の区分け
次のような行列 $A$ の区分けを考えます。
行列の区分け例 1
行列 $A$ を、縦に $2$ 個、横に $2$ 個の合計 $4$ 個のブロックに分けます。
$1$ つ $1$ つのブロックは、それぞれ、次のような $(2, 2)$ 型の行列となります。
これらのブロックにより、$A$ は、次のように表せます。
行列の区分け例 2
行列の区分けの仕方は、 上記の $1$ 通りだけではありません。例えば、次のように区分けすることもできます。
この場合、$A^{\prime}_{11}$ は $(3, 3)$ 型の行列、$A^{\prime}_{12}$ は $(3, 1)$ 型の行列、$A^{\prime}_{21}$ は $(1, 3)$ 型の行列、$A^{\prime}_{22}$ は $(1, 1)$ 型の行列となります。
これらのブロックにより、$A$ は、次のように表せます。
行列を区分けする際の考え方
このように、特に制約がない限り、与えられた行列に対して、複数通りの区分けが可能です。状況に応じて、見通しの良い分け方を選ぶことが重要です。
例えば、 上記の例において、行列 $A$ と他の行列の積を求めることを考えるとします。この場合、 区分け例 1 のように、$A$ を $4$ つの $(2, 2)$ 型ブロックに区分けした方が見通しが良いです。$A_{21}$ が零行列 $O$ となるため、行列の積の計算が楽になるためです。
まとめ
$(l, m)$ 型の行列 $A$ を縦に $p$ 個、横に $q$ 個の区画に分けて表すことを行列の区分けという。
区分けされた $1$ つ $1$ つの小さな行列をブロックといい、上から $s$ 番目、左から $t$ 番目のブロックを $A_{st}$ のように表す。
$$ \begin{align*} A = \begin{pmatrix} A_{11} & A_{12} & \cdots & A_{1q} \\ A_{21} & A_{22} & \cdots & A_{2q} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ A_{p1} & A_{p2} & \cdots & A_{pq} \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$$A_{st}$ を $(l_s, m_t)$ 型の行列とすると、次の条件が成り立つ。
$$ \begin{align*} \left\{ \begin{align*} \quad l &= l_1 + l_2 + \cdots + l_p \\ m &= m_1 + m_2 + \cdots + m_q \\ \end{align*} \right. \end{align*} $$
行列の区分けは、複数通りに行うことができるため、状況に応じて見通しの良いものを選ぶことが重要。
参考文献
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
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[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
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[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.