行列式の性質(5)

$2$ つの行列の積の行列式はそれぞれの行列式の積に等しいことを示します。すなわち、任意の正方行列 $A, B$ に対して $\det (AB) = \det A \cdot \det B$ が成り立ちます。

ここでは、($1$)行列式の定義と基本的性質(多重線型性交代性)による証明と($2$)行列式の写像としての性質による証明、の $2$ 通りの証明方法について解説します。

積の行列式


定理 3.15(積の行列式)

$2$ つの行列の積の行列式は、それぞれの行列式の積に等しい。

$$ \begin{equation} \tag{3.5.13} \det (AB) = \det A \cdot \det B \end{equation} $$



解説

行列式は積の演算を保存する

任意の $2$ つの正方行列の積 $AB$ の行列式の値は、それぞれの行列式 $\det A, \det B$ の積に等しくなります。

前項で示したように行列式を写像 $F : M_n (K) \to K$ と捉えれば、行列式は積の演算を保存する写像であるといえます。すなわち、行列の積 $AB$ の $F$ による像 $F (AB)$ は、行列 $A, B$ の $F$ による像 $F (A), F (B)$ の積に等しいと捉えることができます。

定理 3.15の証明方法

定理 3.15(積の行列式)の証明方法は何通りか考えられます。

ここでは、主なものとして、次の $2$ 通りの証明を示します。



証明 1(定義と基本的性質による証明)

$A = (\, a_{i j} \,), \; B = (\, b_{i j} \,)$ を $n$ 次の正方行列とする。$A$ を列ベクトルにより $A = (\, \bm{a}_{1}, \bm{a}_{2}, \cdots, \bm{a}_{n} \,)$ と表すと、行列の積 $AB$ は次のようなる。

$$ \begin{align*} AB = \big(\sum_{i_1} \bm{a}_{i_1} b_{i_1 1}, \, \cdots, \, \sum_{i_n} \bm{a}_{i_n} b_{i_n n} \, \big) \end{align*} $$


このとき、$\det (AB)$ に対して定理 3.7(行列式の多重線型性)を繰り返し用いることで、次が成り立つ。

$$ \begin{split} \det (AB) &= \det \big(\sum_{i_1} \bm{a}_{i_1} b_{i_1 1}, \, \cdots, \, \sum_{i_n} \bm{a}_{i_n} b_{i_n n} \big) \\ &= \sum_{i_1} \cdots \sum_{i_n} \, b_{i_1 1} \cdots b_{i_n n} \, \det ( \bm{a}_{i_1}, \cdots, \bm{a}_{i_n} ) \\ \end{split} $$

また、定理 3.9(行列式の交代性)より、$i_1, \cdots, i_n$ のうちに等しいものがあれば $\det ( \bm{a}_{i_1}, \, \cdots, \, \bm{a}_{i_n} ) = 0$ となるので、和は $i_{1}, \cdots, i_{n}$ がすべて異なる場合のみを加えればよい。したがって、次が成り立つ。

$$ \begin{split} \det (AB) &= \sum_{i_1} \cdots \sum_{i_n} \, b_{i_1 1} \cdots b_{i_n n} \, \det ( \bm{a}_{i_1}, \cdots, \bm{a}_{i_n} ) \\ &= \sum_{\sigma \in S_n} \, b_{\sigma (1) \, 1} \, \cdots \, b_{\sigma (n) \, n} \; \det ( \bm{a}_{\sigma (1)}, \cdots, \bm{a}_{\sigma (n)} ) \\ \end{split} $$

また、再び定理 3.9より、$\det ( \bm{a}_{\sigma (1)}, \cdots, \bm{a}_{\sigma (n)} ) = \text{sgn} (\sigma) \, \det ( \bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n} )$ であるから、

$$ \begin{split} \det (AB) &= \sum_{\sigma \in S_n} \, b_{\sigma (1) \, 1} \, \cdots \, b_{\sigma (n) \, n} \; \det ( \bm{a}_{\sigma (1)}, \cdots, \bm{a}_{\sigma (n)} ) \\ &= \sum_{\sigma \in S_n} \, b_{\sigma (1) \, 1} \, \cdots \, b_{\sigma (n) \, n} \; \text{sgn} (\sigma) \, \det ( \bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n} ) \\ &= \det ( \bm{a}_{1}, \, \cdots, \, \bm{a}_{n} ) \sum_{\sigma \in S_n} \text{sgn} (\sigma) \, b_{\sigma (1) \, 1} \cdots b_{\sigma (n) \, n} \\ &= \det A \cdot \det B \qquad \qquad \qquad \square \end{split} $$



証明の考え方 1

行列式の定義と、基本的な性質に関する定理(定理 3.7(行列式の多重線型性)定理 3.9(行列式の交代性))を用います。

具体的には、($1$)$AB$ を列ベクトルにより表し($2$)多重線型性と交代性を用いて和を精査することで($3$)行列式の定義の形を抽出します。

(1)行列の積の列ベクトル表示

  • 行列の積 $AB$ を列ベクトルにより表し、行列式の基本的性質(多重線型性交代性)を利用できる形にすることを考えます。

  • まず $A = (\, a_{i j} \,), \; B = (\, b_{i j} \,)$ とすると、$2$ つの行列の積 $AB$ は次のように表せます。

    $$ \begin{align*} AB = \begin{pmatrix} \displaystyle \sum_{k} a_{1k} \, b_{k1} & \displaystyle \sum_{k} a_{1k} \, b_{k2} & \cdots & \displaystyle \sum_{k} a_{1k} \, b_{kn} \\ \displaystyle \sum_{k} a_{2k} \, b_{k1} & \displaystyle \sum_{k} a_{2k} \, b_{k2} & \cdots & \displaystyle \sum_{k} a_{2k} \, b_{kn} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ \displaystyle \sum_{k} a_{2k} \, b_{k1} & \displaystyle \sum_{k} a_{2k} \, b_{k2} & \cdots & \displaystyle \sum_{k} a_{2k} \, b_{kn} \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

    • 行列の積の定義より、$AB$ の $(i, j)$ 成分は $\displaystyle \sum_{k} a_{ik} \, b_{kj}$ となります。
    • 上記の各成分において、和の添え字 $k$ は本来すべて異なります。それぞれ独立に($k_{ij}$ などのように)書き分けるべきですが、表記が煩雑になるため簡略化しています。
  • $AB$ の $1$ 列目を見ると、$b_{k1}$ は共通しており、それぞれ $A$ の列($k$)に関する和になっています。そこで、$A$ を列ベクトルで表せば、$AB$ の $1$ 行目(仮にこれを $\bm{c}_{1}$ と置きます)は、次のように表すことができます。

    $$ \begin{array} {ccc} \bm{c}_{1} = \displaystyle \sum_{k} \bm{a}_k \, b_{k1}, & \bm{a}_k = \begin{pmatrix} a_{1k} \\ a_{2k} \\ \vdots \\ a_{nk} \end{pmatrix} \end{array} $$

  • $2$ 行目以降も、同様に $A$ の列ベクトルと $B$ の成分の和として表します。上に述べた通り、和の添え字 $k$ は本来すべて異なるため、$1$ 列目の添え字は $i_1$、$2$ 列目は $i_2$、$\cdots$ のように $i$ を使って表すようにします。

  • したがって、$AB$ を列ベクトルにより表すと次のようになります。

    $$ \begin{align*} AB = \big( \, \sum_{i_1} \bm{a}_{i_1} b_{i_1 1}, \, \sum_{i_2} \bm{a}_{i_2} b_{i_2 2}, \, \cdots, \, \sum_{i_n} \bm{a}_{i_n} b_{i_n n} \, \big) \end{align*} $$

  • このとき、行列の積 $AB$ の行列式は次のようになります。

    $$ \begin{align*} \det (AB) = \det \big( \sum_{i_1} \bm{a}_{i_1} b_{i_1 1}, \sum_{i_2} \bm{a}_{i_2} b_{i_2 2}, \cdots, \sum_{i_n} \bm{a}_{i_n} b_{i_n n} \big) \end{align*} $$

  • なお、今回の証明では、まず $AB$ を列ベクトルに分解していますが、行ベクトルに分解しても同様に証明することができます。

    • この場合、$B$ を行ベクトル $\bm{b}_k = ( b_{k1}, b_{k2}, \cdots, b_{kn} )$ と表すことで、$AB$ は次のように行ベクトルにより表せます。
      $$ \begin{align*} AB = \begin{pmatrix} \; \displaystyle \sum_{j_1} a_{1 j_1} \bm{b}_{j_1} \; \\ \; \displaystyle \sum_{j_2} a_{1 j_2} \bm{b}_{j_2} \; \\ \; \vdots \; \\ \; \displaystyle \sum_{j_1} a_{1 j_n} \bm{b}_{j_n} \; \\ \end{pmatrix} \end{align*} $$

(2)多重線型性と交代性を用いた和の精査

  • 行列式の基本的性質(定理 3.7(多重線型性)定理 3.9(交代性))を用いて、$\det (AB)$ を簡単な形にすることを考えます。

    $$ \begin{align*} \det (AB) = \det \big( \sum_{i_1} \bm{a}_{i_1} b_{i_1 1}, \cdots, \sum_{i_n} \bm{a}_{i_n} b_{i_n n} \big) \end{align*} $$

  • まず、定理 3.7(多重線型性)を繰り返し適用することで、和の記号と定数項を $\text{det}$ の外に出します。

    $$ \begin{align*} \begin{split} \det (AB) &= \det \big( \sum_{i_1} \bm{a}_{i_1} b_{i_1 1}, \cdots, \sum_{i_n} \bm{a}_{i_n} b_{i_n n} \big) \\ &= \sum_{i_1} \cdots \sum_{i_n} b_{i_1 1} \cdots b_{i_n n} \, \det ( \bm{a}_{i_1}, \cdots, \bm{a}_{i_n} ) \\ \end{split} \end{align*} $$

  • 次に、定理 3.9(交代性)を用いて和の対象を精査します。

    • $i_1, \cdots, i_n$ のうち等しいものがあれば $\det ( \bm{a}_{i_1}, \cdots, \bm{a}_{i_n} ) = 0$ となるので、この場合は和に含めなくてもよいことがわかります。
    • つまり、$i_{1}, \cdots, i_{n}$ がすべて異なる場合に限って和をとればよいわけですが、これは、$n$ 文字の置換全体についての和をとることに等しいです。したがって、次が成り立ちます。
      $$ \begin{align*} \begin{split} \det (AB) &= \sum_{i_1} \cdots \sum_{i_n} b_{i_1 1} \cdots b_{i_n n} \, \det ( \bm{a}_{i_1}, \cdots, \bm{a}_{i_n} ) \\ &= \sum_{\sigma \in S_n} b_{\sigma (1) \, 1} \cdots b_{\sigma (n) \, n} \, \det ( \bm{a}_{\sigma (1)}, \cdots, \bm{a}_{\sigma (n)} ) \\ \end{split} \end{align*} $$

(3)行列式(定義の形)の抽出

  • 再び定理 3.9(交代性)を用いて、行列式 $\det A$ と $\det B$ の形を抽出します。

    $$ \begin{align*} \begin{split} \det (AB) &\overset{(1)}{=} \sum_{\sigma \in S_n} b_{\sigma (1) \, 1} \cdots b_{\sigma (n) \, n} \, \det ( \bm{a}_{\sigma (1)}, \cdots, \bm{a}_{\sigma (n)} ) \\ &\overset{(2)}{=} \sum_{\sigma \in S_n} b_{\sigma (1) \, 1} \cdots b_{\sigma (n) \, n} \, \text{sgn} (\sigma) \, \det ( \bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n} ) \\ &\overset{(3)}{=} \det ( \bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n} ) \sum_{\sigma \in S_n} \text{sgn} (\sigma) \, b_{\sigma (1) \, 1} \cdots b_{\sigma (n) \, n} \\ &\overset{(4)}{=} \det A \cdot \det B \\ \end{split} \end{align*} $$

    • ($1$)上記の考察(1)(2)から得られた形のままです。

    • ($2$)定理 3.9(交代性)より、次が成り立ちます。

      $$ \begin{gather*} \det ( \bm{a}_{\sigma (1)}, \cdots, \bm{a}_{\sigma (n)} ) = \text{sgn} (\sigma) \, \det ( \bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n} ) \end{gather*} $$

    • ($3$)$\det ( \bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n} )$ は $\sigma$ に依存しませんので、和の外に出せます。これにより、残る項は次のようになりますが、これは $B$ の行列式の定義に他なりません。

      $$ \begin{gather*} \displaystyle \sum_{\sigma \in S_n} \text{sgn} (\sigma) \, b_{\sigma (1) \, 1} \cdots b_{\sigma (n) \, n} \end{gather*} $$

  • 以上から、$\det (AB) = \det A \cdot \det B$ となり、題意が示されました。



証明 2(写像としての性質による証明)

$B = (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n})$ として、$F$ を $\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}$ に対して $\det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, A \bm{b}_{n})$ を対応させる写像とすると、次が成り立つ。

$$ \begin{align*} F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) &= \det (AB) \\ F (\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}) &= \det A \end{align*} $$

また、$F$ は定理 3.14(写像としての行列式)の条件($\text{i}$)($\text{ii}$)($\text{iii}$)を満たすので、次が成り立つ。

$$ \begin{split} F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) &= F (\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}) \det ( \bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) \\ &= \det A \cdot \det B \\ \end{split} $$

したがって、

$$ \begin{align*} \det (AB) = \det A \cdot \det B \quad \quad \quad \square \end{align*} $$



証明の考え方 2

$A$ を定数、$B$ を変数のように考えて($1$)$F(B) = \det (AB)$ となるような写像 $F$ を置き、($2$)定理 3.14(写像としての行列式)を適用して行列式の積の形を得ます。

(1)写像の設定

  • $F(B) = \det (AB)$ となるような写像 $F$ を考えます。

    $$ \begin{align*} F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) = \det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, A \bm{b}_{n}) \end{align*} $$

    • $F$ は $n$ 個の $n$ 次元ベクトルの組に対してある数を対応させる写像($F : K^n \times \cdots \times K^n \to K$)です。
    • 行列 $B = (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n})$ が変数であり、行列 $A$ は定数であるかのように考えます。
  • $F$ の置き方により、以下の $2$ つの関係が得られます。

    $$ \begin{align*} \begin{split} F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) &= \det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, A \bm{b}_{n}) \\ &= \det (AB) \\ \end{split} \tag{$\ast 1$} \\ \begin{split} F (\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}) &= \det ( A \bm{e}_{1}, \cdots, A \bm{e}_{n}) \\ &= \det ( \bm{a}_{1}, \cdots, \bm{a}_{n}) \\ &= \det A \\ \end{split} \tag{$\ast 2$} \\ \end{align*} $$

    • ($\ast 1$)すなわち、$F(B) = \det (AB)$ が成り立ちます。これは $F$ の置き方そのもので、むしろ $F(B) = \det (AB)$ となるように $F$ を設定するところがこの証明の要所です。
    • ($\ast 2$)すなわち、$F(E) = \det A$ が成り立ちます。$F$ の置き方により、$A$ を固定している(定数のように扱っている)ため、単位行列 $E$ の $F$ による像が $\det A$ となることを示しています。

(2)定理 3.14の適用

  • $F$ に定理 3.14(写像としての行列式)を適用して、行列の積の形を得ます。

  • ($1$) で設定した $F$ は、定理 3.14の条件($\text{i}$)($\text{ii}$)($\text{iii}$)を満たします。

  • 上記の証明において、このことは自明として省略していますが、次のように確かめられます。

    • ($\text{i}$)行列の積の演算規則(下記 $2$ 行目の等号)と行列式の多重線型性(下記 $3$ 行目の等号)から条件を満たすことがわかります。

      $$ \begin{align*} \begin{split} F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{i} + \bm{b}_{j}, \cdots, \bm{b}_{n}) &= \det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, A (\bm{b}_{i} + \bm{b}_{j}), \cdots, A \bm{b}_{n}) \\ &= \det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, A \bm{b}_{i} + A \bm{b}_{j}, \cdots, A \bm{b}_{n}) \\ &= \det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, A \bm{b}_{i}, \cdots, A \bm{b}_{n}) \\ & \quad \quad \quad + \det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, A \bm{b}_{j}, \cdots, A \bm{b}_{n}) \\ &= F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{i}, \cdots, \bm{b}_{n}) \\ & \quad \quad \quad + F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{j}, \cdots, \bm{b}_{n}) \end{split} \end{align*} $$

    • ($\text{ii}$)同様に、行列の演算規則(下記 $2$ 行目の等号)と行列式の多重線型性(下記 $3$ 行目の等号)から条件を満たすことがわかります。

      $$ \begin{align*} \begin{split} F (\bm{b}_{1}, \cdots, c \, \bm{b}_{i}, \cdots, \bm{b}_{n}) &= \det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, A (c \, \bm{b}_{i}), \cdots, A \bm{b}_{n}) \\ &= \det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, c \, (A \bm{b}_{i}), \cdots, A \bm{b}_{n}) \\ &= c \, \det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, A \bm{b}_{i}, \cdots, A \bm{b}_{n}) \\ &= c \, F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{i}, \cdots, \bm{b}_{n}) \end{split} \end{align*} $$

    • ($\text{iii}$)$F$ の設定において $A$ を定数のように扱っていますので、行列式の交代性(下記 $2$ 行目の等号)から条件を満たすことがわかります。

      $$ \begin{align*} \begin{split} F (\bm{b}_{\tau (1)}, \cdots, \bm{b}_{\tau (n)}) &= \det ( A \bm{b}_{\tau (1)}, \cdots, A \bm{b}_{\tau (n)}) \\ &= \text{sgn} (\tau) \, \det ( A \bm{b}_{1}, \cdots, A \bm{b}_{n}) \\ &= \text{sgn} (\tau) \, F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) \end{split} \end{align*} $$

  • 以上から、$F$ が定理 3.14(写像としての行列式)の条件($\text{i}$)($\text{ii}$)($\text{iii}$)を満たすことが確認できました。

    • 条件を満たすことの確認はわりと簡単なので、証明に記載されていないことが多いです。[1]などの教科書では「簡単にわかるように $\cdots$」と付記されています。
    • 上記の証明でも条件を満たすことの確認は省略していますが、必要に応じて根拠を示せるように、一度は確認しておくと良いかもしれません。
  • $F$ に定理 3.14(写像としての行列式)を適用し、$\det A$ と $\det B$ の形を抽出します。

    $$ \begin{split} \det (AB) &\overset{(\text{i})}{=} F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} F (\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}) \, \det ( \bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \det A \cdot \det B \\ \end{split} $$

    • ($\text{i}$)$F$ の置き方より、次が成り立ちます($\ast 1$)

      $$ \begin{align*} F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) = \det (AB) \end{align*} $$

    • ($\text{ii}$)定理 3.14(写像としての行列式)より、次が成り立ちます。

      $$ \begin{align*} F (\bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) = F (\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}) \, \det ( \bm{b}_{1}, \cdots, \bm{b}_{n}) \end{align*} $$

    • ($\text{iii}$)$F$ の置き方より、次が成り立ちます($\ast 2$)

      $$ \begin{align*} F (\bm{e}_{1}, \cdots, \bm{e}_{n}) = \det (A) \end{align*} $$

  • 以上から $\det (AB) = \det A \cdot \det B$ が得られ、題意が示されました。


まとめ

  • $2$ つの行列の積の行列式は、それぞれの行列式の積に等しい。
    $$ \begin{equation*} \det (AB) = \det A \cdot \det B \end{equation*} $$

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2022-12-04   |   改訂:2024-11-12