同型写像(1)
線型写像が全単射であるとき、これを同型写像といいます。
ここでは、同型写像の定義について確認するとともに、基本的な性質として、同型写像の合成写像もまた同型写像であること、同型写像の逆写像も同型写像になることを示します。
同型写像の定義
定義 4.5(同型写像)
$V, W$ をベクトル空間、$f : V \to W$ を線型写像とする。$f$ が全単射であるとき $f$ は $V$ から $W$ への同型写像($\text{isomorphism}$)であるという。また、このとき $V$ は $W$ に同型($\text{isomorphic}$)であるといい $V \simeq W$ のように表す。
要するに、同型写像とは線型写像かつ全単射であるような写像であるということです。また、ベクトル空間 $V$ と $W$ の間に同型写像が存在するとき、$V$ と $W$ は互いに同型であるなどと表されるということです。同型写像は単に「同型」とのみ表されることもありますので、文脈により、同型写像を指しているのかベクトル空間の同型について言及しているのか混同しないように注意が必要です。
線型写像の定義に示したように、端的にいえば、線型写像とは和とスカラー倍の演算を保存する写像であるといえます。線型演算(和とスカラー倍)を保存する写像なので、これを線型写像と呼ぶということは腑に落ちますが、線型写像が全単射であるとき、これを同型写像と呼ぶことに違和感を覚えてもおかしくありません。そうした用語だからといってしまえばそれまでなのですが、次のように考えれば多少は納得できます。線型写像の定義において、ベクトル空間の線型写像は群の準同型写像の特別な場合であることに触れました。準同型写像が全単射であるときこれを同型写像と呼ぶとすれば、線型写像(準同型写像) が全単射であるときこれを同型写像というような用語の系統進化について納得できるかと思います。代数学ではこのように準同型写像と同型写像が定義されています。
同型写像の性質
定理 4.13(同型写像の合成)
$U, V, W$ をベクトル空間とする。$f : U \to V, g : V \to W$ が同型写像であれば、合成写像 $g \circ f : U \to W$ も同型写像である。
要するに、同型写像の合成写像もまた同型写像であるということです。同型写像の定義より、$2$ つの写像 $f, g$ が同型写像であるということは、$f, g$ が線型写像かつ全単射であるということです。詳しくは下の証明にみますが、これは線型写像と全単射の性質から明らかといえます。
証明 4.13
$f, g$ は同型写像であるので、ともに線型写像でありかつ全単射である。定理 4.10より、線型写像の合成もまた線型写像である。また、全単射写像の合成もまた全単射であるから、$f$ と $g$ の合成写像 $g \circ f$ は線型写像でありかつ全単射である。よって、$g \circ f$ は同型写像である。$\quad \square$
証明の骨子 4.13
同型写像の定義により $f$ と $g$ は線型写像かつ全単射であり、線型写像の合成と全単射の合成について分けて考えます。
- 同型写像の定義より、$f, g$ が同型写像であれば、$f, g$ はともに線型写像かつ全単射であるといえます。
- 定理 4.10(線型写像の合成)より、線型写像の合成もまた線型写像であるといえます。
- また、全単射写像の合成もまた全単射となります。
- 以上から $f$ と $g$ の合成写像 $g \circ f$ は線型写像でありかつ全単射となります。よって、$g \circ f$ が同型写像であることが示されました。
定理 4.14(同型写像の逆写像)
$V, W$ をベクトル空間とする。$f : V \to W$ が同型写像であれば、逆写像 $f^{-1} : W \to V$ も同型写像である。
要するに、同型写像の逆写像もまた同型写像であるということです。同型写像の定義より、$f$ が同型写像であれば $f$ は全単射であるので逆写像 $f^{-1}$ が存在するといえます。このとき、$f^{-1}$ が線型写像でありかつ全単射であるというのが定理の主張です。詳しくは下の証明にみますが、これも線型写像と全単射の性質から明らかといえます。
証明 4.14
$f : V \to W$ は同型写像なので $f$ は全単射である。$f$ が全射であることから、任意の $\bm{w} \in W$ に対して $f(\bm{v}) = \bm{w}$ となるような $\bm{v} \in V$ が存在し、$f$ が単射であることから、任意の $\bm{v}_1, \bm{v}_2 \in V$ に対して $f(\bm{v}_1) = f(\bm{v}_2)$ ならば $\bm{v}_1 = \bm{v}_2$ が成り立つ。したがって $f$ の逆写像 $f^{-1} : W \to V$ が存在し、任意の $\bm{w} \in W$ に対して $\bm{v} = f^{-1} (\bm{w})$ となるような $\bm{v} \in V$ が存在する。また、$f$ は写像であるので、任意の $\bm{v} \in V$ に対して $f(\bm{v}) = \bm{w}$ すなわち $\bm{v} = f^{-1} (\bm{w})$ となるような $\bm{w} \in W$ が存在する。よって $f^{-1}$ は全射である。同様に、任意の $\bm{v}_1, \bm{v}_2 \in V$ に対して $f(\bm{v}_1) = \bm{w_1}, f(\bm{v}_2) = \bm{w_2}$ となるような $\bm{w}_1, \bm{w}_2 \in W$ が存在し、$\bm{v}_1 = \bm{v}_2$ ならば $f(\bm{v}_1) = f(\bm{v}_2)$、すなわち $f^{-1} (\bm{w}_1) = f^{-1} (\bm{w}_2)$ ならば $\bm{w}_1 = \bm{w}_2$ が成り立つ。よって $f^{-1}$ は単射である。ここで、$\bm{w}_1, \bm{w}_2 \in W$ に対して $\bm{v}_1 = f^{-1} (\bm{w_1}), \bm{v}_2 = f^{-1} (\bm{w_2})$ であるとすれば、任意の $c_1, c_2 \in K, \; \bm{w}_1, \bm{w}_2 \in W$ について次が成り立つ。
したがって、$f^{-1}$ は線型写像である。$\quad \square$
証明の骨子 4.14
同型写像の定義により $f$ は線型写像かつ全単射です。$f$ が全単射であることから逆写像 $f^{-1}$ が存在し、かつ $f^{-1}$ が全単射であることを示し、$f$ が線型写像であることから $f^{-1}$ も線型写像であることを示します。
まず、$f$ の逆写像 $f^{-1}$ が存在することを示します。
- $f : V \to W$ は同型写像なので $f$ は全単射であるといえます。
- $f : V \to W$ が全単射であることから $f$ の逆写像 $f^{-1} : W \to V$ が存在するということを導きます。
- $f$ が全射であることから、任意の $\bm{w} \in W$ に対して $f(\bm{v}) = \bm{w}$ となるような $\bm{v} \in V$ が存在します(全射の条件)。
- $f$ が単射であることから、任意の $\bm{v}_1, \bm{v}_2 \in V$ に対して $f(\bm{v}_1) = f(\bm{v}_2)$ ならば $\bm{v}_1 = \bm{v}_2$ が成り立ちます(単射の条件)。
- したがって、任意の $\bm{w} \in W$ に対して $f(\bm{v}) = \bm{w}$ となるような $\bm{v} \in V$ を対応させる $f^{-1} : W \to V$ は写像の条件を満たしています。
- 以上から、$f$ の逆写像 $f^{-1} : W \to V$ が存在することが示されました。$f^{-1} : W \to V$ が写像であるということは、任意の $\bm{w} \in W$ に対して $\bm{v} = f^{-1} (\bm{w})$ となるような $\bm{v} \in V$ が存在するということを表しています。
次に $f^{-1}$ が全単射であることを示します。
- 上の考察と同様の考え方ですが、逆方向に考えを展開します。すなわち、写像 $f$ が存在することから逆写像 $f^{-1}$ が全単射であることを導きます。
- はじめに $f^{-1}$ が全射であることを示します。
- $f$ が写像であることから、任意の $\bm{v} \in V$ に対して $f(\bm{v}) = \bm{w}$ となるような $\bm{w} \in W$ が存在するといえます(写像の条件)。
- ここで $f(\bm{v}) = \bm{w} \Leftrightarrow \bm{v} = f^{-1} (\bm{w})$ が成り立ちます。これは、$f$ による $V$ の元と $W$ の元の対応を $f^{-1}$ による対応として表し直していることに相当します。
- したがって、任意の $\bm{v} \in V$ に対して $f(\bm{v}) = \bm{w}$ すなわち $\bm{v} = f^{-1} (\bm{w})$ となるような $\bm{w} \in W$ が存在することが示されました。
- これは、$f^{-1}$ が全射であるための条件に他なりません。よって $f^{-1}$ は全射であるといえます。
- 同様に $f^{-1}$ が単射であることを示します。
- $f$ が写像であることから、任意の $\bm{v}_1, \bm{v}_2 \in V$ に対して $f(\bm{v}_1) = \bm{w_1}, f(\bm{v}_2) = \bm{w_2}$ となるような $\bm{w}_1, \bm{w}_2 \in W$ が存在し、$\bm{v}_1 = \bm{v}_2$ ならば $f(\bm{v}_1) = f(\bm{v}_2)$ が成り立つといえます(写像の条件)。
- ここで、$\bm{v}_1 = \bm{v}_2 \Leftrightarrow f^{-1} (\bm{w}_1) = f^{-1} (\bm{w}_2)$、$f(\bm{v}_1) = f(\bm{v}_2) \Leftrightarrow \bm{w}_1 = \bm{w}_2$ が成り立ちます。これも、$f$ による $V$ の元と $W$ の元の対応を $f^{-1}$ による対応として表し直していることに相当します。
- したがって、任意の $\bm{v}_1, \bm{v}_2 \in V$ に対して $f(\bm{v}_1) = \bm{w_1}, f(\bm{v}_2) = \bm{w_2}$ となるような $\bm{w}_1, \bm{w}_2 \in W$ が存在し、$\bm{v}_1 = \bm{v}_2$ ならば $f(\bm{v}_1) = f(\bm{v}_2)$、すなわち $f^{-1} (\bm{w}_1) = f^{-1} (\bm{w}_2)$ ならば $\bm{w}_1 = \bm{w}_2$ が成り立つことが示されました。
- これは、$f^{-1}$ が単射であるための条件に他なりません。よって $f^{-1}$ は単射であるといえます。
- 以上から $f^{-1}$ が全単射であることが示されました。
最後に $f^{-1}$ が線型写像であることを示します。
線型写像の定義により、$f^{-1}$ が和とスカラー倍の演算を保存することを示します。
$f^{-1}$ が和とスカラー倍の演算を保存するとは、すなわち、任意の $c_1, c_2 \in K, \; \bm{w}_1, \bm{w}_2 \in W$ について $f^{-1} (c_1 \bm{w}_1 + c_2 \bm{w}_2) = c_1 f^{-1} (\bm{w}_1) + c_2 f^{-1} (\bm{w}_2)$ が成り立つということであり、次のように示されます。
$$ \begin{split} f^{-1} (c_1 \bm{w}_1 + c_2 \bm{w}_2) &\overset{(1)}{=} f^{-1} (\, c_1 f(\bm{v}_1) + c_2 f(\bm{v}_2) \,) \\ &\overset{(2)}{=} f^{-1} (\, f(\, c_1 \bm{v}_1 + c_2 \bm{v}_2 \,) \,) \\ &\overset{(3)}{=} f^{-1} \circ f \; (\, c_1 \bm{v}_1 + c_2 \bm{v}_2 \,) \\ &\overset{(4)}{=} c_1 \bm{v}_1 + c_2 \bm{v}_2 \\ &\overset{(5)}{=} c_1 f^{-1} (\bm{w}_1) + c_2 f^{-1} (\bm{w}_2) \\ \end{split} $$- ($\text{1}$)において、$\bm{w}_1, \bm{w}_2 \in W$ に対して $\bm{v}_1 = f^{-1} (\bm{w}_1), \bm{v}_2 = f^{-1} (\bm{w}_2)$ であるとしています。$f^{-1}$ が写像であることから $\bm{w}_1, \bm{w}_2 \in W$ に対応する $\bm{v}_1, \bm{v}_1 \in V$ が存在することは明らかといえます。したがって、これらを $\bm{w}_1 = f (\bm{v}_1), \bm{w}_2 = f (\bm{v}_2)$ と表すということです。
- ($\text{2}$)は $f$ が線型写像であることによります。すなわち、$f$ は和とスカラー倍の演算を保存するので $f (c_1 \bm{v}_1 + c_2 \bm{v}_2) = c_1 f (\bm{v}_1) + c_2 f (\bm{v}_2)$ が成り立つといえます。
- ($\text{3}$)では $f^{-1} (f (\bm{v}))$ を合成写像として $f^{-1} \circ f (\bm{v})$ の形に表し直しています。
- ($\text{4}$)は $f^{-1}$ と $f$ の合成写像 $f^{-1} \circ f$ が恒等写像に等しいことにより、$f^{-1} \circ f (\bm{v}) = \text{id}_V (\bm{v}) = \bm{v}$ ということを表しています。端的にいえば、元の写像 $f$ により $V$ から $W$ に移された後逆写像により $W$ から $V$ に戻された元はもとの元に一致するということです。
- ($\text{5}$)は再び $\bm{v}_1 = f^{-1} (\bm{w_1}), \bm{v}_2 = f^{-1} (\bm{w_2})$ であることによります。
以上から、$f^{-1}$ が線型写像であることが示されました。
$f^{-1}$ は全単射でありかつ線型写像であるので、$f^{-1}$ が同型写像であることが示されたことになります。
まとめ
- $V, W$ をベクトル空間とする。$f : V \to W$ が線型写像でありかつ全単射であるとき $f$ は $V$ から $W$ への同型写像であるという。また、このとき $V$ は $W$ に同型であるといい $V \simeq W$ のように表す。
- $f : U \to V, g : V \to W$ が同型写像であれば、合成写像 $g \circ f : U \to W$ も同型写像である。
- $V, W$ をベクトル空間とする。$f : V \to W$ が同型写像であれば、逆写像 $f^{-1} : W \to V$ も同型写像である。
参考文献
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