同型写像(2)

$2$ つのベクトル空間の間に同型写像が存在するとき、ベクトル空間は互いに同型であるといいます。

ここでは、同型なベクトル空間について成り立つ性質を確認します。これらは、主に前項で示した同型写像の性質をベクトル空間の視点から言換えたものに他なりません。

ベクトル空間の同型


定理 4.15(ベクトル空間の同型)

$U, V, W$ をベクトル空間とすると、以下が成り立つ。

$$ \begin{array} {clc} (\text{i}) & V \simeq V & (\text{reflexive law}) \\ (\text{ii}) & V \simeq W \quad \Rightarrow \quad W \simeq V & (\text{symmetric law}) \\ (\text{iii}) & U \simeq V, \; V \simeq W \quad \Rightarrow \quad U \simeq W & (\text{transitive law}) \\ \end{array} $$



同型写像の定義より、あるベクトル空間とあるベクトル空間が同型であるということは、$2$ つのベクトル空間の間に同型写像が存在ということに他なりません。一方で、この定理は、ベクトル空間の同型に関して($\text{i}$)反射律、($\text{ii}$)対称律、($\text{iii}$)推移律がそれぞれ成り立つことを示しています。これは明らかにベクトル空間の間に成り立つ同値関係を表しており、$2$ つのベクトル空間が同型であるとは、それらが構造として「同じもの」であることを示していると理解できます。

例えば、$2$ つのベクトル空間 $V$ と $W$ が同型であるとき、任意の $V$ の元と任意の $W$ の元は $1$ 対 $1$ に対応しており(全単射)、和とスカラー倍の演算が保存されている(線型写像)ことになるため、$V$ と $W$ はベクトル空間として全く同じ構造を持っていると捉えることができます。このような意味で、$2$ つのベクトル空間が同型であるときそれらは代数的構造として等しいなどと表現されます。



証明

($\text{i}$)任意の $\bm{v} \in V$ に対して $\bm{v}$ 自身を対応させる恒等写像 $\text{id}_{V}$ を考えると $\text{id}_{V}$ は全単射である。また、$c, d \in K, \; \bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ に対して $\text{id}_{V} (c \, \bm{v} + d \, \bm{v}^{\prime}) = c \, \bm{v} + d \, \bm{v}^{\prime} = c \, \text{id}_{V} (\bm{v}) + d \, \text{id}_{V} (\bm{v}^{\prime})$ であるから、$\text{id}_{V}$ は線型写像である。よって $\text{id}_{V}$ は同型写像であり、$V$ は $V$ 自身に同型である。

($\text{ii}$)$V \simeq W$ であれば $V$ から $W$ への同型写像が存在する。$f : V \to W$ を同型写像とすると、$f$ が全単射であることから逆写像 $f^{-1} : W \to V$ が存在し $f^{-1}$ は全単射である。また、$\bm{w}, \bm{w}^{\prime} \in W$ に対して $f^{-1} (\bm{w}) = \bm{v}, f(\bm{w}^{\prime}) = \bm{v}^{\prime}$ とすれば、任意の $c, d \in K, \; \bm{w}, \bm{w}^{\prime} \in W$ に対して $f^{-1} (c \, \bm{w} + d \, \bm{w}^{\prime}) = f^{-1} (\, c \, f (\bm{v}) + d \, f (\bm{v}^{\prime}) \,) = f^{-1} (\, f ( c \, \bm{v} + d \, \bm{v}^{\prime}) \,) = c \, \bm{v} + d \, \bm{v}^{\prime} = c \, f^{-1}(\bm{w}) + d \, f^{-1}(\bm{w}^{\prime})$ が成り立つので、$f^{-1}$ は線型写像である。よって $f^{-1}$ は同型写像であり、$W \simeq V$ である。

($\text{iii}$)$U \simeq V, \; V \simeq W$ であれば $U$ から $V$、$V$ から $W$ への同型写像がそれぞれ存在する。$f : U \to V, \; g : V \to W$ を同型写像すると、$f, g$ が全単射であることから $g \circ f$ は全単射である。また、定理 4.10より $f, g$ が線型写像であることから $g \circ f$ も線型写像となる。よって $g \circ f : U \to W$ は同型写像であり、$U \simeq W$ である。$\quad \square$



証明の骨子

同型写像の定義により証明します。$2$ つのベクトル空間の間に同型写像が存在することを示すことで、$2$ つのベクトル空間が同型であることが示されます。

($\text{i}$)$V \simeq V$

  • $V$ が $V$ 自身に同型であることを示すために、$V$ から $V$ への写像で線型写像かつ全単射であるものを考えます。このような条件を満たす写像として恒等写像 $\text{id}_{V}$ が考えられます。
  • $\text{id}_{V}$ が全単射であることは直ぐに確かめられます。
    • 任意の $\bm{v} \in V$ に対して、$\bm{v} = \text{id}_{V} (\bm{v})$ を満たす $\bm{v} \in V$ が存在しますので、$\text{id}_{V}$ は全射です。
    • 任意の $\bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ に対して、$\text{id}_{V} (\bm{v}) = \text{id}_{V} (\bm{v}^{\prime}) \Rightarrow \bm{v} = \bm{v}^{\prime}$ が成立しますので、$\text{id}_{V}$ は単射です。
  • $\text{id}_{V}$ が線型写像であることを確かめます。
    • 線型写像の定義により、$\text{id}_V$ が和とスカラー倍の演算を保存することを示します。

    • $\text{id}_V$ が和とスカラー倍の演算を保存するとは、すなわち、任意の $c, d \in K, \; \bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ が成り立つということであり、次のように示されます。

      $$ \text{id}_{V} (c \, \bm{v} + d \, \bm{v}^{\prime}) \overset{(1)}{=} c \, \bm{v} + d \, \bm{v}^{\prime} \overset{(2)}{=} c \, \text{id}_{V} (\bm{v}) + d \, \text{id}_{V} (\bm{v}^{\prime}) $$

      • ($1$)$\text{id}_{V}$ は $\bm{v} \in V$ に対して $\bm{v}$ 自身を対応させる恒等写像ですので、$\text{id}_{V} (c \, \bm{v} + d \, \bm{v}^{\prime}) = c \, \bm{v} + d \, \bm{v}^{\prime}$ となります。
      • ($2$)同様に $\text{id}_{V}$ は恒等写像なので、$c \, \bm{v} + d \, \bm{v}^{\prime} = c \, \text{id}_{V} (\bm{v}) + d \, \text{id}_{V} (\bm{v}^{\prime})$ が成り立ちます。
  • 以上から、$\text{id}_{V}$ は同型写像であり、$V \simeq V$ すなわち、$V$ は $V$ 自身に同型であることが示されました。

($\text{ii}$)$V \simeq W \; \Rightarrow \; W \simeq V$

  • $V \simeq W$ であれば $V$ から $W$ への同型写像が存在することになります。これを $f : V \to W$ として、その逆写像 $f^{-1} : W \to V$ が同型写像であることを導きます。
  • まず $f$ が全単射であることから逆写像 $f^{-1} : W \to V$ が存在し、$f^{-1}$ は全単射であるといえます。
    • 任意の $\bm{v} \in V$ に対して、$\bm{v} = f^{-1} (\bm{w})$ を満たす $\bm{w} \in V$ が存在しますので、$f^{-1}$ は全射です。
    • 任意の $\bm{w}, \bm{w}^{\prime} \in V$ に対して、$f$ が単射であることから $f^{-1} (\bm{w}) = f^{-1} (\bm{w}^{\prime}) \Rightarrow \bm{v} = \bm{v}^{\prime}$ であり、$f$ が写像であることから $\bm{v} = \bm{v}^{\prime} \Rightarrow \bm{w} = \bm{w}^{\prime}$ なので、$f^{-1} (\bm{w}) = f^{-1} (\bm{w}^{\prime}) \Rightarrow \bm{w} = \bm{w}^{\prime}$ が成り立ちます。よって $f^{-1}$ は単射です。
  • 次に $f^{-1}$ が線型写像であることを確かめます。
    • 線型写像の定義より、任意の $c, d \in K, \; \bm{w}, \bm{w}^{\prime} \in W$ に対して $f^{-1} (c \, \bm{w} + d \, \bm{w}^{\prime}) = c \, f^{-1} (\bm{w}) + d \, f^{-1} (\bm{w}^{\prime})$ が成り立つことを確かめます。

      $$ \begin{split} f^{-1} (c \bm{w} + d \bm{w}^{\prime}) &\overset{(1)}{=} f^{-1} (\, c f(\bm{v}) + d f(\bm{v}^{\prime}) \,) \\ &\overset{(2)}{=} f^{-1} (\, f(\, c \bm{v} + d \bm{v}^{\prime} \,) \,) \\ &\overset{(3)}{=} f^{-1} \circ f \; (\, c \bm{v} + d \bm{v}^{\prime} \,) \\ &\overset{(4)}{=} c \bm{v} + d \bm{v}^{\prime} \\ &\overset{(5)}{=} c f^{-1} (\bm{w}) + d f^{-1} (\bm{w}^{\prime}) \\ \end{split} $$

      • ($\text{1}$)において、$\bm{w}, \bm{w}^{\prime} \in W$ に対して $\bm{v} = f^{-1} (\bm{w}), \bm{v}^{\prime} = f^{-1} (\bm{w}^{\prime})$ であるとしています。$f^{-1}$ が写像であることから $\bm{w}, \bm{w}^{\prime} \in W$ に対応する $\bm{v}, \bm{v} \in V$ が存在することは明らかといえます。したがって、これらを $\bm{w} = f (\bm{v}), \bm{w}^{\prime} = f (\bm{v}^{\prime})$ と表すということです。
      • ($\text{2}$)は $f$ が線型写像であることによります。すなわち、$f$ は和とスカラー倍の演算を保存するので $f (c \bm{v} + d \bm{v}^{\prime}) = c f (\bm{v}) + d f (\bm{v}^{\prime})$ が成り立つといえます。
      • ($\text{3}$)では $f^{-1} (f (\bm{v}))$ を合成写像として $f^{-1} \circ f (\bm{v})$ の形に表し直しています。
      • ($\text{4}$)は $f^{-1}$ と $f$ の合成写像 $f^{-1} \circ f$ が恒等写像に等しいことにより、$f^{-1} \circ f (\bm{v}) = \text{id}_V (\bm{v}) = \bm{v}$ ということを表しています。端的にいえば、元の写像 $f$ により $V$ から $W$ に移された後逆写像により $W$ から $V$ に戻された元はもとの元に一致するということです。
      • ($\text{5}$)は再び $\bm{v} = f^{-1} (\bm{w}), \bm{v}^{\prime} = f^{-1} (\bm{w}^{\prime})$ であることによります。
    • 以上から、$f^{-1}$ は同型写像であり、$W$ は $V$ に同型であることがわかりました。

  • これは前項で示した定理 4.14(同型写像の逆写像)を、ベクトル空間の目線で言換えたものに他なりません。

($\text{iii}$)$U \simeq V, \; V \simeq W \; \Rightarrow \; U \simeq W$

  • $U \simeq V, \; V \simeq W$ であれば $U$ から $V$、$V$ から $W$ への同型写像がそれぞれ存在することになります。これを $f : U \to V, \; g : V \to W$ として、合成写像 $g \circ f$ が同型写像であることを示します。
  • 同型写像の定義より、$f, g$ が同型写像であれば、$f, g$ はともに線型写像かつ全単射であるといえます。
    • 定理 4.10(線型写像の合成)より、線型写像の合成もまた線型写像であるといえます。
    • また、全単射写像の合成もまた全単射となります。
    • 以上から $f$ と $g$ の合成写像 $g \circ f$ は線型写像でありかつ全単射となります。よって、$g \circ f$ が同型写像であることが示されました。
  • これは前項で示した定理 4.13(同型写像の合成)を、ベクトル空間の目線で言換えたものに他なりません。

まとめ

  • ベクトル空間の同型に関して($\text{i}$)反射律、($\text{ii}$)対称律、($\text{iii}$)推移律が成り立つ。
    $$ \begin{array} {clc} (\text{i}) & V \simeq V & (\text{reflexive law}) \\ (\text{ii}) & V \simeq W \quad \Rightarrow \quad W \simeq V & (\text{symmetric law}) \\ (\text{iii}) & U \simeq V, \; V \simeq W \quad \Rightarrow \quad U \simeq W & (\text{transitive law}) \\ \end{array} $$

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
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[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
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[6] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2023-02-10   |   改訂:2024-08-24