線型独立性(2)

線型独立(または線型従属)であるベクトルの基本的な性質に関する諸定理を示します。

ここでは、線型従属(または線型独立)であるベクトルの組に $1$ つのベクトルを加えた(または $1$ つのベクトルを除いた)ベクトルの組について成り立つ性質に関する定理を示します。

線型独立(または線型従属)なベクトルの性質


定理 4.20(線型独立・線型従属なベクトルの組 $1$)

$r \lt s$ とすると、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ が線型従属であれば $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ も線型従属である。また、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立であれば $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ も線型独立である。



すなわち、線型従属なベクトルの組にいくつかのベクトルを加えたベクトルの組もまた線型従属であり、線型独立なベクトルの組からいくつかのベクトル除いたベクトルの組もまた線型独立であるということです。

また、この定理は形式的に次のように表せます。

($\text{1}$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型従属 $\Rightarrow$ $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型従属。
($\text{2}$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型独立 $\Rightarrow$ $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型独立。

ここで、ベクトルの組が線型独立であることと線型従属であることは背反でありますので、($\text{1}$)と($\text{2}$)は対偶の関係であることがわかります。従って、定理 4.20の証明においては($\text{1}$)か($\text{2}$)のどちらかを示せばよいわけですが、どちらの方向からも示せるよう、下にそれぞれ別に証明します。



証明

($\text{1}$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ が線型従属であるとすると、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{r} \, \bm{v}_{r} = \bm{0}$ を満たす少なくとも $1$ つは $0$ でない $c_{1}, \cdots, c_{r}$ が存在する。このとき、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{r} \, \bm{v}_{r} + 0 \, \bm{v}_{r + 1} + \cdots + 0 \, \bm{v}_{s} = \bm{0}$ とすれば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ には自明でない線型関係が存在するため、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型従属である。

($\text{2}$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立であるとする。このとき、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ が線型従属であると仮定すると、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{r} \, \bm{v}_{r} = \bm{0}$ を満たす少なくとも $1$ つは $0$ でない $c_{1}, \cdots, c_{r}$ が存在する。このとき、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{r} \, \bm{v}_{r} + 0 \, \bm{v}_{r + 1} + \cdots + 0 \, \bm{v}_{s} = \bm{0}$ とすれば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ には自明でない線型関係が存在するため、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型従属であることになるが、これは $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立であることに矛盾する。よって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型独立である。$\quad \square$



証明の骨子

($\text{1}$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型従属 $\Rightarrow$ $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型従属」、($\text{2}$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型独立 $\Rightarrow$ $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型独立」、としてそれぞれ別に示します。($\text{1}$)は線型従属の定義より素直に導けます。($\text{2}$)も($\text{1}$)と同じ考え方で示すことができますが、背理法を用いたほうが証明がすっきりします。

($\text{1}$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型従属 $\Rightarrow$ $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型従属

  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ が線型従属であるとします。
    • 線型従属の定義より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ には自明でない線型関係が存在します。
    • すなわち、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{r} \, \bm{v}_{r} = \bm{0}$ を満たす少なくとも $1$ つは $0$ でない $c_{1}, \cdots, c_{r}$ が存在する、ということになります。
  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ の間の線型関係について考えます。
    • 線型結合 $c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{r} \, \bm{v}_{r} + c_{r + 1} \, \bm{v}_{r + 1} + \cdots + c_{s} \, \bm{v}_{s}$ において、$c_{r + 1} = \cdots = c_{s} = 0$ とすれば、次が成り立ちます。

      $$ c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{r} \, \bm{v}_{r} + 0 \, \bm{v}_{r + 1} + \cdots + 0 \, \bm{v}_{s} = c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{r} \, \bm{v}_{r} = \bm{0} $$

    • すなわち、$( \, c_{1}, \cdots, c_{r}, c_{r + 1}, \cdots, c_{s} \, ) = ( \, c_{1}, \cdots, c_{r}, 0, \cdots, 0 \, )$ とすれば、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{s} \, \bm{v}_{s} = \bm{0}$ を満たす少なくとも $1$ つは $0$ でない $c_{1}, \cdots, c_{s}$ が存在する、ということになります。

    • よって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ には自明でない線型関係が存在し、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型従属であることが示されました。


($\text{2}$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型独立 $\Rightarrow$ $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型独立

  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立であるとします。
  • このとき、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ が線型従属であると仮定して、矛盾を導きます。
    • ($\text{1}$)とまったく同じ考え方により、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型従属 $\Rightarrow$ $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型従属、ということが導けます。
    • すなわち、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ が線型従属であるとすると、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{r} \, \bm{v}_{r} = \bm{0}$ を満たす少なくとも $1$ つは $0$ でない $c_{1}, \cdots, c_{r}$ が存在することになります。
    • このとき、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{r} \, \bm{v}_{r} + 0 \, \bm{v}_{r + 1} + \cdots + 0 \, \bm{v}_{s} = \bm{0}$ とすれば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ には自明でない線型関係が存在するため、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ は線型従属となります。
    • しかしながら、これは $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立であるという前提に矛盾します。
    • よって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型独立であることが示されました。

($\text{1}$)と($\text{2}$)は対偶の関係にあるので、本来はどちらか一方を示した上で「($\text{2}$)は($\text{1}$)の対偶であるので、($\text{1}$)が成り立てば($\text{2}$)が成り立つ」などとすればよいです。上の証明は、敢えて($\text{1}$)と($\text{2}$)をそれぞれ別に証明していますので、もっともコンパクトな証明になっていない点注意が必要です。


まとめ

  • $r \lt s$ とすると、
    • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ が線型従属であれば $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ も線型従属である。
    • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{s}$ が線型独立であれば $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ も線型独立である。

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2023-02-16   |   改訂:2024-08-25