部分空間の次元(1)

部分空間の次元は、もとのベクトル空間の次元を超えません。また、部分空間がもとのベクトル空間に等しい(同型である)ことは、それぞれの次元が等しいことと同値です。

これらは、部分空間の次元に関する基本的な性質であり、行列の階数連立一次方程式の解法に関する考察において重要な役割を果たします。

部分空間の次元


定理 4.35(部分空間の次元)

VV をベクトル空間、WWVV の部分空間とすると、次のことが成り立つ。

11dimWdimV\dim W \leqslant \dim V
22dimW=dimV    W=V\dim W = \dim V \; \Leftrightarrow \; W = V


解説

部分空間の次元の基本的性質

定理 4.35(部分空間の次元)は、部分空間の次元に関する基本的な性質を示しています。

11)は、ベクトル空間 VV の部分空間 WW の次元が、もとのベクトル空間 VV の次元を超えないことを示しています。

22)は、部分空間 WW がもとのベクトル空間 VV に等しくなる(同型である)ためには、それぞれの次元が等しいことが必要にして十分であることを示しています。これは、部分空間がもとのベクトル空間に等しいことと同値な条件に他なりません。

ベクトル空間の基本的性質の言い換え

定理 4.35(部分空間の次元)は、ベクトル空間の基本的な性質を、基底次元の観点から言い換えたものといえます。

そのため、定理 4.35の(11)と(22)は、いずれも、これまでに示してきた基底と次元の基本的性質部分空間の定義等から素直に導くことができます。このことは、下記の証明からも明らかといえます。

定理 4.35の意義

このような言い換えは、以降の定理の証明において非常に有用です。

特に、定理 4.35(部分空間の次元)は、行列の階数に関する定理 4.64(行列の積の階数)定理 4.66(線型写像と階数)連立一次方程式の解法に関する考察などにおいて、重要な役割を果たします。



証明

11dimV=m,  dimW=n\dim V = m, \; \dim W = n として、WW の基底を w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} とする。WWVV の部分空間であるから、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}VV の元でありかつ線型独立である。また、定理 4.30(線型独立なベクトルと次元)より、VV の線型独立なベクトルの個数は VV の次元を超えない。したがって nmn \leqslant m、すなわち dimWdimV\dim W \leqslant \dim V が成り立つ。

22W=VW = V ならば dimW=dimV\dim W = \dim V であることは明らか。逆に、dimW=dimV=n\dim W = \dim V = n として、WW の基底を w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} とすると、WWVV の部分空間であることから、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}VV の元でありかつ線型独立である。いま、dimV=n\dim V = n であるから、定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)より、線形独立な nn 個のベクトルは VV の基底となる。したがって、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}VV の基底であり、W=VW = V が成り立つ。\quad \square



証明の考え方

部分空間の定義にしたがって証明します。(11)では定理 4.30(線型独立なベクトルと次元)を、(22)では定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)を、それぞれ用います。

(1)の証明

  • dimV=m,  dimW=n\dim V = m, \; \dim W = n と置いて nmn \leqslant m を導きます。
前提事項の整理
  • WW の基底は、線形独立な VV の元であるといえます。
    • dimW=n\dim W = n より、WWnn 個のベクトルからなる基底を持ち、これを w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} とします。
    • WWVV の部分空間であるので、WW の元は VV の元であるといえます。すなわち wWwV\bm{w} \in W \Rightarrow \bm{w} \in V が成り立ちます。
    • また、WW の基底であることから、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} は線型独立です。
    • これらのことから、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}VV の線型独立な元であるといえます。
nmn \leqslant m の導出
  • 定理 4.30(線型独立なベクトルと次元)を用いて、nmn \leqslant m を導きます。
  • 定理 4.30において dimV=m\dim V = m とすると、VV の線形独立なベクトルの数は高々 mm 個であるといえます。
    • すなわち、VV には mm 個の線型独立なベクトルが存在するものの、mm 個より多くの線型独立なベクトルは存在しないことになります。
    • または、VV の線型独立な元の個数は VV の次元(dimV=m\dim V = m)を超えない、ともいえます。
  • いま、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}VV の線型独立な(nn 個の)元であるので、その個数は VV の次元(mm)を超えません。
  • したがって、nmn \leqslant m すなわち、dimWdimV\dim W \leqslant \dim V が成り立ちます。

(2)の証明

  • i\text{i}dimW=dimV\dim W = \dim V、(ii\text{ii}W=VW = V として、(i\text{i})と(ii\text{ii})の同値性を示します。
i\text{i}\Leftarrowii\text{ii})の証明
  • W=VW = V ならば dimW=dimV\dim W = \dim V であることは、次元の定義より明らかといえます。
    • W=VW = V ならば dimW=dimV\dim W = \dim V 」であるということは、互いに等しいベクトル空間の次元は等しいということに他なりません。
    • これは、ベクトル空間に対してその次元が一意に定まること(定理 4.29(次元の一意性))から明らかといえます。
i\text{i}\Rightarrowii\text{ii})の証明
  • 逆に、dimW=dimV\dim W = \dim V として、W=VW = V であることを導きます。
  • まず、WW の基底が VV の線形独立な元であることを確かめます。
    • dimW=n\dim W = n とすると、WWnn 個のベクトルからなる基底を持ち、これを w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} とします。
    • 11)の証明と同様、WWVV の部分空間であることから、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}VV の元であり、WW の基底であることから、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} は線型独立であるといえます。
    • すなわち、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} は線型独立な VV の元であるといえます。
  • 次に、定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件)を用いて、W=VW = V を導きます。
    • 定理 4.32は、dimV=n\dim V = n という条件の下、VVnn 個の元が(11)「VV の基底である」こと(22)「線型独立である」こと(33)「VV を生成する」ことが同値であることを示すものでした。
    • いま、dimV=n\dim V = n であり、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}nn 個の線型独立な元であるので、定理 4.32より、w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n}VV の基底となります。
    • つまり、WWVV は同じ基底 w1,,wn\bm{w}_{1}, \cdots, \bm{w}_{n} を持つということであり、同じ基底により生成されるベクトル空間は等しいので、W=VW = V が成り立つといえます。
  • 以上から、(i\text{i}\Leftrightarrowii\text{ii})が示されました。

まとめ

  • VV をベクトル空間、WWVV の部分空間とすると、次のことが成り立つ。
11dimWdimV\dim W \leqslant \dim V
22dimW=dimV    W=V\dim W = \dim V \; \Leftrightarrow \; W = V

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 11 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 22 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 I\text{I} 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.


初版:2023-03-12   |   改訂:2025-03-03