対等な行列の階数
対等な行列の階数は等しいことを示します。すなわち、ある行列 $A$ の階数と、$2$ つの正則行列 $P, Q$ と $A$ の積 $PAQ$ の階数は等しくなります。
この定理は、線型写像の表現行列の階数が基底の変換により不変であることを示しています。また、行列の階数が基本変形により不変であることを示す重要な定理でもあります。
階数の基本的性質
定理 4.65(対等な行列の階数)
$A$ を $(m, n)$ 型行列、$P, Q$ をそれぞれ $m$ 次、$n$ 次の正則行列とすると、行列の積 $PAQ$ の階数は $A$ の階数に等しい。
基底の変換により階数は不変
定理 4.52(対等な行列)より、$PAQ$ は $A$ に対等な行列であるといえます。すなわち、$A \in M_{m,n} (K)$ をある線型写像 $f_{A} : K^{n} \to K^{m}$ の表現行列であると考えれば、正則行列 $P, Q$ はそれぞれ $K^{m}, K^{n}$ における基底変換行列に対応しており、$PAQ$ は $A$ に対等な行列の $1$ つを表していると捉えることができます。このように考えると、(4.7.6)式は対等な行列の階数が等しいことを示しており、また、定理 4.65は、線型写像 $f_{A}$ の表現行列の階数が基底の変換により不変であることを示していると捉えられます。
行列の基本変形により階数は不変
また、定理 4.65は、基本変形により行列の階数が不変であることを示しているとも捉えられます。後にみるように、ある行列 $A$ に行基本変形を施すことは $A$ に左から正則行列を掛けることに、$A$ に列基本変形を施すことは $A$ に右から正則行列を掛けることにそれぞれ等しいことが示されます。このように考えると、$PAQ$ は行列 $A$ に対して基本変形を施した行列に他ならず、(4.7.6)式は基本変形の前後で行列の階数が変わらないことを示しており、また、定理 4.65は、行列 $A$ の階数が基本変形により不変であることを示していると捉えられます。
証明
定理 4.64(行列の積の階数)より、行列の積の階数はもとの行列の階数を超えないので、
また、$P, Q$ は正則であるのでそれぞれ逆行列 $P^{-1}, Q^{-1}$ を持ち、次が成り立つ。
よって、再び定理 4.64(行列の積の階数)より、
以上から $\text{rank} \, PAQ \leqslant \text{rank} \, A$ かつ $\text{rank} \, A \leqslant \text{rank} \, PAQ$ であり、したがって、$\text{rank} \, PAQ = \text{rank} \, A$ が成り立つ。$\quad \square$
証明の骨子
$\text{rank} \, PAQ \leqslant \text{rank} \, A$ かつ $\text{rank} \, A \leqslant \text{rank} \, PAQ$ が成り立つことから、$\text{rank} \, PAQ = \text{rank} \, A$ を導きます。それぞれ、前項の定理 4.64(行列の積の階数)を用いて示すことができます。
まず、$\text{rank} \, PAQ \leqslant \text{rank} \, A$ を示します。
定理 4.64(行列の積の階数)より、行列の積の階数はもとの行列の階数を超えないので、次の不等式が成り立ちます。
$$ \text{rank} \, PAQ \leqslant \text{rank} \, PA \leqslant \text{rank} \, A $$- $PAQ$ を $PA$ と $Q$ の積とみれば、$PAQ$ の階数は $PA$ の階数を超えないはずです。また、$PA$ の階数は $A$ の階数を超えません。
- $PAQ$ を $P$ と $AQ$ の積とみても同様です。$$ \text{rank} \, PAQ \leqslant \text{rank} \, AQ \leqslant \text{rank} \, A $$
したがって、$\text{rank} \, PAQ \leqslant \text{rank} \, A$ が成り立ちます。
次に、$\text{rank} \, A \leqslant \text{rank} \, PAQ$ を示します。
$P, Q$ は正則であるので、正則行列の定義より、それぞれ逆行列 $P^{-1}, Q^{-1}$ を持ち、$PP^{-1} = P^{-1}P = E_{m}, \; QQ^{-1} = Q^{-1}Q = E_{n}$ が成り立ちます。($E_{m}, \, E_{n}$ はそれぞれ $m$ 次、$n$ 次の単位行列を表します。)
したがって、行列 $A$ は $3$ つの行列 $P^{-1}, \; (PAQ), \; Q^{-1}$ の積として表すことができます。
$$ \begin{split} A &= E_{m} \, A \, E_{n} \\ &= (P^{-1}P) \, A \, (QQ^{-1}) \\ &= P^{-1} \, (PAQ) \, Q^{-1} \end{split} $$再び定理 4.64(行列の積の階数)により、次の不等式が成り立ちます。
$$ \begin{split} \text{rank} \, A &\overset{(1)}{=} \text{rank} \, P^{-1} \, (PAQ) \, Q^{-1} \\ &\overset{(2)}{\leqslant} \text{rank} \, P^{-1} \, (PAQ) \\ &\overset{(3)}{\leqslant} \text{rank} \, PAQ \end{split} $$- ($1$)$A$ を $3$ つの行列 $P^{-1}, \; (PAQ), \; Q^{-1}$ の積として表します。
- ($2$)定理 4.64(行列の積の階数)より、$P^{-1} \, (PAQ) \, Q^{-1}$ を $P^{-1} \, (PAQ)$ と $Q^{-1}$ の積とみれば、$P^{-1} \, (PAQ) \, Q^{-1}$ の階数は $P^{-1} \, (PAQ)$ の階数を超えません。
- ($3$)同様に、定理 4.64(行列の積の階数)より、$P^{-1} \, (PAQ)$ の階数は $PAQ$ の階数を超えません。
したがって、$\text{rank} \, A \leqslant \text{rank} \, PAQ$ が成り立ちます。
以上から、$\text{rank} \, PAQ \leqslant \text{rank} \, A$ かつ $\text{rank} \, A \leqslant \text{rank} \, PAQ$ であるので、$2$ つの行列 $PAQ$ と $A$ の階数は等しく、$\text{rank} \, PAQ = \text{rank} \, A$ が成り立つことが示されました。
まとめ
- $A$ を $(m, n)$ 型行列、$P, Q$ をそれぞれ $m$ 次、$n$ 次の正則行列とすると、行列の積 $PAQ$ の階数は $A$ の階数に等しい。$$ \begin{align*} \text{rank} \, PAQ = \text{rank} \, A \end{align*} $$
参考文献
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