正規直交基底(2)
正規直交基底が与えられているとき、計量ベクトル空間の内積は、正規直交基底に関する座標ベクトルの標準的内積に一致します。
このことと前項の定理と合わせて考えると、任意のベクトル空間において、与えられた基底が正規直交基底となるような内積が一意に存在することが導かれます。
正規直交基底の基本的性質
定理 7.10(正規直交基底による内積)
を 上のベクトル空間として、 を の正規直交基底とする。任意の に対して に関する座標ベクトルを、それぞれ
とすると、 の内積は、次の式により表せる。
解説
正規直交基底による内積
定理 7.10(正規直交基底による内積)は、正規直交基底が与えられているとき、計量ベクトル空間の内積が、正規直交基底に関する座標ベクトルの標準的内積に等しいことを示しています。
定理 7.9(正規直交基底の存在)の逆
定理 7.10(正規直交基底による内積)は、前項の定理 7.9(正規直交基底の存在)の逆に相当します。
定理 7.9(正規直交基底の存在)では、計量ベクトル空間 において、(7.2.4)式により内積を定義することで、 が正規直交基底であることが導かれました。これに対して、定理 7.10(正規直交基底による内積)では、 が正規直交基底であるとき、 の内積が(7.2.4)式により与えられることを示しています。
正規直交基底による内積の一意性
したがって、定理 7.9(正規直交基底の存在)と定理 7.10(正規直交基底による内積)を合わせて考えると、任意のベクトル空間において、与えられた基底が正規直交基底となるような内積が一意に存在する、ということがわかります。
証明
は、 の基底 に関する、 の座標ベクトルである。したがって、 は の線型結合として、一意に表すことができる。
いま、 は正規直交系であるから、 について次が成り立つ。
したがって、任意の について、その内積は次のように表せる。
証明の考え方
(
(1)ベクトルと座標ベクトルの対応関係
は、x , y ∈ K n \bm{x}, \bm{y} \in K^{n} の基底V V に関する、v 1 , ⋯ , v n \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} の座標ベクトルです。v , w ∈ V \bm{v}, \bm{w} \in V したがって、
は、v , w \bm{v}, \bm{w} の基底V V の線型結合として、次のように表すことができます。定理 4.28(基底であることと同値な条件)より、この表し方は一意的です。v 1 , ⋯ , v n \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} v = x 1 v 1 + ⋯ + x n v n w = y 1 v 1 + ⋯ + y n v n \begin{align*} \begin{split} \bm{v} &= x_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} \\ \bm{w} &= y_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + y_{n} \bm{v}_{n} \\ \end{split} \tag{ } \end{align*}∗ \ast いま、
は正規直交系であるから、v 1 , ⋯ , v n \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} について、次が成り立ちます。1 ⩽ i , j ⩽ n 1 \leqslant i, j \leqslant n v i ⋅ v j = { 1 ( i = j ) 0 ( i ≠ j ) \begin{gather*} \bm{v}_{i} \cdot \bm{v}_{j} = \left\{ \begin{array} {cc} 1 & (\, i = j \,) \\ 0 & (\, i \neq j \,) \\ \end{array} \right. \tag{ } \end{gather*}∗ ∗ \ast \ast - すなわち、正規直交系において、どの
つのベクトルも直交し、どのベクトルのノルムも2 2 に等しくなります。1 1
- すなわち、正規直交系において、どの
(2)V V の内積の計算
定義にしたがって、
とv \bm{v} の内積を計算すると、次のようになります。w \bm{w} v ⋅ w = ( i ) ( x 1 v 1 + ⋯ + x n v n ) ⋅ ( y 1 v 1 + ⋯ + y n v n ) = ( ii ) x 1 y 1 i ‾ + ⋯ + x n y n i ‾ = ( iii ) ∑ i x i y i i ‾ \begin{align*} \bm{v} \cdot \bm{w} &\overset{(\text{i})}{=} (\, x_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} \,) \cdot (\, y_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + y_{n} \bm{v}_{n} \,) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} x_{1} \overline{\bm{y}_{1} \vphantom{i}} + \cdots + x_{n} \overline{\bm{y}_{n} \vphantom{i}} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \displaystyle \sum_{i} \, \bm{x}_{i} \, \overline{\bm{y}_{i} \vphantom{i}} \end{align*} - (
)(i \text{i} )式より、∗ \ast はv , w \bm{v}, \bm{w} の線型結合として一意に表せます。v 1 , ⋯ , v n \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} - (
)内積の定義によります。ii \text{ii} - 内積の共役線型性と分配法則により、括弧を外して展開できます。
- しかしながら、(
)式より、異なる基底どうしの内積は∗ ∗ \ast \ast に等しくなり、結局、同じ基底どうしの内積が残ります。0 0
- (
)和の記号を用いて表し直します。iii \text{iii}
- (
以上から、任意の
つの元2 2 の内積は、その座標ベクトルv , w ∈ V \bm{v}, \bm{w} \in V の標準的内積に等しいことが示されました。x , y ∈ K n \bm{x}, \bm{y} \in K^{n}
まとめ
をV V 上のベクトル空間とする。任意のK K に対して、v , w ∈ V \bm{v}, \bm{w} \in V の正規直交基底V V に関する座標ベクトルをv 1 , ⋯ , v n \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} とすると、x , y ∈ K n \bm{x}, \bm{y} \in K^{n} の内積はV V と表せる。v ⋅ w = x ⋅ y \bm{v} \cdot \bm{w} = \bm{x} \cdot \bm{y} - 前項の定理 7.9(正規直交基底の存在)と定理 7.10(正規直交基底による内積)より、任意のベクトル空間において、与えられた基底が正規直交基底となるような内積が一意に存在する、といえる。
参考文献
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[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
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