正規直交化(2)

任意の計量ベクトル空間に正規直交基底が存在することを示します。

すなわち、具体的に与えられた計量ベクトル空間の基底に対して、 シュミット($\text{Schmidt}$)の正規直交化法を適用することで、正規直交基底を作ることができます。

正規直交基底の構築


定理 7.12(正規直交基底の構築)

任意の計量ベクトル空間は正規直交基底を持つ。



解説

正規直交基底の存在

定理 7.12(正規直交基底の構築)は、任意の計量ベクトル空間に正規直交基底が存在することを示しています。

すなわち、$V$ を $n$ 次元計量ベクトル空間とすると、線型独立な $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r} \in V$ に、いくつかのベクトルを加えて $V$ の基底 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ を得ることができます( 定理 4.34(生成元と基底))。更に、$V$ の基底 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ を、 前項定理 7.11(正規直交化)により正規直交化することで、正規直交基底 $\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ が得られるというわけです。

シュミットの正規直交化法による正規直交基底の構築

定理 7.12(正規直交基底の構築)は、 次項に整理する シュミット($\text{Schmidt}$)の正規直交化法により、任意のベクトル空間において正規直交基底が作れることを示しています。

正規直交基底の存在は既に示されている

任意のベクトル空間において基底が正規直交系となるような内積が定義できることは、 定理 7.9(正規直交基底の存在)において既に示されています。また、これは、任意のベクトル空間に正規直交基底が存在することを意味しています( 定理 7.9の考察を参照)。

したがって、 定理 7.12(正規直交基底の構築)の主張は、 定理 7.9から直ちに導くことができるともいえますが、それぞれの定理の位置づけは異なります。

定理の位置づけ( 定理 7.9定理 7.12

定理 7.9(正規直交基底の存在)が、正規直交基底の存在を論理的に保証するものであるのに対して、 定理 7.12(正規直交基底の構築)は、正規直交基底を得るための具体的な手法の根拠を与えるものです。

すなわち、 定理 7.12は、線形独立なベクトルから正規直交系を作る 定理 7.11(正規直交化)を踏まえたものであり、 定理 7.11定理 7.12により、計量ベクトル空間の正規直交基底を構築する具体的な手順が得られるということです。正規直交化の具体的な手順は、 次項に改めて整理します。

零ベクトルのみからなるベクトル空間は例外($V = \{ \, \bm{0} \,\}$ の場合)

細かい点ではありますが、 定理 7.12(正規直交基底の構築)は、$V = \{ \, \bm{0} \,\}$ の場合を除いて成り立ちます。

次元の定義に整理した通り、我々は有限次元ベクトル空間に $V = \{ \, \bm{0} \,\}$ を含むこととしています。しかしながら、任意の $c \in K$ に対して $c \, \bm{0} = \bm{0}$ が成り立つことから、零ベクトル $\bm{0}$ は線型独立ではありません。したがって、$V = \{ \, \bm{0} \,\}$ は(普通に定義された)基底を持たず、 定理 7.12は成り立たないということです。



証明

$V$ を $n$ 次元計量ベクトル空間として、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ を $V$ の基底とすると、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は線型独立であり $V$ を生成する。したがって、 定理 7.11(正規直交化)より、正規直交系であり $\langle \, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle = \langle \, \bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n} \, \rangle$ を満たすベクトルの組 $\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ が存在する。また、 定理 7.8(直交系をなすベクトル)より、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ は線型独立であるから、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ は正規直交基底である。$\quad \square$



証明の考え方

定理 7.11(正規直交化)より、計量ベクトル空間 $V$ の基底を正規直交化することで、正規直交基底が得られます。

$V$ の基底

  • いま、$V$ は $n$ 次元計量ベクトル空間と仮定していますので、$n$ 個のベクトルからなる基底 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が存在します( 次元の定義)。
  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の基底であるので、($1$)線型独立であり($2$)$V$ を生成します( 基底の定義)。

正規直交化

  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が線型独立であることから、 定理 7.11(正規直交化))により、これを正規直交化することができます。
  • すなわち、正規直交系であり、次を満たすベクトルの組 $\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n} \in V$ が存在します。
    $$ \begin{gather*} \langle \, \bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n} \, \rangle = \langle \, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle \end{gather*} $$

正規直交基底であることの確認

  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ が $V$ を生成するということは、$V = \langle \, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle$ が成り立つことに他なりません。

  • このことと、 上記の式を合わせて考えると、次が成り立ちます。すなわち、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ も $V$ を生成するということです。

    $$ \begin{align*} V &= \langle \, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle \\ &= \langle \, \bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n} \, \rangle \end{align*} $$

  • また、 定理 7.8(直交系をなすベクトル)より、直交系をなすベクトルは線型独立であるから、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ は線型独立です。

  • 以上から、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ が、正規直交系であり($1$)線型独立、かつ($2$)$V$ を生成することが示されました。つまり、$\bm{u}_{1}, \cdots, \bm{u}_{n}$ が $V$ の正規直交基底であることが示されました。



まとめ

  • 任意の計量ベクトル空間は正規直交基底を持つ。

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.


初版:2023-11-13   |   改訂:2025-03-12